秋本番となり、各地で多くのイベントが行われている。我が家では、かつて私が約3年間単身赴任生活を送った南会津町(旧南郷村)で開催された「南郷新そばまつり」に参加し、南会津の新そばを堪能したあと日帰り温泉にも立ち寄り、秋の休日を満喫してきた。
通い慣れた道ではあったが、福島市から高速道路を使っても車で3時間の距離にあり、結果として1日がかりの旅となり、改めてその“遠さ”を実感してしまった。
しかし、“職場”へ向かうために毎週末通った道が、“旅”のために通ってみると、見えてくる景色が全然違うことに気が付き、少々驚いてしまった。南郷に近づくにつれ、だんだんと紅葉のコントラストが鮮やかになり、妻も“きれいだね!”と感動し、私もそばまつりの会場で落ち合うことになっていた旧職場の同僚との再会を楽しみに、自然と心も弾み、到着後はあっという間の楽しいひと時を過ごすことができた。
また、帰り際に地元の方から“また来てけやれ~”と声をかけてもらい、懐かしさというか、温かさが伝わってきた。
当コラムでは、会津地域(南郷など)で使われている方言(~~けやれ)にまつわる私のエピソードを基に、“方言が持つ地域の魅力”について考えてみたい。
旧南郷村(以下「南郷」とする。)は福島県の南会津地方(西部)にあり、平成18年3月に隣接する田島町、伊南村、舘岩村と合併し南会津町となった、人口約2,400人の静かな里山である。尾瀬の玄関口である檜枝岐村にも車で30分ほどの距離にあり、南会津西部地区の交通の要衝である。また、“南郷トマト”や“ひめさゆりの群生地”
で有名である。
その昔は、旧田島町との境にある国道289号の「駒止峠」が交通の難所であり、現在の駒止トンネルが開通するまでは、冬など命がけで超える峠道であったと地元の方から聞いた。
冬は2mほど雪が積もり、町中が銀世界となる。地元の方からすると雪は子供のころから当たり前にある存在であり、恵みであり、かつ厄介者にもなる、複雑なモノであるようだ。いわき育ちの私には正直言ってピンとこない話であったが、除雪の大変さは、実際に生活をしてみないとわからないというのが正直な感想である。
また、この峠を境に文化や方言にも微妙な違いが生まれ、地域独自の特色が育まれてきた。
私が約3年前に南郷にある土木事務所に配属になった際に、役場の窓口で転入手続きに行った際のできごとである。応対してくださった職員の方が、最初は普通の標準語による説明で始まったにもかかわらず、途中から急に笑顔になり、“こごさ、○×△????・・・けやれ”と説明があり、戸惑ってしまった。
まさに、会津弁に遭遇した瞬間である。後々よく思い出してみると、“こごさは、わがの○○を書いてけやれ、こめらの○○は、こごさ書いてけやれ・・・”と言われたような、かすかな記憶がある。
この、“けやれ”こそ、私が初めて出会った会津弁(南郷弁?)であった。
他にも、約3年間の間に地元の方から様々な会津弁を教えていただいたが、ここで、会津大学語学研究センター音声学研究室がホームページで紹介している「会津地域の方言」を参考にし、少しだけ会津弁を紹介したい。
<以下、会津弁クイズから一部引用>
問題:あいばんしょ
(正解は“行きましょう”)
問題:あんちゃ
(正解は“お兄さん”)
問題:うるがす
(正解は“水につけておく”)
問題:おばんです
(正解は“こんばんは”)
問題:くんつえ
(正解は“ください”)
問題:こえー
(正解は“疲れた”)
問題:こめら
(正解は“子ども”)
問題:さすけね
(正解は“大丈夫”)
問題:ずねえ
(正解は“大きい”)
問題:そべる
(正解は“甘える”)
問題:むじる
(正解は“曲がる”)
問題:むずせえ
(正解は“かわいそう”)
問題:めごい
(正解は“かわいい”)
私はこのクイズにチャレンジし、「あいばんしょ」、「そべる」、「むじる」、「むずせえ」がわからず、不正解であった。
他にもまだまだ理解できていない(活用方法も含めて)方言が数多くあるが、やはり、私の心に残っている会津弁で最も美しく、かつ温かく感じられたのが“けやれ(○○してください)”である。
初めて暮らす土地で不安な部分もあったとは思うが、ようこそ南郷へ!と、歓迎していただいた気持ちになり、うれしかったというのが大きい。
昨今、少子高齢化の加速とともに、日本中で里山から人がいなくなる、村がなくなってしまうなど、危機的状況が話題になっている。
都会に出てしまう若者をどうやって地方につなぎとめるか、戻ってきてもらうか、自治体も悩みながら、地域振興策・活性化の道を模索し始めている。
南郷も、まさしく例外ではなく、若い人は会津若松や郡山、あるいは北関東に進学・就職していき、残されるのは子供たちと高齢者というのが現状である。
しかし、トマトや蕎麦など、農や食に関する地域独自の資源を使った魅力を作り出し、南郷をアピールしている若い人たちが数多く活躍しており、古き良き日本の故郷としてだけでない、一皮むけた里山イメージ作りのモデル地域になりえるのでは、と思っている。
それは、3年前に初めて訪れた私の固い表情を見て、自然に“こごさ、わがの名前を書いてけやれ~”と言ってくれた役場の方のやさしい心配りがあり、今回も、そば祭りの会場を後にするときに、地元の方から“”また来てけやれ~”と声をかけてもらったからそう感じたのかもしれない。
いわゆる地域おこしの方策として「6次産業化」が取り上げられているが、この「6次産業化」の取り組みの中に、“方言”をちりばめてみてはどうだろうか。
例えば、南郷トマトであれば、「南郷トマト」という名称に、“食べてみてけやれ!”とか、“味わってみてけやれ!”など、見た人が?と興味を持ってくれるような方言を使ったフレーズを追加してみてはどうだろう。首都圏のスーパーやデパートなどで試食宣伝を行う際など、言葉を知らない方が見ればインパクトが大きいと思う。
「これ、どういう意味?」と聞いてもらえれば、スムーズにお客さんとの会話が弾み、方言をきっかけに商談が進むかもしれないし、地域の特色などを理解してもらうのには有効ではないか。
商品を売り込む場合だけでなく、町中でこのような仕掛けを行いながら、さらに訪れる人々への“心配り”が加わると、“また来てみたい!”と思う、思わせる地域の魅力になりはしないだろうか。
“方言”の魅力・特徴をもう一度見直し、それをきっかけに地域の魅力にスパイスを加えることができれば、“また来てみたい!”から“ここに住んでみたい!”になりはしないだろうか。
皆さんもぜひ一度、南郷に行ってみてけやれ!
<参考>
南会津町観光情報 http://www.minamiaizu.org/kanko/
南郷トマト振興協議会 http://www.nangotomato.jp/index_pc.html
南郷ひめさゆりガイド http://www.minamiaizu.org/himesayuri/
会津大学語学研究センター音声学研究室会津弁クイズ
http://clrlab1.u-aizu.ac.jp/aizuben/quizpage.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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