昨今の自家用車の普及や少子高齢化・過疎化の進行、または国による乗合バス事業の規制緩和などにより、全国的にバス事業者の生活バス路線からの撤退が続く中、私たちの身の周りの公共交通サービス環境は大きく変化している。
大玉村においても例外ではなく、かつては村内を福島交通(株)の路線バスが運行していたが、赤字などの理由により、昭和60年度に路線が廃止された。
その後、周辺自治体と協力のうえ廃止代替バス路線(補助路線)として運行を継続。平成16年10月から本宮市の協和交通(株)に委託し、広域生活バス(「本宮・岳線」、「本宮・竹ノ内線」の2路線)としてマイクロバス1台を運行している。
しかし、その村内の通過ルートは主に村西部の玉井地区で、村東部の大山地区では一部地域しか通過していないことなどから、路線バスなどの移動手段がない“公共交通空白地帯”が村内に点在している。
また、広域生活バスの外にも、「福祉バス」や「スクールバス」などの公共交通があるが、必ずしも村民の利用ニーズを十分満たしていないのが現状である。
このような状況の中、村は「第四次大玉村総合振興計画」などにおいて「人・モノ・情報が有機的にネットワークするむらづくり」を目指すために、「既存の広域生活バス、福祉バスの維持・確保に努めるとともに、需要に応じて柔軟に運行できるコミュニティ交通システムの在り方を研究していく」としている。
本コラムは、以上のような背景のもと、大玉村が抱える地域公共交通に関する課題、住民ニーズの把握を行い、今後の村にとってふさわしい公共交通体系のあり方を議論していくための基礎資料をとりまとめるため、平成26年度に当センターと共同で調査研究に取り組んだ結果の概要である。
1 大玉村の概況
大玉村は、昭和30年3月31日の大山村、玉井村の合併によって誕生し、以来、郡山市や福島市に近接する住みよい田園地域として発展してきた、中通り地方のほぼ中央に位置する人口約8,500人の村である。高齢化率は25.1%(H27.6.1現在)で、県平均を約3%下回っている。道路は国道4号が村東部を南北に通じ、外に主要地方道1路線、一般県道5路線が村内を走っている。鉄道も村東部を南北に通じているが、停車駅はない(※1)。
また、福島市と郡山市のほぼ中間に位置する交通の利便性に恵まれた地の利を生かして2つの工業団地を中心とした企業誘致が進められ、沿道立地型の商業施設の集積も進み、村東部には大型ショッピングセンターが立地している。
平成22年の国勢調査結果によると、村内で従業・通学する村民の割合は約2割で、村外の従業・通学先としては、本宮市・郡山市が約5割を占めている。従業・通学に際しての交通手段は、自家用車が約8割を占め、一人あたりの自動車保有台数は0.89台(平成25年度末時点)となっていて、県平均を上回っている。
2 村の公共交通の現状
【図1】 「大玉村 公共交通の概況」
|

|
広域生活バスは地元の民間事業者に運行を委託していて、路線は2路線(「本宮・岳線(本宮駅前⇔岳温泉)」、「本宮・竹ノ内線(本宮駅前⇔糀免(こうじめん))」である。
「本宮・岳線」は1日4往復+1片道、「本宮・竹ノ内線」は1日3往復+1片道であるが、マイクロバス1台で2路線をカバーしていることもあり、ダイヤにやや偏りが見られる(※2)。
また過去5年間の利用実績を見ると、利用人数、運送収入ともに減少傾向にある。
平成25年度の収支率は2路線合計で20.7%であり、収支率の低下とともに村の運行負担金(補助金)も増加傾向にある。
3 「郵送アンケート調査」および「広域生活バス乗降調査」
これらの現状を踏まえ、村は、村民の日常生活における移動特性や公共交通に対するニーズや問題点、課題を導き出すために、下記のとおり2つの調査を実施した。
(1)郵送アンケート調査
①実施期間;平成26年8月15日~平成26年9月12日
②調査対象;16歳以上の村民から1,500人を抽出
③回収状況;697人(回収率46.5%)
(2)広域生活バス乗降調査
①実施期間;平成26年11月28日~平成26年11月29日
②調査対象;広域生活バス利用者
③調査状況;46人
なお、上記調査の結果、明らかになった主な点は以下のとおり。
ア)普段の外出で多く利用する移動手段は「自動車(自分で運転)」が79.3%で最も多く、広 域生活バス利用は5.0%にとどまっている。
イ)現在の広域生活バスに「満足している」と回答した人は4.6%にとどまっている。
ウ)広域生活バスをよく利用している人の内訳は、「70歳以上の高齢者」と「19歳以下の若年 者」で62.9%を占めている。
エ)普段の外出で困っている点として挙げられた主なものは、「広域生活バスは便数や路線に 偏りがあり利用しづらい」が17.2%、「自動車やバイクの運転をやめたいが、他の移動手段 がないのでやめられない」が6.9%、「家族や知人に送迎を頼むのは気が引けるので、外出し づらい」が6.6%となっている(なお、「特に困ってはいない」が56.8%で最も多い)。
オ)現在の広域生活バスに満足していない点として挙げられた主なものは、「バスの運行本数 が少ない」が17.6%、「バスの運行コースが自宅近くを通っていない」が14.1%、「利用し たい時間帯に運行していない」が13.9%となっている(なお、「利用したことがないのでわ からない」が54.7%で最も多い)(図2)。
カ)今後改善を要望する点として挙げられた主なものは、「大山地区にもコースを作る」と 「鉄道への乗り継ぎを考慮しダイヤを変更する」がともに15.1%、「日曜日や祝日にも運行 する」が14.6%、「朝・夕の便数を増やす」が13.9%となっている(なお、「利用したこと がないのでわからない」が49.8%で最も多い)(図3)。
キ)今後の村のバス交通についての考えは、「村の財政負担は増やさないで、新たな形の交通 体系を構築する」が35.7%で最も多い。
【図2】 「現在のバス交通に満足していない理由」
|

|
【図3】 「今後、改善を要望する点」
|

|
4 課題の整理と対応の方向性
村の公共交通の現状やアンケート調査等の結果から、問題点・課題を整理した上で、課題の解決に向けた今後の方向性をまとめた結果は図4のとおり。
【図4】 「課題の解決に向けた今後の方向性」
|

|
これらを踏まえ、今後の大玉村における公共交通体系の具体的な見直し・改善提案は以下のとおり。
(1)「広域生活バスの見直し・改善」
(2)「広域生活バスの見直し・改善」+「運行ルートの変更」
(3)「広域生活バスの見直し・改善」+「デマンド型の乗合タクシー1台の導入」
(4)「広域生活バスの見直し・改善」+「デマンド型の乗合タクシー2台の導入」
いずれも、現在運行されている広域生活バスの利便性の向上を図ることをベースとし、さらに(2)から(4)については、プラスアルファの考えとして、運行ルートの変更やデマンド型乗合タクシーの導入も視野に入れた提案となっている。
【図5】 (1)「広域生活バスの見直し・改善」
|

|
【図6】(2)「広域生活バスの見直し・改善」+「運行ルートの変更」
|

|
【図7】(3)「広域生活バスの見直し・改善」+「デマンド型の乗合タクシー1台の導入」
|

|
【図8】(4)「広域生活バスの見直し・改善」+「デマンド型の乗合タクシー2台の導入」
|

|
以上、具体的な見直し・改善提案まで紹介したが、今後、実際に検討を行っていくに当たってはこれらの提案ありきで進めていくのではなく、
“村民と共に考える場”を設け、村民の意向も取り入れながら方向性を検討し、見直しに取り掛かる必要がある。
また、これらの見直し・改善を進めていくに当たり、コストの検討についても避けては通れない大きな課題となる。現在の広域生活バスを維持するだけでなく、新たにデマンド型乗合タクシーを導入するとなれば、運行委託費用などが新たに発生する。
郵送アンケート調査の結果にもあったように、今後のバス交通に関する村民の意見は、「村の財政負担は増やさないで新たな形の交通体系を構築する」という回答が最も多かったことも考慮しつつ、費用対効果についても大切な検討材料のひとつとして認識していかなければならない。
当調査研究に当たり、平成25年度の広域生活バスの補助実績等を踏まえ算出した各提案の想定運行経費(1年間)の比較は、図9のとおり。
【図9】 各提案の想定運行経費(1年間)の比較
|

|
なお、デマンド型乗合タクシーについては、タクシー事業者が所有する車両を1台借上げ、運行費を定額で支払う方式を想定し、以下のとおり試算した。
ア)試算にあたっての条件
・1時間当たりの運行経費を2,500円と想定(車両の運行に関わらず定額保証)
・1日の稼働時間は8時間、月曜日~金曜日の週5日運行
・契約台数は、タクシー1台(ジャンボタクシータイプ)
・委託運行経費には、運転手人件費、燃料代、車両の維持管理代、保険代、自動車税等全て含 みとする
イ)運行委託費試算(1年間)
@2,500円*8h*週5日=100,000円、
100,000円*4週間*12ヶ月=4,800,000円≒5,000,000円(1台当たり)
よって、新たにコストをかける手法を選択する前に、まずは現状で可能なところから取り掛かるとすれば、「公共交通の利用しやすい環境づくり、広報宣伝の取り組み」、「地域の交通・移動手段は、自分たちで作り育てるという意識づくり、啓蒙活動」、「タクシー会社などの交通事業者による協力姿勢の醸成」などから始めてみるのはどうだろうか。
今後の村の公共交通について、“当事者意識を持って真剣に考えていく気運を高める”ことが重要である。
5 大玉村における今後の展開
地域公共交通の現状や課題は地域によって異なることから、成功した他の自治体の事例をそのまま当てはめるだけでは、根本的な解決にならない場合がある。
地域公共交通の計画作りは、法的に位置づけられた法定協議会や地域公共交通会議などを設置して関係者が話し合っていく方法が標準的な手法であるが、最も大切なことは、地域の関係者が集まり、地域にふさわしい公共交通の在り方について忌憚のない意見交換を行い、知恵を出し合うことではないか。
大玉村においても、新たな公共交通体系の計画作りを行っていくためには、今後のまちづくりの在り方を踏まえ、村民の生活に密接に関わる公共交通について知ってもらい、共に考えることから始めていくことが求められる。
村は、今回の調査結果を基に、今後の公共交通体系の在り方に関する検討を本格化させていく意向である。
是非、より良い方向性を打ち出し、村民の生活に役立つ地域公共交通ネットワークを作り上げていただきたい。
<参考>
(※)大玉村、ふくしま自治研修センター「平成26年度 共同調査研究事業成果報告書/平成27年3月」(公益財団法人ふくしま自治研修センターHP掲載資料)
http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/kyoudou-tyousa/kyoudoutyousa.html
<参考、紹介記事の出所>
(※1)「大玉村HP」
http://www.vill.otama.fukushima.jp/index.html
(※2)「広域生活バス 時刻表」
http://www.vill.otama.fukushima.jp/profile/jikoku.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
|