プレゼンテーション(相手にアイデアや情報を伝え理解や納得を得る行為。以下、プレゼンと略称)をする目的は、それが理解や採択されるという結果を得ることにある。どんなに素晴らしいプレゼンでも、結果につながらなければ意味はない。
そのために、いかに効果的なプレゼンを行うことができるか。最近は、住民と協働する機会が増えたり、限られた予算のなかで当該事業の必要性を伝えるためなど、自治体業務でもプレゼンを必要とする局面が増えているように思う。
先日、NHKの白熱教室というTV番組で、オリンピック・パラリンピックの東京招致を成功させた、スポーツ・コンサルタントのニック・バーリーさんによるプレゼンのノウハウが放送された。バーリーさんは、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ、2020年東京と3大会連続で、オリンピック招致を成功させた実力者だ。
プレゼンのしかたについて、とても役立つ内容だったので、簡単に紹介してみたい。
プレゼンの秘訣とはなにか。最初に、何を話したいのか、どんな順で話したいのかなど、全体のロードマップをまとめることが大切だと始めた。そして、以下に列記するようないくつかの基本となるテクニックがある。そのなかで、最初の3つは、計算から始めることが重要という指摘だ。
1.話す速さを知る
与えられた説明時間に応じた話す量と話す速さの選択が重要である。たとえば20分の時間に60枚ものスライド(画面)を提示したら、説明が速くなりすぎてとても聴衆の理解を得ることはできない。また、外国語で話すときにはとくにゆっくり話すことで、相手の理解を得ることができる。
2.話し手を選ぶ
キャスティングが重要だ。とくにチームとして複数の人数でプレゼンする場合には、誰が話すのが最適かを選ぶことが重要である。
2020年のオリンピック招致が競われたブエノスアイレスでの東京チームのプレゼンでも、誰が最初に話すべきか、いちばん時間をかけて検討した。日本では一般的には年功序列の順だが、国際の場ではそれはまちがいだ。相手の興味を引き出すために、ベストな話し手として、若くてエネルギッシュな話し手から始めることにした。
実際には、若い女性の走り幅跳び選手である佐藤真海さんがトップを飾ったことで、聴衆の関心を集めることに成功した。最初にインパクトを与えることで、聴衆を引きつけることに成功したのだ。
3.3という数字の力
論点は3つでまとめること。たとえば、フランス革命の自由、平等、友愛が代表的である。東京のプレゼンでも、確実、情熱、革新の3つにした。ほかにもたくさんある場合でも、3つに集約することが大切である。
なぜ3つが良いのか。それはよく知られたコミュニケーションの鉄則なのだ。3つでまとめると、覚えやすい。もしどうしても6つある場合には、3つずつの2段階に分けてもいい。なるべく勇気をもって、論点を3つに絞り込む努力が大切だ。
なお、プレゼンで一番伝えたいことは最初に話し、そして最後にも伝えること。それがプレゼンのロードマップを描くことにもつながる。重要な内容は、繰り返すことが大切だ。一度だけの説明だったら、聞きもらされていることもあるからだ。
アメリカのオバマ大統領は、演説のうまさでは世界でトップではないか。それは、プレゼンのテクニックを全て使っているからだ。あるときには大きな声で話し、あるいは小さな声で話す。強調するときには間合いを取り、聴衆が耳をすますと一番重要な内容をゆっくりと話す。そこでは、3の持つ力も活用している。
プレゼンでは、聴衆をイマジネーションに導くテクニックがとくに重要だ。マーチン・ルーサー・キング牧師の有名なフレーズとして「私には夢がある」があるが、そう言うことで100万人の聴衆を未来に誘うことができた。未来がどんな明るい暮らしになっているのかと。たとえば「想像してみてください」という言葉をつかうと、聴衆に別の場所を想い起こさせることができる。
4.聴衆を知る
聴衆について知らないと、何を話して良いのかわからない。どんな相手なのか、何を求めているのかなど、調べることがなによりも重要だ。
自分の会社では、新人が入社してきたときに禁止用語として、「おそらく」をあげている。決して憶測や推測してはいけない。たとえばオーストラリアのすべての人はクリケットが好きだ、と考えてはいけない。正確な情報にするためには、相手に聞けば良い。あるいは、ネットからでも正確な情報は得ることができる。何を求めているのかを知ることで、相手の心に訴えることができるのだ。
もし聴衆がばらばらのつながりがない人たちの場合には、誰が決定権者なのかを知る必要がある。もし全員が決定権を持つならば、全員を対象とすべきである。そのためにも、聴衆を知ることが大切だ。
ユーモアは力のあるツールだ。はじめに聴衆は、どんなことを話すのだろうと身構えている。そこにジョークを1つ用いることで、身構えている気持ちを和らげる効果がある。ただし、ユーモアはインパクトをつくるうえで大切だが、国によっては国民性も異なるので、たしかな言語能力が必要だ。
5.インパクトを作れ
あるとき、バーで小説家のアーネスト・ヘミングウェイは、10以下の言葉で物語を作ることができるかどうか、賭けた。そこで、ヘミングウェイは、「赤ん坊の靴、売ります。未使用です。(For sale, Baby
shoes, Never worn.)」と書いた。このたった6語で皆さんをとりこにすることができる。この靴はなぜ売られるのか、赤ちゃんはどうしているのか、など想像をかき立てることができる。
その賭けでは、もちろんヘミングウェイが勝った。シンプルな言葉が人を引きつけることができる。プレゼンは、人々の関心を引きつけることが大切なのだ。
6.インパクトを持続させる
プレゼンの進行は、ゆるやかな盛り上がりと下りをつくること大切だ。力強く訴えかけたら、下がったところでは基本的な内容を説明し、また盛り上げるという波をつくるのだ。もしプレゼンターが複数ならば、説明者が変わることで全体の流れをつくってもいい。プレゼンのなかに光と影をつくることが重要なのだ。盛り上がったまま、あるいは数字だけのつまらない説明のままではダメだ。
7.視覚的に作れ
よくスライド(画面)とデータが中心のプレゼン方法があるが、全くダメだ。説明している私自身が重要なはずだからだ。
アップルの(故)スティーブ・ジョブズのプレゼン方法は優れていた。iPhoneの新製品発表会で、最初にジョブズは、今日わが社は新しい電話端末を開発しました、とだけ説明した。そこで聴衆が聞き耳を立てると、その後、20年間かけて開発してきたことなどの諸々を説明した。
情報を詰め込みすぎないこと。1枚の写真は1,000の言葉に値する。良いイメージは、人を別世界にいざなうことができる。
また、プレゼンでは演技も必要だ。東京招致の場では、フェンシングの太田雄貴選手が胸に手をあてるジェスチャーをした。視覚的な動作で訴えかけることも効果的だ。
8.明確なビジョンを持つ
何をどう売り込もうとしているのか、きちんとメッセージを伝えることが大切だ。ジョブズは、最高なものを最後に持ってくるテクニックをよく使った。いろいろな新しい機能やソフトを説明した上で、最後にスマートフォンが登場して締めくくった。最後のプレゼンがいちばん記憶に残るものだ。
そして、売り物は1つにしぼることが大切だ。皆さんが北欧の車を買う理由は、安全性が高いからではないか。ほかにも優れた機能はたくさんあるが、1つに絞ることで訴求力が強くなる。
9.練習することが大切
東京招致の場合には、45分のプレゼンに対して、練習を45時間以上行った。決してリハーサルなしで臨んではいけない。
練習は、プレゼンソフトを使って頭のなかでやるということではない。実際に本番と同様な状況で、リハーサルすることが大切だ。チームの場合には、みんなで練習することで、お互いに力を高めることができる。
練習はすればするほどうまくなることができる。リハーサルをくりかえすことで、観客を意識しない領域に達することも可能だ。
ただし、言葉にはとらわれすぎないこと。話している言葉が正しいかよりも、何を伝えたいのかという情熱が大切だ。うまく話せないなどと、自分をしばらないこと。自信を持つことが大切なのだ。
以上、番組を見ながら書きとめたメモをベースとしてまとめたので、不正確な部分があるかもしれない。おおよそのポイントとして理解していただければ幸いである。
これらの内容は、そんなにむずかしいことは言ってないようにも感じた。しかし、自分のプレゼンを振り返ると、たしかにパワーポイントのスライド(画面)に頼りがちとなっている欠点を感じる。また、1枚のスライド(画面)に、情報を詰め過ぎがちになることも、思いあたる反省点だ。
一方、簡潔かつ明確な主張をはっきり持つこと、聴衆(相手)を知ること、つまりは事前調査が大切なこと、さらに繰り返す練習が不可欠なことなども、改めて大切であることを学んだ。筆者の経験では、さらに上達するためには、場かずを踏む(経験を積む)ことも大切ではないか。
最後に、このようなプレゼン・テクニックは、日常の会議や会話などでもずいぶんと役立つのではないかと、なんとなく得した気分になった。
参考資料:
2015年7月3日(金)NHK・Eテレ「ニック・バーリーの白熱教室」(午後11時00分~11時54分放送(初回放送日は2014年7月18日))
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/presentation/about.html
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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