1月14日(火)の政策研究会報告会をもって、平成25年度の研究活動に一応の区切りがついたことから、この1年間の「政策研究会」の活動概要を報告することとしたい。
【1 政策研究会について】
少人数の自治体職員等で構成する政策研究会は、地域の有する課題を解決するよう、講師を招いての勉強会、参加者どうしの議論などを通して、県、市町村の参考となるような具体的な施策や事業を提言する研究会である。
今、福島で一番の課題は何かと考えると、東日本大震災とそれに伴う原発事故以降、本県の観光地や県産品等への風評被害と県民の健康への不安や地域コミュニティ崩壊の懸念等と捉え、昨年度に引き続き平成25年度も「ふくしまのイメージアップ」をテーマに据えた。
研究会は、公募による11名の研究員(県6名、市町村5名)の参加のもと、5月から11月まで合計6回開催した。 研究の進め方は、ざっくり述べると、研究員に福島の課題に対応するような講師の著書を事前に読んできてもらった上で、当該講師による講演(計5回)を聴講したあと、第1回~第2回では、福島の「課題」、「施策の方向性」、「具体的な事業のイメージ」をワークショップ形式のブレーンストーミングで議論し、第3回~第6回では、研究員が自分で考えた提案事業をプレゼンしてもらい、それに対し全員で議論し内容を詰めていき、最終的には24の提案事業が提出された。最後の第6回では、研究員間の投票により優秀作品を24のうち6つ選んだ。そして1月14日に行った政策研究会報告会で研究員の代表2名が優秀作品を報告した。
提案事業については、6つの事業類型に分類され、それぞれ「食関連」4事業、「スポーツ・文化・芸術」4事業、「観光・産業」6事業、「つながり・絆」7事業、「子育て」2事業、「防災」1事業が提案された。
本コラムでは各提案事業の内容については触れない(注)が、これら24の提案事業を掲載した最終的な活動報告書については近々当センターホームページ等でも公表することとしているので、自治体職員の皆さんをはじめご覧いただき、今後ぜひ提案事業の具体化を進めていただければと考えている。
なお、研究会に参加した研究員から参加して良かったポイントとして最も多かった意見としては、少人数の研究会にも関わらず各分野の日本の第一人者の話が直接聞けた点をあげていただいた。これも当研究会のウリであることを付け加えておきたい。
【2 各講師及び出演者による福島の将来像】
以下では、各回の研究会の講師及び報告会のトークセッションへの出演者が語った福島の将来像について話のポイントを要約して掲載する。
①第1回研究会(平成25年5月27日(月))
演 題:「誇りの持てるふくしまの再構築に向けて」
講演者:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター
代表理事・事務局長 高橋 公氏
<高橋 公氏の講演のポイント>
○ 「誇りの持てるふくしまをどう再構築するか。そのための価値観の再構築が重要。時代は大量生産―消費―廃棄型社会から持続可能な暮らしへ。従来型の暮らしの頂点に原発があった。安全・安心なクオリティ(生活の質)の高いふくしまでの暮らしのモデルを作るべき。新たに再出発するくらいの意気込みがいる。」
②第2回研究会(平成25年7月9日(火))
演 題:「ソーシャル・キャピタルとコミュニティ」
講演者:日本大学法学部 教授 稲葉 陽二氏
<稲葉陽二氏の講演のポイント>
○ 「ソーシャル・キャピタル(SC:漠然とした人と人との信頼感や生まれ故郷に対する思い、地域コミュニティ内でのお互いを思いやる気持ち等)を高めることは、地域活性化の基礎となるばかりか、災害時の公共財としても、高齢化社会でのセーフティネットとしても重要であり、SCを高めるよう地域特性に応じ様々なコミュニティ活動・社会活動等を継続して行うべき。」
③第3回研究会(平成25年8月9日(金))
演 題:「ブランディングが人を動かす」
講演者:東北芸術工科大学デザイン工学部 教授 関橋 英作氏
<関橋英作氏の講演のポイント>
○ 「福島のブランド化には、①誰に来てほしい?(ターゲット)、②何が違う?(差別化)③ビジョンはあるか?(哲学)、④面白いか?(クリエイティブ)「ひとことで言えば何?」を考える必要がある。」
○ 「モノ→絆→場という流れ。人は絆を求めている。モノの魅力より、場の楽しさで集まる。そこで触れたものは記憶に残る。場を通して、好きなものを発見する。場はまた訪れたくなる魔法がある。そこで出会った人を好きになる。それがブランド化につながる。」
○ 「福島に来るとめげないとか。避難先から戻ってくると何か新しいことができるとか。自分を信じるために行こう福島とか。そういうコンセプトを堅苦しくない福島弁で表すとか。イベントじゃなくてもみんなが集まる場、考える場を駅前につくって、そこにファシリテーターをおいて自由に議論し、福島復興のヒントを出し合うとか。そういう取り組みが必要。」
④第4回研究会(平成25年8月20日(火))
演 題:「ふくしま復興のヒントについて」
講演者:株式会社 日本総合研究所調査部 主席研究員 藻谷 浩介氏
<藻谷浩介氏講演のポイント>
○ 「1つ目は、データをちゃんと公開して福島はむしろ放射能の危険がない、すべて食品検査をしているのは福島だけ、WBCがあるのも福島だけということをもっとPRすること。2つ目は、外国人の観光客を先に増やすということ。彼らに安全だと言ってもらうとともに、福一サイトを観光コースにしてしまうということ。3つ目は、自然エネルギーが日本一進んだ県というイメージを早くつくること。広島の平和都市と同じで風評被害を急速に払拭できる。あそこはクリーンなエネルギーの地域だよねというイメージをつくれば勝ちである。」
⑤第5回研究会(平成25年9月11日(水))
演 題:「住民協働による地域づくり~全国の先進事例に学ぶ地域経営~」
講演者:一般財団法人 日本経済研究所 調査局長 大西 達也氏
<大西達也氏の講演のポイント>
○ 「これからの時代の地方における集客・交流作戦のキーワードとしては、第1に、町並み・景観整備型(まち歩きの時代)。古いまちなみ、歴史があるところはそれを残すと武器になる。第2に、地域資源活用型(地産地消の実践)で、まずは地元の人が地元の物を大事に思っているかどうかが重要。第3に、交流促進型(都市住民の呼び込み)であり、まずは田舎特有の良さを認識すること。」
○ 「少子高齢化の進展、財政制約の高まり、国内産業空洞化、東京一極集中といった多くの課題を抱える地域における活性化のキーワードは内発型地域振興であり、その成功条件としては、①住民の参加促進、②官民パートナーシップの形成、③地域人材の確保・育成、④地域資源の有効活用、⑤外部評価の効用、⑥地域経営戦略の展開の6つに集約される。」
⑥政策研究会報告会トークセッション(平成26年1月14日(火))
テーマ:「ふくしまのイメージアップについて」
出演者:NHK福島放送局エグゼクティブアナウンサー 伊藤 博英氏
フリーキャスター 唐橋 ユミ氏
ふくしま自治研修センター 総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦
<伊藤博英氏の話のポイント>
○ 「私は福島の魅力は、果物、お酒、美しい自然、山や川といったものもさることながら、人だと思っている。とりわけ、おばちゃん、おばあちゃんだと思っている。会った瞬間から昔なじみのようにできる人たちが福島にはたくさんいる。こういう人たちは日本中にも世界中にもそんなにいない。そういうところが福島の一番の魅力ではないだろうか。」
○ 「例えば、「スープバトル」ではなく、ふぐしまのおばちゃん汁選手権のようなタイトルにして、市町村からおばちゃんを紹介してもらって、地元の素材を活用して味噌汁、粕汁、じゃっぱ汁等を作ってもらうとともに、プレゼンしてもらい、審査員に食べてもらうような事業。何が良いかというと、そこには作った人がいる点。」
<唐橋ユミ氏の話のポイント>
○ 「風評被害対策としては、最も重要なのはその場所に来てもらうということ。間接情報で伝えるということではなく、足を運んでもらえるための広報、枠組みづくり、そのためにメディアが役割を果たしていくということ。その際に、紹介したい物品・物産・風景に焦点をあてるのではなく、そこを訪れる人を主体とした視点で、エンドユーザーが楽しみだと思える紹介の仕方を工夫していくということが大事。」
○ 「瓜生岩子や新島八重に限らず、福島の隠れた偉人のような方を紹介することも福島のアピールにつながると思う。」「また、福島の言葉が大好きという人も多いので、本当に味があって聞き入っちゃうような言葉で福島のことを紹介すると印象に残るんじゃないかと思う。」
【3 福島のイメージアップへのポイント】
各講師の話を総括しつつ、研究会での議論も踏まえ、福島県のイメージアップ、魅力度アップのポイントを要約すると以下のとおりということになる。
○ 地域振興のポイントは地域固有の資源を最大限活かすことだが、福島の場合、その核となるのは「人」である。福島は人の魅力に溢れている。福島に来れば「ほっこり」暖かい気持ちになるような、味のあるおばちゃん、おばあちゃんがたくさんいるからだ。 ○ 東日本大震災とそれに伴う原発事故で福島は大きな被害を受けたが、震災直後の極限の生活環境や震災後の様々な方からの支援等の中で、地域や家族との絆の再確認、ふるさとを思う気持ちや感謝の心、他人への思いやりの気持ちの向上・醸成等が形成され、福島県民は以前よりも「地域への想い」や「おもてなしの心」といったところが強固となった。
また、この機会に改めて、古里のことや地元の良さを見つめ直した人が多いのではないか 。
○ 震災や原発事故といった「ピンチをチャンスに換えよう」と軽くは言えないが、福島県は前を向いて行かなければならない。そういう意味で、こういった「想いや心の変化」を、本研究会では、従来からの人の魅力に加え福島に新たな強みが加わったと前向きに捉えた。
○ 一方で、少子高齢化、人口減少、グローバル化が加速していく等々、世の中が変化していく中で日本人の価値観も変化していく(いかざるを得ない)可能性が高い。その中で、地方の良さを見直す動きが従来にも増して出てきている。 ○ 以上から、原発事故に係る諸課題に対する速やかな対応のみならず、人の魅力を活かしつつ、田舎暮らし、地産地消(エネルギー含む)、自給自足、助け合い、住民自治、官民協働(例えばPPP)といった「地域住民の想い」が重要な要素となる施策を全国に先駆けて行うことが新生ふくしまにとってのストロングポイントとなり得る。
【4 最後に】
来年度も政策研究会は継続開催する。平成26年度のテーマはまだ決定していないが、平成26年4月頃に参加研究員を募集する予定である。福島県内の県・市町村職員、公社等職員の方で当研究会に興味を持たれた方はぜひ応募いただきたい。 少人数で行われるとともに、個々人に課せられる「課題」もあるため、やる気が不可欠ではあるが、各分野の日本の第一人者レベルの講師と密度濃く議論したり、時には一緒にお酒を酌み交わしたりしながら、一つのテーマを深く考え、議論を掘り下げることのできるこの研究会は、参加者の多くから「非常に貴重な経験となった」との評価を得た。
自由闊達に福島のことを議論したい方はぜひ!
(注)平成25年9月に「平成25年度政策研究会・事業提案書集(暫定版)」をふくしま自治研修センターホームページ (http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/25seisakukenkyukaijigyouteian.docx)に公表済み。この時点で22の事業提案があった。この22の事業内容については最終報告書でも大きな変更点はない。
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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