2015.8.19
  「理想的な移住者受入方法について考える」

                                         主幹  植田 浩一


<1 はじめに>
 現在、各自治体は自治体版まち・ひと・しごと総合戦略策定のまっただ中である。その中で今後の人口ビジョンをどう描き、もってどのような対策を打っていったらよいか頭を悩ませているところではないか。
  一方で近年、人口減少、少子高齢化の進展により、自治体による移住者の誘致合戦が激化している。例をあげると、筆者が県の東京事務所で定住・二地域居住施策を担当していた平成19年当時、認定NPO法人ふるさと回帰支援センター内に専従相談員による相談ブースを構えていたのは他ならぬ福島県だけだった。それが今年の4月時点では、27県1政令市にまで増えたという。それだけ各自治体とも移住推進活動に力を入れてきているわけである。
 いうまでもなく地域の人口を増やすには、現在当該地域に住んでいる世帯が新たに子どもをつくるか、他の地域や外国からの移住者を増やすしかないが、本稿では地方創生の文脈から、後者のうち他の地域からの移住者、特に都会から地方への移住者にスポットを当てて考えていきたい。
  ところで、どのように移住者を受け入れたら地域が活性化するのか。単に希望者をどんどん受け入れ人口を増やしたらそれで良いのだろうか。
  この問いに対するひとつの答えが、810日に当センターが主催する政策研究会で講演いただいた島根県中山間地域研究センター研究統括監 藤山浩氏の話(演題「田園回帰1%戦略題~地元に人と仕事を取り戻す~」)の中にあった。
 本稿では、改めて自治体における理想的な人口構成を確認したうえで、藤山氏が提唱する「人口1%取り戻し戦略」を紹介するとともに、移住相談にあたってのポイントを考えてみたい。

<2 理想的な人口構成とは>
 まず地方自治体において目指すべき理想の人口構成とはどのようなものかを確認したい。わかりやすくするため極端な例で考えると、例えば、平成27年現在、人口1000人の自治体に「1年間だけ」40歳の移住者夫婦を延べ200人受け入れた場合、いうまでもなく人口構成の40歳の部分だけ200人分増え「いびつ」な形になる。その後、人口構成の形状に変化がないまま25年経過し平成52年になると、そのまま65歳の部分のみ「いびつ」になる。そうすると、その前後数十年程度はこの自治体は高齢者施設が不足してしまう。しかし一方でその後、この200人が亡くなればそれらの施設がムダになる可能性が高くなる。
 現実の世界をみても、近年、全国で小中学校が毎年、約500校廃校となっている。これは学校を建設した数十年前に比べ少子化によって人口構成の小中学生の該当部分が「いびつ」になったせいで公共施設が不要になった典型例である。
 このように、人口構成上、特定の年代で「いびつ」な形になると、長期スパンでみて、一時的に高齢者施設が不足したり、小中学校舎が不要になったり等といったムダが生じる可能性が高くなる。
 したがって、あくまで理想ではあるが、地域経営上の望ましい人口構成とは、それぞれの地域の「もっとも良き時代」の人口総数が維持され、年少人口、高齢者人口、生産年齢人口の人口構成比率が一定割合で安定的に推移することである。

 平成26年度の政策研究会の講演でも()日本総合研究所調査部 藻谷浩介氏は以下のように述べている。
  一番究極の姿は長野県下條村。ご覧のとおりひととおりあったあと20年前から現役が横ばいになっており、10年前から高齢者が微増、20年前から子どもも微増している。このシステムが続くとすると、高齢者が横ばいなので年金収入が減らないし、病院もできたりつぶれたりする必要がない。子どもも減らないので学校がつぶれたりしない。現役が減らないので居酒屋がつぶれることもない。すごくまちが安定する。地域振興とは結局、日本あるいは世界下條村計画のこと。」

 一般的な地方自治体の場合、18歳ごろに大学進学で子どもたちが首都圏等に流出しその分人口が減少してしまうが、大学卒業後は流出したほど地元自治体には戻ってこないケースがほとんどである。
  一方、多くの地域で「もっとも良き時代」のころは、相対的にこういった「地域に元気を与える年齢層」(概ね20代~40代)の首都圏等への流出は少なく、また地元への戻ってくるケースが多かったのではないか。
  つまり、当該自治体の人口構成上、「もっとも良き時代」のころと比較して、ある世代が「いびつ」な形になっている場合があるとすれば、その世代の人口をUIJターン等で首都圏等から「取り戻せれば」人口構成がなだらかになる。ここが当該自治体における大きなターゲット層になるのである。

<3 人口1%取り戻し戦略>
 もちろん、ターゲット層をうまく地方に取り戻せるかといえば、皆それぞれの人生があり、仕事、子どもの学校、住宅事情等々によりそんな簡単にうまくいくはずもない。
 ひとつのモデルケースではあるが、前述の藤山氏等の著書をベースにした「国のグランドデザイン2050 参考資料」に掲載された試算(図1)では、山間地域のモデル集落1000人の人口安定化のため首都圏等から30歳代前半の夫婦と04歳の子ども1人の世帯2世帯と、20歳代前半の男女各2人の合計10人、すなわち1%を取り戻すことで、2050年に向け、総人口は若干減るものの、小中学生の人口が概ね維持できるとともに、高齢化率が低下することで集落が維持できるとしている。

(図1)


出所:国のグランドデザイン2050参考資料[2](平成267月 国土交通省)

このように、人口減少、少子高齢化が進む中、各自治体が今後の地域づくりを考える際には、これだけ人を増やせば地域が維持できるという具体的な目標を持ったうえで施策を進めることが極めて大事になる。
 ところで、藤山氏によると、30代、20代をモデルケースとしたのは、この年代が人生で一番人口移動の可能性が高い世代だからだとのことである(なお、先の研究会のレジュメではさらに移動する可能性のある60台前半男女も試算に加えている)。
 また藤山氏は、人口をゆるやかに時間をかけて取り戻すことが重要だとも強調している。その理由は前述のとおり、ある年、ある年代だけ大量に移住者が増えれば、地域経済上、人口構成上、ゆがみが生じ長期的なまちづくり・地域づくりにとって好ましくない副作用が発生する懸念があるからだ。
 なお、上記は1000人の集落をモデルに計算しているが、対象を自治体全体に拡げても計算できるだろう。もちろん、各集落ごとに人口安定に寄与する移住者層やその数を計算し、それを積み上げたほうが効果的な移住政策を計画できるのはいうまでもない。

<4 移住相談にあたってのポイント>
 ここでは移住相談にあたってのポイントについて、各ステークホルダー(移住希望者、受入地域、相談窓口、地元自治体)ごとに考えてみたい。
 そのポイントを端的にいえば、いかに移住希望者と受入地域とのマッチング、いわば「お見合い」がうまくいくかにかかっている。
  まずマッチングの大切さを説明したい。何を目的に移住するかは人それぞれであり、そもそも移住すること自体その人の人生にとって大きなことである。一方で地域のしきたりや風習、伝統などは地域の存在意義そのものである。したがってマッチングにあたっては双方の考えを尊重しなければならない。
  特に人口の少ない集落に移住すると、お互いのふだんの行動が丸わかりになるくらい「濃い」関係になるケースが多く、その人間関係がイヤで都会に戻るといった話もよく聞く。
  こういった当該地域のしきたりや風習、伝統などについては、話を聞くだけではわからない場合も多いことから、地域に実際に行ってみて(できれば一定期間、仮移住して)当該地域を体感することが大事である。
  そのうえで、各ステークホルダーは以下の点に留意、もしくは体制を構築しつつ移住相談を行いたい。


移住相談にあたってのポイント

移住希望者

○移住する目的(何がやりたいか等)をしっかり持つ
○移住先の条件をリストアップしておく
○相談窓口に上記の希望をしっかり伝える

受入地域

○そもそもどんな人に来てもらいたいか明確な考えを持つ
○地元自治体とともに地域の特徴やセールスポイントを整理しておく
○地元自治体職員だけでなく、受入地域にも移住者の「世話役」をつくっておく
○先輩移住者がいる場合は、新規移住希望者の相談に乗ってもらえるような体制をつくっておく

相談窓口

○受入地域や地元自治体の意向をしっかり把握しておく
○受入地域や地元自治体の特徴やセールスポイントをしっかり把握しておく

地元自治体

○受入地域の意向をしっかり把握しておく
○受入地域とともに地域の特徴やセールスポイントを整理しておく(特に首都圏等相談窓口向けに地域の特徴等が分かりやすいPRペーパーを作成)
○各集落・地域ごと、望ましい年齢層や数を推計し受入地域や相談窓口に伝えておく

この中でも特に強調したいのは、地元自治体が、各集落・地域ごと、望ましい移住者の年齢層や数を推計し受入地域や相談窓口に伝えておくことである。その理由は前述の<2><3>で述べたとおり、長期的な地域づくりをふまえ、各集落・地域の人口構成上うまくフィットするように移住希望者を誘導できれば最高だからである。
 また、相談窓口として、地元自治体の窓口(役場の移住担当者や委託先等)と首都圏等の専門窓口が想定できるが、それぞれが連携を密にして情報を共有することが大事である。
  特に首都圏等の相談窓口(福島県でいえば、ふるさと回帰支援センター内に設置する「ふくしまふるさと暮らし情報センター」)は、移住希望者の相談を聞きながら、それにマッチするような自治体を推薦するようなことも相談員独自の判断で行うこともあり得よう。したがって、首都圏等の相談窓口には、各自治体ごと工夫を凝らし当該地域の特徴等が分かりやすいPRペーパーを作成し渡しておくことが重要となる。
  いずれにしても、まずは受入地域、各相談窓口、地元自治体の連携がより密になるような仕組みを講じることがこれらの大前提である(ふるさと回帰支援センターで行われている各種セミナーもその一種と捉えられる)。

<5 おわりに>
 定住・二地域居住政策として福島県でも各地域と移住希望者とのマッチングは行ってきたが、とにかく定住・二地域居住者を増やそうという発想が先にたち、この自治体ましてやこの集落にこの程度の人が定住すれば地域が維持できるといった発想まではなかったように思う。今後はそういった地域の将来像も意識しながら移住者の受入を行っていく必要があろう。
  そのためにも今回の総合戦略策定時には、それぞれの自治体が考える住民生活の基本単位(大字、字単位なのか、いわゆる集落単位なのか、学校区単位なのか等)ごとの綿密な人口ビジョンを策定するとともに当該地域の特徴・強みを明確に示す必要があると考える。

(参考資料)
○ 国のグランドデザイン2050参考資料[2](平成267月 国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001060276.pdf



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません