あちこちで「日本酒で乾杯条例」が制定されている。福島県でも南会津町で制定されたのは嬉しい。
この条例は、日本酒離れが深刻化する中、乾杯を日本酒で、と呼びかけたもので、京都市が最初に制定し平成25年1月15日から施行されたのだが、その後、同様の条例が全国に広がり、その数は今や約40自治体にのぼるらしい。
そして、京都では、施行から1年、伏見酒造組合の日本酒の出荷量が約30年ぶりに増加に転じ、24年7月から25年6月までに出荷した量は、約1億330万リットル、前年同期比約2%増となったそうである。数字で言われてもピンとくるわけではないが、効果抜群ではないか?
平成24年5月、国家戦略担当大臣が、日本を代表する酒として日本酒・焼酎を「國酒」としたが、これは新しいことではないそうである。
30年前、日本での外交晩餐会はフランス料理にワインで乾杯だったそうで、中国では自国の酒で乾杯しているのにこれはいけないと、日本酒・焼酎を「國酒」と命名し、乾杯の際に使用することにしたのだそうだ。だが、定着しなかったということだろう。
一般的な会合でも、ワインやシャンパンはしゃれたイメージだし、一方の日本酒や焼酎はおじさんが飲んで酔っぱらうもの、といったイメージだし、致し方ないのかもしれない。
さて、条例がなくても、私は個人的に昔から日本酒で乾杯を実践している。私はけっして「酒飲み」ではないが、乾杯は、そこに日本酒がある限り、状況が許す限り、ビールのグラスにまじってお猪口を掲げている。たとえそれが私一人でも、とりあえずかたくなに、そうしている。ついでに言えば、飲み会というものが、異論はあれどもコミュニケーションの場であるとすれば、ついだりつがれたり、それがかなわないジョッキのビールや焼酎、色のついたサワーだとかなんとかハイだとかは、勝手ながら私にとっては魅力のない飲み物である。そして日本酒といえども升にあふれさせて注がれる、グラスの日本酒(いわゆる「もっきり」)は好きではない。こんなにいっぱいついでやったぞ、嬉しいだろ、と言われているようだ。嬉しくない。何より乾杯ができないではないか。
以前、会津木綿の巾着に会津塗りのお猪口をセットにして売り出すというニュースを聞いて買いにいったことがある。実際は売っていなかった。どうやら、それぞれ勝手に買って自分でセットしてください、というようなことだったらしい。おしゃれなセットで売ればお土産やプレゼントにいいんじゃないかなあ、会津木綿の巾着を下げてぶらつく文化?ができたら風流じゃないかなあ、と思ったものである。
それはさておき、わが自治研修センターの政策研究会(詳細はホームページ1/31掲載の植田主幹のコラムを)では、「ふくしまのイメージアップ」のために自治体職員が研究し、事業提案を行ったのだが、日本酒を題材にした事業が複数、提案されている。
一つは、「器で味が変わる!日本酒の新しい楽しみ方提唱」事業。あまり知られていないが日本酒も器によって味が違う。これは私も実感したことである。日本酒をよりおいしく味わうための酒器(ぐい呑みなど)の研究開発と、その普及により、本県のユニークな取り組みをアピールし、ひいては観光客の誘致につなげるというものである。会津木綿と会津塗りのお猪口のコンセプトとは逆になるかもしれないが、お店で日本酒を頼むとその酒にお薦めの酒器が出てくるというのも楽しいかぎりである。テレビで見た東京のとある居酒屋では、ワイングラスで日本酒を提供し、魚料理になると磁器のグラスに主人が強制的に移し替えていた。量よりも、酒器や肴や雰囲気でおいしいお酒を飲みたいと思うが、最近、大吟醸がパウチパックで売られているのに気づきびっくりした。売り場が違えばシャンプーか、ってなしろものである。だがこれを違和感、などという時代ではないのだろうなあ。詰め替え用と考えて、手軽に気軽に飲んでもらえれば・・・。
提案事業のもう一つは、「お見せします。福島県のおいしいお酒と蔵元と・・・」。県内60カ所の蔵元をめぐる旅の企画と、参加者には有名パティシエによる日本酒を使用したスイーツのプレゼントなど。60カ所となるとかなりの弾丸ツアーである。蔵元の協力が必須ではあるが、酒好きにはたまらないのでは?
いずれも、すぐにでも実現させたい事業である。ちなみに、先日開催したこの政策研究会の報告会でトークセッションに出演していただいた、かの唐橋ユミさんは、利き酒師の資格をお持ちである。(唐橋さんのご実家は喜多方の「会津ほまれ」酒造。)
ともあれ、乾杯条例に強制力はない。酒が飲めない市民もいるので法律で勧めるのはよくないと、乾杯条例が否決された自治体もある。嗜好の問題であり、日本酒が嫌いな人も当然いる。焼酎の生産地もあればワインの生産地もある。地ビールもある。ウィスキー工場もある。これから制定しようとする自治体の中には、日本酒だけではなく、焼酎、地ビール、ワインなどでの乾杯を促進するというものもある。それぞれ、自治体は地域の顔である産品の消費拡大に力を尽くす。また、消費者はなにを飲もうがとがめられるはずもない。
さて、来たる送別会シーズン、皆さんはなにで乾杯しますか?
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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