2014.8.6
  「BIDによる官民協働のまちづくり」

                                       主幹  植田 浩一

1 はじめに
  今後の人口減少、少子高齢化の進展とそれに伴う官側の財政の厳しさを見据えれば、民側の資金・ノウハウ・パワーなどをいかに活用するかが重要になってくる。一方、行政任せではなく地域のステークホルダーがより主体的に地域づくり・まちづくりに参加することが地域の元気の源につながってくることについては論を待たない。
  こういった背景からも官民協働のスキームであるPPP/PFIの導入を国・政府を挙げて後押ししようとしており、その一部内容は本コラム欄でも紹介してきた。(例えば、2014717日付け本コラム欄「PFIをめぐる新たな動きとヘルスケアリートについて」)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/167/ueda167.html

本コラムでは、717日付けコラムで紹介仕切れなかった、PPPの取り組みの一つといえるBIDBusiness Improvement District、ビジネス活性化地区)について、大阪市が今年の4月に日本版BID制度といえる「大阪市エリアマネジメント活動促進条例」を施行したことから、その内容を紹介するとともに福島県内への導入の可能性について考えてみたい。

2 BIDについて

BID とは、中心市街地活性化等に活用されるエリアマネジメント(注1)ツールの一つで、先進地であるアメリカの制度をもとに端的に述べると、民間のエリアマネジメント団体等が一定(BID)地域内で事業を行うよう自ら手を挙げ政府に認められた(注2)上で、地域内の一定の資産所有者等の同意(注3)のもと事業資金を税金として課し、そのお金をもとに地区の発展に資する公的な事業を行うというものである。
(注1)国土交通省土地・水資源局によると、エリアマネジメントとは「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」とのこと。より具体的には、①一定のエリアで、②取り組みが持続的で、③ハードからソフトまでの整備と維持管理を行う、④組織的な活動を指す。
(注2)アメリカでは州法により準地方公共団体と位置付けられる。徴税権あり。
(注3BID設立の条件として、アメリカでは地区内における課税対象不動産の総評価額に対して、1/2~1/3の不動産所有者の賛同を求める州が多い。

一般的には、都市の中心市街地など都市機能や商業集積が高く、もって相当程度地価が高い地域において、以下のような活動を行っている。

 ①地区内の清掃や治安維持等のメンテナンス
②イベント実施、コミュニティバスの運行等の地域振興事業
③土地利用調整、デザインコントロール等、地域内の調整
④データ整備、テナント誘致などのマーケティング
⑤政策提言活動                        

出所:「アメリカにおける中心市街地を巡る“まちづくり”-BID-を中心に」
(法政大学 教授 保井 美樹)

アメリカでのBID 導入の背景には、都心部からの商業・住宅機能の移転、財政状況の悪化による行政サービス水準等の低下の中で、治安問題や中心市街地空洞化の深刻化があったようだ。

ちなみに、日本でもエリアマネジメントを行っている地域は多いが、BID的に地区内の地権者が組織をつくり、お互いに負担金を出し合って事業を行っている本格的なケースはそれほど多くない(下記参考)。
  アメリカでは自治体が相対的に必要最小限の施策しか行わず、さらに上のサービスを求める場合はBIDの導入などで自分達でまちづくりを行わなければならないが、日本の場合も本格的に行っている地域は、プレミアム的なまちづくりを行っているところばかりであり、まちのブランド化や地価の上昇につながるような副次的な効果がなければなかなか動きにくいのが進まない理由と思われる。

(参考)日本におけるBID的な再開発型エリアマネジメント

地区(所在地)

組織(構成員)

面積

予算規模

汐留地区
(東京都港区)

中間法人汐留シオサイト・タウンマネジメント(地権者)

31ha

5億円(公共施設管理者からの助成金を含む)

横浜みなとみらい21(横浜市西区)

() 横浜みなとみらい21(地権者)

186ha

10億円(公共施設管理者からの助成金9億円を含む)

大阪ビジネスパーク(大阪市中央区)

OBP開発協議会(地権者)

26ha

40004500万円(地権者の負担のみ)

出所:都市開発事業における効果的なPPP手法の検討委員会報告書(平成243月)

なお、規模は小さいが、例えば、商店街振興組合などが、道路管理者(例えば、市町村)などの同意のもと、組合員から負担金を出してもらって、当該区域の道路のカラー舗装をやるような場合も広義のエリアマネジメントと言える。ただ、従来の方法だと徴税権がないため、上記の例では組合員のうち反対者が出れば、その者からは負担金が徴収できないことになり、いわゆるフリーライダー(ただ乗り)が発生することになる。これだと、負担金が集まらないだけでなく、協力した人のモチベーションを下げ、払わなくてもいいんだということになり、結局は事業が持続可能でなくなってしまう。
  従来のエリアマネジメントにはこういった課題があったが、それを払拭するため大阪市では条例化に踏み切ったと思われる。

3 大阪市エリアマネジメント活動促進条例(以下「条例」)の概要
 
以下に、特に条例のポイントとなる部分を抜粋・要約し記載する。

目的:第1条)

○エリアマネジメント活動(市民、事業者、土地又は建物の所有者等(市民等)による主体的なまちづくりの推進を図る活動)に関する計画の認定、当該計画の実施に要する費用の交付等に関する事項を定めることにより、市民等の発意と創意工夫を活かした質の高い公共的空間の創出及び維持発展を促進し、もって都市の魅力の向上に資することを目的とする。

                            

地区運営計画の認定:第2条)

○都市再生特別措置法(法)第72条の5に規定する認定都市利便増進協定に基づき、協定の目的となる都市利便増進施設(法46条第13項)の一体的な整備又は管理を行おうとする都市整備推進法人(法73条第1項、エリアマネジメント団体。当面は一般社団法人)は、地区運営計画を市長に提出し認定を申請することができる。

○ただし、「都市計画法第12条の41号の地区計画」においてエリアマネジメント活動を実施することが、当該区域の整備、開発及び保全に関する方針として定められている場合に限る。

○整備等実施期間は原則5年を超えないものとする(延長規定あり)。

○市長は、地区運営計画の申請があったときは、都市計画法上の地区計画、当該認定都市利便増進協定の内容や期限、都市利便増進施設の一体的な整備又は管理が公共性の高いものであるとともに都市機能の増進に寄与すると認められるなど、条例に規定する内容に適合する場合は認定する。

                            

年度計画の認定:第5条)

○エリアマネジメント団体は、認定地区運営計画に係る整備等実施期間の各年度ごとに年度計画を作成し市長に提出し認定を申請しなければならない。

                            

費用の交付等:第6条)

○市は、第5条の認定を受けたエリアマネジメント団体に対し、認定年度計画に基づき実施される都市利便増進施設の一体的な整備又は管理(認定整備等)に要する費用に相当する額を交付する。

○市は、交付に要する費用に充てるため、認定整備等の実施により利益を受ける者から、地方自治法第224条の規定による分担金を徴収する。

 以上のように、大阪市では都市再生特別措置法をはじめ既存の法体系をベースに、大阪版BID制度を創設したが、あくまでこれは暫定的な制度とのことである。
 我が国の法律上、上述したアメリカのようにエリアマネジメント団体本体に徴税権を付与できないため、より自主的かつ大規模に事業を行う際にはネックとなる可能性があることから、今後エリアマネジメント団体に徴税権を持たせるよう法改正すべきというスタンスである。
  加えて、BID団体への寄付金が所得税控除されないことや、公的事業以外に分担金を充てられないこと(そもそも公的事業とまちを活性化させるため団体独自に行う事業との境界線をきっちり分けることが難しいが)、現状では都市再生特別措置法を根拠法にしていることなども課題に挙げている。

本条例は「新たな公共」のあり方とその具体的な制度設計に一石を投じた条例とも言えることから、本条例の実績や運用上の課題、国の動きなども含め今後とも行方をウオッチしていきたいと考えている。

4 福島県への導入可能性
 
例えば中心市街地を特定エリアとすれば、エリアマネジメント自体は、既に中心市街地活性化基本計画を作成(改正前中心市街地活性化法ベースで11市14町27地区が策定済み)し、TMOや商工団体などが中心となって既に行っていると捉えることもできる。
 市町村によって事情は異なるとは思うが、TMOや商工団体など民間団体が中心でと言いながらも、どうしても行政主体、もしくは公的団体主体でまちづくりを考え、お金も負担してきた面があったように思う。

 一方、BID では、民間の自由な発想による主体的なまちづくりを地区内の地権者等が税という形で自ら直接的に負担しながら行うことから、その「本気度」が従来の手法とは全く異なることが予想される。もちろん、自治体のバックアップは相当程度受けようが、手を挙げたBID 団体は自ら地区内の画を描き、自ら主体的に行動することになる。
 大阪市の条例によれば、地区運営計画やその年度計画により行政に一定のチェックを受けながらも、民間団体は、大きな裁量のもと行政が徴収する安定的な財源により地区内の公的空間を活用した事業展開が可能になるのである。
 まさに官民一体となったまちづくりと言える。

 ただ、本県内で大阪市のような取り組みを行う場合、大きなネックとなるのは、やはり人の集積(にぎわい)が見込める地域があるかどうかという点である。地域内の資産から徴収する税金(分担金)をベースに地域内で事業を行うことから、仮に分担金だけでは赤字でBID団体の手出しがあったとしても相応の見返りがあるのなら手を挙げる団体も出てこようが、果たして県内にそういった地域があるのかどうかである。
 また、事業を行うに際しBID団体がもらう分担金で足りない分を自治体から補助金で手当するという手もあろうが、だったらこんな面倒な仕組みを作らなくても、自主的にまちづくり事業に協力する民間団体等に事業費の一定程度を補助金で手当したほうが手っ取り早いのではないかという意見もあろう。

結局BID制度は、デベロッパーのようなところが開発後の地価の値上がりやまちのブランド化を意図し、ぜひうちでやらせてくれという声があちこちからあがるような地域じゃないと難しいと思われる。

5 おわりに
 PFI(特に独立採算型)にしてもBIDにしても人の集積がないと民間は手を出しにくいとは思う。現状の本県はそうだが、発想を転換し今後県内でそういった拠点を作り出すことはできないだろうか。
  総務省はいわゆる「地方中枢拠点都市」や「定住自立圏構想」において、それぞれ想定する規模や役割は若干異なるが、地方や地域の中核的な都市に、経済の牽引役や都市機能の集中といった役割を求めているし、国土交通省が74日に公表した「国土のグランドデザイン2050」でも、「小さな拠点」として中山間地の町村のようなところでも生活に不便がでないよう配慮しつつも「高次地方都市連合」という名称で地方の拠点的都市に一定の機能を集中させるべき旨の報告書を出している。いずれも根本にあるのは、すぐに訪れる急激な人口減少と少子高齢化社会に向けた「選択と集中」「コンパクト&ネットワーク」といった我が国の新たなまちづくりへの示唆である。

 日本創世会議の「消滅可能性都市」の推計を待つまでもなく、国立社会保障人口問題研究所の推計によると、状況が変わらない限り本県は、高齢者数の増加も2025年ごろに頭打ちになり、子どもや総人口の数とともに2040年に向け減少が続くことになる。
 まちづくりは市町村が自ら考え実行するのが基本ではあるが、危機的な人口問題を背景に、本県でもそろそろ広域的にまちごとの役割分担を考え、高度ににぎわいが集積する地域と、里山で穏やかに暮らすような地域といったすみ分けを戦略的に考えていかなければならない時期に来ているのかもしれない。
  そのような姿になれば、高度ににぎわいが集積する地域を中心にBID の適用も視野にはいるのではないだろうか。

(参考文献)
○「アメリカにおける中心市街地を巡る“まちづくり”-BID-を中心に」(法政大学 教授 保井 美樹)
○都市開発事業における効果的なPPP手法の検討委員会報告書(平成243月 経済産業省)



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません