2015年10月10日、NHKはホームページ上に、地域づくりアーカイブスというサイトを公開した。このサイトは、日本各地の優れた地域づくりの取り組みを映像で紹介している。地域づくりに関心がある筆者にとっては、待ってましたあ!と叫びたくなるような企画なので、ぜひこのコラム欄で紹介したいと思った。
全国の地域づくり事例やデータベースは、本やインターネット上などでは多数出版されたり公開されたりしているが、番組映像によるデータベース化は少ないのではないか。
文章や文字は、読むことで想像力をかき立てられたり、手元で活字として何度でも確認できるという良さはある。しかし、地域づくりの場合には、現場で一生懸命に励んでいる当事者や参加者らの意気込み、表情、活動の様子などから理解を深めることも多いので、映像や音声ならではの魅力や感動がある。かつ、「百聞は一見にしかず」と言われるように、一瞬にして理解しやすいというメリットもある。
NHKによれば、今回、新たに公開した意図としては、今、過疎・高齢化、農林水産業の衰退、商店街の衰退、ひきこもりなど、地域はさまざまな課題を抱えているが、日本の各地には、知恵を働かせ力を合わせて課題に向き合い、地域づくりを成し遂げてきた事例がある。そうしたこれまでに取材し番組化してきた多くの事例を、住民や行政関係者などの地域づくりに関心のある方々に役立ててほしい、とのことである。
おそらくこのような背景には、わが国が総人口の減少とともに少子高齢化が急速に進むなか、各地域では難問が続出しており、その解決に向けて他地域で創意工夫している情報が求められているというひっ迫した事情があるのではないか。
地域づくりは全国共通のテーマなので、たしかにずいぶんと役立つように思う。そしてなによりも、パソコンにより誰もが好きな時間に無料で視聴できるのがいい。
地域づくりアーカイブスのトップ画面は、農林水産・食、環境・エネルギー、共生経済・観光、コミュニティ・商店街、教育・子ども・若者、医療・介護、福祉・生活支援、災害復興・防災の8分野から構成されている。
ちなみに各分野でトップとして紹介されている事例をみると、
○農林水産・食分野 「ユズで山村の新たな産業を 高知県馬路村」
○環境・エネルギー分野 「コウノトリと共生する米作り 兵庫県豊岡市」
○共生経済・観光分野 「Iターンの若者が特産品開発 島根県海士町」
○コミュニティ・商店街分野 「1000人の出資でできた石蔵カフェ 宮崎県高千穂町」
○教育・子ども・若者分野 「自分の責任で自由に遊ぶ禁止のない公園 東京都世田谷区」
○医療・介護分野 「地域ぐるみで認知症患者を見守り支える 静岡県富士宮市」
○福祉・生活支援分野 「住民のつながりでひきこもりなど地域の課題を解決 大阪府豊中市」
○災害復興・防災分野 「広域避難者のつながりをつくる 東京都中野区」
という具合である。(2015年11月2日現在)
いずれもけっこう全国的に知られていると思われる事例ではあるが、個々について正確に記憶しているわけではないので、かんたんに映像で確認できるのはとてもありがたい。各事例が数分~10分程度に編集してあるのも便利だ。
ちなみに福島県の事例を探してみると、「広域避難者の心をつなぐ復興支援員 埼玉県」、「農地を除染した菜種で質の高い食用油づくり 福島県南相馬市」という2件がヒットした。
さっそくこの2つの番組を見てみると、前者は、「明日へ 支えあおう 復興サポート二つの”故郷”を生きる ~福島・広域避難者~」(2014年7月20日放送)のダイジェストだ。
内容としては、原発事故のために、全国各地に散らばって避難生活を送っている浪江町の人たちを元気づけるために、町が派遣している復興支援員の皆さんの活躍を紹介している。改めて、避難生活をしている皆さんと支援している皆さんの苦労やふるさとを思う気持ちが、伝わってきた。
また後者は、2013年9月22日放送の同じく「明日へ 支えあおう 復興サポート 放射能汚染からの農業再生~福島・南相馬市 Part2~」のダイジェストだ。
この内容は、放射能に汚染された農地では、菜種などの油脂作物は放射能を吸収しやすいため、栽培すれば農地の除染に大きな効果がある。しかも、しぼった油には放射能は移行しないことから、菜種栽培による農地除染とともに、質の高い食用油の生産に挑んでいる姿だ。生産されたすきとおった香り高い油に、「神様からの贈り物」と語る生産者の表情が輝いていた。
たまたまであるが、筆者はこのダイジェストの元になっている2番組とも録画保存しており、とくに後者については本欄コラムでも紹介したことがあり、懐かしい思いがした。(注)
自治体職員の皆さんは、日々の日常業務に追われており、自地域で直面している地域の課題に対して、関連する他地域の先進事例などを調べたりする余裕がないことも多い。当研修センターにも、そんな情報を求める問い合わせをいただくことが少なくない。
そんなとき、この地域づくりアーカイブスは、各自が手元でかんたんに検索することができるので、ずいぶんと役立つように思う。もちろん、自治体職員ばかりでなく、地域づくりに関心ある学生、一般社会人、企業経営者、NPO職員あるいは主婦などにとっても、有益な情報源といえよう。(地域づくりアーカイブスのURLは下記に表記)
最後に、期待として以下の2点の注文がある。
1点目は、立ち上がったばかりなのでまだ登録件数が少ないため、残念ながらキーワード検索をかけても、ヒットしないことも多い。さらなる掲載事例の充実を望みたい。
もう1点は、アーカイブスが持つ宿命でもあるが、時間の経過とともに掲載事例は次第に古くなる。撮影されてから5年、10年と経過すると社会状況の変化とともに、新鮮味がなくなる。本の場合だとそのまま見向きしなくなり、処分してしまったりするが、インターネット上だとコンテンツ(内容)の更新や追加が可能だ。
本来、アーカイブスは図書館(文書館)のようにコンテンツの記録としての保存を役割とするが、地域づくりの場合は、むしろ新鮮さが重要だ。そこで、同一地域・テーマの事例についても、古いコンテンツの保存とともに、適宜、新しいコンテンツを更新あるいは追加していただき(NHKのTV番組でたとえれば、「新日本風土記」のなかで古い「日本風土記」での記録を取り上げるイメージか)、いつまでも新鮮で魅力的な地域づくりデータベースであってほしいと願っている。
(注)吉岡正彦 「農地の除染と複合利用のフロンティア」(本欄コラム、2013年9月25日)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/136/yosioka136.html
参考資料:
NHK総合テレビホームページ「地域づくりアーカイブス」
http://www.nhk.or.jp/chiiki/
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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