2011年3月11日に発生した東日本大震災および東京電力福島第一原発の事故(以下では震災等と省略)を背景とした福島県民の転出入(地域移動)や年齢構成の変化などについては、すでに本欄コラムで2回、取り上げた(注)。そこで本稿では、県勢や県民生活の変化という視点から、産業、経済、医療、教育などの幅広い分野について、関連統計指標を用いて少し調べてみた。
なお今回、取り上げた統計指標は文末に一覧表として示したが、福島県が発行している『一目でわかる福島県の指標』(年報)から、震災前データとして2012年版(一部はデータ年次の関係で2011年版も用いているが以下省略)、震災後のデータとして直近の2014年版を取り上げた。
表示方法としては、2012年版から2010年以前のデータを収録して、タテ(行)に福島県の全国順位順に並べてみた。たとえば、(土地)面積は全国3位であるため最上行にあり、他方、最下行には、同42位である(労働)有効求人倍率が並んでいる。
そして比較のために、その右側には2014年版データと、その間の変化(増減等)状況を矢印で示した。この矢印は、2012年版の各数値に対して、2014年版での変化を↑増加(上昇)、↓減少(低下)として表示しており、さらに比較的大きな変化が見られた指標については矢印2本を用いて強調して示した(シェア変化欄は上下1割以上、順位変化欄は同3ランク以上を対象とした)。
(2012年版指標からわかること)
まず、各指標のタテの並び順の全体を見ることで、福島県の特徴がよくわかる。
全体傾向としては、上位に農林水産業関連の指標が位置している。例えば水稲収穫量(全国4位)、耕地面積、林産物素材生産量(いずれも同7位)、農業産出額(同11位)などであり、これらから、やはり「福島は農業県」といわれている理由がわかりやすい。
また、人口面では、一世帯当たり人員(全国7位)、年少人口割合(同11位)も上位にあり、比較的大家族であったり、全人口に占める子どもの割合も全国平均より高いことがわかる。
一方、下位の方では、労働、医療、人口、教育関連の指標が、比較的多い。労働面では有効求人倍率(全国42位)、就職率(同31位)、医療面では医師数(同41位)、医療施設数(同36位)、人口面では人口密度(同39位)、婚姻率(同35位)、そして教育面では大学等進学率(同37位)などである。
これらの傾向については、県の面積が広いために人口密度が低くなり、農業就業者数が相対的に多いために大学等進学率が低くなっているのではないか、などの理由が推定できる。しかし、労働面や医療面の指標が低位に多いのは、福島県のウイークポイント(弱み)ともいえそうだ。
また、全国順位18~21位前後に位置している商業、工業、所得などの産業・経済関連指標は、全国シェアは1%半ばから2%台が多く、47都道府県の単純平均2.13%よりもおおむね下回っている。このような現象は大都市圏などの上位県にシェアが集中していることから生じており、したがって全国シェアはやや低くても、福島県の産業活動は総じて活発な方といえる。これは本県が首都圏に隣接し、新幹線や高速道路網にも恵まれ、かつ工場適地などになる広大な平坦地を持つという立地条件の良さなどに起因しているといえよう。
逆に、福島県が全国平均水準である100以上であっても、都道府県順位としては中位からやや下位となる23~31位程度になっている指標も比較的多い。たとえば労働分野の就職率は全国対比110.85であるのに全国31位、医療分野の病院病床数も同110.07であるのに同25位などであるが、これも都道府県間の格差が大きく、かつ上位に高い整備水準の県が多いために、全国順位としては下位に押し下げられている状況がある。したがって、これらの指標については、順位よりも全国水準との比較で判断したほうが、本県の実態を反映しているといえよう。
(2014版指標からわかること)
つぎに、震災後の変化をみるために、2014年版の各指標値と全国シェアおよび順位の変化(矢印表示)をみてみると、まず全体的に上向きの矢印(2014年版/2012年版対比)よりも、下向きの矢印の数の方が多いことに気がつく。このような傾向から、震災後に、福島県の県勢はやはり全国平均と比較して低下したとみることができる。
大きく順位が下がった項目としては、年少人口割合11位→28位、合計特殊出生率17位→33位、高等学校等進学率25位→34位、1人あたり県民所得21位→27位、農業産出額11位→17位、海面漁業漁獲量16位→22位、水稲収穫量4位→7位、医療施設数36位→39位、医師数41→44位などがある。
これらの傾向については総じて、地震、津波による被害と双葉地域を中心とした放射能汚染による影響などにより、農林水産業を中心に産業活動全体や所得面で大きなダメージを受け、また子どもたちを中心に県外に避難した住民らが多かった状況などから説明ができよう。
また、医療関係の各指標も、その実態をみると医療施設数、医師数に加え病院病床数(25位→26位)も、人口あたり整備水準が低下していることから、今後の改善が検討課題といえよう。さらに、もともと全国平均よりも高かった生活習慣病死亡者数が、13位→10位とさらに上昇していることも、避難生活者の増加などを踏まえると、理解できる現象となっている。
また、商業分野では、従業者数19位→21位、そして年間商品販売額も若干低下しているが(全国シェア0.85→0.77、ただし全国順位は変化なし)、これらの商業面での減少傾向については、被災地を中心とした人口(購買力)の減少、さらには風評被害による販売不振などの影響から推定できる。
以上に概観したように、震災等により、一時的にせよ県勢・県民生活全体が大きな影響を受けたことを読み取ることができる。
一方、大きく上昇した指標もあり、それらを列記してみると、有効求人倍率42位→4位、就職率31位→10位、1人あたり平均給与額 33位→15位、工場立地敷地面積10位→3位などである。これらの傾向からは、工業を中心に福島県経済全体に対して、復興交付金や各種補助金などのかたちで、強力に政策的にテコ入れした効果が読み取れる。とくに、有効求人倍率、就職率、1人あたり平均給与額などの大幅な改善は、震災後に急速に雇用環境が回復していることを反映しているとみられる。
さらに、歳入・歳出といった財政面でも、県普通会計歳入決算額15位→8位、県普通会計歳出決算額 15位→10位、1人あたり財政規模(県)26位→2位といった大きな変化がみられており、このような財政規模の拡大は、仮設住宅整備やガレキ処理対策あるいは除染等の放射線対策費など、今回の震災や原子力災害対応分が新たに予算化されたことが、大きく影響していると考えられる。
そして、離婚率の大幅な低下(17位→37位)と婚姻率の上昇(35位→28位)もみられているが、これらの動きは震災等を経験して、被災者らが心や生活の安定を求めた動きの一つとして、離婚率の低下ならびに婚姻率の上昇につながったと推定できる。
また、老年人口割合 23位→22位(全国水準は108.7→108.3とやや改善)、生産年齢人口割合 25位→23位はやや上昇しているが、これは年少人口割合の急激な減少を反映した結果とみられる。その意味では、やはり年少人口割合11位→28位、合計特殊出生率 17位→33位の大幅な低下は、今後の県勢に対して大きな懸念要因といえよう。
なお、工業面で、製造品出荷額等20位→22位、事業所数(全国シェア1.87→1.80)や従業者数(同シェア2.16→2.04)が若干低下しているが(全国順位は変化なし)、前述した工場立地敷地面積の増加を受けて、新設工場などでの生産活動が本格化すれば、早晩、これらの関連指標は好転していくことが予想される。
(まとめ)
震災等による人口、農産物の売り上げ減少など、個別の統計データは新聞などでも眼にすることは多いが、反面、復興政策による関連指標の改善効果などを併せて取りあげることは少ないのではないか。こうして総合的な観点から取りあげてみると、震災等による福島県への全体的な影響や今日の姿が再認識できるように思う。しかし、本稿でも全部で39指標という断片的な統計指標の比較検討であることから、より詳しく把握するためには、より多面的な視点からの検討が必要である。
おわりに、以上から福島県が直面している大きな懸念要因をまとめてみると、やはり福島県の主力産業である農林水産業を中心した県民の就労機会につながる産業面の回復、年少人口割合や合計特殊出生率の大幅な低下に象徴される子ども、若者を中心とした定住人口の回復、そして医師数や医療施設数といった医療環境の改善などが指摘できそうだ。
表 福島県と全国水準との比較一覧

1.シェア変化欄の矢印2本表示は上下1割以上、順位変化欄の矢印2本表示は上下3ランク以上の
変化を示した。
2.2012年版データのうち2011年版からの引用は*印で示した。
3.対全国シェア%・水準欄の()表示は、全国平均を100とした指数表示。
4,各統計データの調査年次などの詳細については下記資料を参照されたい。 資料:福島県「一目でわかる福島県の指標」2011年版、2012年版、2014年版
(注)本欄コラム2014年3月26日付「震災 後の福島県の人口変化」、同2014年5月14日付「震災後の福島県の人口変化(2)」を参照。 参考資料:福島県『一目でわかる福島県の指標』2011年版、2012年版、2014年版。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11045b/15840.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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