2002年に実施された乗合バスなどの規制緩和を契機に、国内における地域公共交通を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。特に過疎化や少子高齢化が進む地方では自家用車による移動が当たり前となり、鉄道や路線バスなどの公共交通の衰退が著しく、赤字路線バスの撤退や減便などの影響による“公共交通空白地域の増加”が大きな社会問題となって久しい。
このような状況の中、国は、平成25年に「交通政策基本法」を制定、平成26年に「地域公共交通活性化・再生法」を改正し、①地方公共団体が中心となり、②まちづくりと連携し、③面的な公共交通ネットワークを再構築することを目指すとしている。
法制度上の改正の動きもさることながら、地方では、“いかに生活の足を確保するか”を真剣に考え、地域の実情に合った公共交通を作り上げるべく、各地で地道な活動が続けられている。
去る平成27年2月20日に福島市内で開催されたイベント、「おでかけ交通博2015 in 福島~みんなで「おでかけの足」を考えませんか~」に筆者も参加した(※1)。
当イベントは、地域公共交通の活性化などに取り組む市民団体や自治体がそれぞれの活動について発表したもので、地域公共交通の利用者が減少する中、買い物や通院など『おでかけの足』の確保に向けた取り組みについて考えることを目的として開催された。国土交通省東北運輸局と福島大学が開催し、住民主体でバスを運行する会津若松市の「金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会」など、東北地方を中心とした16団体がブースを設けた(※2)。 “コアタイム”という時間に、出展者が各ブースでポスターを用いて取り組み内容を説明する形式で行われ、参加者は自分たちの地域に役立つアイディアを得たいと、出展者の話に真剣に耳を傾けていた。

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平成27年2月20日「おでかけ交通博2015 in 福島」
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当コラムでは、上記イベントにも参加した会津若松市の「金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会」の活動を紹介し、“町内会が主体となったコミュニティバス運行の事例”について考えてみたい(※3)。
当協議会の取り組みは、これまでに新聞社やテレビ局などにより複数回紹介されているのでご存知の方も多いと思う。通常のコミュニティバスの運行は、路線バスの廃止などが契機となり、市町村が主体となって代替策や新たな運行形式の検討を進めることが多い。
しかし、当協議会の場合は、“町内会が主体となって運行している”ことと、“協議会が運賃収入の20%確保をあらかじめ約束している” (※)ことが特徴である。
協議会、交通事業者、自治体の3者が、他者まかせではない、それぞれが責任を持って路線の維持に取り組んでいるケースとして注目される。
(※あらかじめ「運行経費」の20%を「基準運行収入」と定めて、「実際の運賃収入」が「基準運行収入」に満たない場合は、その不足分について協議会が負担する仕組み。運行経費の残り80%については、国や市の補助金、バス運行事業者の負担で賄うとしている)

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出所:会津若松市地域づくり課作成 「おでかけ交通博2015 in 福島」 配布資料より一部抜粋
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会津若松市の金川町(かながわまち)・田園町(でんえんちょう)町内会の地域は、道幅が狭く路線バスの運行がない公共交通機関の「空白地帯」であった。人口密度や高齢化率が高く、市中心部の北西に位置する約1,080世帯、2,800人が暮らす町であり、住民の“生活の足”が不足していた。
路線バスの運行を求める住民の声はかねてから根強く、平成23年7月からの1年間コミュニティバスの実証実験運行が行われたが、1日当たりの乗客は4~8人程度にとどまり、バス事業者の本格運行は実現できなかった。それでも地元住民は口コミによる利用者の拡充運動などバスを再び運行させる活動を継続させ、平成26年7月に両町内会やバスの利用希望者で組織する「金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会」を設立した。その後、協議会が市や会津乗合自動車(会津バス)の協力を得て、平成26年11月4日から運行を開始した(※4)。

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平成26年11月5日「福島民友おでかけニュース」(福島民友新聞社)記事より写真を抜粋
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「金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会」 コミュニティバス運行の枠組み
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(1) 内容
・ 公共交通空白地域の一つである金川町・田園町において、地域住民が組織する運営協議会が主体となり、会津乗合自動車に委託しバスを運行する。
・ 金川町・田園町町内と神明通り、竹田病院間の運行。
・ バスの愛称は「さわやか号」で、15人乗りで月~木曜日の週4日、1日3 便運行。
・ 運賃は1回乗車 大人300円/小人150円。1か月会員券(2,500円)。
(2) 関係者の役割分担
金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会
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<バスの運営>
・運行計画の検討、継続的改善
・利用促進策の企画、実施
・基準収益の確保、協賛・寄付募集活動
・補助金事務
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会津乗合自動車株式会社
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<バスの運行>
・法手続き及び乗合旅客運送の実施
・バス停留所の整備、維持管理
・運行費用の一部負担
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会津若松市企画政策部地域づくり課
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<事業運営への協力>
・関係機関との連絡調整
・各種調査、分析
・運行費用の一部補助
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(3) 協働のポイント
地区の特性・実情を熟知する住民が組織する協議会が主体となり、運行内容の検討や収益確保等へ自立的に取り組み、それに対し交通事業者及び行政が連携・協力しながら、地域ニーズや需要量に合った、将来にわたり持続可能なバスの運行を目指している。
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(出所;会津若松市ホームページ、『福島民友ニュース』2014年11月5日minyu-net、「論説 若松の住民バス」『福島民報新聞』2014年11月21日朝刊)、会津若松市提供資料など
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これまでの運行の実績は当初目標としていた利用者数を上回っており、平成26年11月~平成27年1月の3か月間で、運行日数46日間、延べ利用者数791人(17.2人/日)と順調に推移し、目標を大きくクリアしているとのこと。
実証実験運行を行った際には利用者数が伸びずに本格運行には至らなかったが、その後、利用希望者との度重なる意見交換や口コミによる利用拡充運動などが功を奏し、市や交通事業者の協力のもと、コミュニティバス「さわやか号」の運行を実現した。運行開始後も、リーフレットの作成・配布、地元スーパーの協力による各種特典サービスの実施、地区全戸にチラシを配布するなど、コツコツ努力を重ねている。
協議会では、“小さなバス”として始まったが、今後、さらに地域に必要とされる“大きなバス”に育てていきたいとしている。
上記「おでかけ交通博2015 in 福島」では、協議会の菊地会長をはじめ多くの住民の方が参加し、積極的に参加者と交流を深めていた。
イベントの最後には、地域公共交通東北仕事人(※5)が感銘を受けた出展者を選び、“いいね!”シールを進呈する企画があり、当協議会は多くの“いいね!”を獲得していた。
最後に、当協議会の活動が成功に至ったポイントを筆者なりにまとめてみた。
(1)バス事業者や行政に全て“お願い”するのではなく、住民が自ら動きだし、皆で知恵を出し合い、あきらめずに取り組んできた。
(2)寄せられた応援メッセージなどを掲載した手作りのチラシを町内会全戸に配布するなど、バスの現状を住民に伝えることにより、“おらが町のバス”という愛着を持ってもらう努力を続けている。
(3)協議会も、ルールを定め、運賃収入が基準額に満たない場合にはその一部を負担することを約束し、行政や交通事業者と互いに協力する姿勢を明確にしている。
全国の様々な地域で「生活の足の確保」が大きな課題となっている中、会津若松市金川町・田園町の“町内会が主体となった自立的な地域づくり”
とも言える取り組みが範となり、住民の熱意が原動力となって創意工夫に取り組む地域が増えることを願いたい。
<参考、紹介記事の出所>
(※1)「おでかけ交通博2015 in 福島」(H27.1.26 東北運輸局プレスリリース)
http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/ks/new%20page/ks150126.pdf
(※2)「福島で「おでかけ交通博」 市民団体などが活動発表」記事より一部引用(福島民友新聞社minyu-net 2015年2月20日記事)
http://www.minyu-net.com/news/news/0220/news14.html」
(※3)11月4日から金川町・田園町住民コミュニティバス「さわやか号」が運行開始!【会津若松市地域公共交通会議】(2014年10月31日 会津若松市ホームページ掲載記事)
http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2014103000063/
(※4)「金川、田園町内会で「バス運行」スタート 商店街など巡る」(福島民友新聞社minyu-net 2014年11月5日 福島民友おでかけニュース掲載記事)
http://www.minyu-net.com/tourist/aidu/1105/odekake1.html
(※5)「地域公共交通東北仕事人」・・・東北の地域公共交通について熱意をもって取り組んでいる有識者、自治体担当者、NPO等から国土交通省東北運輸局が選定
http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/ks/new%20page/ks-sub06.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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