“チンチン電車”
の愛称で知られる路面電車。今でも東京や札幌、広島をはじめとした一部の都市では現役だが、以前より路線の数が減少しているという。福島のチンチン電車も昭和46年に姿を消して、既に半世紀が経過しようとしている。かつて福島でも“チンチン電車”が走っていたことは亡き祖父が福島市で鉄道関係の仕事をしていたこともあって聞きかじっていたが、詳しいことはまったく知らなかった。
しかし、先日の新聞報道で、“チンチン電車披露 保原RC50周年記念事業で復元”という話題を目にし、この機会にチンチン電車の生い立ちに興味がわいた。
先月4月18日、伊達の保原ロータリークラブ(RC)創立50周年を記念して復元したチンチン電車のお披露目式と記念イベントが保原中央交流館駐車場で行われ、電車が設置された(※1,※2)。
我が家ではこのゴールデンウィークを利用して、さっそくチンチン電車の実物を見に出かけた。

|

|
展示されている「路面電車1116号」
|
実際目にしたチンチン電車は、普段利用している電車より横幅がせまく、思っていたよりも小ぶりな車体であった。車内もレトロな雰囲気満載で、往年の人々の活気が伝わってきた。
路面電車の起点は福島駅。現在路線バスや高速バスが頻繁に出発するバスターミナル付近がかつての路面電車の駅であった。福島駅を出発した路面電車は、中合百貨店前、日銀福島支店や競馬場前を経由しながら北上。ちなみに、競馬場前の通りは今でも「電車通り」といわれており、通勤ラッシュ時には 5両の電車がぞろぞろと続行運転する姿も見られたとのこと(※3)。
 |

|
大正15年当時(伊達地方分のみ)の軌道線路線図
(※3;伊達市HP掲載「伊達市を結んだ鉄道」より抜粋)
出所;http://www.city.date.fukushima.jp/soshiki/87/142.html
|
福島~槻木間の比較図
(※3;伊達市HP掲載「伊達市を結んだ鉄道」より抜粋)
出所;http://www.city.date.fukushima.jp/soshiki/87/142.html
|

|
保原中央交流館展示スペース掲示板「路面電車のあゆみ」に掲載されている軌道線路線図
|
また、日本国内でもモータリゼーション(車社会の進行)の影響もあり、各地で路面電車の廃止が相次いでいる。国土交通省によると、国内の営業状況は平成25年末現在で全国17都市20事業者、路線延長約206㎞となっている(※4)。

|
日本の路面電車・・・17都市20事業者延長約206km(H25.12末現在)
(国土交通省HP掲載「LRT(次世代型路面電車システム)の導入支援」より抜粋)
出所;http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html#2
|
昨今は、従来の路面電車に代わる新たな交通インフラとして、LRT(次世代型路面電車システム)が注目されていて、平成18年に富山市で日本初の本格的LRTが導入されたことは有名である(※5)。
LRTとは、Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システムであり、近年、道路交通を補完し、人と環境にやさしい公共交通として再評価されている。
LRTの導入にあわせてバス、自動車との連携やトランジットモール整備を図ることは、まちづくりを一体的に進めるうえで有効な手段とされている。欧米ではすでに登場後20年以上が経過していて、多くの都市で基幹公共交通として活躍している(※6)。
車社会が進み路面電車は各地で姿を消しているが、このように次世代の路面電車が人と環境にやさしい公共交通として再評価され、今後国内で導入が進むことが期待されている。
福島でも、路面電車が残っていたらまちの景色が全然違っていただろうとおもう。
ここで、あるイベントで活気あふれるまちづくりを行っている函館の事例を紹介したい。
函館には、「函館西部地区バル街」という、今や日本中に広がった「まちバル」「バルイベント」の発祥となった「食べ・飲み・歩き」を楽しむイベントがある。5枚つづりのチケットとマップを手に、函館西部地区のさまざまな店を訪ね歩くイベントである(※7)。
この4月に行われた「函館西部地区 bar-gai vol.23」では、“バル街電車”が運行された(※8)。
「バル街電車」で「バル街チケット」を「乗務員に提示」した場合、乗車料金は無料とするなど、飲み歩きを楽しむイベントに路面電車を組み合わせている。
※バル(バール:Bar)とは
・・・バル(バール:Bar)は、英語のBar(バー)と書いてスペイン語で「バル」、イタリア語で「バール」と発音される。バル(バール:Bar)とは食堂とバーが一緒になったような飲食店を指し、スペインやイタリアなどの南ヨーロッパにおいては酒場、居酒屋、軽食喫茶店のことを指す。また、バルは、コーヒー類を飲む、地域のコミュニケーションの場所としても使用されており、コーヒー、ビール、ワインなどのドリンク類やタパスやピンチョスといったおつまみを提供している(※9)。
※街バル(Machibar)とは
・・・“街
(MACHI) + バル (スペイン語のBAR)
「街バル(Machibar)」とは、地域・街の活性化と飲食店の活性化を目的として地域・街が密着して開催するバルを食べ歩き・飲み歩きするグルメイベント。街バルは、数百人~数千人の規模で全国で開催され、特に地方では、地域活性化、町おこしの一環としても注目されており、開催地域も増え開催規模も大きくなってきている(※9)。
福島でも、このたび伊達市保原で行われた「路面電車1116号 修復保存プロジェクト」が呼び水となり、路面電車の良さが見直され、チンチン電車を利用したレトロな街づくりに取り組む地域が現れないかとひそかに期待している。函館のように、市街地を盛り上げるイベントに路面電車が一役買っている事例はおもしろい取り組みである。
地域の公共交通とまちづくりには多くの課題が残されているが、アイディアひとつでレトロなまち、路面電車のあるまち、昭和の香りが残るまち、電車を改装したカフェの営業などなど魅力的なまち活性化策が増えることを期待したい。
<参 考>
【路面電車(愛称:チンチン電車)】
福島交通軌道線(路面電車=チンチン電車)は県北地方の交通機関の主役として活躍。現在の伊達市内と福島市内を結んでいた。明治41年(1908年)、蒸気機関車による軽便(「軽便鉄道」;当初の線路の幅は762ミリ(2フィート6インチ)で東北本線・阿武隈急行の1067ミリ(3フィート6インチ)より狭く、線路の幅が狭いと輸送力や速度は劣るが、建設が容易で車両も小型にできるため、コストをかけずに鉄道を伸ばせる利点があった。)と呼ばれる鉄道が長岡~保原間で開業。その後、大正15年(1926年)に電力化、路面電車として福島~長岡~湯野~保原、掛田~保原~梁川が運行された。路面電車は、一般乗客はもちろん、通勤や通学をする多くの人々に利用されるとともに、地域の特産品のニットや果物等を主流に貨物輸送も行うなど、教育、文化、産業、経済面で大きな役割を果たした。また、運転手や車掌が鐘を鳴らしながら街中を走行した様子から、その鐘の音が由来となり「チンチン電車」の愛称で親しまれていた。
その後、昭和30年代からおこった自動車やバスの普及により、路面の安全性確保の必要性から軌道の撤去が主張され、昭和46年4月12日に61年間にわたる運行を終え、電車は路面から姿を消した。
明治41年4月14日 信達軌道株式会社により福島駅~長岡~湯野 開業(13.3km)
明治41年7月13日 長岡~保原間 開通(4.5km)
明治43年6月18日 保原~梁川間 開通(6.5km)
明治44年4月 8日 保原~掛田間 開通(6.3km)
大正15年4月~12月 各路線の改軌・電化
昭和37年7月12日 社名を福島交通株式会社とする
昭和42年9月16日 聖光学院前~湯野間 廃止
昭和46年4月12日 全路線 廃止
(上記、保原中央交流館展示スペース掲示板「路面電車のあゆみ」より一部抜粋し掲載)
【「輝き」復活応援-よみがえれ、チンチン電車1116号修復保存プロジェクト】
福島交通軌道線は1971年(昭和46年)4月、全線が廃線となった。廃線後、福島交通株式会社より9台の路面電車が各地に寄贈されたが、歳月の中で次々と解体廃棄され、現存する車両は3台。この「1116号」は旧保原町に寄贈されたもの。残念ながら近年は積極的保存作業が行なわれないまま風雨にさらされていた。(中略)地域を少しでも元気づけるために、輝いていたあの頃のシンボルとしてチンチン電車「1116号」に修復を施し、子供たちに先人の苦労と地域の歴史を知ってもらう。これからの地域の希望をたくす子ども達にふるさとへ戻ってもらいたい。子供たちの元気が復興の原動力となってくれるはず。そんな思いから保原ロータリークラブは創立50周年記念事業としてこのプロジェクトに取り組んだ
(※2「よみがえれ、チンチン電車1116号」(保原ロータリークラブHP記事より一部抜粋し掲載))。
<参考資料、出所>
(※1)「チンチン電車披露 保原RC50周年記念事業で復元」(2015/4/19福島民報社web県内ニュース)
https://www.minpo.jp/news/detail/2015041922268
(※2)「よみがえれ、チンチン電車1116号」(保原ロータリークラブHP)
http://www.hobara-rc.jp/cont3/main.html
(※3)「伊達市を結んだ鉄道」(2012/7/5伊達市HPふるさと再発見)
http://www.city.date.fukushima.jp/soshiki/87/142.html
(※4)「LRT(次世代型路面電車システム)の導入支援 日本の路面電車の現状」(国土交通省HP)
http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html#2
(※5)「路面電車推進課からのご案内」(富山市HP)
http://www.city.toyama.toyama.jp/toshiseibibu/romendenshasuishin/romendensha.html
(※6)「これからのまちをつくるライトレールトランジット」(社団法人日本交通計画協会ライトレール研究部会HP)
http://www.jtpa.or.jp/contents/lrt/index.html
(※7)「函館西部地区バル街」(函館西部地区バル街実行委員会HP)
http://www.bar-gai.com/
(※8)「バル街電車」(函館西部地区バル街実行委員会HP)
http://www.bar-gai.com/?page_id=48
(※9)「バルとは?」(全国街バル公式サイト「町バルジャパン」)
http://machi-bar.jp/whatisbar
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
|