2013.12.25
  「高齢者の「足」グループタクシー事業」

                                   総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 わが国の高齢者の増加にともない、体力や判断能力が衰えることで車が運転できない交通弱者が増えている。とりわけ鉄道や路線バスの恩恵にあずかりにくく、近隣に若い住民が少ない中山間地域で生活する高齢者にとっては、買い物や通院などが不便となるため、死活問題にもなっている。
  筆者はこれまでこのコラム欄で、さまざまな公共交通の確保策について書いてきたが()、本稿では、まだ全国的になじみが少ないと思われる「グループタクシー」という公共交通の確保策について紹介してみたい。

 近年になり、コミュニティバスやコミュニティタクシーという言葉は、比較的聞くことが多いのではないか。バス会社が路線バスを運営しにくい、人口集積が小さかったり人口密度が低い地域などを対象として、主として自治体やNPOあるいは住民たちで組織する協議会などが直接またはバス・タクシー会社に委託して、小型バスやジャンボタクシーなどを運行している場合が多い。地域住民の「生活の足」を確保するという意味から、「コミュニティ」という形容がなされている。
  これに対して、さらに人口が少ない集落や家屋が散在しているような中山間地域に生活する高齢者を主対象とした事業が、グループタクシー事業である。山口市において平成20年から行われはじめた事業で、交通不便地域(自宅から駅やバス停までの距離が1.0 km以上離れている)に住んでいる65歳以上の高齢者を対象として、移動手段の確保のためにタクシー利用券を交付している。
  単なる交通弱者へのタクシー券の配付と異なるのは、近隣の高齢者が数人以上のグループ(自治会や団体)をつくり、買物や通院などでタクシーを利用する際に、タクシー運賃から利用券の金額を差し引いた料金を、乗り合わせた利用者で負担する。1人でも利用券は使用できるが、1乗車につき11枚のみ使用できるため、乗り合わせるほど自己負担が安くタクシーが利用できている。
  具体的には、対象者に対して、300円あるいは500円のタクシー券(距離別に1.0km 以上1.5km 未満 の居住者は300 円券×年間60 枚、1.5km 以上の場合には500 円券×同60 枚)を配付している。このタクシー券は、タクシーを利用する際に1枚だけを使うことができることから、利用者は利用距離に関係なく300円または500円分を利用し、残額は自己負担する。それゆえ仮に500円券を所有する4人がグループとしてまとまって同じタクシーに乗車すると、合計2千円分の距離を自己負担なしで利用できることになる。

この事業の利用状況は、実証運行をはじめた平成20年(半年間)は32人(グループ)から申請があり、合計22枚ほどであったが、本格運行を始めた平成24年には704人(グループ)、合計6,558枚と大幅に伸び、その勢いは平成25年も継続している。それだけ住民にとって、使い勝手が良い事業ということだろう。

1  グループタクシーの利用状況

年度 申請件数 利用枚数 1 か月あたり利用枚数
自治会数 グループ数 申請者数
平成20年※1 7 7    32人    22枚             4枚
平成21 年 8 6   111人    209枚            17枚
平成22 年 15 15   227人    714枚            60枚
平成23 年 28 29   470人   3,938枚           328枚
平成24年 51 50   704人   6,558枚           547枚
平成25年※2 61 64   844人   6,128枚           766枚

1  10 月~3 月(6 か月間)
2  11月末日現在
資料:財団法人 地方自治研究機構『高齢者の移動及び買い物等に対する自治体の支援に関する調査研究』平成25 3 月。山口市交通政策課ヒアリングによる。

この事業は、上記した内容からもわかるように、高齢者に特化した移動手段である。逆にいえば、中年・壮年までは自家用車の運転や家族などによる運送が可能であろうという想定が推定できる。また、NPOなどのように交通事業者(運営主体)として会社や団体組織をつくる必要がない点、さらには、利用者自身が使い勝手が良いように利用日時が選択できるところに特長がある。
  また、役所からすると、年度ごとにタクシー券を配付(前年度の3月)するため、あらかじめ想定した予算枠を超えることなく交通弱者の支援を行うことができる。より正確にいえば、実際に使った分だけの費用の負担で済むため、行政負担を低く抑えることが可能になる。このような意味で、支援を受ける利用者ばかりでなく、支援する役所にとっても勝手が良い事業であり、双方にとってウィン・ウィン(winwin)の関係ができている。
  なお、山口市では現在の形になるまで、平成20年の実証実験の開始から、毎年、試行錯誤を重ねて平成24年からの本格運行にこぎつけている。そういう意味では、導入にあたっては当該利用者のみならず、タクシー事業者などの関係者とも十分な事前協議が必要である。

2  グループタクシー事業の変遷

年度 改正内容
平成20年度 平成20 年度 ・グループタクシーの実証実験開始
平成21年度 ・運転免許要件を撤廃
・対象年齢の引き下げ(70 歳→65 歳)
平成22年度 ・距離要件の短縮(1.5km→1.0km)
平成23年度 ・1人利用可に
・距離要件に地理的要件を追加
平成24年度 ・グループタクシーを本格導入

資料:財団法人 地方自治研究機構『高齢者の移動及び買い物等に対する自治体の支援に関する調査研究』平成25 3

以上からも分かるように、グループタクシー事業は、通常、セダン型車両を利用するため、乗客は4人が上限となることから、少人数による利用を想定した過疎的な地域ならではのシステムである。その意味では、県土が広く中山間地域が多い福島県にとっても適用可能性は大きいと思われる。
  なお、そうはいってもグループタクシー事業は、利用者にはタクシー券以外にそれなりの金額となる自己負担が発生する。他方、タクシー券をバラマキすれば自治体財政に大きな負担となるため、利用者の条件や金額などの適用については、各地域ごとに試行錯誤を重ねる必要があろう。
  また、これまで日常的に行われてきた近隣同士の助け合いによる自家用車への相乗り、あるいは中山間地域を巡回する移動販売車や医師の巡回診療の支援など、多重な移動サービスの確保策の検討も、もちろん不可欠である。

生活交通の支援策は、路線バス一辺倒の時代から、コミュニティバスやコミュニティタクシーの導入、あるいはデマンドバスやNPOによる過疎地有償運送や社会福祉協議会による福祉有償運送など、さまざまにバリエーションを増やして進化してきた。そして今回は、さらに公共交通の利用条件が厳しい地域における高齢者の支援手法として、グループタクシー事業を紹介した。
  公共交通を人体になぞらえるならば、路線バスは「動脈」にあたり、コミュニティバスは「細動脈」、そしてデマンド交通やグループタクシーは「毛細血管」機能として、置き換えられるかもしれない。それぞれが特長を生かした役割分担を担うことで、地域全体の移動サービスが円滑かつ低コストにより確保することができる。
  生活交通の確保策は、まだまだアイデア次第で、より便利でより低費用な方法が開発可能なように思える。福島県は、旧小高町(現在は南相馬市小高区)や旧保原町(同伊達市保原町)に代表されたようにデマンド交通では全国的に先進県であったが、引き続き新しいアイデアや創意工夫を試みることで、より豊かな地域生活をつくり続けたい。

()最近のものでは、平成25110日「地域が「足」の確保に動き出した」、平成241130日 「デマンド交通のひと工夫」などを参照http://www.f-jichiken.or.jp/column/110/yoshioka110.html
http://www.f-jichiken.or.jp/column/107/yoshioka107.html

参考資料
山口市「グループタクシー利用説明資料」(パンフレット)http://www.city.yamaguchi.lg.jp/cms-sypher/open_imgs/service/0000023047.pdf

財団法人 地方自治研究機構『高齢者の移動及び買い物等に対する自治体の支援に関する調査研究』平成25 3 月。同報告書第14節「コミュニティタクシー事業の成功要因」http://www.rilg.or.jp/004/h24/h24_13_03.pdf#search='%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC+%E5%88%A9%E7%94%A8%E7%8A%B6%E6%B3%81'
  


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません