2013. 7.10
  「再び注目を集めるPFIと福島復興へのその活用について


                                        主幹  植田 浩一

  
  PFI(Privete Finance Initiative)とは、概して述べると、平成11年7月30日に公布された「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)に基づき実施される民間の資金や経営ノウハウ等を活用して、住民にとって価値(Value)のある公共施設等の整備・運営を図るための手法である。

 イギリスに倣い導入された当初は、財源不足に悩む自治体の救世主的な謳われ方により全国でも多くの自治体が導入を検討した。ただ実施されたその手法は、「サービス購入型」といわれる、例えば民間が建設・運営する公共施設を自治体が利用料を払って長期間借りるという、「分割払い」あるいは「財源の繰り延べ」の方法が概ね7割程度となっている。

 内閣府(「PFIの現状について」平成25年6月)によると、我が国における平成11年度から平成25年2月末までのPFI導入実績は、国、地方公共団体等で実施方針等が公表された418件のうち、事業者決定等により公共負担額が決定したものは395件、4兆1,199億円の事業規模で、7,826億円のVFM(Value For Money)が発生しているという。
 ちなみに福島県内では、いわき市の「いわき芸術文化交流館アリオス」が、現在唯一PFI(サービス購入型)により運営されているが、過去には実施方針を公表した自治体や内部でPFIの実施を相当真剣に検討した自治体も筆者の知る限りでも相当数ある。

 ところで、PFIの事業実施の流れは、一般的には、導入可能性調査   (Feasibility Study:FS調査)を行い、VFMが出るということであれば、官側が示した事業の基本的な方針(実施方針)のもと民側の事業提案を受け、債務負担行為により同一事業者と長期契約を結ぶことになる。膨大な量の契約書の中で官と民がどの部分をどの程度リスクを分担して事業を行うか等を決め長期間それをお互い守ることとなることから、法律や金融等の分野で高度な専門知識が必要となる。
 PFIは魔法の杖ではなく失敗事例も当然ある。詳細な経緯等は省くが、例えば、平成16年11月には福岡市で、平成20年5月には名古屋市で、平成20年12月には近江八幡市でPFI事業者が経営破綻し、平成19年9月には北九州市でPFI事業範囲を大幅縮小し、平成21年度いっぱいで高知県・高知市がPFI事業者と契約解除という事態に陥った。
 失敗の直接の原因は様々であるが、根本的な問題は、過度に民側に依存しPFIのスキーム全体を把握・管理できていなかった職員の力不足という点に集約されるのではないかと思う。

 そんな中、平成23年6月1日には、初めてPFI法が大改正された。様々な改正点の中でも一番のポイントは、「公共施設等運営権」が法律の中で定義され(コンセッション方式の明確化)たとともに、それは物権であるというふうに法律に明記された点である。
 当初の法律に基づくPFIでも契約により運営権を民間事業者に付与することは可能だったが、運営権(物権)という形で明記されたことにより、利益の源泉となりうる運営権を民間に全面的に与えることで、独立採算型(これまではほとんど実績がなかった)のPFIが進んでいくことが期待されている。さらには運営権は物権であると明記されたことで、これを担保に資金調達が可能になったという点も大きなポイントである。

 さらに、今年に入りPFI/PPPの推進が、いわゆる「アベノミクス」の成長戦略の一つとして掲げられたことで、関係省庁がより本腰を入れて取り組んできていると感じている。そして平成25年6月12日には、改正PFI法が公布された。ここでのポイントは、国と民間からの出資により設立される官民連携インフラファンドである(株)民間資金等活用事業推進機構(以下「機構」)が法律に定められたことである。当機構は、独立採算型PFI事業を推進するため、資金のうち劣後債や優先株といったメザニン部分に出融資する。言うまでもないが、出融資の際には機構による目利きがなされるという点が何よりも大きい。機構の専門家によるお墨付きが得られるわけである。なお、機構による直接出融資以外にもPFIの事業全体に出融資する民間インフラファンドへの出融資を行うというレバレッジ(梃子)をかけることで、さらに我が国のPFI案件への出融資規模全体の底上げを行おうともしている。
 加えて、上記の法改正に先立つ6月6日には、民間資金等活用事業推進会議において、PFIの諸課題を踏まえ改定・策定された「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業等に関するガイドライン」が決定となり公表された。
 なお、6月28日には、震災復興案件も含めたPFI手法を活用した案件へのFS調査等に対する支援を合計10件(10自治体)ほど行い、震災復興案件については2次募集も行うとのことである。

 このようにPFIは日本経済再生のツールの一つとして再び脚光を浴びつつある。上述のとおり実際破綻した事例があるとともに、利用する住民等に聞かなければ本当のところはわからないが、一つひとつ確認すれば無駄な公共施設をPFI事業で施工してしまって仕方なく継続してるような事例もあるのかもしれない。したがってここで成否は述べない。
 一方で、もちろん住民にとって必要な施設ということが大前提ではあるが、事業実績が積み上がり、失敗事例による問題点があぶり出され、国の法的・資金的支援策も相当程度整った現在は、PFI導入のリスクが当初に比較すれば格段に小さくなってきていると考えられ実行のまたとないチャンスとなっている。

 最後に、本県にとってどのような施設ならPFI導入が可能なのか考えてみたい。
 原発事故や少子高齢化による住民の減少が進む本県の場合、官の財源をできるだけ使わず地域活性化を目指すなら、やはり独立採算型のPFI事業を行い、官民が無理せずWin Winの関係を構築できるようなスキームが理想である。
 そういった視点で考え、公共施設の部分ではほぼ利益が出ないと想定すると、いきおい民間で併設・運営する施設で儲けが出るような複合的施設が望ましいことになる。とすると、人が自然と集まる地域・場所に何らかの公共施設と併設の民間施設を建設するというスキームが基本になる。しかし、東京などと違い民間が独立採算型でやれるだけの人の集積が期待できる場所が県内にどこにあるのかということになる。そう考えると一義的に県内では独立採算型は厳しいということになってしまう。
 ただ、民間側からみれば自治体と一緒にやるメリットはある。それは話題性と信頼性が高まるということである。もちろん併設施設自体に大きな魅力がなければ意味がないが、独立採算型としては本県初という話題性とともに、被災地復興に協力するというCSR(Corporate Social Responsibility :企業の社会的責任)向上の観点から企業のイメージアップにつながるという判断もあろう。加えて、機構による支援を受けることで信頼性が高まり資金調達がより有利にもなる。
 ということで、あくまで例ではあるが、ターミナル駅周辺の文化複合施設や空港・港湾施設併設の大規模商業施設、廃棄物施設等併設の大規模レジャー施設、各地域ごと公舎を集積・大規模化したうえでのスーパーの併設等などが考えられる。

 以上のように、PFIの導入(特に独立採算型)は、被災地である本県において、民間活力を導入して復興につなげるための大きなツールになる可能性を秘めている。これから各自治体で「真に必要な」公共施設等を建設する際には一度本気で検討してみる必要があるのではないか。

(用語解説)
*VFM(Value For Money)・・・支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方のこと。従来の公共事業と比較してPFIの方がランニングコストも含めた総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合を指す。
*コンセッション方式・・・・・・公共施設の所有権を民間に移転しないまま、インフラ等の事業権(事業運営・開発 に関する権利)を長期間にわたって民間事業者に付与する方式をいう。
*メザニン・・・・・・・・・・・そもそもは、中2階という意味で、負債と株式の中間的性格を持つ出融資のこと。例えば、企業解散時に残余財産返還の優先順位は負債の債権者に優先して返却し、その残りを株主に返還するが、メザニンとはその優先順位が中間ということ(リスクとリターンが中間と言い換えても良い)。つまりは優先株や劣後債等を指す。

(参考文献)
○PFIの現状について(内閣府民間資金等活用事業推進室 平成25年6月)

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません