2014.7.24
  「広がる健幸都市づくり」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦

 
  わが国の高齢化がますます進むなか、全国で「健幸都市」づくりが広がっている。
  健幸都市とは、筑波大学の久野譜也教授が提唱した考え方で、「健幸」とは、健康で幸せ(身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、 安心安全で豊かな生活を送れること)との意味である(注1)。そして、「都市」には、歩くことによる健康づくりを基本的な視座として据えていることから、健康づくりはまちづくりからという意味合いがこめられている。あるいは英語読みの「Smart Wellness City(SWC:スマートウェルネスシティ)」の和訳と理解した方が、スッキリとくるかもしれない。
  したがって、活動目標としては、「自律的に『歩く』を基本とする『健幸』なまちを構築することにより、健康づくりの無関心層を含む住民の行動変容を促し、高齢化・人口減少が進んでも持続可能な先進予防型社会を創り、高齢化・人口減少社会の進展による地域活力の沈下を防ぎ、もって、地域活性化に貢献すること」である。(注2

200911月、この考えに賛同する全国9自治体ほか国や民間企業なども参加して、SWC首長研究会の発起人会が開かれ、福島県からは伊達市が参加している。その後、2013年には会津若松市も参加しているが、この約5年間に全国で54市区町村にまで増え、毎年2回のペースで研究会を開催してさまざまな成果を上げている。
  その一例としては、201112月に、この研究会に加盟する7市(伊達市、新潟市、三条市、見附市、岐阜市、高石市、豊岡市)および筑波大学、(株)つくばウエルネスリサーチと共同で、国から「健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」指定を受けている。
  主な規制緩和などの内容としては、
①歩いて暮らせるまちへの再構成:まちづくり関係
・ライジングボラード(自動昇降式車止)による車両通行制限実施(国土交通省、警察庁)
・歩行者・自転車の安全で快適な通行環境を確保するための標識、路面表示の設置(国土交通省、警察庁)
・ウォーキングコースの案内表示(路面表示)の設置基準の緩和(国土交通省、警察庁)
・河川区域内でのウォーキング利便施設の整備に関する許可手続きの緩和(国土交通省)
・歩道のせせらぎ(水景施設)について利用者に安らぎを与える景観施設としての位置づけ(国土交通省)
・市民に対する買物支援サービスの取扱い品目に酒類を加えることへの緩和(国税庁)
・まち中のコミュニケーションの場となる銭湯の基幹事業への位置づけ(国土交通省)
②歩いて暮らせるまちへの再構成:公共交通への拡充
・デマンド交通の利便性向上のための停留所設置に係る占用許可手続きの簡素化(国土交通省、警察庁)
・ベンチやバス停上屋設置の際の歩道有効幅員の緩和(国土交通省、警察庁)
・連節バス(BRT)の導入と拡大に向けた手続きの簡素化(国土交通省、警察庁)
③自治体共用型健康クラウドの整備
・地方公共団体の健康づくり政策策定と評価のために、被用者保険のレセプトや健診データを利用するための、情報を匿名化するルールの規定(厚生労働省)
・政策の評価を精密に実施するための、地方公共団体と被用者保険者の個人情報を名寄せする制度の実現(厚生労働省)
・地方公共団体が推進する健康づくり事業への参加、及び継続参加に対する国保料(税)に関するインセンティブ制度の新設(厚生労働省、総務省)
など、多岐にわたっている。(注3

これらのなかで、とくにユニークな試みは、③の自治体共用型健康クラウドであろう。先端情報技術であるクラウド機能を活用することで、これまでバラバラであった健康診断情報のうち、国民健康保険データと協会けんぽ等のデータの統合が実現したことから、約7割の住民の健康データを一元的にカバーすることができるようになり、その結果、より信頼性の高い現状把握や分析が可能となっている。(図1、参照)

1  自治体共用型健幸クラウド

資料:「ドラッグトピックス」20137/8号(SWC事務局ホームページより引用)

また、上図にアウトプットとして表記されている「健幸都市インデックス」とは、自治体の健幸度を「見える化」する指標としてつくられたもので、各自治体の政策進捗状況を客観的に把握し、得点化して総合的な評価を行う試みである。科学的な分析に基づく実施施策の検証を行うことで、健康課題を解決するための効果的な施策立案が可能となっている。
  加えて最近では、20147月に国交省から発表された「新たな国土のグランドデザイン」のなかで、基本戦略の一項目として「子供から高齢者まで生き生きと暮らせるコミュニティの再構築」が取り上げられているが、そのなかに「環境に優しく、高齢者が健康に歩いて暮らせ、くつろげる空間をつくるとともに、子育てしやすい多世代循環型の地域を構築するなど、スマートウェルネス住宅・シティを実現する」という記載が盛り込まれている。今後の国土整備に向けた有力な一つの方向性としても評価されているといえよう。(注4

上記したような特区指定を受けた先進的な取り組みなどとともに、筆者がユニークと感じているのは、健康と都市計画・まちづくりを一元的に捉えた視点である。
  たとえば、今年5月に伊達市が数年間の検討・協議をへて、『伊達市健幸都市基本計画』を策定したが、その計画体系は図2に示すような構成となっており、今までの自治体の計画ではあまり見ないオリジナルな計画体系となっている。つまり、これまで自治体の計画は、産業、福祉、環境、教育など組織の縦割りに対応した個別分野に対応する形で策定されることが多かった。あるいは、当該自治体の政策体系を示す総合計画では、網羅的・総花的に政策や計画が並記されているために、具体的な目的が見えにくく魅力の弱いものとなっていた。

  図2  伊達市健幸都市基本計画の施策体系

 資料:伊達市『伊達市健幸都市基本計画』20145月より編集

しかし、この健幸都市計画は、健幸都市づくり(健康づくり+まちづくり)という明確な政策目標(将来像および基本方針)のもとに、関係する健康、福祉、都市計画・インフラ整備、まちづくり、住宅政策、教育、文化、産業振興などの幅広い分野・内容が網羅されている。縦割りの役所組織を横断(クロス)する形で幅広い視点から網羅された計画体系となっていることから、目標に対する各施策や事業の位置づけ、内容などがよりはっきりしているという長所がある。
 欲をいえば、個々の施策や計画について、行政、事業者、各種団体、地域住民らが果たすべき役割分担などが書き込まれていると、市民らにもより具体的で身近な計画となったようには思うが(注5)、このような前例にとらわれない斬新な計画をとりまとめた関係者の努力や苦労には、想像を超えるものがあったにちがいない。

伊達市では、さらに同計画の具体化に向けたモデル事業として、市内の霊山町掛田地区と梁川町白根地区で、健幸都市の拠点づくりを進めている。まちなかを歩くことで楽しく暮らせるコンパクトシティづくり、健康づくりの拠点機能の整備、さらには健康ポイント制度の導入の検討など、ハード整備のみならず、住民らをその活動に巻き込んでいくインセンティブづくりなども予定されているようだ。
  2のなかに、市の将来像として「安心して子育てができ、安心して歳がとれるまち」と示されているように、健幸都市の考え方はかならずしも高齢者だけが対象ではなく、女性や子育て、あるいは事業者らによる健康関連ビジネスの展開なども含められていることから、今後の推進に向けて幅広い世代の市民に理解されることが望まれる。

福島県民の平均寿命は、男性は全国44位(全国平均79.59歳に対し78.84歳、平成22年)、女性、同38位(同、平均86.35歳に対し86.05歳)と全国レベルと比較して低いことから、健幸都市づくりを進めることで長寿化をめざすとともに、医療費や介護・福祉費用なども削減したいところだ。実際、同じ健幸都市づくりを推進している新潟県見附市では、年間1人約10万円の医療費抑制効果がみられているという(注6)。
  研究会での活動歴が長いことから、県内では伊達市の活動が目立っているが、今後、会津若松市での具体化が期待される。そして、その他の自治体においても、時代の要請に応える県民の健康づくりや歩くことが楽しいコンパクトなまちづくりの推進を期待したい。

(注1Smart Wellness City首長研究会事務局ホームページ
http://www.swc.jp/about/
(注2)(注3)【地域活性化総合特区】健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区
http://www.city.date.fukushima.jp/uploaded/attachment/9239.pdf
(注4)国土交通省「国土のグランドデザイン2050」平成267月、P25
http://www.mlit.go.jp/common/001046889.pdf
(注5)本基本計画には書かれていないが、モデル地区である白根地区の計画書のなかに、計画の具体化に向けた活動主体として、地域・住民でできること、行政にお願いすること、と書き込んでいる点は高く評価したい。
白根地区健幸都市推進協議会「梁川町白根地区健幸なまちづくり計画(素案)」平成2510月、p1419
http://www.city.date.fukushima.jp/uploaded/attachment/9271.pdf
(注6)久野譜也「ピックデータ活用による健康都市づくりの推進」、「ガバナンス」20147月号

参考資料:
Smart Wellness City首長研究会事務局ホームページ
伊達市『伊達市健幸都市基本計画』20145
http://www.city.date.fukushima.jp/soshiki/2/1153.html
久野譜也「ピックデータ活用による健康都市づくりの推進」、「ガバナンス」20147月号
吉岡正彦「健康づくりとまちづくり」本欄コラム、2011.11.11
http://www.f-jichiken.or.jp/column/78/yoshioka78.html



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません