2014.5.16
  「地域力を高めるミニ公募債とクラウドファンディングによる資金調達」

                                       主幹  植田 浩一


1 はじめに
 今さらデータを示すまでもなく本格的な人口減少と少子高齢化が迫ってきている。仮に相当数の企業が生産性を飛躍的に向上させ、付加価値の高い商品やサービスを提供し、従業員への賃金も引き上げるといったサプライサイドの効率化が図れたとしても、そもそも国内のデマンドサイドの絶対数が少なくなれば、グローバルな企業間競争が激化する現状を鑑みても我が国の税収が右肩上がりに向上していく未来を予想するのはなかなか難しい。
  とすると自治体が標準的に徴収する税収も減るわけで、特に、自治体が何か新しいことをするときに必要な財源の確保は厳しくなることが予想される。民でできることはできる限り民で行ったり、PFIのように公がアウトラインを描き民のノウハウや資金を使うという手もある(独立採算型PFI)が、役割分担からして公が整備しなければならない施設などは出てくる。

その際にお金がないという状況であれば何らかの方法で工面しなければならない。その方法は、そもそも別の歳出を減らすか、歳入を増やすしかなく、歳入を増やす方法としては、増税するか、借金をするか、手数料等を増やすしかない。増税など負担を増やすやり方は住民合意が得られにくいことから、従来は、借金をし借換を繰り返しながら長期間で返済するという方法をとってきた。税収が増える見込みがあるなら、あるいは経済拡大や物価上昇によりいつの間にか実質的な借金がなくなるような世の中が見通せるならこの方法は有りだとは思うが、一般的にいえば前述のとおり今後はこの方法は厳しい。

 ということで、残るは住民あるいは関係者が自らの地域あるいは古里などを良くしようという想いを実現してもらうよう、全国ベースで約1,600兆円ある個人金融資産などから任意にお金を出してもらう方法が一つの有効な手段として考えられる。

 自治体における金融手法を活用した資金調達手段としては様々な手法が考えられるが、本稿では、平成13年度から行われているミニ公募債と最近注目されているクラウドファンディングを活用した資金調達について、現状と課題、その効果、今後の方向性などについて考えてみたい。

2 ミニ公募債(住民参加型市場公募債)とは
 ミニ公募債とは、自治体が地域住民や法人を対象に発行する地方債であり、例えば、平成26年5月29日に発行される予定の「第3回ふくしま復興県民債」の発行概要・条件は以下のとおりである。

○発行総額:40億円
○購入できる方:県内在住または勤務の個人、本県出身の個人(原則、本人が窓口に来店できる方)、県内に営業拠点がある法人・団体等
○対象事業:県立学校の改築や社会福祉施設の整備をはじめ、ふくしまの復興に向けた事業を中心に活用
○償還年限:5年
○利  率:5月15日発行予定の5年物利付国債を参考に決定
○購入限度額:10万円から10万円単位で2,000万円まで

ところで、平成26年4月19日付け日本経済新聞朝刊によると、ミニ公募債の発行が落ち込んでおり、全国における今年度の発行予定は66自治体、約1,600億円となる見通しという。
 一般財団法人地方債協会のホームページから過去の実績をみると、ミニ公募債は平成13年度群馬県「愛県債」の10億円からはじまり、平成18年度に121の自治体が約3,500億円を調達したのをピークに、年々調達額が減少してきている。平成25年度は79自治体が約1,864億円の調達にとどまっている。
  これは、やはり長期的にみると、調達する自治体や引受・販売する銀行等からみれば費用対効果(通常、市場公募債は200億円のロットが必要といわれる)、購入する住民等からみれば金融商品としての魅力という点で、他の手法や商品と比べて劣後してしまうことが調達額が右肩下がりとなっている大きな要因だとは思う。

 ちなみに福島県内では、福島県が平成15年度に「うつくしま県民債」として20億円調達したのを皮切りに、平成16年度から平成18年度まで30億円、平成19年度からは平成23年度を除き毎年40億円を調達している(平成24年度からは「ふくしま復興県民債」と名称変更)。使い道としては施設整備関連が大半だが、例えば平成25年度は、被災した中小企業の支援や県立学校の耐震化促進等、災害からの復興に向けた事業を対象としている。
 県内の自治体でも、伊達市が平成21年度から平成23年度を除き、学校施設整備事業、道路新設改良事業などのため毎年2億円づつ調達しているし、平成16年度には旧原町市(現南相馬市)が市民アクセス網整備事業のため1億円、平成20年度には福島市が新庁舎の整備費用のため5億円、平成19年度には飯舘村が中学校のバス購入のため1千万円調達した実績がある。

 さて、全国的には調達額が減少してきてはいるが、ミニ公募債については、単なる個人の資金運用あるいは自治体の資金調達にとどまらず、使い道が明示されている事業に直接お金を拠出することで個人の地域への想いを高める効果や住民の行政へのガバナンス強化、さらには本格的な地方分権への試金石という意味合いもあると考えられる。
 つまりは、ソーシャル・キャピタル(SC)向上に資する取組みという側面もある。なお、SCについては以下を参照されたい。

ソーシャル・キャピタル(SC)とは、社会関係資本と訳され、稲葉教授によると、「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」と定義されている。ここで外部性とは、個人や企業などの経済主体の行動が市場を通じないで影響を与えることを指す。
 これだけだとちょっとわかりにくいので、SCを筆者なりにざっくりと噛み砕いて表現すると、「社会における(良い意味での)共通の認識や想い」といったところだと思う。具体的には、漠然とした人と人との信頼感や生まれ故郷に対する想い、地域コミュニティ内でのお互いを思いやる気持ち等もSCの一種と解釈できる。
 したがって、例えば、ある地域のSCが強くなればなるほど地域を良くしていこうという想いが醸成され、地域活性化につながっていくと考えられる。

*平成25731日付け「地域の絆とソーシャル・キャピタルについて」小生コラム(http://www.f-jichiken.or.jp/column/130/ueda130.html)より抜粋。

3 クラウドファンディングとは
  一方、クラウドファンディングとは、端的に述べると、一般に、不特定多数の人に対し、インターネットで仲介業者を通じ少額の資金を募り、そのお金で特定の事業を行うというものである。その種類は提供資金のその見返りによって、文字通りの「寄付型」、利益から分配金を出すような「投資型」、資金提供の対価としてモノを買う形の「購入型」に類型される。

 平成26年3月24日付け日本経済新聞朝刊によると、神奈川県鎌倉市ではクラウドファンディングで調達した100万円を使い観光案内板10基の設置を進めているという。不特定多数から資金を集めるクラウドファンディングは、明確な対価を用意しない限り行政の収支では寄付金として扱える。2011年の地方自治法施行令の改正により、自治体が寄付金の徴収などを第三者に委託できることになったことで活用の道が開け、鎌倉市でも実際の募集は仲介団体に委託しているという。
  また、北海道夕張市では地域づくりを担う個人や団体にクラウドファンディングの利用を促し、市内のサッカー協会など2団体が活用し、サッカー協会では老朽化したサッカーゴールを新調するため、約150万円の資金調達に成功したという。
  さらに、新潟県三条市が支援する市民グループも、昨年秋に開催した音楽イベントの関連費用の一部をクラウドファンディングで調達し、支援者に手ぬぐいなどのイベントグッズを送る取組みはじめたところ、目標の15万円を超える金額が集まったという。
  なお、県内の浜通りのある地域では、原発事故後、民間団体が子どもたちを無用な被ばくから守り安心安全な環境で遊ばせるための施設整備のため、クラウドファンディングを活用して全国から資金を集める取組みを行っている例もある。
  いずれにしても、ミニ公募債とは毛色が異なるが、同じ目的(想い)のためにお金を出し合うことから、こちらもSCの一類型だと解釈できよう。

4 ミニ公募債とクラウドファンディングによる資金調達の比較
  以上のようなミニ公募債とクラウドファンディングによる資金調達の特徴を下表にまとめた。
 もちろん地域の民間団体などが、クラウドファンディングを活用してより公共性の高い施設を整備するという可能性も考えられるが、上記のクラウドファンディング3類型いずれによっても大規模な施設や設備を整備するにしたがって達成するリスクが高くなることが想定されお金が集まらない可能性も高くなることから、現実的には少額の事業が選択されることが多くなると思われるため以下のように整理した。

 <ミニ公募債とクラウドファンディングによる資金調達の特徴>

手法

項目

ミニ公募債

クラウドファンディング

調達主体

自治体

地域の民間団体など

調達目的

公共施設整備など

身近な施設・設備整備

調達範囲

地域住民など

制限なし

調達金額

億円単位

百万円単位

拠出金としての性格

債務型

寄付型、投資型、購入型

SC上の類型

結束型(ボンディング)

橋渡し型(ブリッジング)

ところで、SCについてもう少し解説を加えると、その類型には、結束型(ボンディング)と橋渡し型(ブリッジング)がある。
  結束型(ボンディング)とは、同じバックグランドを持つもの同士のネットワークで、地縁・血縁組織、同窓会などが具体的な例であり、同じ地域の住民というのもその一種だといえる。ミニ公募債によって特定の地域内から資金調達するのは結束型SCの向上につながる。
  他方の橋渡し型(ブリッジング)とは、異なるバックグランドを持つもの同士のネットワークであり、特定の目的をもったNPOなどが具体的な例である。例えば、被災地支援のための事業という共通の目的(想い)に共感しクラウドファンディングを通じお金を出すのもこの一種であり、橋渡し型SCの向上につながる。

 したがって調達金額の多寡に関わらず両手法による資金調達は地域への想いを高め地域力を向上させるためにも重要な手法といえる。

 ここで両手法を活用する金融的側面からのメリット、デメリットについても言及しておきたい。
  ミニ公募債はいうまでもなく地方債であることから、暗黙の政府保証のもと国債と同等の安全性がある(BISの自己資本比率基準上も国債と同じくリスク・ウェイト0%)と同時に国債よりも利率が良いという金融商品上のメリットがある。
  他方デメリットとしては、先に述べた「費用対効果」以外にも、例えば、購入額に上限を設けている点だとか、国債に比べて流動性が低いという点、購入者を地域住民等に限っている点などであり、これらの点についてはまさに商品特性そのものであり、数多くの地域住民に購入してもらって地域への想いを高めてもらうこととコインの裏表の関係となる。今後はこういった条件を一部緩めていかざるを得ないのかもしれない。
  加えて、昨今の株価上昇局面では金融商品としてはどうしても魅力が劣ってしまうこと、毎年発行だとどうしても年ごとの新規の資金の出し手が必要であり地域における資金の出し手のパイが満杯になってしまう可能性もある。

 一方でクラウドファンディングについては、機動的に資金調達できるという大きなメリットがある反面、デメリットとしては前述のとおり大規模な施設・設備整備には活用しづらいという点や仲介業者に調達額の2割程度の手数料を払うことになることから、より少額であれば町内会やPTAで寄付を募ったほうが良い場合も出てくると考えられる。

 以上のようなメリット、デメリットも考えられるが、私は今後ともミニ公募債の取り組みは地域住民のガバナンス強化や自治意識向上とともに地域のSC向上の観点からも、自治体ごと使い道を明確にするとともに引受機関や投資家のニーズをできるだけ反映させた上で続けていくことが有用だと考える。

 また、クラウドファンディングについては取り組みがまだ緒についたばかりであるが、上記のような自治体が関わらなくても公的な取り組みを住民や民間企業が独自に行うためのツール、言うなれば「PPP(Public-Private Partnership)による新しい公共」のための資金調達手段として非常に有望だと考える。

5 おわりに
 ミニ公募債とクラウドファンディングのいずれにしても、住民税などで払う税金よりも使い道が明確になっている分、資金の出し手にとっては、出しがいのあるお金である。
  繰り返しになるがその共通の特徴としては、一言でいえば「ボランタリーな資金」という点である。金融商品的側面から見れば利回り、信用力、流動性などで魅力的な商品は他に数限りなくあるが、お金の受け手・出し手の両方から見て、単なるお金の問題ではなく「地域力」を高めるツールという点で共通しており自治体として継続して行っていきたい。
  とりわけクラウドファンディングは、例えば、東日本大震災と原発事故により甚大な被害を受けた本県にボランティアに来たくてもなかなか来れない人との橋渡し型SCを高める効果も期待できることから、先の事例なども参考にしながら県内の自治体や関係団体などでも導入を検討したらどうだろうか。
  今後、両手法の更なる普及に向けた制度的環境が整備されることを期待したい。


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません