2014.7.9
  「日本で最も美しい県土をめざして」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦

 
  「日本で最も美しい村連合」というNPO組織がある。その活動目的は、フランスの最も美しい村運動を範として素朴な美しい村を厳選して紹介し、失ったら二度と取り戻せない日本の農山漁村の景観・文化を守りつつ、最も美しい村としての自立をめざす運動をはじめた、とのことである。
  「最も美しい村」とは、人の営みが生み出した美しさであり、その土地でなければ経験できない独自の景観や地域文化を持つ村のことである、としている(注1)。2013101日現在、全国で47町村7地域が加盟しており、福島県からも、2010年に、飯舘村、北塩原村、2012年に三島町の計3町村が登録されている。(上記した意味あいから、「最も美しい村」なのに多数あるのはおかしい、というツッコミはナシとしたい。)
  この団体に加盟するためには審査があり、その基準としては以下の要件が必要であり、さらに5年ごとに再審査してその品質維持をはかっている。

日本で最も美しい村連合に加盟するための条件

1.人口が概ね1万人以下であること
2.地域資源が2つ以上あること
 ①景観-生活の営みにより作られた景観(伝統的なまちなみや里山・里海)
 ②文化-昔ながらの祭りや芸能、郷土文化など
3.連合が評価する地域資源を生かす活動があること
 ①美しい景観に配慮したまちづくりを行っている
 ②住民による工夫した地域活動を行っている
 ③地域特有の工芸品や生活様式を頑なに守っている

資料:日本で最も美しい村連合ホームページ

なるほど、福島県のなかでも、上記した3町村は美しい村(町)というイメージは持たれているように思う。それぞれの自治体の宣伝文句によれば、地域資源として、飯舘村は前田集落の「までい」な生活文化、飯樋ふるさと芸能、三島町は雪国の手仕事を再生した生活工芸と日本一の会津桐、住民の暮らしに根付く民俗行事、そして北塩原村の場合は、裏磐梯・早稲沢地区の高原野菜畑が広がる農村景観、旧米澤街道沿いに眠る歴史資源と集落文化、を掲げている(注2)。
  たしかに、飯舘村のまでい(ていねいに手間をかけるとの意味)の文化、三島町の桐工芸や関連する生活文化、北塩原村の磐梯高原観光などは、広く県外にも知られているといえよう。(ただし飯舘村は、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染により全村が避難指示区域指定を受けており、現在は一部地域を除き日中の立ち入りが可能となった状況にある。)

しかし残念ながら、わが国において「日本で最も美しい村」の知名度は、かならずしも高いとは思われない。したがって加盟による観光振興効果なども、未知数といえるのではないか。国民からさらに強い関心や注目を浴びるためには、「日本で最も美しい村」のより一層の宣伝活動などに加えて、なにかもう一工夫が欲しい感じがする。
  本家のフランスの場合、「フランスで最も美しい村」は、2013年現在、157団体が登録しており、それなりの集客効果を上げている(注3)。日本の一般的な観光雑誌やツアー企画などでも、「フランスの小さな美しい村を訪ねる旅」などの形で、けっこう宣伝されていたりしている。

フランスでは、加えて「花の町・村」という地域コンクールの制度があり、地域を美しく花で飾ることで、集客効果などを上げている。これは、CNFF Comite national pour le fleurissement de la France :フランス全国花委員会 ) という団体が主催しており、「花のまちづくり」運動に熱心に取り組み、成果をあげた自治体や団体(コミューン)を評価している。
  その開催規則によれば、公園、庭園、建物、公的・私的空間の美化と花による緑化のため、また住民や観光客の受入れや滞在に適した環境を整えるために、地方自治体によって行われる諸活動を顕彰している。実際、緑化活動全体が、観光客の受入れのみでなく、住民の居住空間の美化や改善という見地からも評価される。河川、水質、周辺の樹林、広告物に関する規則の遵守、街路設備、活気など、全体的な環境の質が考慮に入れられる。最終評価においては植物環境を55%、生活環境を45%考慮している。(4)
  そしてCNFFの基準に従って審査に合格すると、「Ville Fleurie 花のまち」 または 「Village Fleuri 花の村」 という掲示板と花マークが付与される。この花マークは1つから最高4つで表示され、ちょうどミシュランがレストランに星をつけるのと同様に、花マークの数は花で飾られた美しい町や村であることを保証している。 すなわち当該自治体や団体(コンミューン)のステイタスとなっているわけだが、もちろん、次のコンクールで質が落ちていれば、花マークの数も減らされてしまう。
  このコンクールには、フランス国内に約3.6万ある自治体や団体(コンミューン)のうち、パリ市などを含めて約3分の1にあたる約1.2万団体が参加しており、そのうち約1500団体が「花のまち・むら」として認定されており、国民的関心事にもなっている。(5)

Les parterres de printemps 4
 資料:Le nid d’Akiko ホームページ

当該自治体や団体(コミューン)がこのコンクールに参加し花のまちづくりを目指す意義としては、以下の3つが指摘されている。
  観光産業および花卉園芸産業の発展という経済的効果
  花で溢れた美しく心地良い場所に観光客は魅きつけられ、花マークや全国グランプリの獲得がPRとなり、商店・ホテル・レストランなどが潤う。住民やコミューンが苗木・種や園芸用品を購入するので花卉園芸産業は発展する。また、観光客の増加によりアクセス道路などの整備など相乗効果を促したり、イメージアップにより補助金を得やすくなったという声もある。
  自治体や団体(コンミューン)のアイデンティティの確立と住民の連帯感の向上
  住民は、コンクールにより「花のまち・むら」として認められることで誇りに思い、そのためさらに積極的に協力するようになる。財政力の弱い小規模町村では、住民の協力なしには花のまちづくりは行えない。また、各自治体や団体(コンミューン)内でもコンクールを開催し個人賞を制定するなど、住民参加を引き出す工夫を行っている。
  フランスでは、都市計画の精神とコンクールの精神が重なる部分が多く、住民参加を引き出しやすい
  表彰を受けた自治体や団体(コンミューン)では、景観を考慮して電線の地中化を行ったり、看板やポスター・チラシ類を貼れないように壁を金網とツタ類の花で覆ったりしている。あるいは、緑地化予算の中で大規模公園の整備などを行いながら、総合的な取組みを行っている。(6)

もちろんフランスとわが国では、歴史も国情もちがうことから、上記したような制度をそのまま導入することはむずかしいかもしれないが、このような「花のまちづくり」をつうじた観光振興効果のみならず、花卉生産を中心とした産業振興効果、さらには地域住民のアイデンティティ(主体性)づくりなどは、わが国においても十分に可能であり、意義あることであろう。
  じつは、花のまちづくりについては、わが国でも1990年に、大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」を契機として、農林水産省・国土交通省などの支援のもと、公益財団法人日本花の会が「花のまちづくりコンクール」を毎年開催している(注7)。しかしこのようなコンクールの存在は、あまり国民には知られていないのではないか。そのいちばんの問題点は、上記したフランスのように、地域住民らによる盛り上がりを通じて、地域社会に密接な活動やイベントとして盛り上げる努力や工夫が伝わってこない点にあろう。

フランスの最も美しい村・アルザス地方リクヴィル(花マーク2つを獲得)
 
フランスの最も美しい村・ノルマンジー地方ブーヴロン・アン・オージュ(花マーク3つを獲得)
 

今回の震災と原発事故により大きなイメージダウンを経験した福島県としては、早急に地域のイメージアップを進めたいところだ。そこでまずは県内からでも、このような花のまち・むらランキングという評価制度を取り入れて、ふくしま=花が美しい県、というイメージづくりを進めてはどうだろうか。美しい集落や水田、棚田、河川、樹林からなる農村景観や街路樹や花壇などによる都市景観による美しい地域づくりは、県土のイメージアップに向けてとても有益な試みのように思う。

福島県でも、じつは昭和43年頃から県民運動として「花いっぱい運動」が展開され、現在も花木を利用した地域づくりやコンクールなども各地で広く行われており、その素地は十分にある。しかし、各市町村や地域が、独自に開催したり活動していることが多いことから全県的な盛り上がりが見えにくく、一時的なイベントやニュースで終わっている印象を受ける。
  そこで、さらに盛り上げるために、自治体やコミュニティがお互いに花のマークを獲得するという目標をもって年間を通して宣伝しながら競い合い、より美しい花のまち・むらづくりを進めるならば、年1回のイベントとして開催されているB級グルメを競う「B-1グランプリ選手権」など以上に、社会的な影響力も大きくなるのではないだろうか。
  その結果として、県内各地で「日本で最も美しい」県土がつくられ、国内外からの観光客の来訪や産業振興効果、そして県民の郷土愛の向上にもつながるならば、願ってもないことではないか。

(注1)「日本で最も美しい村連合」
http://www.utsukushii-mura.jp/about
(注2) 三島町 http://www.utsukushii-mura.jp/mishima-index
飯舘村 http://www.utsukushii-mura.jp/iitate-index
北塩原村 http://www.utsukushii-mura.jp/kitashiobara-index
(注3)全国花のまちづくりコンクール
提唱/農林水産省・国土交通省 主催/花のまちづくりコンクール推進協議会
コンクール事務局/公益財団法人日本花の会
http://www.hananokai.or.jp/c/c2000.html
(注4(5) (注6)自治体国際化フォーラム134号(200012月号)
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/articles/jimusyo/134PARI/INDEX.HTM
(注7)全国花のまちづくりコンクールの開催状況
http://www.hananokai.or.jp/c/c2000.html

参考文献
自治体国際化フォーラム134号(200012月号)
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/articles/jimusyo/134PARI/INDEX.HTM
Le nid d’Akiko ホームページ
http://lenidakiko.blog130.fc2.com/blog-entry-391.html
フランス全国花委員会ホームページ
http://www.cnvvf.fr/accueil-1.html



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません