2014.1.29
  「地域と人と食べ物と...」

                                         主幹 吉野 健一


 筆者は元来料理などまったくしない人間であったが、男女共同参画の業務に携わった際に料理の楽しさに目覚め、以来、いわゆる「男の料理」をときどき作るようになった。そんなこともあって、料理関係の本や雑誌を読むことも好きなのであるが、最近読んだ本の中で面白かったのが「野菜炒めは弱火でつくりなさい」(水島弘史著)である。

 この本では、今まで常識だと思っていたこととは異なる(場合によっては真逆)の調理法がその裏付けとなる理論とともに説明されていて、「ウソだろう」と思いながらも、試してみたくなる。そして、時間と多少の手間がかかるが、その通り作ってみると確かに美味しい(家族も認めているので間違いないと思う)。例えば、チキンソテーは中弱火でじっくり火を通すことで胸肉でもぱさつかずにハムのような味わいになるし、鍋料理にしても食材に一旦火を通してから煮ることによって、煮くずれせずにすっきりしていて、かつ、だしの旨みが効いたものになる。プロの技をベースにしているので当然かも知れないが、きちんとした店で食べる味に近づく感じがする。
 しかしである。間違いなくうまいのだから、それでよいのであるが、やはり、これは家庭料理の味でなく、外食の味なのである。こんなことを感じるのは筆者だけかも知れないが、洗練されて、ちょっと気取った感じであり、普段食べるものとしては何か落ち着かないのである。

 ここで、多少強引ではあるが、話を地域振興に結びつけて考えてみたい。食による地域振興を考えた場合、プロが技術を駆使して地元の食材を洗練された美味しい料理に仕立て上げて観光客等に味わってもらうといった方向は、間違いなく「あり」だと思う。一方で、「食べたことはないかも知れないが、どこか懐かしい」とでも言おうか、値段だけでなく味・雰囲気まで含めて構えることなく食べられて、食べると何となく落ち着くもの、ほっとするものや場を提供することも非常に大事だと思う。

 具体的な方向性を考えたとき、先日開催した政策研究会報告会のトークセッションでの伊藤博英氏(NHKエグゼクティブアナウンサー)の話はヒントになると思う。
 伊藤氏は、今回の事業提案
http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/kenshuu_04.html「平成25年度政策研究会・事業提案書集(暫定版)(Word版)」を参照)には人の魅力を伝える事業がないことが残念だとした上で、その中で、これはできそうだと思ったのは「ふくしまスープバトル59」(県内の市町村ごとに地元食材を使ったスープを考え、プレゼン大会を開催する事業)であるとして、この事業に対して以下のように指摘した。

 「まず、名称を横文字にすればよいという発想が古いし、創作料理のコンテストをやってもローカルニュースにしかならない。」
 「やるなら 「ふぐすまずる(ふくしま汁)」と名付け、各市町村がおいしい汁物(みそ汁、粕汁、じゃっぱ汁(あら汁)、きのこ汁、熊汁など)とそれを作れるおばちゃんを推薦し、いかにしてこれを作るかをおばちゃんにしゃべってもらって審査員に食べてもらう。これだと全国ニュースになる。何がいいかというとおばちゃんが面白いから。」
 「中にいると分からないが、県内には、そこにしかないうまい汁物を出してくれる民宿や定食屋がいっぱいある。そして、そこにはそれを作った人(おばちゃん)がいる。」
 「私は、東京、名古屋、仙台はじめ各地で生活したことがあるが、そこの人たちは、決して駅前で顔を合わせても声をかけない。福島のおばちゃんはいきなり、「見でるよ、見でる!昨日も見だ!NHK!はまなかあいづ!」と来る。そして、私の名前が中々出てこない(笑)。でもそうやってすぐに声をかけてくれる。こんなところってない。だから、「ふぐすまずる。おばちゃん付き。」がいい。」

 この伊藤氏の説明に、会場内一同聞き入ってしまった。さすがに、人を見つめ、人と話し、人に伝えてきたプロである。事業の魅力が2倍、3倍にもアップしたと感じた。

 食による地域振興という点から見れば、「食」だけで考えるのではなく「人」と結びつけてみることでストーリーが生まれ、魅力が高まること、また、誇るような料理が何もないからとすぐに創作に走るのではなく、地域をもう一度見つめ直すと、実はないと思っていた宝が見つかるということで総括できるのかも知れないが、それにつけても大切なのは、そこに行き着く「視点」と「発想力」である。

 伊藤氏の指摘は、地域づくりのセオリーを超えたものではない。しかし、セオリーを知っていればそこに行き着くかと言えばそうはならない。
 では、どうすればよいのか。やはり、近道などはなく、いかに地域振興に携わる人々が、好奇心を持って、新鮮な目で、地域内外のあらゆることに接するかということに尽きるのであろう。微力ながら、筆者も日々研鑽に励みたい。

 


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません