2014.2.5
  「JR只見線の復旧に向けて」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  JR只見線は、福島県の会津若松駅から只見駅を経て新潟県内の小出駅に至る全長135.2㎞のローカル鉄道である。沿線に広がる集落、農地、山林、山並み、渓谷美、由緒ある社寺などは、自然環境や歴史に恵まれた会津地域の魅力を満喫させてくれる。観光シーズンにはトロッコ列車やSLも走っていて、懐かしい昭和の時代にタイムスリップするような感動を味わうこともできる。筆者も会津若松駅から新潟県小出駅まで、文字どおりガタゴトと揺られながら5時間近くかけて、全線の旅を楽しんだ記憶がある。

わが国を代表するような里山や山地の文化も有しており貴重な地域なのだが、20117月の新潟・福島豪雨による橋脚の流失などにより、現在、会津川口(金山町)-只見(只見町)駅間が不通となっている。JR東日本の試算によると(注1)、復旧にかかる費用は橋梁の再建や設備工事などで合計約85億円、約4年間の工期が必要とのことであり、福島県はJR東日本や国に協力を求めるとともに、地元自治体でも基金を積み立てて費用の捻出を進めている。

さらにJR東日本の見解では、仮に復旧費用が捻出できたとしても、これまでの路線の利用状況、すなわち運営収支を見通すと、復旧には慎重にならざるを得ないとしている。
  たしかに只見線の利用状況をみてみると、2010年における一日あたりの平均通過人員は370人と少なく、しかも近年の20年間におよそ1/2程度まで減少している(下図、参照)。1988年からの利用客の推移の内訳をみると、通勤・通学利用よりも普通運賃による利用客の大幅な減少が目立っている。つまり、とりわけ観光客や地元住民による一時的な利用が大きく減っていることになる。

図 JR只見線の利用状況の推移 全線(会津若松~小出駅間)

 資料:東日本旅客鉄道株式会社「只見線について」2013522日より編集

 370人という数字は、JR東日本管内の路線では下から2番目の利用人数であり、最下位であるJR岩泉線(岩手県)は、2010731日に発生した土砂崩れによる脱線事故のため、以来運休状態となっているが、2012330日にJR東日本は復旧を断念している。では、只見線の復旧工事が実現したとしても、復旧後の利用状況をどう改善していったら良いのだろうか。

そんなことを考えていたときに、ちょうど2014125日土曜日の朝日新聞で、いすみ鉄道社長の鳥塚亮さんの活躍ぶりが特集記事になっていた。
  いすみ鉄道は、千葉県外房にある大原駅から房総半島の内陸にある上総上野駅間の約27㎞を結ぶ第3セクターが運営する鉄道である。毎年1億数千万円の赤字が続くなか、社長職の公募に応募した鳥塚さんが採用された。
  鳥塚さんによれば、2030キロの区間のローカル線の経営は、沿線人口が8万人いなければ成り立たないにもかかわらず、いすみ鉄道沿線には4万人しかいない。そこで、外部からの集客に力を入れた。
  具体的には、鉄道マニア向けにレトロな車両を導入したり、鉄道の運転免許を取るための訓練を700万円の自己負担で受けられるようにした。あるいは、ディーゼルカーの車体にムーミン一家と仲間たちのキャラクターを描いたりとさまざまに工夫することで、見事に経営の立て直しを成功させた。レトロ車両の運行資金を支援するサポーター制度(年会費5千円)もつくり、鉄道マニアを中心に多数の協力が得られているという。
  いすみ鉄道の再建には、巨大な人口集積を持つ東京から比較的近いという好立地条件も寄与していようが、利用客の増加や経営改善に向けたアイデアや努力はさすがである。

いすみ鉄道以外でも、比較的知られたところでは、和歌山電鐵の貴志川線の成功事例がある。貴志川線は2003年、運営していた南海電鉄は赤字解消が困難なことを理由に路線廃止を表明したが、岡山県を地盤として交通事業を行っている両備グループの和歌山電鐵が経営を引き受けた。
  集客策の一環として、200715日に貴志川駅長としてネコ駅長たまを任命したことで大きな話題を呼び、利用客の増加に貢献した。関西大学大学院の宮本勝浩教授らによると、たまの駅長就任後の1年間の経済波及効果を試算すると、約11億円にもなるという(注2)。
  その後も集客努力が続けられており、201415日に、たまは「スーパー駅長」から「ウルトラ駅長」に昇進したりするなど、話題づくりを継続している。なお、福島県にある会津鉄道会津線の芦ノ牧温泉駅でも2008424日にネコ駅長「ばす」が名誉駅長として任命され、やはり大きな人気を博して利用客の増加に貢献している。
  もちろん只見線でも、沿線の奥会津五町村活性化協議会による「ゆる鉄キャンペーン」や奥会津温泉郷協議会が中心となった駅舎イルミネーション(柳津町の会津柳津駅、三島町の会津宮下駅、金山町の会津川口駅、只見町の只見駅の4つの駅舎をイルミネーションで装飾)などのイベントが行われ、観光客や地元客らでにぎわっている。このような動きを継続しつつも、さらなる創意工夫が求められているといえよう。

ローカル鉄道の経営努力を進める方法として、国土交通省の調査報告書から引用すると、下表に列記するようなさまざまな取り組みが行われている。このなかから上記したいすみ鉄道の事例を位置づけると、「イメージキャラクターづくり」「観光車両の導入」「イベントの実施」「運輸外収入増収策」などの取り組みが該当しよう。この表の上から下までを一つひとつ丹念に眺めてみると、さらなる工夫の余地やアイデアもいろいろとありそうだ。

表  鉄道事業の再生・活性化に向けた取り組み類型







イメージ向上

メディア等を活用したPR

イメージキャラクターづくり

鉄道施設の付加価値づくり

著名人へのPR依頼(PR大使)

鉄道を利用した通勤促進PR

沿線地域の情報発信

情報媒体の制作

地域等との共同プロモーション

車両の観光魅力向上

観光車両の導入

イベント列車の運行

車両のラッピング

イベント・ツアーの開催

イベントの実施

ツアー等の定期開催

旅行商品の造成

乗継交通との連携

他鉄道や路線バスとの接続利便性向上

他路線への乗り入れ

レンタサイクル・サイクルトレイン

自動車利用者の乗車促進

P&R(駐車場整備等)

マイカー陸送サービス

ノーマイカーデーの実施

輸送サービスの向上

車両の更新・高速化

運行本数増

ダイヤの工夫

接客サービスの向上

サービス講習会の実施

アテンダントの配置

眺望ポイントでの減速・アナウンス

環境美化・駅の魅力向上

鉄道沿線の景観整備

駅施設のバリアフリー化

新駅の整備

観光施設の一体整備

企画切符・定期券の工夫等

他の交通機関とのセット乗車券

沿線施設等と連携した企画切符

事業者単独の割引乗車券の販売

シニア定期、通院定期等の発行

通勤・通学定期券の工夫・補助等

地域サポートによる乗車促進

商店街等との連携

沿線企業の鉄道通勤バックアップ

意識啓発活動(シンポジウム)などの開催

運輸外収入増収策

駅構内を有効活用した物販の充実

鉄道オリジナルの土産物の開発・販売

費用節減対策

マイレールボランティア駅長等の採用

オーナー制度等によるサポート

費用自己負担による運転士の育成

上下分離方式の採用

資料:国土交通省鉄道局、観光庁『地域鉄道における再生・活性化へ向けた事例調査』<概要版>平成256月より編集

筆者は近年、市町村からバスやタクシーを中心とした公共交通路線の確保策などに関する相談を受けることが多いが、鉄道と同様、バス交通でも全国的に路線廃止が続いており、路線の維持がむずかしくなっている。
  そんななかバス路線の維持に向けて、近年とくにバス利用者のみならず沿線地域が運営維持に協力するような動きが増えているように感じている。当該バス路線の維持が地域生活を営むうえで不可欠であるという住民や団体、地元企業などによる合意のもとに、運賃以外にも協賛金・協力金などのかたちで運営費用の一部を負担するなどで、路線維持につなげているケースである。
  その先駆的な事例といえる青森県鰺ヶ沢町では、自治会で運営費用を捻出することで、1993年にいちど廃止されたバス路線を復活させている。過疎の山あいを走る深谷線を支えるのは、全国的にも珍しい「住民参加方式」と呼ばれており、地区の3つの集落が町と地元の弘南バスとで協議会をつくり、運行方式を協議した。その結果、3集落の全60世帯がそろって、毎月2千円分の回数券を購入することになった。乗客数にかかわらず、弘南バスに一定の収入が入る仕組みだ。なかにはほとんどバスに乗らない人もいるが、この路線は地域の命綱であるため、回数券の購入に反対する家はなかったという。なお、併せて町からの補助金も投入されている。
  かつて、同地区にはバス路線がなかった。あるいは最寄りのバス停まで8キロ歩かねばならない人もいた。住民らは採算が取れないとするバス会社と話し合い、現在の方式を導入することで悲願であった路線開設にこぎつけている。(注3

また、三重県四日市市では、利用者の減少による路線バスの廃止に対して、沿線の地域住民らが話し合い地元自治会などの了解を得て、地域住民に加えて協賛企業(地元大手スーパーや病院など)、運行事業者(三重交通)からなる「生活バス四日市運営協議会」を発足させた。そして、20034月にNPO法人「生活バス四日市」を設立して道路運送法の許可を得て、有料による定期バス運行をはじめている。運行は三重交通に業務委託しているが、地域住民のみならず、地元企業などや自治体から協賛金や補助金を得るなどして、地域ぐるみで市民の生活の足を確保している。ちなみに運行経費は、運賃収入(約10万円/月)、市の補助金(30万円/月)、沿線企業の協賛金(約50万円/月)によって賄われている。また、1乗車の運賃は100円である。(注4

あるいは、宮城県石巻市稲井地区では、それまで市により委託運営されていた路線バスが利用者の減少などの理由により200411月をもって廃止されることになり、同地区の大半が公共交通機関の空白地域となる状況が見込まれた。
  そこで稲井地区全18行政区において議論した結果、地域住民の代表者で組織する「稲井地域乗合タクシー運行協議会」が運行主体となり、乗合タクシー「いない号」の運行を行うこととなった。この運行協議会は運行経費の一部として、地区内の各行政区から協賛金を、また各世帯からは協力金を徴収している。
  各行政区からの協賛金は基本的に一区あたり年間18千円。また、各世帯からの協力金は一世帯当たり550円。協力金を支払っている世帯の割合は全体の約90%であり、この数字は生活保護世帯などの特別な事情のある世帯を除けば、ほぼすべての世帯による負担になるという。石巻市からの運行補助金も年間200万円ほどあり、これらを運行経費に充てている。なお運賃は、稲井地区内または地区外だけの利用の場合、1回一律300円である。(注5

このような事例をふまえると、只見線の復旧と維持運営に向けて、地元住民の買い物や通院あるいは通勤・通学、そして観光客誘致や観光振興に向けた生業の手段として不可欠と考えられるならば、沿線地域全体で支援していくという動きをつくり出してみてはどうだろうか。只見線の存在をマイカーと同じように自分や家族たちの「生活の足」として想定するならば、費用の一部負担や労力の提供など、さらに積極的な維持運営方法や利用促進方法も視野に入ってくるのではないか。
  また大きく発想を変えると、利用客が少ない赤字ローカル線沿線地域(区間)に対して特区制度を設け、そこで行われる地域開発や起業活動に対する減免税措置などを国に要望してはどうだろうか。

人口の減少そして少子高齢化が進むなか、これまでどおり交通事業者にまかせておけば鉄道やバスは運行してもらえるものという考え方は、見直すべき時代に突入してきているということではないか。JR、国、県、地元自治体や団体、企業などとともに知恵を出し合い、地域主導により公共サービスの維持を図るという地域社会による創意工夫が、いま問われているように感じている。

(注1)東日本旅客鉄道株式会社「只見線について」2013522
http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/20130522_tadami.pdf
(注2)国土交通省資料「和歌山電鐵の活性化に向けた取組み」
http://www.mlit.go.jp/common/000056279.pdf
(注3))国土交通省東北運輸局資料「地域住民参加型路線バス」
http://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/senkujirei/date/jirei_30.pdf
(注4)国土交通省「公共交通活性化事例集」
http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/tsukuro/kassei/case_study/mie/pdf/yokkaichi.p
(注5)月刊地域づくり第248号 地域の新しい「生活の足」平成22年2月特集
http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/book/monthly/1002/html/f02.htm
参考資料:
東日本旅客鉄道株式会社「只見線について」2013522
国土交通省鉄道局、観光庁『地域鉄道における再生・活性化へ向けた事例調査』<概要版>平成256


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません