平成23年10月14日付けで、「浪江町の復旧・復興に向けて」という本欄コラムを書いてから、約2年が経過した。そのコラムでは、当時、東日本大震災および福島第一原発事故から約半年を経て、復旧・復興に動き出した浪江町の皆さんの様子を書いた。
当時から、筆者は浪江町の復興ビジョン、復興計画づくりに参加させていただいていたが、いま被災から2年半を経て、全町避難している町民は、仮設や借り上げ住宅あるいは親類縁者らを頼りにしながらと、それぞれの避難先でなんとか生活を安定化させている。
そして今年度、町の発案により、新たにまちづくり計画部会と計画進行管理部会という2つの委員会を立ち上げた。まちづくり計画部会では、町民や役場職員、有識者ら約50人で、平成25年4月に指定を受けた町東側の避難指示解除準備区域を中心に、帰町が可能になると見込まれる4年後(平成29年)を想定して、再生に向けた町の土地利用や生活再建などについて検討を進めている。
また、計画進行管理部会では、やはり約50人からなる町民や役場関係者らにより、刻々と日々変化する地域情勢を踏まえて、平成24年10月に策定した復興計画(事業)が、その後どのように進捗しているのかを確認しつつ、意見や要望などを出しあっている。
本稿では、筆者が直接関与している計画進行管理部会でこれまでに出された町民らの意見や要望を、除染、賠償、健康管理、教育・子育て、インフラ復旧、事業再開の6つのテーマ別に整理して列記してみたい。
【除染】
・今後のまちづくりを考えるうえで除染は不可欠。立ち入りの際の無用な被ばくを避けるためにもしっかりと除染することが必要。
・現在公表されているモニタリング結果の情報が、町民の知りたいところまで網羅されていない。
・今後実施される本格除染について、除染前と除染後の変化や経年変化なども知りたい。
・除染作業が手抜きされるケースもあると聞いているので、適切な除染が行われているか監視が必要。
・仮置き場の確保は地元の理解を得ることが非常に難しいので、丁寧にその必要性や取り組み内容を説明してほしい。
・除染より、まずは原発の安定化が先。また中間貯蔵施設や最終処分場などの除染廃棄物の持ち出し先を確保しないと除染は進まない。一方では除染しないと早急なふるさとの再生ができない。
【賠償】
・町民が持つ賠償についての知識や認識がバラバラな状況。賠償についての基本的な情報を整理した上で、周知することが必要。
・個別の事例については、相談できる町や東京電力の体制整備が必要。特に、東電は職員によって対応が変わることがあるので、一貫性をもって対応してほしい。
・町が、民間同士の個別の案件すべてに深く立入ることは難しい。町としては、賠償基準の底上げにより、全体の利益に繋げていかないといけない。
・先行きが見えないのが自立に踏み出せない最大の要因なので、ふるさとの再生状況や避難生活の再建の見える化が必要。
・自立はお金だけではなく心も重要なので、心のケアもしっかりとやっていかないといけない。
・町民同士の接点を増やしていくことが自立につながっていく。
・企業に対する賠償が十分ではない。雇用面でも地域を支えてきたので、規模を縮小して再開せざるを得ないような賠償ではなく、しっかりと再開できる賠償を実現して欲しい。
【健康管理】
・放射線に対してどのように対処し、どう理解を深めれば良いかわからない。また、人によって放射線に対する不安や意識の程度が異なっており、それも不安増大の一因。
・放射線による健康への影響は、専門家によって見解が違っており、どれを信じてよいかわからない。
・県外では検査場所が制限されており、気軽に受診できないことが検査率の低下につながっている。
・線量計の使い方が正しく理解されておらず、測り方によって数値の誤差が出てしまい、町民の不安につながっている。より丁寧に測定のしかたを説明する必要がある。
・あまり放射線のことを子どもたちに意識させずに生活してもらいたいので、そのようなことは必要ない。
・医療費免除や今まで実施されている支援策が来年度以降も継続されるように国や県に要望していき、さらには住民票の取扱いの見直し(二重住民票の導入など)の検討も必要。
・県外避難者に対してのケアが不足しているため、広域的な観点から双葉郡全体で協力して支援策を講じていく体制を整えることも必要。
・避難先自治体や住民とのあつれきにより、過剰な精神的ストレスを抱え、健康が維持できない。国からの避難先自治体に対して避難者受入による支援がなされていることなどを、避難先自治体と住民に周知していくことが重要。
・高齢者を中心に食生活が乱れており、改善に向けて町だけではなく、各自治会や震災前に活動していた団体などを活用し、支援の幅を広げていく必要がある。
【教育・子育て】
・子どもたちは、新しい土地や環境下で子ども達なりに絆をつくっている。また、震災時の学校の先生はかなり替わっている。このような状況の中、当時の絆を維持することは必要だが、他方で、いつまでも当時の先生に頼ることはいかがか。
・子どもたちに情報発信などを続け、浪江っ子として育て続けていいのか。一方で、強制ではない形で、浪江の文化や歴史について学ぶ機会は設けてほしいとの意見もある。
・避難先の学校のレベルが判らないため、情報収集の手助けがほしい。また、いじめなどのトラブルについては対策事例集を作ってはどうか。
・双葉郡に中高一貫校建設の議論があるが、原発の収束が先ではないか。他方、現在の双葉郡には高校がないので、役場として準備していく必要はある。
・親の孤立の問題がある。町民が多い地区は、保健師がサークルを立ち上げて孤立を防ぐ取組みをしているが、分散して居住している借上げ住宅生活者は孤立感が強い。
・浪江の子どもたちの再会の場への参加者が減ってきているので、再会の仕組みづくりの工夫が必要。あわせて「浪江学」といった、浪江の歴史、風土、文化、生活史などを学べるような検討も必要。
・伝統産業の復興に関して、県内での再開については支援措置があるが、県外は支援措置がないのはおかしい。県内外を問わず支援措置を適用してほしい。
・伝統芸能の継承については、芸文協(芸術文化団体連絡協議会)へのさらなる加入の呼びかけをしてはどうか。また、加入していない団体にも、芸文協からイベント参加の呼びかけなどをしてはどうか。
【インフラ復旧】
・まちづくり計画とリンクしたインフラ整備を進めてほしい。例えば、コンクリートの堤防だけでなく防潮林など自然環境とマッチした防潮堤が造れないか。
・インフラ復旧だけでは町の復興はできない。その後のまちづくりや施設の整備が重要。それが見えないと先に進められない。
・インフラ復旧は遅れ気味だが、時間が経つと町民の帰町意欲が薄れてしまうので、1日も早く進めてほしい。除染に早く着手する以外にも、作業員の交代制度などを設けて早くできないか。
・全体のインフラ復旧は相当時間がかかるため、部分的な復旧が考えられないか。例えば、高齢者が戻れる福祉施設をつくり、その付近だけ優先的にインフラの復旧や浄化槽の設置を進める。
・インフラ復旧を妨げる最大の要因は建設廃材の処理で、町外の事業者が引き取ってくれない。町内での用地確保による一時保管や、処分場建設などを検討してほしい。
・飲料水については相当数の利用者が使用しないと水質が確保できないとの報告が町からあった。小人数でも水質を確保できる工夫をしてほしい。
・仮置場の確保を区長頼みにしていないか。従来の行政手法にとらわれず、町民も協力するのでいろいろな努力をしてほしい。例えば、区出身の職員が区長へ説明するなどはどうか。
・除染やインフラ復旧に対して、情報発信がまだ足りないのではないか。また、情報発信の工夫が必要ではないか。
・空間線量率だけで帰還を議論するのはどうなのか。土壌サンプリングや放射能物質についても調査して町から住民に情報提供してほしい。
【就労・事業再開】
・避難先や帰町した場合、または、町外コミュニティ(町外で安心して暮らすために復興公営住宅を中心として、生活に必要な環境を確保する場所)でどのように事業再開していくか、十分な目途が立っていない。
・町内で事業再開した企業は、利益追求よりは、そこで働きたいという思いでやっている。事業再開に対するフォローアップや後押しがほしい。
・すぐに農業は再開できないが、その中でも農地の保全を行っていく必要がある。
・スタディツアーといった、被災地の現状を風化させない努力を就労の場としてはどうか。
・まちづくり会社をつくり、住民の仕事の場としていく。
・東電関連の企業や従業員が多いので、そこから仕事を出すように要請してはどうか。賠償だけでなく、仕事を通じて自立できるようにすることは企業の社会的責任ではないか。
・町の将来と事業再開をどうリンクさせるか、不確定要素が多い。除染やインフラ整備の遅れ、町外コミュニティの姿が見えないなどが挙げられるが、特に原発が収束していないことが大きい。
以上、会議の議事録や手元のノートをもとに、出された意見などの骨子を列記した。こうしてまとめてみると、仮設住宅や借り上げ住宅などに避難しつつも、生活の安定や事業再開あるいは生きがいを求めて、苦悩する町民や町職員の生の声が聞こえる。なかでも、先行きが見えないことに対する不安と意志決定の難しさ、また、「帰町するか否か。過去を引き継ぐべきか、新しい環境に順応すべきか」など、相反する意見や感情もみられ、避難者らの揺れる心の様子がうかがえる。それにもかかわらず、取り巻く問題や課題の克服に向けた提案も多く、皆さんの意識の高さに感心させられる。
この部会活動は、平成25年10月をめどに、ひき続き【町外コミュニティ】【避難生活支援】【津波被災地対応】を加えて議論を続け、今後の計画や施策づくりなどに生かしていく予定である。
最後に、これらの会議のなかで、町民らが異口同音に口にする一番の問題は、原発事故の安定化である。このところの貯水タンクからの汚染水漏出問題は、原子力規制庁から国際的な評価基準でレベル3に引き上げられるなど、収束に向かうどころか新たな問題を拡散している。明確な収束に向けて、東京電力そして国は責任を全うしてほしいという悲痛な叫びがある。
参考資料
平成25年度浪江町復興計画策定委員会 町民協働による進行管理部会
http://www.town.namie.fukushima.jp/site/shinsai/20130712-sinkoukanri.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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