2015.3.16
  「地域おこし協力隊」の魅力

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  総務省が実施している「地域おこし協力隊」については、2年前、筆者がコーディネイターとして参加した福島県主催の「平成25年度阿武隈地域シンポジウム」の席に、パネラーとして伊達市の地域おこし協力隊員であった櫻田裕茂さんが参加されたことで、よく知る機会を得た。
  櫻田さんは当時、伊達市霊山町泉原地区でまちづくり計画やイベント開催などを担当して活躍しており、とても元気で好感が持てる若者だった。そして、協力隊としての任期満了後も、現在は伊達市復興支援員として活躍している。

これまでにも集落支援員など「ひと」の活用に着目した地域振興に関係する事業はいくつかあったが、「地域おこし協力隊」もそのひとつで2009年度から始まっている。事業目的は、人口減少や高齢化などの進行が著しい地方において、都市域に住む人材を積極的に誘致し、その定着・定住を図ることで地域力の維持・強化を図っていくことにある。
  具体的には、3大都市圏などの都市地域から過疎地域などの条件不利地域に住民票を移動し、地方自治体が「地域おこし協力隊員」として委嘱して、一定期間(おおむね1年以上3年以下)農林漁業の応援、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に従事してもらいながら、当該地域への定着・定住を図るという取組みである。総務省が必要な人件費、活動費などを、隊員1人あたり400万円を上限として支援している。(1)

初年度の2009年は、3大都市圏などから全国の地方31自治体(130市町村)89名が参加したが、その後どんどん増えて、2013年には318自治体(4府県314市町村)、978名にまで拡大している。おそらくその背景には、とりわけ農山村地域などで高齢者の増加と若者の減少傾向が顕著となり、若者への期待やニーズが大きくなったこと、そして、若者らにも自然環境へのあこがれやIターンやUターンなど地方への移住志向の高まりが指摘できよう。
  隊員の約4割は女性であり、また約8割が20歳代、30歳代と若い。そして、任期終了後、約6割が派遣先と同じ地域に定住している(20136月末調査時点)。(2)
  ちなみに福島県での導入状況をみると、2013年度は伊達市12名、天栄村1名、西会津町1名、三島町1名、金山町4名、昭和村1名、塙町2名の7自治体、22名となっている。(3)

本コラムでこの事業を取り上げた理由は、地域おこし協力隊の導入効果が、関係する協力隊員、地元地域、地元自治体の3者ともがメリットをうける「三方よし」の取組みになっている点が魅力的と感じたからだ。
  具体的には上記したように、協力隊員としては、自分自身の才能や能力を活かしたチャレンジや活動、理想とする暮らしや生き甲斐が発見できる。また、受け入れる地域としては、よそ者、若者が持つ新しい視点が得られ、かつ各集落や地域で高齢化が進むなか、若々しい協力隊員の熱意と行動力という大きな刺激が得られる。
  そして地元自治体としても、行政ではできにくかった柔軟な地域おこしなどが実現でき、さらには一時的あるいは永住にもつながり得る住民が増えることによる地域の活性化効果というメリットがある。

201538(日曜日)に東京の六本木ヒルズで、総務省主催により、はじめての「地域おこし協力隊全国サミット」が行われた。会場での高市総務大臣のあいさつによれば、2014年度はさらに1,500人程度に増える見込みであり、そして2016年度には目標として3千人にまで増やしたい意向とのことである。
  加えて、福島県からは、西会津町と金山町の隊員から簡単な活動報告があった。
  西会津町では、現在は除雪をおもな仕事としているが、除雪作業を体操として取り入れたジョセササイズ(除雪+エクササイズ)の普及を進めているとのこと。後日そのホームページを見たら、2015115日に西会津町を活動拠点として、なんと「日本ジョセササイズ普及協会」なる組織を立ち上げており、全国さらには海外への普及をも視野に入れているらしい。(注4
  ジョセササイズの動画もあったので見てみたら、大型のスコップ片手に除雪するしぐさのエクササイズなどをしていて、なかなかおもしろかった。また金山町の隊員も、いまはおもに除雪などで地域支援をしているとのことであった。

ちなみに、その他の隊員の活動状況を県内自治体のホームページなどからチェックしてみると、とても紹介しきれないほどに多彩であった。
  天栄村では、緑のふるさと協力隊として活動していた経歴を生かしながら、村の観光振興やイベント、特産品紹介などにひろく係わっている。また、三島町では、町が「トップクラスの田舎」であるとして、その魅力をPRしたり、除雪などの地域の課題解決にあたっており、盛りたくさんに掲載されている写真から東京や県内各地などで特産品販売などのイベントを手伝ったりしている様子もよくわかった。
  さらに昭和村では、地域振興をはじめ都市と農村の交流事業、青年海外協力隊にいたキャリアを生かして、村に来る国内外の若者のボランティアや大学のゼミ合宿などの受け入れのコーディネートなどもしているようだ。そして、塙町では、廃校となった小学校(分校)を拠点にして、地元の素材を活用した特産品開発や子どもたちへの教育あるいはカフェを運営して交流の場づくりなどを進めていた。
  その他の隊員の皆さんの活動もとても魅力的で、若い力でそれぞれの地域を盛り上げようとする強い情熱が感じられ、見ているだけでも楽しくなった。

「地域おこし協力隊」は、地方で最長3年間、安定した給料が保証されることから、都会で生活する若者にとって、おもいきって地方に出る大きなきっかけにもなっているのではないか。そして地方にとっても、即戦力として、さらには長期的な地域活性化効果も期待できることから、今後とも拡大していって欲しいと思う。
  事務局となっている一般財団法人移住・交流推進機構(JOIN)のホームページをみると、最近の県内自治体の動きとしては、小野町、檜枝岐村、柳津町、三島町、伊達市、金山町、天栄村などが下記のように隊員募集をしている。
  東日本大震災と原発事故に直面した福島県はとりわけ受けた地域のダメージが大きいことから、復旧・復興、風評被害対策などや地域資源を生かした新しい地域創造に向けて、やる気あふれる若い皆さんの力を必要としている。

福島県自治体の最近の募集事例(順不同)
【檜枝岐村】尾瀬自然ガイドの資格取得や狩猟免許取得、山人料理の習得を支援
【柳津町】地域住民と親睦を深めながら、地域活性化に共に取り組む
【三島町】農業再生活動、観光PR 活動、商工振興活動
【伊達市】地域コミュニティ活動支援、特産品の開発、首都圏等との交流、中山間地域等の活性化
【金山町】少子化対策の一環として「地域一体型ふるさと教育」を推進
【天栄村】都市住民に被災地農村の復興の現状を知っていただき、農業を通して元気ある村づくりに意欲かつ積極的に取り組む
資料:一般財団法人移住・交流推進機構(JOIN)ホームページなどより作成(5)

なお、地域おこし協力隊員にはさまざまな人材がいるし、受け入れ先となる地域や自治体にも地形や気象などの自然条件、集落や交通などの社会経済条件と、それぞれに地域性や特色があることから、ときとしてミスマッチになることもあろう。
  しかし、これまでの実績からも、地域おこし協力隊員、地元地域、地元自治体の3者ともが、ウイン・ウイン(win-win)関係を築くことができる魅力的な事業であることはまちがいないようだ。たとえば任期終了した隊員が所属していた自治体へのアンケート調査(2013年実施)によれば、「地域おこし協力隊を実施して良かったか」という問いに対して、「大変良かった」「良かった」との回答が全体の83%を占めている。また、「地域おこし協力隊を今後も活用する予定か」に対しても、「活用する予定」が74%を占めている。(6)

以上に紹介したように、「地域おこし協力隊」が持つパワーは、ますます厳しくなる農山村地域などにとってさまざまな魅力と可能性に富んでいることから、まだ導入していない市町村も積極的に活用してみてはいかがだろうか。(7)

(1) (2) )総務省「地域おこし協力隊について」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000335887.pdf
(3)総務省「地域おこし協力隊の活躍先」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000270780.pdf
(注4)日本ジョセササイズ協会
http://jjxa.strikingly.com/
(5)一般財団法人移住・交流推進機構(JOIN)
http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/index.html
(6)総務省「平成25年度地域おこし協力隊の定住状況等に係わるアンケート結果」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000274320.pdf
(7)ただし、財源対象となる地域おこし協力隊員の派遣先としては、条件不利地域などの地域要件があるので注意を要する。
総務省「地域おこし協力隊 ~対象と財源措置について~」
hhttp://www.soumu.go.jp/main_content/000335887.pdf
総務省「特別交付税措置に係る地域要件確認表」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000334521.pdf


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません