2016.3.9
  「公的不動産の証券化について~ガバメントリートの可能性~」

                                         主幹  植田 浩一


  現在、全国の各自治体は、人口減少社会等を見据え公共施設等の維持管理等に関する考え方を示す「公共施設等総合管理計画」の策定に汗を流している。
  そしていくつかの自治体では、その先の課題である「個別施設ごと具体的にどのように施設の再編等を行うか」を行うため、その基本的な方針となる「公共施設等再配置等基本方針(仮題)」を住民の意見をふまえながら定めようとしている。
  しかし、一概にはいえないが、一部の地域では身近な公共施設等が廃止され住民の利便性が低下する可能性が高いことから、財政健全化のためだから公共施設等を再編するのは良いが自宅近くの施設を再編対象にするのは止めてもらいたいといった「総論賛成、各論反対」になる可能性が高い。
  したがって、住民の納得度が高く地域の実情に合ったように公共施設等を再編するべく、何度も住民勉強会、話し合い、ワークショップ等を行い、「自分のまちのため」という意識を醸成していくしかないものと考える。
 併せて、どこに再編等するのか(場所)だけでなく、どのように再編等するのか(建設・維持管理・運営方法)も問題となってくる。
 これにはPFIをはじめ様々な方法が考えられる(例えば、本コラム欄「公的不動産(PRE)マネジメントとPPP/PFIの活用について」(平成271216日付け拙著))が、http://www.f-jichiken.or.jp/column/235/ueda235.html)本稿では、不動産証券化手法のうちリートを活用した手法について、現時点での使われ方を紹介するとともに、公的不動産自体をリートの運用対象資産に組み入れる場合(ガバメントリート)の課題等について考えてみたい。
  なお、本稿は分かりやすさとアイデア出しを優先するため厳密性に欠く内容であることを予め了承いただきたい。

 まず、ごく簡単に説明すると、リートとは不動産証券化の一手法であり、不動産投資信託(REITReal Estate Investment Trust)のことである。一種の上場不動産投資ファンドといえ、投資法人(リート)が投資口(株式)の発行や債券、銀行融資等で資金調達し、複数の不動産に投資する。そして投資不動産からの賃料収入や売却益をもとに分配金(配当)を出す。投資家はファンドの値上がりと定期的な分配金を狙って投資する。
  誌面の関係上、詳細な説明は割愛するが、もう少し詳しいリートの仕組みについては、例えば、本コラム欄PFIをめぐる新たな動きとヘルスケアリートについて」(平成26717日付け拙著)http://www.f-jichiken.or.jp/column/167/ueda167.html)等を参考にしていただきたい。

ところで、既に公的不動産の有効活用のためリートの仕組みを組み合わせた事例もいくつか出てきている。「公的不動産(PRE)の活用事例集」(平成275月 国土交通省(不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会))から、以下に二つほど事業概要を紹介する。
【南青山一丁目団地建替プロジェクト(東京都港区)】
○東京都が定期借地権(事業期間70年)により、都有地を民間事業者に貸付け、民間事業者は当地に複合施設を建設し、建物内に都は都営住宅、港区は保育所及び図書館を保有。同じ建物内には、民間事業者が所有・運営する、賃貸住宅、商業・業務施設、駐車場、都市活動支援施設、グループホームがある。
○このうち民間事業者が賃貸住宅部分をリートに売却し資金回収を早めた。都はこういった将来の資産譲渡を許容することも公募条件とした。
○当スキームのポイントは、都としては、遊休地を民間に貸付け、賃料収入を得られること(場所が良かったせいで想定を超える提案が民間から出された)。民間事業者としては、都から事前に資産流動化を認められたことで利益確保のためのインセンティブが得られたことである。

【広島ロジスティックセンター整備事業(広島県)】
○広島県が財政健全化に資するため物流事業者に貸していた県有地を不動産証券化スキームを前提として当該物流事業者に売却。物流事業者は、取得した県有地と民間施設を併せて不動産信託受益権にしてリートに売却し、15年間の定期建物賃貸借契約により使用し続けることとした。
○当スキームのポイントは、広島県としては、県有地の売却によって収入を得たこと。民間事業者としては、不動産信託受益権にしてリートに売却したことで、今の場所で財務に負担をかけずに物流施設を使い続けることができたことである。

 上記の事例では自治体、民間事業者、リートの3者それぞれがWin-Winの関係を築いているスキームということが分かる。自治体にとって、収入が入るのが良いことなのはいうまでもないが、民間事業者にとっては、資金回収を早めるため、当該施設を適正価格でリート(商業施設リート、物流施設リート)に売却しオフバランスできるのは良いことである。もちろん施設を引き受けたリートにとっても新しく優良な運用資産を組み入れることができるのなら良いことである。なお、いうまでもないがこれらにまつわる諸リスクは基本的にすべてリートの投資家が背負うことになる。
 ただ、上記の例を見ても、関係者の課題解決のためにリートを間接的に活用しているのであって(もちろん良いことなのだが)、リートが公的不動産自体を所有したうえ運用しているわけではない。 
 筆者が今後、検討すべきではないかと考えるのは、リートが公的不動産を所有するスキームである。

<リートの基本的なスキーム>

 
 出所:一般社団法人投資信託協会ホームページ

 まず、筆者が考えるスキームを簡単に説明したい。端的にいうと、上図でいうところのJ-REIT(投資法人)が投資する不動産市場の中に「公的不動産」(例えば、庁舎、図書館、公民館、病院、保育所、学校、公営住宅 等々)を組み込むというものである。
  公的不動産は、基本的にリースバックし、リートに賃料を支払いながら使用する。リートは公的不動産からのキャッシュフローをもとに投資家に分配金を支払う。
  投資対象が公的不動産であることから、リートの中では相対的にローリスク、ローリターンの商品になることが想定される(現在はキャップレート3%程度のリートが多いが、それよりも利回りは低くなることが予想される)。
 なお、公的不動産の組み込み方によって多少なりとも商品特性が変わってくる可能性はある。例えば、「福島県内の全自治体の庁舎を資産として組み込んだリート」という商品もあれば、「A市の庁舎、図書館、公民館、病院等々すべての公的不動産を資産として組み込んだリート」や「東北地方の図書館を資産として組み込んだリート」という商品もあり得る。

 では、自治体が公的不動産の有効活用を考える際に、リートを活用することによる自治体や地域にとってのメリットはどのあたりにあるのか。以下のような点が考えられる。
 第一に、いうまでもないが、自治体はリートに公有の遊休土地や建物を売買することですぐに収入が入ることである。これによって、自治体の財政健全化につながる。
  第二に、例えば、上述の商品例でもふれた「福島県内の全自治体の庁舎を資産として組み込む場合」で考えれば、単独ではPFIに取り組みにくい小規模な庁舎、もしくは小規模な自治体でもこのスキームに参加できる可能性が出てくるということである。
 第三に、特に建物の場合、公的不動産をリートに売買後もリースバックして使い続けられることである。この場合、売買年度に自治体に収入が計上され、その後、使用期間中、リートに使用料を払って自治体が使い続けることになる。つまり割賦払い的な意味合いとなる。ただこれは、財政負担を先送りしているということでもある。
 第四に、今後、自治体会計も民間企業会計に準ずるような形になるとともに、資金調達において自治体間の金利差が多少なりとも顕在化するようになるなら、財務改善のためバランスシートから当該公的不動産を外すオフバランス等について行うメリットが出てこよう。
  第五に、リートへの融資や投資法人債の引受業務、アセットマネジメント、プロパティマネジメント等を県内企業を優先しオール福島で支えるようにすれば地域経済への波及効果も期待できる。

 ただ、上述のリートスキームを活用するには大きな課題がある。
  第一の課題は、法律上の問題である。地方自治法第238条の41項に「行政財産は、次項から第四項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。」と定められていることである。つまり、現行法上は、行政財産である庁舎や図書館等をリートに売却してリースバックするような仕組みはそもそも想定していないし、できない。
  第二の課題は、建設資金の問題である。第一の課題が想定されていないのだから当然なのだが、行政財産を整備したときに入った補助金や起債をリートに売却するにあたってどうするか検討されていない。
  第三の課題は、住民や行政職員の意識の問題である。そもそも行政財産は、行政の用に供するため自治体で保有するものであり、民間に所有権を移転すると、そもそも勝手に転売される懸念があるし、庁舎等の基幹的な公的不動産は防災拠点でもあるのだからすべて民間に任せるのは不安という意見も出てくるのではないか。

 ではどうしたらよいか。
 第一の課題の解決策については、一つ目は、例えば、ざっくりいえば行政財産を不動産証券化の対象とし適正な管理下で使用し続ける場合は地方自治法の例外とする旨の規定を設けることである。
 二つ目は、所有権は残したまま運営権のみ民間に移すコンセッション方式を不動産証券化方式にも広く認めることである。
 三つ目は、そもそも行政財産の考え方を変えることである。
 相当無謀なことをいっているが、例えば、既にPFIBOT方式などは、行政財産たる公共施設等を民間が建設・維持管理・運営したあとに所有権を移転する方式であり、相当期間、行政財産を自前で持たなくてもよいものである。同様に考えるのなら、当該リート手法においても自治体が必ずしも行政財産を所有しなくてもよいのではないか。
  第二の課題の解決策については、例えば、全国で急激に増加する廃校について、国は既にフレキシブルな対応をみせている。同様に、他の行政財産についても、それぞれの地域で「効率的かつ効果的な活用が可能なら」という基本的な方針のもと所管行政庁が個別施設ごとに審査したらどうだろうか。
 第三の課題の解決策については、地道に意識改革を進めるしかないが、民間との約束事は契約で取り決めをするしかない。例えば、公的不動産を再売却しようとする場合にはオリジネーターたる自治体と協議し同意を得ることを契約書に謳い、契約違反の場合は膨大な違約金を付けるというのはどうだろうか。
  一方、基幹的な施設は自前で持つという考え方も理解できるものであり、例えば、地域ごと自前で持つべき資産とそうではない資産を住民等と議論し方針を明確化したうえ、自前で持たなくても良い資産のうち証券化可能な資産を分別しておくという方法もあるのではないか(例えば、これらを公共施設等総合管理計画や公共施設白書に明記する)。

 なお、Jリートは法律上、単なる「器」という位置づけで課税の導管性が認められ、利益の90%以上配当すればその分を損金算入できる特徴がある。逆に、資産の運用以外の行為を業とすることが禁止されていることから、開発行為が制限されたり、維持管理等を外部委託せざるをえなかったり、付帯事業ができなかったりといった、その他の収益機会も制限されている部分がある。制度自体の問題であり、これらの議論は本稿の範疇を大きく超えるが、このあたりの緩和についても今後リート市場が発展するためには検討すべき部分があるのではないか。

ところで、上記の話は決して絵空事を記しているわけでもない。実は、米国では、庁舎などの公的不動産を保有して州政府や連邦政府に賃貸するガバメントリートがある。わが国でもガバメントリートの導入を公的不動産活用の選択肢に加えるため、平成27年に自民党の不動産鑑定士制度推進議員連盟(会長=保岡興治・衆院議員)の「証券化対象不動産の鑑定評価のあり方に関するプロジェクトチーム」(座長=山本幸三・衆院議員)は、地方自治体の財政健全化に向け、不動産証券化手法による公的不動産(PRE)の活用を促進するとともに、公的不動産を対象としたガバメントリートも選択肢に加えることなどを内容とする提言案をまとめたという。

 人口減少、少子高齢化が進展する中、財政健全化に資するため、あるいは地域経済の活性化のため、公的不動産をいかに有効活用するか。
 上述のように大きな課題があるのは十二分に認識しているが、公共施設等総合管理計画を全国の自治体が策定し、公的不動産のあり方が議論されている中、行政の財産の位置付けについても改めて議論してみたらいかがだろうか。
 民間では財務改善のため本社を売却しリースバックするというのは、ごくごく普通の発想である。自治体にも民間企業的な経営を求めようという流れの中、こういったことも可能なように法改正を検討すべきではないか。
  本稿はコラムという性格上、あくまでエッセンスしか示せなかったが、本稿が、公的不動産のさらなる活用策が議論されるためのきっかけになれば幸いである。

<参考文献>
○「不動産証券化手法の活用による公共施設等の整備について」(平成1412月 シンクタンクふくしまミニレポート 植田浩一)



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません