東日本大震災および東京電力福島第一原発の事故が起きてから3年間が経過したが、この間、福島県の人口がどのように変化あるいは移動したのか、数字として知りたいと思い少し調べてみた。
使用したデータは住民基本台帳だが、実際には原発事故による被災地域を中心に、住民票を移動しないまま地元市町村から転出している住民が少なくないと思われる。したがって正確な実態を知るためには、次回(2015年実施予定)の国勢調査まで待たなければならないことは、最初にお断りしなければならない。なお、用語として、統計上の市町村間の人口移動は「「転出・転入」、単なる現象としての人口移動は「流出・流入」として使い分けた。
福島県の資料に基づき、東日本大震災が起きる直前の平成23(2011)年3月1日現在と、最近の平成26(2014)年2月1日現在における県および市町村人口の変化を比較してみた。
まず全体についてみると、平成26年2月1日現在の福島県人口は1,944,800人、平成23年3月1日現在と比べると、この間に△79,601人、3.93%減少している(表1)。この数字は被災前の約3年間の数字△41,300人、2.00%の減少(平成23年3月1日に対する平成20年2月1日時点比較)と比べると、減少幅は2倍近くに増えており、やはり今回の大震災と原発事故が福島県からの人口転出に大きく影響していることが分かる。(注)
これを管内別にみると、人口数では、県中、県北、相双の順で減少数が大きい。郡山市や須賀川市などを擁する県中は、県人口の1/4以上を占めていることから(53.3万人)、減少数は△1.81万人と多くなっている。福島市や伊達市、二本松市などを擁する県北もほぼ同様の人口規模(47.8万人)にあることから△1.78万人と、これに次ぐ減少数である。
しかし、減少率の大きさでみると、相双、南会津、いわきの順となる。福島第一原発が立地している相双の場合、3年間で△1.6万人、△8.10%、つまり全体の1割弱の人口が減ったことになるが、原発立地町である大熊町、双葉町ほか周辺町村は避難地域指定を受けて全員避難となっていることもあり、実際にははるかにより大きな減少数、減少率となっていることが想定される。
南会津は減少率△5.36%で相双に次いでいるが、これは震災や原発事故による影響というよりも、震災前からの減少傾向が継続している。また、いわきが△4.07%で3番目となっているが、いわきは浜通りの中心都市であり、最近の顕著な地価上昇にも象徴されているように、実際には、双葉地域などからの避難者らの流入が多いと推定される。
そんななかで、西郷村が唯一、人口増加基調(74人、0.38%増)にある(参考データ、参照)。自然減も少ない(△47人、0.24%減)が、社会増(121人、0.61%増)が寄与している。このような傾向は震災前から継続しており、西郷村は首都圏に近く、新幹線駅などがあり交通便が良いほか、村内に工業団地、住宅なども充実しているためと推定される。
そこで次に、人口の変化を自然動態、社会動態別に見てみると(表2、図1)、自然動態では、県平均減少率は△1.42%であるが、南会津の△3.70%が突出して大きい。これは出生数が管内全体でも458人しかいない反面、1,500人を超える死亡数が影響している。次いで会津(△2.26%)、相双(△2.12%)の順である。他方、減少率が低いのは、県南(△ 1.01%)、県北(△1.36%)、いわき(△1.53%)の順である。
南会津および会津での目立つ自然減は震災前からの傾向であり、とくに奥会津と呼ばれる金山町(△7.35%)、昭和村(△6.72%)、三島町(△5.98%)や、西会津町(△4.52%)などで減少傾向が顕著である。これらの地域では、なんとか移住などにより若い男女を増やして、出生数を増加させたいところである。
また、全体に減少しているなかで、大熊町が唯一、自然増となっている(56人、0.48%増)。大熊町はもともと県内では数少ない人口増加基調にあった町であることから、おそらく住民票を移さないまま、避難した町民が各地の避難先で出産を迎えた状況が推定できる(出生数338人)。
一方、社会動態では、県平均減少率は△2.51%であるが、やはり相双が△5.97%と突出して大きい。転入数11,226人に対して、転出者数は△22,904人と2倍以上と多くなっており、その差が他地域(県内外)への転出増(△11,678人、△5.97%)として表れている。また、相双に次いで、県中、いわき(ともに△2.53%)がほぼ県平均並みで減少している。
他方、減少率が低いのは、会津(△1.03%)、県南(△1.50%)、南会津(△1.66%)の順となっており、会津地方が健闘している。これは、会津地方は全体として、今回の震災および原発事故の影響が少なかったため、相双からばかりでなく郡山市や福島市といった中通りからの自主避難者らの転入もあったためと推定される。
本来ならば、福島市、郡山市、いわき市などの中心都市で、相双などからの転出人口を受けとめたいところだが、これらの中心都市も放射線量は原発周辺域と比べると全体には低いものの影響を受けているため、最終的に減少基調になったと推定される。(但し、上記したようにいわき市などで、実際にはかなりの流入状況が推定される。)
表1 管内別人口動向 (単位:人、%)

(注)平成23年3月1日現在及び平成26年2月1日現在の人口は、平成22年国勢調査確定値に基づき算出。増減率は平成23年3月1日現在に対する割合。資料:福島県「福島県の推計人口」(福島県現住人口調査月報)平成26年2月1日現在より作成
表2 管内別の人口(自然・社会)動態 (単位:人、%)
注および資料は表1に同じ
図1 市町村別人口の自然・社会動態(平成23年3月1日~平成26年1月31日)(単位:%)


注および資料は表1に同じ
i 以上のような状況を踏まえると、福島県の人口回復に向けては、各市町村がおかれた個別の状
況を踏まえて対策を検討する必要がある。
簡単にまとめると、これまでおおむね人口増加基調にあった西郷村、鏡石町や大玉村などの町
村は、今後とも住宅や基盤整備を進めて住みやすい地域づくりを進めたい。
相双を中心に震災および原発事故により影響を受けている市町村は、まずは除染の徹底とダメ
ージを受けたインフラや住宅整備を中心に復旧・復興を急ぎ、帰還して安心・安全な生活ができ
る地域づくりを進める必要がある。
郡山市、福島市など中心都市の場合にも、住民が安心して生活を営むことができる環境を確保
するために必要な除染が優先されるが、あわせて近隣市町村の中心都市として、教育・医療や商業
・情報サービスなどの高次な都市機能の強化や就業の場や住宅の充実が求められる。
そして、その他の市町村、とくに南会津地域の場合には、地域振興やまちづくりを積極的に進め
ることで、定住人口の回復を目指す必要がある。
なお、人口は増やすこと自体が目的ではなく、県民の幸福な生活の実現という目的を達成するた
めの有力な手段(活力資源)という位置づけを忘れてはならない。地域特性を踏まえた各市町村の
人口政策や地域振興策そしてエネルギー創出策などを講じることで、人と地域が調和して自立かつ
循環していく県土の創生が展望できる。
(注)福島県によれば、平成26年1月現在の避難者数は県内88,884人、県外48,364人、計137,306人(避難先不明者58人)である。(ふくしま復興のあゆみ・第6版による) 参考資料:福島県「福島県の推計人口」(福島県現住人口調査月報)平成26年2月1日現在
http://www.pref.fukushima.jp/toukei/data/01/jinkou/jinkou26/02.pdf
参考データ 管内別・市町村別人口動態 平成23年3月1日~平成26年1月31日
(単位:人、%)

注および資料は表1に同じ。増減率は四捨五入のため合計値と合わない場合がある。
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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