2013. 10.7
  「コンパクトなまちづくりと特定地域の除染について

                                        主幹  植田 浩一

  
  【コンパクトなまちづくりとは】
 コンパクトなまちづくり(コンパクトシティ)とは、まちの郊外化(スプロール化)を抑制し、市街地の規模すなわち生活圏を小さくしそこに諸機能を集積させることで賑わいや利便性を向上させ、車を使わなくても暮らせるような、住みやすく環境にもやさしいまちづくりを目指そうという考え方である。
 言い方を変えれば、まちをコンパクトにすることで、行政コストの増大、環境面での問題(無秩序な開発の可能性)、まちの顔たる中心市街地の地盤沈下の可能性、高齢者の買い物行動に支障をきたすおそれ等々といった、まちの郊外化の問題を解決しようという考え方ともいえる。

 この考え方に基づくまちづくりについては、全国各地で既に進められている。例えば、先進地である青森市については、街が郊外へ拡大しそのための道路を造ったところ、毎年の除雪費が増加し、その低減の必要性をきっかけに「コンパクトシティの形成」を都市づくりの基本理念に掲げ、都市整備を進めている。
 福島県においても、平成18年10月に施行された福島県商業まちづくり推進条例並びに福島県商業まちづくり基本方針等に「歩いて暮らせるコンパクトなまちづくり」を掲げ、特に規模の大きな商業施設の郊外立地の調整、まちなかへの商業施設・公共施設・住居等の誘導や賑わいづくりといった施策を強化している。

 一方で、コンパクトなまちづくりに対しては様々な課題が指摘されている。今さら車に依存し既に郊外化してしまっているまちをどうするのか、郊外を抑えたからといって中心市街地等が活性化するのか、車社会の地方でも可能なのか、そもそもまちに商業施設等の集積がほとんどない地方の中山間地域の町村では意味がないだろう等々の意見がある。
 言うまでもないが、まちづくりは基礎自治体である市町村が主体となって住民とともに方向性を考えながら進めていくべきであり、考え方はそれぞれ異なって然るべきだと思う。ただ、高齢化と人口減少が進む地方の中山間地域でも長期的なまちづくりを考える際にはコンパクトなまちづくりを見据えておくべきだと考える。

【魅力的でコンパクトなまちづくりについて】
 さて、まちをコンパクトにすると、行政コストが減り、歩いて暮らしやすいまち等にはなろうが、まちの魅力という点ではどうなのか。23区並びにその周辺都市では商業施設や公共施設等が駅周辺に集積しコンパクトなまちとなっている東京のまちづくりを概観してみたい。
 ここでは先日、筆者が東京・吉祥寺で見つけた「吉祥寺が『いま一番住みたい街』になった理由」(2013 斉藤 徹 ぶんしん出版)という本を教科書にまちの魅力とは何かということを探ってみたい。なお、この本は吉祥寺在住の著者が「東京ウォーカー」誌で平成15年から平成24年まで住んでみたい街ランキング1位を続ける吉祥寺のまち魅力を詳細に分析している内容である。
 
 著者は本書の第5章で吉祥寺の魅力の秘密を以下の9つのポイントに整理している。以下ではその概要を記載する。

(1) 立地に関する魅力
   都心の中心部から、さほど遠くない場所に立地していながら、都心繁華街とは異なる買い物環境や自然環境に触れられる点。
(2) 街のコンパクト性
   駅の北側に商業、南側に井の頭公園など、コンパクトなエリアに多くの業態が集約されている、その稠密性や、業態・施設のバラエティ性がある点。
(3) 商業の稠密度とバラエティ性
   デパートからディスカウントストアまで様々な業態が揃い、レトロからオシャレな雰囲気まで様々な飲み屋が数多くあり、70年代文化をいまだに伝える映画館やライブハウスが残っているなど、店舗や業態のバラエティ性がある点。
(4) 利便性の高い自然環境
   井の頭公園だけでなく、玉川上水、千川上水など江戸時代の面影を残す豊かな自然遺産がある点。
(5) 自分の街として感じられること
   自分の街として感じられる色んな意味でのヒューマンスケール感。街に無理矢理造られた感が少ない点。例えば、大きな街にも関わらず駅を降りた際に空を遮るようなビルがない、井の頭公園の存在など。
(6) 生活のカジュアル性
   気取らず等身大で暮らせる、物価が安く美味しいものがそこそこある、他の街に行かないで全部用事を済ませることができるなど、この地で生活することの利便性の点。
(7) サブカルチャーの力
   ジャズ、フォーク、マンガ、アニメなどサブカルチャー領域を通じた情報発信が強力な点。
(8) 多世代からの支持―街の新陳代謝―
   一人暮らしでも、子育てを行うにも、老後を過ごすにも住みやすい街としての評価を受けているとともに、時代を通じ古い要素を残しつつ新しい業態が常に生まれ、適度な新陳代謝が行われている点。
(9) 住みたい街ナンバー1の広報的価値
   多くのアンケート結果が吉祥寺を「住みたい街ナンバー1」と発表するようになったが、これによってメディア露出が増え、それを見た人がまた吉祥寺に憧れるという好循環な広報的連鎖が起こっている点

 以上のように著者は吉祥寺の魅力を分析している。ここには平成25年8月7日付け本コラム覧で紹介したまちづくりの4つの原則(小ブロックの必要性、古い建物の必要性、ダイバーシティ(多様性)、集中の必要性)の内容も概ね含んでおり興味深い。

 ところで、このまち魅力的だ!遊びにいきたい!住んでみたい!という心の琴線を揺り動かすポイントは人それぞれであり、同じ人でも年齢によっても変わってくるので一概には言えない。ある人は都市施設が近くにある便利なまちが魅力的だと思うだろうし、ある人は大自然にアクセスしやすいまちが魅力的だと思うだろうし、ある人は飲み屋街が近くにあるまちが魅力的だと思うかもしれないからである。

 しかしながら、上記の著者の分析が首都圏における、いわゆる働き盛りの年代の一般的な住んでみたい街の条件とすることについては個人的にも納得いく点が多い。それを前提に、福島県内のまちに何が足りないのか、あるいは満たしているのか考えてみると、上記9つのポイントのうち、(1)立地に関する魅力、(3)商業の稠密度とバラエティ性、(6)生活のカジュアル性、(7)サブカルチャーの力、(8)のうち街の新陳代謝、については、主に大都市特有の「集積」に起因するものであり、福島のまちづくりにそのまま当てはめるのは少なくとも短期的には難しいが、その他部分については、福島なりにつくり出すことは可能だとは思う。
 
 ただ、著者が吉祥寺を魅力的なまちと感じているのは9つのポイントがすべて揃っているからであり、都会的な便利さもあれば、自然環境も身近にあったうえで、古き良き場所が残っていたり、サブカルチャーの魅力という付加価値もあるというように、バランスがよく取れている点が大きいのだと思う。
 そういう意味では、こういうバランスを求める首都圏在住者は福島のまちに魅力を感じないという人も多いと思う。
 
 結局、単純にまちをコンパクトにするだけでは魅力的なまちにはならないが、コンパクトにする過程で、上記の著者の指摘もあった自然環境へのアクセス性、業態・施設のバラエティ性、商業の稠密度、歴史・伝統・文化の保持(特に地域の象徴的なもの)、新しいまちの魅力の導入等々といった視点を持って、まちの魅力となる要素を「選択と集中」的に整備・配置・活用していけば、そのまちなりの魅力的でコンパクトなまちとなるのではないかと思う。その「選択と集中」部分を気に入る人が多ければ多いほど当該まちへの交流人口、定住人口が増えていくのであろう。
 したがって、各市町村ごと自分たちのまちの魅力の再発見・創出と戦略的なまちの見せ方等が、差別化を図り人を呼び込む上でまずは重要になってくるポイントなのである。

【福島におけるコンパクトなまちづくりの追加的視点(除染について)】
 最後に、福島県におけるコンパクトなまちづくりの追加的視点を述べたい。
 いうまでもないが、現在の福島県における最大の関心事は原発事故によりまき散らされた放射性物質の除染である。これが完遂されないことには復興も安心安全な暮らしも取り戻せない。とりわけ小さな子どものいる親にとっては最大の問題と考えて良い。一方で、福島県内すべてくまなく除染を行うには長い年月がかかることが懸念される。

 そこで各市町村ごとあるいは各地域の中核的なまちで、一定の範囲だけでも徹底的に除染を行う「特別除染区域」(仮称)を定め、その区域だけでも徹底的にバックグラウンドレベル(実質放射能ゼロ)まで除染を行い、行ったあとも徹底的にモニタリングを続ける区域としたらどうか。その区域の範囲をコンパクトなまちづくりを進める範囲(いわゆる中心市街地とイコールでも良い)と密接にリンクさせるようにすることで住民の理解が得られやすいのではないか。

 特別除染区域の中心には子どもやお年寄りまで集う広めの住民憩いの広場をいくつかつくりたい。集まった人々は思い思いに地面に腰をおろし寛いだり、芝生に寝転がったり、子どもは砂遊びを行うなど放射能を全く気にしなくても良いようにするのである。広場の周辺の地域には商業施設や飲食店が建ち並び日用品の買い物からレジャーまで一日中当該区域内で過ごせるようにしたい。公共施設等はどちらかといえば当該区域のエッジ(中心市街地の端あたり)部分に配置したい。区域内の特にコアな一定の区域は車の通行をできるだけ避けてもらうよう通行料金をとるようにしたい。当該区域内の移動は環境に配慮した乗り物で出来るようにしたい(電動モービルの類。ベースがあればLRTのようなものも良い。)・・・・・。
 要はヨーロッパ的な広場文化、環境に配慮したまちづくりを、まずは特別除染区域内で行い、いっそ福島のウリにできないかということである。

 まったくの絵空事と笑われるかもしれないが、福島の放射能の現状、今後の高齢化・人口減少社会の進行、まちの賑わいづくり、まちなかという「まちの顔」維持の重要性等々を考えると、一考の余地はあるのではないか。もちろん短期的にすべて理想どおりに事が進むとは思わないが、住民の総意と関係者の行動力があればこういった取り組みは可能だと考える。
(参考文献)
○吉祥寺が『いま一番住みたい街』になった理由(2013 斉藤 徹 ぶんしん出版)

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません