2016.2.17
  「健幸都市の先進地、見附市」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


  福島県伊達市の健幸なまちづくり協議会に参加している関係で、201512月に健幸都市(Smart Wellness City)づくりの先進地である新潟県見附市に視察に行く機会をいただいた。市民の健康促進に関して、さまざまな工夫や仕掛けがあり、他の自治体でも参考になるように思ったので、少し説明を加えながら紹介したい。

健幸都市とは、筑波大学の久野譜也教授が提唱した考え方で、「健幸」とは、健康で幸せ(身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、 安全安心で豊かな生活が送れること)という意味である(注1)。そして、「都市」には、歩くことによる健康づくりを基本的な視座として据えていることから、健康づくりはまちづくりからという意味合いが込められている。
 したがって、活動目標としては、「自律的に『歩く』を基本とする『健幸』なまちを構築することにより、健康づくりの無関心層を含む住民の行動変容を促し、高齢化・人口減少が進んでも持続可能な先進予防型社会を創り、高齢化・人口減少社会の進展による地域活力の沈下を防ぎ、もって、地域活性化に貢献すること」である。(注2)

見附市は新潟県のほぼ中央部に位置し、人口42万人、交通は上越新幹線の長岡駅から約11キロという位置にあるが、伊達市などとともに、2009年のSmart Wellness City首長研究会の発足時から健幸都市づくりを進めており、久住時男見附市長は同研究会の会長である。
  今回の視察では、見附市の健幸都市づくりの取組みについて、担当者から詳しい説明を聞き、関係施設の見学を行うことができた。

スマートウエルネス見附の取り組みについて
  はじめに、なぜ健幸都市の活動を始めたのか。久住市長が就任したのは2002年のことだが、前任者から引き継いで健康運動教室などの取り組みを進めた。当初から久野教授の協力を仰いできたが、しだいに市民の体力年齢が若返ることがデータで実証されるなど、成果が得られた。そこで、同市の高齢者のおよそ5分の1となる2,000人を目標に、健康運動教室の継続をめざした。
  さらにその後、2009年から久野教授による提唱のもと、全国から9市が集まり、Smart Wellness City首長研究会がスタートした。その取り組みはしだいに全国に広がっており、2016月現在、60区市町 (32都道府県)が参加している

見附市では、健幸都市の推進にあたり、「いきいき健康づくり」として、食生活、運動、いきがい、健()診という4本柱を掲げている。
食生活
  「食がいかに大切か」という問いかけから、日本型食生活、地産地消、給食に玄米入りごはん、七分づきごはんなどを導入している。また、毎朝朝食を食べること、減農薬野菜の利用、食育講演会なども実施している。
運動
  2002年から開始している健康運動教室では、2015年3月現在、1,413人が参加しており、体力年齢の若返りや医療費の抑制効果が実証されている。
  健康運動の推進により、一人あたり医療費が年間10万円も節約できていることがわかり(図1)、また、全国および新潟県平均よりも低い介護認定率が実現している。(図2)

図1 見附市の健康づくり教室参加者による医療費推移

  

  資料:見附市企画調整課「スマートウエルネスみつけの実現に向けて」

図2 見附市の介護認定率の推移

  

資料:見附市企画調整課「スマートウエルネスみつけの実現に向けて」

いきがい
  2004年から、ハッピーリタイアメント・プロジェクト(定年退職前後の人たちや、今までの仕事一筋の生活から家庭や地域での生活に重点を移そうと考えている人たちに対して、遊びや学び、運動、ボランティア活動をとおして、仲間づくり、生きがいづくり、健康づくりの場を提供)を実施しており、市民グループ「悠々ライフ」が中高年の仲間づくり、生きがい探しなどを応援している。
  その合言葉は「頑張らない、競わない、出入りが自由」とのことで、2010年には、第2回「活力まちづくり推進団体表彰」(主催:社団法人日本経営協会)において優秀賞を受賞している。

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  1999年から、新潟大学医学部小児科と連携し、小児生活習慣病予防事業として、小学校4年生と中学校1年生の検診を実施している。
  また、2008年から市内各地に「健康の駅」を設置しており、健康状態や運動能力の測定や体験のほかに、保健、医療、福祉、生活、経済、心に関する相談や情報提供をうけることができている。

このような4本柱を中心に、健康、福祉、環境、教育、まちづくりなどを連動させながら、健幸都市づくりを推進している。その結果、子どもの頃からの健康施策を導入していることもあり、健幸都市に対する市民の理解が広がっている。
  また、この運動の基本は、歩いて楽しいまちづくりであることから、市職員も地域サポーターとしてボランティアで地域の活動に参加することで、成果を上げている。具体的には、地域住民とともに汗をかき、楽しみや苦労を共有することで、互いに顔が見える関係を築き、信頼関係を土台にした協働のまちづくりを進めている。2015年現在、約70名が登録しており、職員の資質や能力の向上にもつながっている。このような「地域の現場」を重視する地域サポーター制度は、全国的にも今後ますます重要性が高まるのではないか。

さらに、市域を9つの地域コミュニティ組織単位で活動を育成しており、それぞれの組織ごとに自由に使えるワゴン車1台を貸与して、生活支援に活用してもらっている試みも、全国的にユニークといえよう。
  なお、健幸都市の活動は、国の地域活性化モデルとしても認定され、現在、見附市、伊達市など全国6市で「健幸ポイント制度」を推進しており、参加者の拡大が進んでいる。また、コンパクトシティ化を進めており、中心商店街の活性化やまちなかに公営住宅を建設して、住み替えを促進している。(図3)
  ちなみにこの健幸ポイント制度は、伊達市でも予定募集人数を超える応募状況となっており、市民の健康意識への高まりがみられている。

図3 見附市のコンパクトシティ形成のイメージ

  

見附市企画調整課「スマートウエルネスみつけの実現に向けて」

次に、施設見学として、市民交流センター・ネーブルみつけ、パティオにいがた(道の駅)の2か所を見ることができた。
市民交流センター・ネーブルみつけ(まちの駅)
  ネーブルみつけは、健康運動教室、子育て支援センター、市民交流サロンなどの複合施設であり、健幸都市の活動拠点となっている。2004年に撤退したスーパーの建物を市が買収して、改修した。現在、運営は指定管理者に委託している。
  筆者たちが訪れたときには、主婦の皆さんらが健康運動教室のトレーニング機器で汗を流したり、遊戯スペースでは、中高校生らが自由に遊んでいた。なお、災害時には、支援物資の備蓄や災害ボランティアセンターとして活用するとしている。
  課題としては、近年、参加者が頭打ち傾向にあり、さらなる参加者の拡大を進めている。

パティオにいがた(道の駅)
  パティオにいがたは、防災、観光、交流、農産物直売所、イベントスペースなどの複合施設であり、20013年度オープンした。2004年の豪雨により市内を流れる刈谷田川が破堤したため、河川改修を行って埋め立てた用地に建設したことから、水害を教訓とした防災展示施設を併設している。
  初年度売り上げは32億円であり、いまのところ運営は順調とのこと。農産物の直売所(健幸めっけ)に加えて、農家レストラン(もみの樹)があり、地産地消を基本とした食べ放題スタイルで人気がある。筆者もランチを食べたが、ごはん、パン、カレー、スパゲティ、肉料理、煮物類、野菜サラダ、味噌汁やスープそして食後のデザートとしてコーヒーや果物、アイスクリームなどを、自由に選択することができ、楽しめた。

また、芝生エリアには、健幸スポレクゾーンとしてストレッチ器具、休憩用ベンチ、あるいはデイキャンプゾーン、広場などを設置しているほか、電気自動車の充電ステーションやコミュニティバスの停留所もあり、市民らが利用しやすい環境がつくられている。
  最近のトピックスとしては、併設するトイレが日本トイレ大賞を受賞しており、筆者が本欄コラムで紹介したことがある。(注3)
  課題としては、隣接して古くからある今町商店街が停滞ぎみであることから、一体的な再生を進めたいとのことである。

見附市は地域の将来像として、市民の相互扶助やネットワーク力が強いソーシャルキャピタル(社会関係資本)が高いまちを目標としているが、実際に大勢の市民の皆さんが健康体操で汗を流す姿や市職員の高い協働意識などを見聞きして、それが実現しつつある力強さを感じることができた。
  市民の健康づくりを中心に据えたまちづくりを進める先進事例として、多くの魅力に富んでいることから、他の自治体でも積極的に取り入れてはどうかと感じた。

 

 パティオにいがた(道の駅)   パティオにいがた(交流休憩センター)

 

ネーブルみつけ(まちの駅)    ネーブルみつけ(健康運動教室)

(注1)Smart Wellness City首長研究会事務局ホームページ
http://www.swc.jp/about/
(注2)健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区
http://www.city.date.fukushima.jp/uploaded/attachment/9239.pdf
(注3)吉岡正彦「日本トイレ大賞とコミュニティ・ワゴン」(本欄コラム、2016113)
http://www.f-jichiken.or.jp/column/237/yosioka237.html
参考資料:
見附市企画調整課「スマートウエルネスみつけの実現に向けて」(配付資料)
Smart Wellness City首長研究会ホームページ



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません