2014.3.5
  「本宮市・上尾市の研修交流に参加して」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  20131112日、福島県本宮市で行われた「本宮市・上尾市職員協働研修」に、筆者は講師として参加させていただいた。
  この職員研修は、本宮市と埼玉県上尾市間のより緊密な関係を図るため、両市の職員が協働研修を行うことで、職員の意識啓発や交流を図り、課題解決能力と意識改革につなげることを目的として開催されたものである。
  両市の関係は、東日本大震災が起きた際に、被災地支援として上尾市が2011年3月26日から24日間、本宮市を拠点として福島県へ緊急消防援助隊を派遣したことをきっかけとしている。その後、同年1111日に、災害時における助け合いを目的として、両市間で「災害時の相互応援に関する協定」を締結している。これは今回の大震災を経験し、ある程度距離が離れた自治体との協力関係が必要との認識が、両市で一致したものである。

今回の職員研修は、2012年に上尾市で開催された第1回につづき、第2回目を12日のスケジュールでおこなったものであり、筆者は2日目午前中のプログラムとなっていた「政策研修」を担当した。
  会場は、えぽか(本宮市民元気いきいき応援プラザ)、研修テーマは本宮市と相談をして「震災復興への現状、課題、解決策 ~福島県(本宮市)の風評被害とイメージアップ対策について考える~」とした。この研修テーマの選定は、風評被害や地域のイメージダウンに直面している福島県や本宮市にとって喫緊の課題であったことによるが、埼玉県も都道府県のイメージランキングでは残念ながら下位にあり苦戦していることから(注1)、期せずして両市にとって有意義なテーマとなった。参加者は、両市から入庁20年以下の比較的若い職員が対象で計28名であった。

最初に話題提供として、筆者から「福島県の震災の状況・経過と課題」と題して、今回の大震災と原発事故による福島県の被災状況とその後の動向についてプレゼンしたのち、前半・後半と2回のワークショップを行った。
  前半のテーマは「福島県(本宮市)の風評被害と対策について」(計50分)、そして後半は「福島県(本宮市)のイメージアップ対策について」(計40分)とした。ワークショップの進め方としては、両市の職員が混ざり合いながら4チームに分かれ、ブレーンストーミング方式で、アイデアを出し合い発表をした。
  前半の風評被害対策では、イメージだけでなく数字による実態説明の必要性、放射能の測定検査結果の商品への添付、除染の進展情報の継続的開示、有名人や映画、ドラマなどによるPR、福島に来てもらい実際に体験してもらう、懸念を払拭する正確な情報の提供など、100前後のたくさんのアイデアが出た。
  また、後半のイメージアップ対策では、2市のゆるキャラを使ったCM放映、全国的に活躍するアイドルをつかった広報活動、地域ならではの名物・名産品の開発、特産品や地域のブランド化やフェスティバルの開催、観光イベントの開催、農産品の消費地への売り込みなど、風評被害対策と同様に多数の提案が出た。
  まとめとして、筆者からはこの場で終わることなく、さらに具体化に向けて検討して欲しいこと、政策立案に向けて、考え方として人、物、カネ、情報そしてコトという視点に分けて考えると、アイデアが出しやすいことなどを説明した。

役所の場合、どうしても仕事内容として事務手続きが決まっているルーチンワークが多くなるため、日頃、アイデアを考えたり提案するような創造的な業務は少ない。そんなこともあってか、アイデア出しが中心となるワークショップでは、両市職員がお互いにほぼ初対面ということも重なって、最初は遠慮がちな雰囲気が感じられた。
  しかし、すぐに若手職員を中心に活発な議論やアイデア・提案が始まり、最終的には約2時間の予定時間をオーバーするほどに熱心な討議や発表が行われて、にぎやかなワークショップとなった。とくに、若い職員の皆さんの大胆なアイデアや力が入ったアクションを交えた発表に、次第に笑いや拍手も大きくなり、盛り上がった研修となった。
  筆者が印象に残ったアイデアとしては、2市のイメージアップを進めるために、上尾市のイメージキャラクターである「アッピー」と、本宮市のイメージキャラクターである「まゆみちゃん」が結婚をして、子どもを誕生させ、さらに小学生から大学生そして成人へと成長させていくという物語をつくるという提案があり、末永い両市の交流が期待できる楽しい提案だと感じた。

なお、この研修に先立ち、2013731日に上尾市コミュニティセンターで、本宮市と上尾市は友好都市協定を締結している。両市は、東日本大震災の被災地支援をきっかけとしつつ、その後もお互いの特産品の販売、野球やサッカーのスポーツ少年団の交流、民俗芸能での市民交流に加え、市議会や区長会においても研修などを通した交流を重ねてきた。
  そこで、今後さらに文化・スポーツ・経済など幅広い分野で両市の交流を深め、将来にわたってともに一層の発展を願うために、友好都市協定を結んだものである。さっそく119日には、友好都市協定締結の記念として、上尾市の上平公園で両市長が出席して「まゆみの木」(ニシキギ科の落葉樹。初夏に薄い緑の小花が多数咲き、秋には赤い果実を付け紅葉が楽しめる)の記念植樹をしたりしている。
  なお、後から知ったことだが、上記した「アッピー」と「まゆみちゃん」の成長物語の提案は、この友好都市協定を締結の日に、両市により「アッピー」と「まゆみちゃん」の婚約式が行われ、将来の結婚を誓い合い誓約書にサインするというイベントがあったことが、ヒントになっていたのかもしれない。

東日本大震災を契機としながらも、防災領域に限らず、特産品販売、スポーツ、学校教育など、幅広い多様な交流に発展させており、好感が持てる。自治体間の広域連携は、以前、筆者もコラムに書いたり、本を出版したりしたこともあるが、古くて新しいテーマである(2)そして最近、国も人口の減少や少子高齢化の進展、そして財政難などを背景に、弱体化しつつある自治体へのテコ入れとして、これまで以上に自治体間の広域連携の推進に力を入れはじめている(注3)。
  このように自治体同士がお互いのメリットや相乗効果を享受しつつ、交流がさらに活発になることで、住みよい地域づくりが推進されることはとても良いことだと思う。今回の大震災をきっかけとした両市の研修・交流の場に立ち会い、楽しい時間を過ごすことができた。


 本宮市の「まゆみちゃん」と上尾市の「アッピー」

(注1)株式会社ブランド総合研究所が毎年「全国都道府県ブランド調査」(全国の約3千人を対象としたインターネット調査)を行っているが、埼玉県のイメージ評価は経年的に47都道府県中40位台にある。
(注2)吉岡正彦、日吉純「広域連携による地域防災体制の推進」、Business & Economic Review 19957月号 http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=16657、吉岡正彦 「21世紀の国土・地域づくりは複合・連携・ネットワークで」、Business & Economic Review19975月号 http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=16527複合型公共施設研究会(共著)『複合と連携: 新たな公共施設整備のあり方と地域づくり』ぎょうせい、19973
(3) 総務省の有識者研究会が、2014124日、自治体間の広域連携に関する報告書を取りまとめた。自治体間の連携を後押しするために拠点都市に財政支援する「連携協約制度」の創設などを提案しており、総務省はこの提言を受けて地方自治法を改正する意向である。


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません