2015.8.12
  「東白川地方の地域振興ビジョン」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  20157月、福島県東白川地方(福島県南の棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村の4町村)にて、「最近の社会動向と地域振興の方向性について ―人口対策と東白川地方の地域振興ビジョン―というテーマで、講演をさせていただく機会があった。
  人口動向や東白川地方の特長を調べるうちに、『東白川自給圏』と名付けたい地域ビジョンを提案したので、簡単に紹介させていただきたい。

まず、日本の超長期にわたる総人口の動向を調べてみると、2010年の12,806万人をピークとして、その後は減少傾向に転じている。このような1億人を超える状況はここ50年間程度の一時的な現象であり、江戸時代では約3,000万人、終戦時でも7,199万人である。
  このような超長期スパンからとらえると、むしろ今日の1億人を超えるような状況のほうが一時的であり、これからの少子化の影響や世代交代による団塊世代の減少を考慮すると、総人口は急激ともいえるような減少傾向として推移し、2050年には約9,700万人になる。(図1
  今日、地方創生ブームにともない、各自治体は地域人口ビジョンなどの形で、威勢の良い数字を掲げがちであるが、他方で冷静に現実的な数字も念頭に置くべきであろう。

1 日本の総人口の推移と推計


資料:国土庁「日本列島における人口分布の長期時系列分析」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」ほか

国立社会保障・人口問題研究所による東白川地方の人口予測は、2035年時点で25,735人となり、2000年対比65%水準にまで減少する。しかも高齢者層が大きく増加する反面、子どもや若い世代が大きく減少し、東白川地方に限ったことではないが、逆三角形を立てたようなイビツな世代構成になる。(図2

2 東白川地方の人口の推移と予測

資料:福島県「年齢(5歳階級)別推計人口)、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口(平成18年推計)」より作成

このような総人口の減少、高齢者層の増加、若い世代の大幅な減少という予測結果を踏まえると、減少する生産人口や購買(消費)力のなかで地域社会をいかに維持していくのか、正念場として問われていることがわかる。
  ただ東白川地方の場合、総じて県内でも合計特殊出生率は高く、比較的子育て環境に恵まれていることから、いまの地域環境や地域資源を生かしつつ、将来社会をデザインする展望がひらける。

では、東白川地方の特長とは何か。茨城県に連なる久慈川や奥久慈山地あるいは阿武隈山地というなだらかな山地地形からなる当地方は、平坦地が限られるため大型商業施設や大型工場などの生活サービスや就業環境といった都市的な利便性には、かならずしも恵まれていない。また、人口集積が小さいため、大学や短大もない。
  しかし、森林資源や稲作、大豆、ブルーベリー、こんにゃくなどの多様な作目に恵まれていることから、里山的な農山村としての魅力、そして子育て環境の良さがあり、したがって高齢者や女性が比較的生活しやすい環境がある。しかも、東北新幹線新白河駅にも近接していることから、首都圏に近いという地理的なメリットがある。
  このような地域の魅力や潜在力を踏まえると、めざすべき地域振興の方向性は、以下に列記するような6つの方向性が指摘できるのではないか。(図3

(めざすべき地域振興の方向性)
○都市的機能・生活利便性の確保策として、まちや集落の拠点(小さな拠点)を再生するとともに、圏域の中心都市である白河市などとの広域連携・交流
○ふるさとの活力を生み出すUターンしたくなる魅力づくり、地域力(人材)の育成
○限られた労働力や地域資源の効果を高める域内循環による自給経済圏づくり
○安心して生活ができ、観光客や移住希望者らも引きつけるような美しいまち・農村づくり
○女性が子育てや働きやすい環境を確保する農業や農産加工などによる就業環境づくり
首都圏に近接する好立地環境を活かした企業誘致や起業による就業の場づくり

3 東白川地方のめざすべき地域振興の方向性


そして、このような振興方向を集約すると、『東白川自給圏』の形成として名付けたい地域将来像を描くことができる。
  具体的には、6次産業化を基盤とした循環経済や適地適産の推進、高次医療機能などの高度な都市機能を補完する広域連携、地場産品などの移出・輸出の拡大と他方で移入・輸入の縮小による自立経済圏の形成、そして総体としては、欧米先進国の農山村でみられているような美しいまち・むらづくりというイメージである。(図4

4 東白川地方の地域振興ビジョン

『東白川自給圏』の形成
美しいまち・むらづくり 
循環経済と適地適産による産業振興



  さらに、このような地域ビジョンを実現していくためには、以下に列記するような具体的な方向が提案できる。
 ○働く場をつくる 
  → 起業(産業振興) 農林加工業、バイオマス発電、CLT生産
  → 観光振興(ダリア・温泉・森林保養・農泊、クラインガルデン等)
  → 地元に協力的な企業誘致
  → 道の駅、直売所の強化など新しい魅力の開発 など
  ○魅力あるまち、むらの拠点をつくる 
  → 住宅対策
  → 子育て環境・生活環境整備(小さな拠点)
  → 高等教育の確保(矢吹町にある農業短大の活用による農林業後継者の育成、
     ネット教育の推進)
  → 広域連携・交流(白河市など近隣中心都市との連携) など
  ○ふるさとを愛する人を育てる 
  → ふるさと教育、地域ブランドづくり
  → 若者のニーズの吸い上げ、支援措置、婚活の場づくり
  → 外部の力の活用(地域おこし協力隊、移住者) など

以上に列記したような地域資源を生かし地場産業を振興しながら、観光客や移住者らも呼び込めるような美しいまちや村をつくることができたならば、欧米先進各国でみられているような人口回帰の受け皿になることも期待できるのではないか。

最後に、このような地域ビジョンの実現に向けた具体的な推進策として、いくつかのアイデアを提案してみたい。
主力商品であるこんにゃくの新展開
 イタリアでは、スパゲティの麺の代わりにヘルシーな乾燥こんにゃくを使ったパスタ料理が流行っているという(1)。水分を含んで重くかさばるこんにゃく製品を、乾燥こんにゃくとして軽量・定型に加工することで、輸出も可能になる。アイデアや工夫次第で、さらに生産・販売を伸ばすことができるのではないか。
循環経済(自給圏)による効果推計の試み
  過疎先進県といえる島根県で研究活動を続けている藤山浩先生らは、地元の家庭で日常消費している食品や電気などを地場産品か地域外産品かをアンケート調査し、スーパーで買っているスナック菓子を地元食材によるおやつに変えたり、地元の再生エネルギーの利用などにより、地場産品の消費を増やすように努力することで、予想以上の経済効果が生まれることを試算している(2)
  当地方でも、手始めにこのような調査や試みを実践してみてはどうだろうか。
○安定社会をめざす人口1%確保戦略
  同様に藤山先生は、モデルとして人口1,000人の山間地域の場合、30歳代前半の子連れ家族(子どもは0-4歳代)2組と20歳代前半の夫婦2組の合計4組10名の移住が毎年実現すると、将来人口の減少や高齢化率の上昇を緩和することができることを試算している。
  つまり、毎年、全体人口の1%を増やすことができれば、人口問題は解決できることを試算しており、このような具体的な根拠に基づく目標数字を設定してみてはどうだろうか。(3)
○観光振興として世界遺産登録をめざす
  世界遺産のような超一級の観光資源はなかなかないと思われがちだが、たとえば世界に広がる俳句人口を踏まえて、県南の白河市から県北へと続く松尾芭蕉の奥の細道ルートを他県を含む関係自治体が連携することで、申請してみてはどうだろうか。
  あるいは、幕末に起きた戊辰戦争では、県内では薩長軍が白河、棚倉などから二本松、会津若松へ攻め上ったという歴史がある。戊辰戦争は日本の近代化の道程・ルーツということができ、県内にも多数の歴史的遺産が残っている。そんな広域ルートを世界遺産として申請してみてはどうだろうか。

筆者は東白川地方の塙町とはまちづくりなどで10年近くかかわっているが、この間、町では住民らと協働して特産品として豪華な花として知られるダリア栽培を拡大しており、最近では全国販売ルートも開拓している。このような「地道にコツコツ」という活動は当ビジョンを描くヒントになっており、モデルとなる事業展開だと感じている。
  ダリアに限らないが県内外にわたる生産販売とともに、色とりどりの花々で飾られた東白川の美しいまち・むらにたくさんの観光客が訪れて、郷土食を楽しんでいる風景を夢みている。

(1) 世にも不思議なランキング「なんで?なんで?なんで?」 TBSテレビ系列、2015 5 18日(月)放送、参照
(2) (3)島根県中山間地域研究センター藤山浩『集落地域への人口定住を支える「小さな拠点」』20141128
http://www.mlit.go.jp/common/001063365.pdf



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません