1 はじめに
今後加速する人口減少、少子高齢化時代を見据えても、民間のお金やノウハウを活用したり、官民が協働で得意分野をシェアしながら公共施設等を整備・運営するような取り組みがより重要性を増してくる。
先に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2014」(いわゆる骨太の方針、平成26年6月24日閣議決定)においても民間能力の活用等をうたい、「できるだけ税財源によらず効果的・効率的なインフラ整備・運営を可能とするため、集中強化期間や数値目標を設定し(コンセッション方式については今後3年間で2~3兆円)、その実現に向けて国・地方が連携して取り組むことで、「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン(平成25年6月6日民間資金等活用事業推進会議決定)の実行を加速する。」と明記している。
筆者は、昨年7月10日の本コラム欄(「再び注目を集めるPFIと福島復興へのその活用について」http://www.f-jichiken.or.jp/column/127/ueda127.html)において当時のPFI(Private Finance
Initiative)の状況を紹介したが、その後さらに具体的な動きが進んできていることから、本コラムではその内容を紹介するとともに、来る超高齢化社会に向けREIT(リート Real Estate Invest Trust)という器を使い民間資金で介護施設や介護付きマンションなどを設置・運営するスキームであるヘルスケアリート第一号が今年中にも上場される予定であるため、福島県内でのこれら各施策の実行もしくは導入機運が盛り上がることを期待し、その内容を紹介することとしたい。
2 新たなPFIをめぐる動き
(1)PFI実施プロセスに関するガイドライン(以下「ガイドライン」)の改正
昨年のコラムにも書いたように平成25年度にはPFIの導入促進のため法改正を含めさまざまな取り組みが行われたが、それに加え平成26年6月16日には、ガイドラインの改正が行われた。この主たる目的は、PFIの導入を促進するため手続きを簡易化することである。比較的事業フローが標準化されている「サービス購入型事業」による施設整備の比重の大きい学校等、維持管理・運営業務の内容が定型的な公営住宅・事務庁舎等を対象に自治体の事務を簡素化することで、標準的な手続きにかかる時間を50ヶ月程度から32ヶ月程度にしようというものである。 期間短縮のポイントはいくつかあろうが、そのキモは、これまでの通常のPFIの標準的なフローが、①基本構想の策定→②基本方針の策定→③導入可能性調査(Feasibility Study:FS調査)の実施であったものを、上記のケースについては、過去のPFI実績におけるVFM(Value For Money)の実績等を用いることにより客観的な評価が可能であることから、導入可能性調査によるVFMの算定に過大な労力をかけずに進めるところにある。対象は限定されるが、これは従来コンサルタントに委託していたFS調査を自治体自らが算定することで期間短縮のみならずコスト削減にもつながるところである。
(2)民間資金等活用事業推進機構(以下、「機構」)の設立
機構は、改正PFI法に基づき、官民出資(官100億円、民100億円。民間企業は本県の東邦銀行を含め70社が資金拠出。)で平成25年10月7日に設立された。設立の趣旨は、独立採算型PFIを普及させるため、SPC(特別目的会社Special Purpose Company)にリスクマネー(優先株の取得、劣後債の取得)を拠出することである。
従来は、コンソーシアムに参加する民間金融機関は大手がメインだったところを、機構とともに地方銀行にも出資してもらうことで、地方銀行にPFI案件への出融資のノウハウを学んでもらう趣旨だと理解できる。独立採算型PFIは、基本的に施設利用者からの利用料を収益のメインに、民間提案の付帯施設のほかにレストラン、売店等公共施設に附随する利便施設からの収益も含め全体でVFMが出るかどうかが実行のポイントとなるため、それらも含め目利き力を高める必要があるからである。
なお、機構の活用を促進するよう、平成26年6月27日には内閣府から「平成26年4月25日に実施方針が公表された「仙台空港特定運営事業」は機構の支援対象となります。」と敢えて固有名を出してのリリースも出されている。
(3)コンセッション方式PFIの進展
平成25年7月25日に「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律」(民活空港運営法)が施行され、同年11月1日には「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する基本方針」が告示された。
これは、グローバル化の進展による国際的な競争を勝ち抜く上で空港は重要なインフラである一方で、人口減少・少子高齢化が一層進展する中、更なる効率的な空港運営が求められており、「整備」から「運営」へと空港政策を管理していく必要があるとの考えのもと、空港の持つ役割を最大限発揮させるため、空港経営に民間の知恵と資金を導入する必要があるという趣旨によるものである。
この民活空港運営法に基づく空港におけるコンセッション方式PFIの第1号案件として、仙台空港の取り組みが進められている。平成26年4月25日には「仙台空港特定運営事業等実施方針」が公表され、同年6月27日には「仙台空港特定運営事業等募集要項」が公表された。国土交通省のプレスリリースによると、第一次審査、第二次審査を経て平成27年8月頃には優先交渉権者の選定が行われ、同年11月頃には運営権の設定・実施契約を締結し、平成28年3月下旬には運営が開始される予定とのことである。
民活空港運営法では、第2条第6項において、民間事業者による空港の運営管理事業が規定されている。①空港の運営等であって、着陸料等を自らの収入として収受するもの、②空港航空保安施設の運営等であって、使用料金を自らの収入として収受するもの、③騒音対策、その他の周辺対策のために行う事業、④①~③の事業に附帯する事業である。より具体的には実施方針に定められる。
参考までに、仙台空港の実施方針における「本事業の対象施設」をみてみると以下のとおりとなる。
① 空港基本施設(滑走路、着陸帯、誘導路、エプロン等)
② 空港航空保安施設(航空灯火施設)
③ 旅客ビル施設(税関、出入国管理、検疫に関する施設(以下「CIQ施設」という。)を除く航空旅客取扱施設、事務所及び店舗並びにこれらの施設に類する施設及び休憩施設、送迎施設、見学施設等)
④ 貨物ビル施設(CIQ施設を除く航空貨物取扱施設等)
⑤ 道路(空港用地内の地下を通過する宮城県道10号線を除く。)
⑥ 駐車場施設
⑦ 空港用地
⑧ 上記各施設に附帯する施設(土木施設、建築物(消防庁舎を含む。)、機械施設、電気施設(電源局舎を含む。)等)
⑨ ①から⑧まで以外に運営権者又は運営権者子会社等が所有する施設
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出所:「仙台空港特定運営事業等実施方針」(平成26年4月25日 国土交通省空港局)
以上のような前提条件の中で、民間は知恵を絞り利益をあげていかなければならないのである。一般的に諸外国の空港より高いと言われている着陸料を下げることでLCCがたくさん運行されトータルでの着陸料収入を増やすとか、魅力あるショッピングモールやホテル、アミューズメント施設等が集積することでその集積効果によりテナント収入が増えるとか、さらには運行数が増え人も増えることでテナント等の数も増え、もって収入も増えるという相乗効果も期待できる。
仙台空港の場合は、事業期間は当初30年以内。1回に限って、さらに30年以内の延長を認められる。不可抗力で生じた費用回収などのための期間延長も含め最長は65年間とされ、この期間の中で民間は儲けを出すための努力を続けるのである。
なお、平成26年6月29日付け日本経済新聞朝刊によると、「関西国際空港・大阪国際(伊丹)空港の事業運営権の売却に向けた入札条件が明らかになった。両空港を運営する新関西国際空港会社に対し、原則として運営期間の45年間、毎年488億円以上を支払う。総額は最低でも約2兆2千億円となり、同社はこの収入で約1兆2千億円の債務と金利負担を完済し、平成28年2月に民間運営に移る。」とのこと。さらに「実施方針を7月に、10月頃に募集要項を公表し、入札後、平成27年はじめから審査を始め、夏頃に売却先を決める」とのこと。こちらもコンセッション方式PFIが進む。
3 ヘルスケアリート
リート(REIT)とは、端的に述べると、上場する投資法人が、投資家からお金を集めた上で(投資口、投資法人債)、オフィスやマンション、物流施設や老人ホームなどの不動産を複数購入しプーリングしたうえ、それら施設の管理、運営等を関連会社が行いながら、利用者から賃貸料を徴収し、賃貸料からの利益を原資とし分配金を投資家に配分する(利益の90%以上配分することで法人税が免除となる)というスキームの一種の不動産投資ファンド(器)である。
<リートの基本的なスキーム>
 出所:一般社団法人投資信託協会ホームページ
ほぼ全部の利益を投資家に配分することから、比較的安定的なインカムゲインが得られるということで人気のある金融商品である。初めての投資法人の上場があった平成13年当初は6%程度のキャップレート(利回り)が期待できる商品として注目された。現在は落ち着いてきているが、一般に3~4%程度の利回りが期待できるミドルリスクミドルリターンの商品として定着している。ちなみに平成26年7月10日現在、46の投資法人が上場している。 リートは運用資産をどう組み入れるかによって様々な性格を持つことになる。「事業所主体型」、「商業施設主体型」、「住居主体型」といったものの他、最近は、ネット環境の普及によりネット通販で購入した商品を速やかに消費者に届けるための各地の物流施設を運用施設とする「物流施設主体型」も増えてきている。もちろん、事業所や商業施設などを様々な割合で組み込む「総合型」もある。
そんな中、超高齢化の時代のニーズに沿うように、官民一体で「ヘルスケアリート」創設に向けた環境整備を進めている。平成26年2月国土交通省が公表した「ヘルスケアリートの活用に係るガイドライン素案」(報道によると7月にも本案が公表される予定)によると、ヘルスケア施設とは、いわゆる「サービス付き高齢者向け住宅」、いわゆる「老人ホーム」をはじめとした施設で、病院も平成26年度に別途検討を行った上で、留意すべき事項をとりまとめ、本稿を補完又は別途提示する予定とのこと。
ちなみに、平成25年10月3日付け日本経済新聞などによると「三井住友銀行が平成27年度3月をメドにヘルスケアリート(資産規模当初200億円)を上場する方針」という。また、平成26年3月28日付け日本経済新聞によると、「大和証券グループ本社傘下の大和リアル・エステート・アセット・マネジメントは28日、有料老人ホームなどに投資する不動産投資信託(REIT) 「日本ヘルスケア投資法人」の運用を始めたと発表した。」との報道もあるし、平成26年4月28日付け日本経済新聞にも「新生銀行や不動産ファンド運用のケネディクスなど6社は資産規模1千億円のREITを年内メドに立ち上げ、早期上場を目指す。」との報道がある。
株式会社三井住友トラスト基礎研究所の平成25年4月15日レポートによると、リートの先進国であるアメリカでは、エクイティリートのうち13%がヘルスケアとなっており、住宅の14%とほぼ同程度の規模とのことである。一方、同時期の日本のリート市場に占める割合はわずか0.4%となっており、しかもヘルスケア専門のリートはまだ上場していない。このことからも民間が商機とばかりに競っている状況が理解できる(ただし、「専門」ではなく、保有資産に、「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」を組み込むリートは6つ、メディカルモールなどの病院施設を組み込むものも含めると9つのリートが存在する)。
市場でヘルスケアリートに関し懸念材料とされている点は、端的に言えば現在稼働している「介護付き有料老人ホーム」は、1つ1つの施設から得られるキャッシュフローが、従来の運用資産に比べれば少額であるものも多いと予想されることから、いかに優良物件を数多く集めるかという点につきる。
その他にも、つまるところ介護保険料がキャッシュフローの源泉のため、法制度改正のリスクがあることや、施設が破綻しても入居者を放り出すわけにはいかないという点も課題と考えられる。
こういった様々な課題やリスクはあるが、これから超高齢化社会に突入するとともに国・自治体の財政も限界にきている状況下で民間の資金を使って公的な施設を整備・運営・管理するヘルスケアリートの拡がりは注目に値する。
なお、筆者が10年来主張していることだが、ヘルスケアリートに限らず、リートという器を公的施設の整備・管理・運営に活用することは可能なはずである。要はキャッシュフローが多く出る施設なのかであり、単体で出なければ多くの施設を組み込んで分散投資すればよいのである。そう考えれば自治体本体や外郭団体、関係団体が所有する公的施設にも対象施設は出てくるはずである。このあたりはまた別の機会に論じることとしたい。
ところで、余談ではあるが、私はリート所有でその関連会社が管理・運営するビルで働いたことがある。当センター政策支援部の前身であるシンクタンクふくしまが入居していた福島駅前の某オフィスビルである。 その時のエピソードであるが、結構な企業が入居するそのビルは、特に朝夕の出社・退社の時間帯はエレベーターが混雑しており、エレベーターの乗り降りの際に人がぶつかることがよくあった。それを誰がビル管理者等に報告したのか定かではないが、何度かそういうことが起き筆者が「危ないなあ」と感じた日からさほど間をおくことなく、エレベーター出入口のところの壁に、人の出入りが見えるよう「鏡」が取り付けられてあったのである。あまりの素早い対応というかタイミングの良さに驚いた記憶がある。
もう一つ、トイレも私がそのビルで勤務しはじめたころはごく普通の水洗トイレだったが、いつの間にかおしりを洗浄するものに変更されていたのである。当時はビルが建ってから6~7年程度でありトイレが古くなっていたわけではなく、当初の水洗トイレでまったく不便もなかったのだが、おそらく入居する企業からオーダーが出たのだと思う。
上記の例を見ればわかるとおり、危機管理や顧客のニーズへの速やかな対応という意味で民間企業の対応力をみた気がした(もちろん、サービス向上は入居料に跳ね返っているはずではあるが。)。プロパティマネジマント(PM)やファシリティマネジメント(FM)の専門家に任せればサービスが向上し、ビルそのものの価値も向上するのである。
4 福島県内への導入可能性
PFIについては、上述したように昨年のコラムを書いていた時以上に、PFIを実施する環境が従来の相談面だけでなく、肝心のお金の面(機構)からも整備されてきた。機構からのリスクマネーの提供(お墨付き)を受けられるのであれば自治体は住民への説明もしやすいのではないか。
ただ昨年のコラムでも書いたように、福島県内での独立採算型PFIは、人の集積が期待できる地域がほとんどないため、なかなか難しいかもしれない。
前述のとおりサービス購入型(現時点で県内唯一のPFI事業である「いわき芸術文化交流館アリオス」はサービス購入型)で実施する場合であれば事務が簡素化され、より手が付けやすくなったことから、対象施設がある場合は前向きに検討しても良いのではないだろうか。
一方、ヘルスケアリートについては大いに可能性がある。高齢化が進む福島県内で老人ホームの数が不足しているような地域ではヘルスケアリートの運用対象とする施設を建設してもらうよう、当該自治体は関係企業(老人ホーム等の事業者、金融機関、デベロッパーなど)に営業をかけることも必要ではないか。 もちろん、当該自治体が老人ホームの建設に公有地を無償提供したり、一部建設の助成金を出したりすることで当該企業(投資法人に売却する前のオリジネーター)が老人ホームなどを建設しやすくなることはいうまでもない。 課題としては、当該自治体と関係企業とを結びつけるコーディネーター役がいないことだと思う。本格的な事業推進のためにはリートを組成した経験のある専門家を県などで確保すべきではないだろうか。
5 おわりに
ただでさえ人口減少や少子高齢化の進展により生産年齢人口が少なくなる中で、約1,600兆円もの個人金融資産が動かなかったり、貸与先がない銀行が多額の資金を国債に投資し資金が滞留する状況が今後も続けば、日本経済が停滞する大きな要因の一つとなる可能性がある。
一方で地域では高齢者施設が不足しているような話も聞く。ヘルスケアリートは、地域にとっても困りごとが解消されるだけでなく、当該企業にとっても投資法人への売却金が入ることでさらなる事業拡大も可能であるし、投資家にとっても新たな投資機会が増えるし、なにより地域に貢献する価値ある事業にお金が回ることで日本経済全体の活性化にもつながる。三方にも四方にも一両得になるのだ。
これからの時代は従来以上に民間のノウハウや資金を使って官民協働で地域経営を進めていく必要がある。本コラムで紹介したPFIやリート、紹介しきれなかったがPPP(Public Private Partnership)の仕組みなどをどう使いこなすかで今後の地域活性化の度合いが大きく変わってくる可能性がある。
本源的には、こういった仕組みをより深く理解し民間と同じ目線で議論するためにも、各自治体における経済・金融・財務会計等のエキスパートの育成が急務だと考える。
(主要参考文献) ○「ヘルスケアリートの活用に係るガイドライン素案」(平成26年2月 国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課) ○「仙台空港特定運営事業等実施方針」(平成26年4月 国土交通省航空局) ○「海外のヘルスケアREIT概観~日本版ヘルスケアREITの創設に向けて(平成25年4月 株式会社三井住友トラスト基礎研究所)
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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