2014.4.25
  「バランス感覚」

                                       所長  菅野 裕之


 行政を執行する上で一番難しいのは利害の調整である。限られた財源の中でどの程度で折り合いをつけるか、行政マンの腕の見せ所である。

福島県内には、特別養護老人ホームへの入所を待つ「待機老人」が12,500人を超えると云う。要介護の親を抱えた家庭は大変である。特に、子供と別居している一人暮らしの親を、共稼ぎをしている子供世帯で引き取ることは困難極まる。必然、施設に頼ることになるが施設は満杯だ。有料老人ホームは空いているが入居料が高くて入れられない。結果として、病院への長期入院や老人保健施設への短期入所の綱渡りで凌ぐしかない。

政治家もマスコミも、もっと特別養護老人ホームの整備を促進せよとの大合唱である。特に、政治家は住民の要望には反対できない。

ところが、施設サービスはものすごく高くつく。介護保険財政は公費負担と介護保険料で賄っているが、いきおい保険料をアップせざるを得ない。今でさえ、月額5,000円も6,000円も払っているのに、もっと払えとは何事だとくる。
 そして、老人の八割の人たちは、実は介護サービスを受けていない元気老人の人たちなのだ。

本来、保険とは共助のシステムであり、要介護になってしまったときのために、みんなで支えあう制度であるが、あまりの急激な高齢化の進展によって制度が破たん寸前となっている。
 国は、社会保障支出を抑えるため、在宅介護をメインに地域包括ケアシステムの構築を進めよと号令をかけている。介護を支える資源は、地域によって極端にアンバランスである。医師不足が深刻な中山間地域にとって、24時間在宅看護や在宅診療など望むべくもない。全国一律の制度はもはや維持できないのではないか。

自助、共助の機能を復活させるのは至難の業である。要介護に陥らないよう予防に努めることは勿論のこと、地域が知恵を出し、地域の実情を踏まえた最低限の介護サービスが提供できるよう制度の柔軟な運用を認めること、法人税が非課税の社会福祉法人にはもっと積極的に社会貢献活動に乗り出すことを望みたい。

今後、ある程度の特別養護老人ホームの追加整備は不可欠であり、介護保険料のアップもやむを得ない。住民のニーズ調査を行い、議会に根回しをし、落としどころを提示するのが行政マンの役割である。どんなに非難されても決断するのは自治体の長である。それが本来の政治主導の意味ではないか。

 ※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません