2015.2.4
  「川内村のむらおこし」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  福島県川内村には、ずいぶん前に現地視察で訪れたことがある。阿武隈高地の山あいのなか、名所として国の天然記念物であるモリアオガエルが生息する平伏沼、カエルの詩人とし有名な草野心平を記念した天山文庫(書庫・資料館)やいわなの養殖場である「いわなの郷」などがあり、みどり豊かな自然環境を味わった記憶がある。
  しかし東京電力福島第一原発からおおむね30キロ圏内に位置していることから、2011311日に発生した東日本大震災による原発事故により、全村避難となった。さいわい村内の放射線量は比較的低かったため、現在は除染などにより大部分の地域で居住できるようになったが、これまでに帰村した住民は震災前の6割程度と少ない。
  この間、行政の努力などにより野菜工場の建設・操業や企業誘致、公営住宅や商業施設の建設などが進んでいるが、村の本格的な復興はこれからである。

そんな状況のなか、2015118日に放映されたNHKのテレビ番組、復興サポート・明日へ「村に楽しみの場をつくろう~福島・川内村」を見た。この番組はシリーズ構成となっており毎回、東日本大震災に遭った被災地を取り上げているが、今回は復興サポーターに民俗研究家の結城登美雄さんを迎えて、川内村の復興打開策としてのむらおこしがテーマであった。
  見終えた感想としてとても示唆に富んだ内容であり、川内村のみならず地域振興を進めている多くの地域に参考になる内容と思われたので、紹介したい。

川内村は、震災翌年の2012年1月に「かえる かわうち」をスローガンとして帰村宣言を出した。そして201410月に避難指示区域が見直されて、村の大部分の地域で人が住めるようになった。
  しかしこれまでに帰村した住民は人口2,738人のうち1,573人(57.4%)、しかも若い人たちはなかなかもどって来ず、多くは高齢者である。村の調査によれば若い人たちが帰らない理由としては、放射線に対する心配があり、除染は進んでいるが村が目標とする数値までは下がっていない家屋がまだ2割あり、再除染が必要となっている。また、村の基幹産業である林業の木材が出荷できない状況にあり、現在は木材の汚染レベルを調べる実証伐採が行われている。

そんな状況を打開するために、これから村が生きていくために大切なことはなにかを話し合う目的で、地元の会場に村内の農業・林業者、観光業者、除染作業員、支援者、役場職員らがあつまった。
  はじめに、会場の皆さんに、いまの川内村に対する感想を聞いた。住民からは、「震災前はキノコ、農作物が売りものだったが売れない状況があり、どうして良いのかわからない」「仕事がなく将来が不安」「第一原発が本当に大丈夫なのか不安」などの率直な意見が出された。
  これらを受けて、結城さんは自分には答えられない問題も多いが、これまで東北地方を中心に800あまりの農山村などを歩いて地域おこしを手伝ってきた経験から、皆さんといっしょに地域資源を生かしたむらおこしを考えてみたいと切り出した。
  かりに過疎や限界集落と呼ばれる地域であっても、よく見ると良いところがたくさんある。住んでいる男たちは地元にはコンビニもないなどとなげくが、ばあちゃん、かあちゃんたちはあるもので生活している。ないものねだりではなく、あるもの探しが大切だと始めた。

結城さんが、村を回ったところさっそくさまざまな宝に気づいた。まず、観光拠点である「いわなの郷」のいわなである。10万匹のいわなの生産が可能で、加工品の販売も可能になりそうだ。
  また、先祖代々米を作ってきた古い農家では、りっぱな神棚をみつけた。さらに、その農家の秋元ソノ子さんは、子どもたちに継いでほしいと、季節ごとに一年間の行事を書き出したノートをつくっていた。よく見ると、お餅を年間に40回もついている。お餅には自然の恵みに対する感謝が含まれているのだ。そして、家族がそろってお餅を使ったごちそうを食べることで、大切な心が次の世代に受け継がれていく、と結城さんは言う。
  そこで、地域でつくられてきた伝統の食事を川内村婦人会の皆さんにつくってもらったところ、お餅を使ったいろいろな行事食ができた。じゅうねん(エゴマ) もち、塩味の小豆がゆに入れて食べる大師講団子(餅米でつくった豊作を願って俵形などにした団子)、あるいは合鴨を入れたお雑煮などだ。
  いとこ煮(かぼちゃ、サツマイモ、小豆を煮たもの)などもできて、皆で一緒に食べた食事会の席では、結城さんからこの婦人会の餅つき部隊が全国を回ったら受けるのではないか、このような行事食は無形文化財といえるのではないか、などの発言があった。

こんな地元の楽しい映像が紹介されて、それまでやや緊張していた皆さんの表情が柔らいだ。さらに、結城さんは、これらをどう生かすかを考えようや、宝はそこに落ちているのではなく、みんなの知恵で宝物にすることが大切ではないか、と投げかけた。
  結城さんによれば、東北地方には餅食文化があり、おろし餅、あめ(みずあめ)餅、納豆餅、ずんだ(枝豆) 餅、海老餅、しょうが餅、じゅうねん餅、お雑煮など、季節々のもので餅を食べている。「餅に旬あり、餅はご馳走の王」とのことだ。
  そして、その背景には講という文化がある。それは、夜どおし餅を食べ酒を飲み楽しんで神様にお祈りをする行事だが、そのときは農作業が休めた。その記念として講塚を建てたものが、道ばたにみられる庚申講などの石碑なのだという。
  川内村にはこのような講塚、講塔などがたくさんあり、このことは先祖が楽しみの日をたくさんつくってきた証だという。そこで復興も、小さくても良いから楽しみの日をたくさんつくりながら進めてはどうか、との投げかけがあった。

つぎに、結城さんがかかわった宮崎県高千穂町でのまちおこしの様子が紹介された。高千穂町は神話で神が降りたという天孫降臨の地として有名だが、やはり人口減少や高齢化で、まちが存続の危機になった。
  そこで、若者たちの交流の場をつくろうと、地元のお年寄りたちからなる村おこしグループが立ち上がった。隣町に放置されていた築150年の重厚な石の蔵に目を付けて、これを移築してレストランにしたいと考えた。しかし、肝心な資金がないため、結城さんに協力依頼があったのだ。

結城さんは、自分たちの力で費用を捻出する知恵を提案した。具体的には、千円の食事券が10枚付いた1万円の食券をつくり、これを千人に売れば一千万円になり事業費が捻出できるのではないか、とのこと。これは、いま風にいえばインターネットを通じて多数の人たちから寄付や出資金を集めるクラウドファンディングと同様の発想といえよう。これが「千人の蔵プロジェクト」のはじまりとなった。
  その後、参加した若者たち、食券を買った人たちなどの協力で蔵は完成し、20145月に「むすびカフェ千人の蔵」としてオープンすることができた。地元の棚田でとれた米からつくるおむすびが売りものになっている。
  蔵を運営しているのは村にUターン、Iターンした若い人たちで、店長の濱田典子さんが、「むらおこしのじいちゃん、ばあちゃんたちの想いは、なんてステキなんだろう。放置されていた石蔵にとっても幸せなのではないか」と語っていた。
  いまでは、この蔵には外からの観光客や地元のお年寄りたちも集まって、大切な交流の場となっている。

そこで、川内村を振り返ってみると、村にはいろいろな一年間の行事がある。結城さんは、これを利用して年間をとおして行事の楽しみを提供してはどうか。こんな場があれば、いい飲み屋がある、バンドやろうか、楽しいところがあるなど、つながりを保っていくことができるのではないか。皆で考えてそんなつながりを保っていくことが、川内村の復興の道ではないか、と問いかけた。

その後、番組の後半では、参加した皆さんが4グループに分かれてワークショップを行い、アイデアを出しあった。
  そうすると、皆さんから「人の家を食べあるくような飲み歩きツーリズムはどうか」「農地や農機具などを地元で用意することで、田舎に行きたい、農業をやりたいという人が参加しやすい環境をつくってはどうか」「大きいイベントはいらない。小さい季節ごとのイベントを何回も開催する」「郷土料理を食べてみたいという人はたくさんいるのではないか。つくり手としても参加してもらってはどうか」など、たくさんの活発なアイデアや意見が出された。
  そして、混乱しているいまの時期だからこそ、いろいろなことができるチャンスがあるのではないか、という前向きな発言もあり感心した。

結城さんは、集まる場がほしいという意見が共通している。お金がなくても、飲みたい、食べたい、楽しい場がほしいという欲求がある。この場がそのスタートになったのではないか、とまとめた。
  また、皆さんからは、ふだんはわからなかったが、こうして話してみると、みんなが同じようなことを考えていることがわかった、あるもの探しをするといろいろと見つかるものだ、若者たちの意見が聞けて良かった、こういう場をこれからも続けたい、などの感想が聞かれた。これを絵に描いた餅で終わらせてはいけないと、これからのやる気の表明も出てきた。

番組の最後に、結城さんは尊敬しているという民俗学者の柳田國男さんの言葉を紹介した。
  「美しい村などはじめからあったわけではない。美しく暮らそうという村人がいて美しい村になるのである」。そして、川内村が良くなることが復興であり、日本の希望になるのではないか、とまとめた。
  地域の宝をどう見つけて、どう生かしたらいいのか。なかなかいいアイデアが浮かばないことが多いと思うが、この番組はそれらの問いに対する答えの出し方が学べたいい番組だと感じた。結城さんによる地域おこしのノウハウについては、3年前の20121月の本欄コラムでも紹介させていただいたことがあり、さまざまに繰り出されるアイデアには、感心させられる。()
  番組の終わりには、参加していた村民の皆さんの表情が明るく笑顔に変わっていたのが印象的だった。

()吉岡正彦「被災地で働く場をつくる」(本欄コラム、2012.1.11)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/84/yoshioka84.html
参考文献
NHKテレビ番組 復興サポート・明日へ「村に楽しみの場をつくろう~福島・川内村」2015118()放送
http://www.nhk.or.jp/ashita/support/


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません