2014.12.24
  「4年目の冬を迎えた仮設住宅生活」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  2014125日に放送されたNHK総合テレビの番組「明日へ 支えあおう復興サポート ~""の住まいで迎える4回目の冬 宮城県石巻市~」によると、仮設住宅の入居者は、東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島の3県で約8.6万人にのぼり、震災から39か月が過ぎて建物の老朽化が進んでいる。
  また今夏、仮設住宅で集団検診を受けた人の2割にぜんそくの症状があったという。仮設住宅は災害救助法にもとづき2年間の耐久性を想定した応急の鉄骨プレハブ構造が多いため、どうしても夏は暑く、冬は寒くなる。このため、とくに冬は建物の各所に結露やカビが生じやすくなり、健康・衛生面での心配が増える。

震災から4回目の冬を迎えているが、いまも福島県では12,540戸、24,818人の仮設住宅居住者がいる(20141128日現在)
  他方、明るいニュースとしては、いわき市や相馬市などで災害(復興)公営住宅が完成して、順次、入居が進んでいる。最終的に平成28年度末までに、地震・津波被災者向けとして11市町村で2714戸、原発避難者向けとして4890戸が整備される予定であることから、なんとかこの冬も健康で元気に乗り切っていただきたいと思う。

同番組によれば、放送の舞台となっていた石巻市仮設柏木団地では、現在、大きく2つの課題があるという。それは、建物の老朽化と住民の減少によるコミュニティの崩壊である。

(建物の老朽化への対応)
  もともと仮設住宅は、壁が薄いため生活音が響きやすく、プライバシーが確保しにくい。また、窓が下までないため風が抜けにくい。あるいは台所、風呂、トイレの狭さや収納が少ないため、とりわけ家族の多い家庭の場合には生活しにくい環境にある。さらに年月を経ることで、床が目立つようにたわんできたり、傾いてきたり、あるいは配線孔などを埋めるパテがはがれ落ちて冷気が入ってきたり、アルミや鉄が向きだしの室内ではカビや結露の発生などの問題が発生している。

この番組に復興サポーターとして登場した岩佐明彦新潟大学工学部准教授は、新潟県中越地震での教訓から、住民たちが仮設住宅を住みやすくするための工夫事例などを、ホームページ「仮設のトリセツ()で公開している。
  このなかでは、暑さ対策として玄関先にすだれの利用、寒さ対策として窓ガラスへの気泡シートの貼り付け、湿気対策として新聞紙を敷く、防音対策として壁に段ボールを貼るなど、仮設住宅での暮らしをより快適にするための工夫などが数多く紹介されているが、これまでに30万件近くのアクセスがあったという。

同番組ではこの他にも、鉄筋のむき出しに対して、ホームセンターなどで売っている結露防止シールを貼る、ガラス窓にも結露防止シールを貼る、収納の工夫として壁の間にスノコを渡して棚がわりに使っている事例などが紹介された。
  また、寒さ対策として、窓際に畳を立てて寒さを防止しているという事例報告もあり、このようなさまざまな工夫をお互いに教え合うと、住まいの工夫だけでなく仲良くにもなれる、環境に対して前向きにもなれるのではないかとの話があった。
  さらに、家の外での一工夫として、みんなで花壇をつくることで、住民のコミュニケーションがはずんだり、仮設団地内の車が通らない通路に折りたたみ式の机などをだしてみんなで宴会を開いたなどの事例が紹介されて、楽しみながら建物を修繕することの大切さを指摘していた。

 (コミュニティの衰退への対応)
  つぎに、仮設住宅団地で少しずつ新しいコミュニティを築いてきたが、39か月がたち、この間、別の土地で自宅を再建したり、災害公営住宅への入居などで、仮設住宅から退去する住民も出てきており、再びコミュニティが崩れつつあるという。自治会の会長を引き受けた人が仮設住宅を出てしまって、次の担い手がいないというようなケースもあり、しだいに孤立の危険性が高まっていく。
  あるいは、自治会がなくなったことで情報が入らなくなったり、ボランティアや支援物資の受け入れ窓口がないとみなされて、支援が届きづらくなったという事例もあるようだ。
  柏木団地でも、住民どおしのコミュニティに影響がでており、2011年時には28世帯80人が入居していたが、いまはその1/3に減ってしまっている。その結果、車に乗せてもらうことができた仮設の友人が引っ越してしまい、買い物が大変になったなどの事例が紹介された。もともと柏木団地は、石巻市内の広い地域から住民が集まって一からコミュニティをつくってきたところだ。しかし、いまは自治会も解散して、住民たちが孤立化しつつあるため、自分たちで動くしかない状況だという。

1995年に発生した阪神淡路大震災のときに復興を支援してきた神戸まちづくり研究所ではたらく復興サポーター田村太郎さんによれば、仮設住宅は人が抜けていくのが宿命なので、しだいにさみしくなる。コミュニティを復活させようと努力しても、困難に直面することが多くなる。
  そこで、田村さんは、桃とぶどうのたとえを話した。桃のような1つの固まりとしてコミュニティをまとめようとするのではなく、ぶどうのように56世帯の小さな「実」がたくさん集まり、仮設住宅団地全体としてはぶどうの房のようになっている状態が、現実的ではないかという。
  このようなぶどうの実の発想にたてば、全部をひとつにまとめなければいけないと考えがちな自治会の役員の負担感も減るのではないかとの説明には、なるほどと思った。

そこで、集会場に集まった柏木団地の皆さんがコミュニティづくりとして自分たちでできることを話し合った結果、花壇づくりや餅つき大会などが提案された。すると、話し合いをするなかで花壇づくりを特技とする人があらたに見つかったり、餅つき用の臼を持っている人がわかったりして、新しい人間関係が築かれはじめていた。しかも、いまいる人やある物が利用できるので、新たな費用も必要としない。
  あるいは、集会所にあるあまり使われていないミシンを使って、縫い物を教え合おうという話も出て、こうして集まって話し合うことで、お互いを知っているつもりがまだまだ知らないことがたくさんあるという再発見につながっていた。

さらに、田村さんから、自分たちだけでできることと人手があったほうができやすいことがある。住民だけでできないことは、積極的にボランティアの力を借りようとの提案があった。
  一例として、企業と被災地をつなげるとりくみを進めており、201410月に気仙沼市内のある仮設住宅では、電子機器メーカーの新人たちに机やベンチなどを修繕してもらったという。またそのお礼として、若者たちに海の幸を振るまうことで、住民たちと企業社員の双方に笑顔が広がり、交流が生まれていた。

加えて、近所の人たちの力を借りることでも、にぎやかなコミュニティになる。南三陸町にある水戸辺(みとべ)仮設住宅でも、当初の15世帯から、9世帯28人に減少している。
  そこで、仮設団地の中に住民たちが手づくりで小屋を作ったところ、地域の人たちが集まってきた。そこで、その場所を利用して、地域の伝統工芸であるマユ細工づくりを立ち上げている。それまでは仮設のなかでこもりがちとなっていたが、縫い物やマユ細工の工房を立ち上げたことで、いまでは自分たちの息ぬきと他人とコミュニケーションがとれる大切な時間になっているという。
  このマユ玉人形は、土産物屋やインターネットで販売して収入にもなっている。近所の人たちもお土産として買ってくれていて、誰でもが自由に立ち入れる空間となっている。

あるいは、料理をつくって人が集まる場や機会をつくろうという話が出たり、1月は餅つき、4月は花見などの年間スケジュールをつくろうという話もあった。花壇をつくり、加えて家庭菜園をつくって収穫祭をする。また、古くなって誰も見なくなった震災や避難生活などの写真を、新しい写真に貼り替えてあらためて見ることでも元気になるのではないかなどの話も出ていた。仮設の住民同士だけでなく、地域の人たちとも交流して楽しみを増やしていこう、という提案である。

田村さんによれば、「住宅は仮設でも、人生に仮設はない」。どこに住んでいても1年はその人にとってはかけがえのない1年であり、もっとわがままを言って良いのではないか。一年一年を大事に過ごすことが大切ではないかとまとめた。

NHK総合テレビの「明日へ 支えあおう 復興サポート」は、震災から3年以上が経過してしだいに震災関連番組が減っていくなかで、毎月放映されている貴重な番組だと感じている。今回の放送も、4回目の冬を迎えた時期にタイムリーな放映だと思った。
  上記に紹介した内容や工夫事例の一つひとつに感心したが、さらに今回の福島における原発事故のように前例がまったくなく、長引いている仮設住宅での生活を考えると、なによりも落ち着いて生活することができる災害(復興)公営住宅の建設が急がれる。
  しかし、やむを得ず長期にわたり仮設住宅に住み続けなければならない居住者に対しては、国による資金的・制度的支援などを得ながら、居住者らの意向を踏まえた仮設住宅の建て替えやリニューアルによる居住環境の改善が考えられないだろうか。あるいはクシの歯が抜けるように生じている空き室(住戸)の集約・整理などを通じて、住み替えによる近隣コミュニティの再生など、より多様な選択肢が用意されて良いのではないかと感じた。

()「仮設のトリセツ-仮設住宅を120%住みこなす方法-」新潟大学工学部建設学科岩佐研究室Ver3.0 20012/7/8
http://kasetsukaizou.jimdo.com/
参考資料:NHK総合テレビ『明日へ 支えあおう 復興サポート「笑顔呼び戻す 仮設の工夫 〜宮城県・石巻市〜」』12月7日(日)
http://www.nhk.or.jp/ashita/support/



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません