2014.10.1
  「地方移住の盛りあがりの実態」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  地方創生担当大臣ポストや総務省のまち・ひと・しごと創生推進本部の新設などを背景として、最近、地方移住に対して追い風が吹き始めているように感じている。
  そこで、20148月に発表された、総務省によるアンケート調査「農山漁村に関する世論調査結果」(全国の20歳以上の男女3千人を対象として実施し1,880人が回答)を取り上げ、地方 (農山漁村地域) 移住に関する国民意識の実態について取り上げてみたい。

(都市住民の意向)
【農山漁村地域への定住願望】
  都市住民が農山漁村地域に定住してみたいという願望は、「ある(小計)」が31.6%と3割以上を占めた。前回の2005年調査では20.6%であったので、この約10年間に11.0ポイントと大幅に伸びている。ただし、その内訳をみると、「ある」の割合はほぼ変わらず、「どちらかというとある」が伸びていることから、より正確にいえば農山漁村への移住の「雰囲気が高まっている」状況にある。
  反対に、「ない」は、2005年の62.1%から2014年には35.7%と大幅に減少していることからも、全体として移住意識が高まっている状況がわかる。
       (N=1,147:回答者数)%
(

)四捨五入のために合計が合わない場合がある。

これを年代別にみると、2029歳の「ある(小計)」が38.7%ともっとも高く、また6069歳の高齢者の「ある」も11.8%と高い。
  これらの傾向から、とくに若者と定年を迎えつつある60歳代を中心に田舎の暮らしに対する関心が高まっているといえる。
                          (N=1,147)人、%

【いつ頃定住を実現したいか】
  移住願望がある都市住民に対し、いつ頃定住を実現したいかを聞いた結果では、すぐにでもしたいという回答が8.3%を占める。かりに東京圏に住む20歳以上人口を約3千万人と想定すれば、移住願望があり、かつすぐにでも移住したい人は約80万人 (3,000万人×31.6%×8.3) が該当し、大きなマーケットを形成している。
  さらに、5年以内にしたい(16.9%)、10年以内にしたい(24.9%)、となっており、これらを合わせると、10年以内に半数を超える50.1%が希望している。
     (N=362)%

【定住の実現に必要なこと】
  農山漁村地域に定住する願望を実現するには、どのようなことが必要かについては、医療機関(施設)の存在(68.0%)、生活が維持できる仕事があること(61.6%)、農山漁村地域の居住に必要な家屋、土地を安く購入できること(47.2%)、居住地の決定に必要な情報全般を入手できること(43.4%)、の順である。(以下、見やすくするために設問は回答数の大きい順にならべ替えた)
  やはり、定住の実現に向けて、医療機関の整備や適当な仕事の確保、安価な住宅や移住情報の入手などが求められていることがわかる。
       (N=362)(M..:複数回答)、%    

【農山漁村で定住したら、何をして過ごしたいか】
  農山漁村で定住したら、何をして過ごしたいかについては、地域の人たちとの交流・ふれあい(53.0%)、自然観察(星空、ほたる、山野草、ホエールウォッチング、イルカウォッチングなど)(45.6%)、地域貢献活動(37.0)、農林漁業(趣味として)(34.8%)、農林漁業(主な所得源として)(29.8%)、の順である。
  全体としてみれば、地域の人と交流したり地域貢献ができ、かつ自然環境が楽しめて、農業などで働くことができれば申し分ないということだろう。
            (N=362)(M..)、%

(農山漁村住民の意向)
【定住する際の問題点】
  一方、農山漁村住民が考える都市住民が定住する際の問題点としては、都市住民が定住するための仕事がない(63.0%)、買い物、娯楽などの生活施設が少ない(44.3%)、地域内での移動のための交通手段が不便(44.0%)医療機関(施設)が少ない(37.0%)、などが上位を占めている。
  仕事や生活施設の確保、そして移動手段や医療施設の不足などが問題であり、これらの整備・充実が課題と認識されている。
  なお、前回調査と比較すると、都市住民が定住するための仕事がない(54.0%→63.0%)、買い物、娯楽などの生活施設が少ない(26.5%→44.3%)、地域内での移動のための交通手段が不便、(22.3%→44.0%)、医療機関(施設)が少ない(22.8%→37.0%)など、農山漁村の生活環境全般にわたる疲弊化の進行がうかがえる。
                 (N=700)(M..)、%

(注)*印は2005年の設問にない回答欄

【移住してくる都市住民への期待】
  移住してくる都市住民に何を期待するかについては、若い世代が地域で子育てすること(50.4%)、行事参加などの地域貢献活動(37.3%)、身近な生活課題等に対する互助(近所づきあい)(31.4%)、新たな産業の展開(30.4%)、の順である。
  やはり農山漁村での高齢化の進展や人口減少が喫緊の問題となっていることから、子どもを含む若い世代の移住希望が過半数を超えて最も多い。ついで、地域が元気になるために地域活動や貢献、そして産業振興面での貢献などを希望していることがわかる。
        (N=700)(M..)、%

【農山漁村地域での生活で困っていること】
  農山漁村地域住民が生活で困っていることとしては、仕事がない(32.7%)、地域内での移動のための交通手段が不便(31.7%)、買い物、娯楽などの生活施設が少ない(30.9%)、医療機関(施設)が少ない(27.7%)などが上位を占めている。
  上記したように、仕事の確保は移住者が困るだろうと懸念していたが、自分たちにとっても大きな問題となっている。
  なお、特に問題はないと思う(26.0%)、と約1/4の回答者はとくに困っていない。
        (N=700)(M..)、%

【地域コミュニティに求めるもの】
  地域コミュニティに求めるものは、高齢者・子どもの見守り(52.0%)、地域の信頼感・連帯感の醸成(46.6%)、防災対策(41.4%)、の順である。農山漁村地域が全体に高齢社会であることをふまえると、高齢者の健康や安全の確保、そして人口減少などで希薄となっている地域コミュニティの確保や防災対策などが求められている。
  総じていえば、地域ぐるみで安心して生活できる環境の確保を求めている。
            (N=700)(M..)、%

(全員の意向)
【最近1年間で農山漁村地域にどのような目的で滞在したことがあるか】
  最近1年間で農山漁村地域にどのような目的で滞在したことがあるかについては、滞在したことはない(68.3%)が7割近くを占めて多く、旅行・レジャーで滞在した(14.4%)、帰省で滞在した(13.8%)の順である。
  この1年間で未体験者が7割近くいるということから、まだまだニーズの掘り起こしは十分に可能と考えられる。
         (1,880)(M..)、%

【どのような施設に宿泊したいと思うか】
  農山漁村地域に一時滞在する場合、どのような施設に宿泊したいと思うかについては、農家(漁家)民宿、(48.7%)、ペンション・一般の民宿(35.9%)、公共の宿泊施設(33.7%)の順であり、ホテル、旅館は2割強である。
  一時的な滞在施設としては、地域密着型で利用料金も安い農家(漁家)民宿、ペンションや一般の民宿、公共の宿泊施設の人気が高い。
         (1,880)(M..)、%

【農山漁村地域に滞在中、何をして過ごしたいか】
  一時的な滞在希望者が滞在中に何をして過ごしたいかについては、その地域の名物料理を食べる(45.8%)、稲刈りや野菜の収穫など(44.4%)、山歩き、山野草観察(42.5%)、地域の人たちとの交流・ふれあい(40.6%)、の順である。
  その土地ならではの食事や農業、山歩き、地元の人たちとのふれあいなど、さまざまに体験できる環境に関心が強いことがわかる。
          (N=1,751) (M..)、%

【中山間地域の農業生産活動や住民の暮らしに対する支援策】
  中山間地域の農業生産活動や住民の暮らしに対してどのような支援をすべきかについては、国や地方公共団体が負担して(国民が等しく税金によって負担して)支援する(54.8%)、中山間地域に親しみを感じる国民が中山間地域を訪れたり、生産される農産物の購入を増やすことなどにより支援する(44.9%)、中山間地域が発揮する機能の恩恵を受けている企業が生産される農産物の購入を増やすことなどにより支援する(37.5%)、の順である。
  すなわち、国や地方公共団体による資金的な支援を中心に、地元農産物の購入など、国民や企業による直接的な支援が求められている。
             (1,880)(M..)、%

(まとめ)
  東日本大震災および東電による原発事故が起こる前までは、下表にみるように福島県は全国で地方移住希望地のトップであったが、残念ながら近年は順位を落としている。しかし、福島県が持つ本来の魅力は変わっていないはずであり、回復に向けて、これからががんばりどころである。

表 都道府県別移住希望地ランキングの推移

資料:ふるさと回帰支援センター「ふるさと暮らし希望地域ランキング」
調査方法は、ふるさと暮らし情報センター(東京)利用者に対するアンケートなどによる
(注)2012年の宮崎県、和歌山県はともに10位

以上に概観したように、今日、国民の農山漁村への移住意識は成熟しつつあるが、現時点では、すぐに移住したいというよりは、おおむね5年、10年程度先を見通しながら判断したいという回答が多く、決定的な動きまでにはいたっていない。
  しかし、移住願望を持つ人のなかで、すぐに移住したい人は1割弱おり、これを東京圏全体としてとらえると約80万人にもなることから、移住の受け入れを希望する農山漁村地域は、これらの希望者の背中を押す決定打となるような魅力づくりや情報発信が必要である。
  とはいっても、これまでもほぼ全国の自治体で移住推進策を進めてきていることから、打ち出の小づちを振るように簡単に妙案が出るわけではないだろうが、やはり最新データをもとに新たな気持ちで創意工夫を考えたい。

今回のアンケート調査結果をみてみると、中心となるターゲット層は、2029歳、6069歳であることがわかった。また、魅力的な移住先としては、医療施設や交通利便性の確保、仕事の確保などが基礎的な条件となっていることから、まずは地方創生をすすめる国による財政面などでの支援策を期待したい。
  そして、自治体としては追加的な公共・公益サービスの充実は財政的にきびしいことを考えると、ふるさと納税やクラウドファンディング(特定の目的のためインターネットなどを通じて不特定多数から資金を集める活動)の活用、あるいは地域貢献意欲も高いことから、移住希望者らに資金面や労力提供などで協力をもとめても良いのではないか。

また、農山漁村地域の滞在経験者がかなり少ない結果となっていることから、まずは積極的に、赤字覚悟で数日間の「お試し居住」を仕掛けてみてはどうだろうか。それぞれの農山漁村地域がもつ自然環境や個性的な産業やしごと、地域文化などを実体験することで、新しい生活スタイルやいきがい、地域に貢献する楽しみ方などの発見につながるかもしれない。
  さらに、地域ぐるみで歓迎するという温かいコミュニティが求められていることもわかった。温かなコミュニティの醸成は、地域住民の自助努力により生まれると考えられることから、住民一人ひとりの意識づくりも大切な要件となろう。

参考データ 
「都市住民の農山漁村地域への定住願望の有無」についての属性別データ
() 定住願望が「ある(小計)」「ある」「どちらかというとある」の最高値のセルをオレンジ色で示した。年齢区分別表示については再掲。単位は人、%。
〔地域〕
東京都区部、都市近郊や地方中枢都市・周辺で願望が強い。

〔都市規模〕
東京都区部、政令指定市で願望が強い。

〔地域ブロック〕
北海道、北陸などで願望が強い。

〔性〕
男性の方が願望が強い。

〔年齢〕
2029歳、6069歳の願望が強い。

〔性・年齢〕
男性は2029歳がとくに目立ち、女性は4059歳の願望が強い。

〔職業〕
専門・技術職、管理職の願望が強い。

参考資料
内閣府「農山漁村に関する世論調査」平成266月調査、同年89日発表
http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-nousan/index.html
  (調査対象)
  1)母集団  全国20歳以上の日本国籍を有する者
  2)標本数  3,000
  3)抽出方法 層化2段無作為抽出法
  (調査時期) 平成26612日~622
  (調査方法) 調査員による個別面接聴取法
内閣府大臣官房政府広報室「都市と農山漁村の共生・対流に関する世論調査」
平成1711月調査
http://www8.cao.go.jp/survey/h17/h17-city/index.html



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません