2015.5.1
  「観光物産PR活動に臨むにあたって」

                                         主幹  植田 浩一


  現在、福島県は、平成274月から6月まで開催されるデスティネーションキャンペーン(DC)のまっただ中である。
 421日付け新聞報道によると、61日からは県内の宿泊施設を割安に利用できる旅行券(1万円の旅行券が5000円、6000円の旅行券が3000円で購入できる)をコンビニエンスストアのチケット端末等で購入できるようにするという。高級リゾートホテルや老舗旅館に割安で宿泊できるチャンスであり、福島ファンにとってはたまらない企画である。
 また、425日からは、磐越西線の郡山駅~会津若松駅で「走るカフェ」フルーティアふくしまの運行もはじまった(628日が最終運行)。優雅で快適な車両で福島県産フルーツなどを使用したオリジナルスイーツを味わいながら、のんびりと初夏の福島を目で舌で楽しむのもオツなものではないか。
  いずれにしても福島をどうやって堪能し尽くすか想像するだけでも楽しい。630日の最後まで福島DCがどれほどの盛り上がりをみせるのか期待が膨らむばかりである。

 当ふくしま自治研修センター政策支援部でも、DCの盛り上げに一役買うべく、平成26年度の情報提供事業において、県内自治体に対し「観光物産PR活動のヒント」なる現場でのノウハウ集を作成し、平成272月に送付したところである。
 本稿では、その中から改めて、自治体職員等がイベント時に地場産品等の販売員として、あるいは地域の観光物産資源のPRを行う者として「現場に臨むとき」に最低限必要ではあるが、およそ誰も教えてくれないポイントをピックアップし情報提供することとしたい。

【接客時の心構え】
①客の側にたったホスピタリティ
 まず、対人サービスを行う際の第一歩は接客マナーであることはいうまでもない。最低限、服装などの身だしなみや言動には注意したい。これは観光物産PR活動でも同じである。
 そこに対症療法的な気配りだけでなく、感謝の気持ちを持ちつつ、自分の大切な人に接するときのように心を込めて接し、客が求めるものを超える一歩踏み込んだサービスが提供できれば「最高のおもてなし」ということになる。
 この「客が求めるものを超える一歩踏み込んだサービス」は、自分が消費者の側だったら何が一番感動するかと深く考えることからはじまる。PR対象によって異なるが、費用対効果も含め参加者全員でそれを議論し、準備できるものは準備したうえで臨めばより効果的なPR活動になるのは間違いない。

②熱意を持って取り組む
 客も人の子である。一生懸命声を張り上げ、汗をかいてPR活動を行っている人を応援したくなるのは当然である。職員が頑張っているのが目に見える形で客に訴えかけることが重要である。
 ただ、耳障りなくらい声を張り上げたり、頑張りすぎて見た目で疲れ切った姿でPRし続けるのもマイナスイメージになることがあるので注意したい。とはいえ、商品を並べてさえ置けば売れる、まちをPRできる、ということは絶対にない。全くやらないよりは過度にやったほうが回りの人間が制御すれば良いだけの話なので、イベント等に出展するような場合は、どうすれば自分達のまちの産品や観光地が効果的にPRできるのか事前に考えたうえで戦略的に取り組みたい。

③自然体で接する
 基本的に観光客はその土地の住民と同じ空間、同じ時間を共有するために訪れるものである。したがって県外等で観光物産PR 活動を行う際にも、着飾らず地元の言葉、普段の格好でPRすればよい。
 ここで注意しなければならないのは、ケースバイケースではあるが、着飾る必要はないが、清潔感のある身なりでPRすることである。例えば東京の一等地で泥のついた作業着姿でPRした場合、注目は集めるだろうし、面白いと思う人もいるだろうが、マイナスイメージを持つ人も少なくないだろう。
 また、生産者に直接PRしてもらったほうが本人のためでもあるのだが、どうしても接客が苦手な人あるいは不向きな人もいるので、強要は避けるべきである。

以上、①~③が重要なポイントではあるが、つまるところ接客とは人と人とのコミュニケーションの問題なので、最終的には接客する人の人柄に行き着いてしまうものでもあることも明記しておきたい。

【接客時の基本的なルール】
 ここでは以下に思いつくまま接客時の基本的なルールを列挙する。なお、接客時の最重要ポイントを一言でいえば、客側の気持ちに立った接客ということにつきる。
○だらしない服装での接客は不可
○私服で接客する場合は、上着に当該自治体等の法被等を羽織ることで印象が変わる(ただし、職員の服装を当該自治体やイベントのためのTシャツ等で参加者全員が統一するような場合は、ジーパンにTシャツでも良い場合もある)
○職員は客の通行を妨げない位置に立つこと
○特に狭い店舗の場合、職員の配置や向き(職員を置きすぎない、職員が一斉に入口方向を向いたりすると入りにくい)に気をつけたい
○目につく場所に在庫を置かないこと
○試食や商品が散らかっていたらすぐ整理すること
○客の都合を優先すること(例えば、品出し等の作業中でも客がレジ前に並んでいたらそちらを優先する)
○商品がどこにあるか分からないときは、放っておいたり客任せにせず自らが動いて担当者に確認すること
○当日、客が要望する商品がない場合でも、別に販売している場所や問い合わせ先等を正確に伝えること
○特産品や観光名所等の問い合わせに関し客を待たせるときは時間があるかどうか確認すること。すぐに返答できない場合は、連絡先を聞いて、速やかに聞かれた情報を連絡すること
○客の勤務先、家族構成、学歴、趣味等々のプライバシーには基本的に立ち入らないこと。聞いたほうがより良い商品提案ができるような場合はその理由を説明すること
○話好きの客であっても邪魔にしたりはせず、もし仕事に支障が出るようなときは、他の職員に途中で入ってきてもらうなどの対応を行うこと
○話しかけても無言の客には、いったん離れて様子見しつつ客の雰囲気に応じて再度声かけすること
○品位を下げるような言動は行わない(例えば、他自治体の悪口をいう、何でもいいから早く買ってくれというような態度をとる等々)こと
○子連れの客に対しては、手の空いている職員がいるような場合は、客の了承を得た上で可能な限り子どもを見てあげると客が集中して商品をみやすくなる
○複数の客から一度に声をかけられた時は基本的に最初に声をかけられた方から対応し、もう一方の客は他の職員に引き継ぐべき。ただ、ごく簡単な質問等の場合は、最初の客に断りを入れたうえで対応することもあり得る。いずれにしても待たされるほうの客の気持ちを考え迅速に対応すること
○客によって態度を変えたり、ぴったりと付いて回ったり、客がいるところでコソコソ話をしたりするようなことは行わないこと
○客が商品を壊してしまった場合は、まずは客の怪我の有無を確認すること(商品の弁償については次の段階)
○接客中に電話が鳴り続けた場合、別の職員に出てもらうのが基本だが、誰もいない場合は客に断りを入れたうえで出て、後でかけ直す旨伝えること
○年配の客が来店したら、状況に応じ、「何かお手伝いすることはありますか」という旨の声かけを行いたい。また、できるだけ大きな声でゆっくり話をするとともに、気軽に「おじいちゃん」、「おばあちゃん」とは呼ばないこと
○休憩時間であっても客は職員を見ているので、自覚ある行動を取ること
○客が店を出るときは、たとえ接客しなかった客の場合でも退出された方を向いて「ありがとうございました」とお辞儀をすること
○客が他に商品を持っている場合、大きめの紙袋等を用意する等の配慮も必要

【客の呼び込み方法】
  特にイベント時には「一見さん」(新たな顧客)に寄っていってもらう方法として職員が店頭に立って声を出して呼び込みをすることがまずは重要である。声を出さないと客が気付かずブース等を通り過ぎてしまい、販売・PRの機会を失う可能性があるからである。
 話す中身については、例えば以下のようなものが考えられる。

○基本形として→「福島県■■まちです。いらっしゃいませ。ご覧くださいませ。」
○その季節の旬の商品を試食販売する場合→「福島県■■まちです。今が旬の■■お持ちしました。ご試食いかがですか。」
○試供品の無料提供を行っている場合→「福島県■■まちです。ただいま■■を無料でお配りしております。お立ち寄りくださいませ。」

 上記の例のように客に基本情報を伝えるのには3センテンス程度がちょうどよい。それ以上だと客が通り過ぎてしまうし、職員の負担も大きい。
  忙しい場合などは「福島県■■まちです。いらっしゃいませ。」もしくは単に「いらっしゃいませ。」を連呼してもよいかもしれない。客が立ち止まってこちらに興味を示してもらった場合のみ「今が旬の■■お持ちしました。ご試食いかがですか。」とやってもよい。試食がある場合は、声かけに併せて試食品をさりげなく差し出しブースに興味を持ってもらうようにすると効果的であろう。
 なお、呼び込み時には以下の点を注意点したい。
  第一に、あくまでイベントが許された施設やスペースの中でのみ呼び込みを行うようにしたい。歩道まではみ出してPRしたりするのはルール違反(道路使用許可が必要)である。
 第二に、客への試供品や試食の押しつけのような行動はPRの逆効果になることを理解しておきたい。
 第三に、無愛想で機械的に試供品や試食を手渡すような行動も逆効果になりかねない。■■まちの代表との気持ちで、おもてなしの心を持って、明るく元気に呼び込みを行いたい。
  第四に、呼び込みを続けるとテンションが上がり「持ってけ泥棒」的なサービスをしてしまうケースもみられるが、回りの人間が制止するなどして冷静に対応したい。
  第五に、熱意はわかるが、声を出しすぎたり、ずっとやり続けたりすると、文字どおりその日のみで燃え尽きてしまいかねない。マイペースで過度に頑張り過ぎないで、他の職員と交替しながら行いたい。

商品の並べ方・見せ方
①商品の陳列は大人の目線から膝程度の高さに
  スペースの問題もあろうが、商品を陳列する際にはできるだけ大人の目線程度の高さから膝程度の高さの間(150センチメートルから60センチメートルくらい=ゴールデンゾーン)に陳列したい。それより高いと届きにくいし、それより低いと、かがんで見なければならないという問題があるとともに、靴などによりホコリがたまりやすい、不意に商品を蹴ってしまう、といったことがあるからだ。
  なお、人間の習性により、商品を棚に並べるときは、右側より左側のほう、下より上のほうに商品を置くと目につきやすく売れる可能性が高まる。

(ゴールデンゾーンの陳列例)



*左側の写真:一番下の棚はできれば商品設置以外に活用したい。
*右側の写真:ひな壇陳列にもなっている。

②商品は常にキチンと並べる(量感陳列)
 商品をPRする場合の基本的な陳列方法には、大きく「量感陳列」と「展示陳列」の2つの仕方がある。前者は、商品棚等にまとめて陳列することでボリューム感や活気、安さ等を演出する手法、後者は、商品の魅力を強調したり商品特性を目立たせるためショーウィンドウ等に文字どおりディスプレイする手法である。
 自治体等が観光物産PR活動を行う際のポイントとしては、量感陳列では、高さや目線を合わせる形で商品を整然と並べることがまずは大事である。加えて、商品が売れて少なくなった場合は適宜補充する(品出し)とか、棚の前方が売れたら奥の商品を前方に持ってくる(前出し)、あるいは商品が横を向いていたら正面に向ける必要がある。したがって職員は売り場をマメに巡回し商品チェックすることが重要となる。

(量感陳列の例)


③一押しの商品は目立つところに(展示陳列)
 当然のことではあるが、観光物産PR活動を行う際の一押しの商品については、クローズアップポイントをつくり一番目立つところに置くべきである(ショーウィンドウやショーケースの活用等)。その商品が誘導灯となって客が店舗内に入り回遊するからである。
 一押しの商品は、常設店舗であればその時期の旬の商品、イベントの際であればその地域の一番人気(一番売りたい商品ではない)の商品が原則である。
 その際にはただ置けばよいわけではなく、見せる工夫が必要である。イベントの内容や店舗の雰囲気、商品特性等にもよるので一概にはいえないが、例えばアスパラガスであれば、ザルに竹笹を敷いたうえに数本を飾り付けプレミアム感を出すといった仕掛けがあると見栄えがよくなる。

(展示陳列の例)


④関連商品を組み合わせて置く(コーディネート陳列)
 常設店舗はいうまでもなく、1日や短期のイベントのような場合は置く商品の点数も限られるので難しいかもしれないが、関連商品を組み合わせて提案型の商品設置ということが重要である。例えば、地元産の塩麹と地鶏をレシピ付きで設置するなど、わかりやすい組み合わせで置くと効果的である。

⑤いろどりを考える
 地場産品は同じ色に集中しがちになる。茶色の漬物・みそ・ジャム、灰色の缶詰・袋など。どんよりとした売り場にならないように、いろどりの工夫が大切である。商品選定の際は、自分のまちの商品を並べてみて、いろどりを眺めてみることも必要である。

⑥その他
 商品の並べ方・見せ方のテクニックとしては上記以外にも様々な方法がある。自治体が観光物産PR活動をする際に参考になりそうなものを以下に記載する。
○レジ前陳列・・・文字どおりレジ前に気軽に買い物カゴに入れられる商品を置いておくことである。キーホルダー等の小物類や小袋のお菓子類が特に効果的。
○前進立体陳列・・商品の迫力を演出する方法で、商品を複数列に置く、または複数列で積み上げる方法。
○ひな壇陳列・・・先の写真のように、ひな壇のように商品を階段状に陳列する方法。数多くの商品が遠目からも見やすくなる。
○フック陳列、ハンガー陳列・・衣料品などの物産を販売する場合は文字どおりフックやハンガーを活用する方法。ディスプレイとしても使える。

なお、商品の並べ方・見せ方は最終的には担当者のセンスによるところが大きいことから、担当者が自治体アンテナショップに限らずたくさんの民間店舗やイベント等を、「意識を持って」視察し並べ方・見せ方の経験値を高めていくことが重要である。

【その他のポイント】
①商品説明
  商品説明に際しては、職員が商品や観光メニューを実際に試食、体験して、自分の言葉で語れるようにしておくことが何より大切となる。また、商品の中身を知っていても、接客のタイミングで伝えられなければ何にもならないので、伝え方も練習しておくことが必要である。
 例えば、この商品をワンフレーズで言ったら何か?「いかにんじん」「福島の松前漬」など。

 また、他自治体(例えば、姉妹都市や防災協定締結都市)等の名産品を販売したりすることもあり得るが、その場合も、自分で試食したうえで商品の説明ができるようにしておきたい。

②賞味期限と品質のチェック
 通常はレジを通すときに賞味期限切れの商品であれば分かるようになっている場合も多いだろうが、そこは最後の砦であり、そこで期限切れが判明すると消費者の店舗管理への不信感が増してしまうので、その前に日々の商品チェックで賞味期限を確認しておきたい。
  特に新たに届いた商品については全商品賞味期限の確認のみならず、目視で商品の変形や袋の破れ等にも目配りしたい。
 イベント時等には、通常販売している人だけでなく、慣れていない人が販売に携わるケースも多々あるだろうが、最低限の確認作業は全員で行いたい。

 以上のように本稿では、自治体職員が実際にイベント等の現場に「臨むとき」の対応に重点をあてたが、「臨む前後」にやらなければならないこともたくさんあることはいうまでもない。また、本稿で書いたようなことに絶対的な正解はない。一つの参考意見だと思っていただきたい。
 なお、この他にも、観光物産PR活動時には様々なポイントが考えられる。興味のある方は、ふくしま自治研修センター政策支援部にお問い合せいただくか、県内自治体の方は既に送付している「平成26年度情報提供事業 観光物産PR活動のヒント」を参照していただきたい。
あるいは以前の筆者のコラム「県産品のPR・販売の現場で感じたこと」(平成251128日)http://www.f-jichiken.or.jp/column/142/ueda142.html)も参考にしていただきたい。

人口減少、少子高齢化の進展とグルーバル化によって地域間競争が激化する中、今後は、福島の復興、あるいは地域活性化のためにも本格的なインバウンド(外国人旅行客を呼び込む取り組み)が必要不可欠になる。
  その前段階として、このDCという機会に地域が一丸となり、本気で福島の良さを発見・再認識するきっかけとしなければならないし、DC後もその成功体験、得たノウハウ、人脈等を持続的に有効活用していくことが重要だと思う。
 関係者の頑張りに期待したい。



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません