2015.3.25
  注目高まる「小さな拠点」づくり

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  最近、国土計画やまちづくりの領域で、コンパクトシティとともに「小さな拠点」づくりの考え方が注目されている。201412月に閣議決定された地方創生総合戦略のなかにも、「まちの創生」政策パッケージの一環として「中山間地域等における「小さな拠点」(多世代交流・多機能型)の形成」が盛り込まれた。(1)

コンパクトシティに関する議論は、すでに20年前くらいから行われてきているが、当初は大型小売店の郊外立地による中心市街地からの購買力の流出を防ぐ目的が大きかった。このため福島県でも2005(平成17)年に「福島県商業まちづくりの推進に関する条例」を制定して、歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりなどを進めてきた経緯がある。
  しかし近年では、その後のわが国における人口減少や高齢化の進展をうけて、効率的な都市づくりを進めるために、郊外にスプロール化した住宅地などの市街地の縮小化が主目的に変化してきている。そんな意味から先進事例として、路面電車を導入して中心市街地の機能向上を高めている富山市や、駅前に公共施設を合築した複合施設建設やゾーニングの導入などで都市機能の集約化を進めている青森市の試みなどが注目されている。

一方、「小さな拠点」の場合は、地方小都市や農山村地域での人口流出、すなわち定住人口や購買力の減少に対して、商店や公共・公益施設などをコンパクトにまとめたワンストップ機能を果たす集落の拠点をつくることが中心目的となっている。
  具体的には、2013年に国土交通省から『小さな拠点づくりガイドブック』が出されているが、それによると、「小さな拠点」の定義としては、小学校区など、複数の集落が集まる地域において、商店、診療所などの生活サービスや地域活動を、歩いて動ける範囲でつなぎ、各集落とコミュニティバスなどで結ぶことで、人々が集い、交流する機会が広がっていく。そんな新しい集落地域の再生をめざす取組みが「小さな拠点」だとしている。(2)
  そこで、「小さな拠点」が果たす役割は、集落地域の人や資源、活動をつなぎ、暮らしの安心と未来の希望を育む拠点であり、各種生活サービスや地域活動をつなぎ、各集落との交通手段の確保は、集落地域の暮らしの安心を守る「心の大きな拠り所」となり、地域の未来への展望を拓く「希望の拠点」となることが期待されている。つまり、多世代そして多機能の交流というわけだ。

このガイドブックには、このほか「小さな拠点」づくりの手順とポイント、「小さな拠点」づくりに向けて~事例から学ぶ~、として全国から先進的な11事例が紹介されており、全体にわたりわかりやすい解説書となっている。
  ただし実際には、それぞれの農山村地域などは、地形、立地、気候風土、人口集積状況などの地域条件が千差万別であることから、それぞれの地域に応じた拠点形成が求められることになり、各集落ごとの創意工夫が必要になろう。

「小さな拠点」の重要性については、これまでに筆者も本コラム欄で取り上げて紹介してきたが(3)、たしかにこれからのわが国、とりわけ地方小都市や農山村地域にとって、注目すべき大きなテーマのひとつといえる。
  「小さな拠点」という言葉がひろがる以前の2007(平成19)年に、筆者は多摩大学教授(当時。現在は大学院客員教授)の望月照彦先生らと、福島県北に隣接する宮城県丸森町にある「なんでもや」を訪れたことがある。
  この「なんでもや」は、地元の集落内に唯一残っていた商店(JA)が撤退してしまったので、地域住民がみなで資金を出しあってつくったという商店であり、すごい事例だなぁ、という驚きを感じた覚えがある。まさに先駆的な「小さな拠点」の一例といえよう。
  いまでは記憶があやしいので、同施設の紹介記事から引用してみると、その概要は以下のとおりである。

2001年(平成13年)ごろ、丸森町大張地区内の小売店が廃業し、農協の購買部も広域合併の影響で撤退するなど、近くに日用品を買う店がなくなってしまった。そのため、高齢者世帯の生活に支障が出てくるのはもちろんのこと、地域住民も生活物資の購入さえできない不便さに困惑する事態が続いた。
  そこで、丸森町商工会大張支部の有志は設立準備委員会を設け、地域の活性化と高齢者や地域住民の生活が便利になるように何でもそろう店をつくりたい。住民が集まり、お茶を飲みながら話ができるような場所にしたい、という思いがまとまった。
  場所は、地区の中心部にあたる旧JA購買部の空き店舗を借りることとし、出資金は1世帯あたり2,000円とした。役員は8つの行政区で説明会を開き、区長は各世帯を回り、出資に協力を求めた。その結果、200世帯から計40万円。商工会員は10万円ずつと、合わせて200万円の出資金が集まった。

改装工事は、地元の工務店などが協力し、2003年(平成15)年12月に開店することができた。暮らしに必要なものはなんでも取り扱うという趣旨から、名前は「なんでもや」とした。
  店では、日用雑貨、食料品、地元の農家が生産する新鮮野菜のほか、草刈機械や軽自動車まで、客の要望になんでも応えてしまう。140人を超えるテナントがこれを支えている。
  「なんでもや」のおかげで、店内には地元の新鮮野菜や日用品雑貨が並び、とても便利になったと同時に、地域のお年寄りなどが自分の畑で作った野菜が売れるため、お年寄りが以前にも増して元気に働いており、地域経済の循環もできた。
  初年度の売り上げは3,100万円。2年目は3,600万円。3年目は4,000万円と順調に伸びた。そして、4周年の記念式典時には1,200人が来場し、地域を元気にする一大イベントに定着した、とある。(4)
  当時はテレビ番組などにも取り上げられて話題となったが、開設してから10年以上をへた現在も営業は続いているようなので、なにかうれしい。周囲にクラインガルテン(簡易宿泊機能つき農園)やキャンプ場などがあり、交流人口が活発なことも寄与しているのかもしれない。

往訪した当時、筆者はまとまった人口が住む集落から商店がまったくなくなってしまうとは、想像しにくい希有な事例のように感じでいたが、それから10年も経たない今日、全国各地でこのような状況の発生が現実味を帯びるようになってきた。
  この「なんでもや」のケースでは「小さな拠点」として主として商店機能が求められたが、さらにいえば、日常生活に不可欠といえる病院(診療所)、金融、役場の出先機能、集会場など、公共・公益サービス全般の確保・充実が求められているといえよう。

「小さな拠点」は、文字どおり農山村地域において地域住民が幸せに暮らすための拠点機能をはたすが、では各地の集落で具体的にどんな公共・公益サービス機能を確保し、そしてそれらの機能をいかに継続して維持していくのか。
ますます国と地方・地域の知恵とやる気が求められている時代に突入していることを実感する。

(1) まち・ひと・しごと創生本部「まち・ひと・しごと創生総合戦略」平成26 12 27
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/20141227siryou4.pdf
(2) 国土交通省『集落地域の大きな安心と希望をつなぐ「小さな拠点」づくりハンドブック』平成253
http://www.mlit.go.jp/common/000992103.pdf
(3) 吉岡正彦「地域・集落の小さな拠点づくり」 (本欄コラム、2013.5.27)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/121/yosioka121.html
吉岡正彦「集落における公共サービスのワンストップ化」 (本欄コラム、2011.12.9)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/81/yoshioka81.html
(4)地域活性化センター「月刊地域づくり」、平成206
http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/book/monthly/0806/html/f05.htm


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません