2016.7.20
  「Backstage」

                                         主任主査 伊藤 智美


 
7月7日(木)、当センターにて共同調査研究成果報告会を開催しました。 成果報告は、私がセンターに異動となる前の、平成27年度に実施した矢祭町との研究内容であり、4月からこの共同調査研究事業の担当として、報告会開催が決まって以後、この日は私にとって「Xデー」となりました。

 共同調査研究事業とは、県内の自治体が抱える政策的な課題について、その解決策を探るため、自治体とセンターとが共同で調査研究に取り組むものです。政策的な課題といっても自治体が対応する分野は多岐にわたり、漠然としていてイメージがわきにくいことでしょう。
 たとえば、住民からまちの交通サービスが不便だ、という要望があります。そこで、まちでは、まちの交通サービスの利便性を向上しようという目標を掲げ、実現する策を考えます。目標を実現するにあたって、どんな交通サービスを不便と感じているのか、どれほどの住民が困っているのか、どういうことをしてほしいと思っているのかなど、不便さの原因や住民ニーズを調べ、原因や課題を整理します。問題点が明確になれば、それを解決するために何が必要か、同じような課題に取り組んでいる全国の事例はないかなどを調査し、それらをヒントに、今後の進め方、方向性を模索していく、そういった流れで取り組んでいます。
 センターでは、ここ数年「地域公共交通」をテーマに共同調査研究事業を実施してきました。県内自治体をはじめ、地方における地域公共交通を取り巻く課題は、公共交通の利用者減による交通サービスの低下と、それによって日常の買い物や通院の足が確保できなくなるいわゆる交通弱者の増加、その悪循環をどうやって改善していくか、支援していくか、につきます。

 私自身は神奈川県で育ったので、移動の足は、主に電車でした。駅からちょっと離れた友人達は、さらにバスも使います。小学生になれば、自分で切符を買って電車に乗って、図書館へ行く、市営プールへ行く、友達と出かける、ということも自然に身についていきます。
 福島県に来て数年の頃、職場の先輩から小学生のお子さんが部活の大会に出るから送迎しないといけないんだ、電車に乗ったことがないから一緒についてきてって言うんだ、というのを聞いて、驚いたことを覚えています。
 あれから10数年、今では、我が家もすっかりマイカー依存の生活となり、子供にとっては、電車やバスに乗る、そのことが一つのイベントです。かわいい子には旅をさせよ、と言いますが、1人で電車やバスに乗って目的地へ行けるくらいに独り立ちしてほしい、と少々焦りも感じています。

 話がそれましたが、成果報告会において報告する研究内容は、昨年度のものですが、今年度の担当者として「私が発表もします!」と宣言したものの、正直不安だらけでした。これまでの経験でも、異動してすぐ担当業務に関する説明会や研修など、人前で説明するといった場面はそれなりにありました。
 でも、業務や制度に関する説明と調査研究に関する成果報告では、何かが違いました。発表する原稿を作成していても、理論展開がうまくつながらず、「で、何が言いたいの?」と突っ込みどころ満載です。

 実は、「矢祭町に行ったことがない!」のでした。合併しない宣言ともったいない図書館など、もはや古くなってしまった情報しか記憶にない状況。
 そこでまずは、車で矢祭町を一通り、まわることになりました。そこには、平面の地図では分からない起伏の激しい町がありました。縦横に走る国道と県道沿いだけが平坦な場所で、両側はすぐ近くに山がそびえています。町の北側から入り、町中へ向かうのと同じくらいの時間を南側へ走ると、そこはもう茨城県です。矢祭町は、いちごの産地で、農家の軒先には「いちご」ののぼり旗がはためいていますが、県境を越えると「りんご」ののぼり旗に変わります。
 「矢祭山」駅は、降りると駅名である矢祭山よりも先に目に飛び込んできたのは川です。久慈川の清流では、橋の上から肉眼でも、鮎の群れを見つけることができました。
   
    JR水郡線 矢祭山駅           観光スポット あゆのつり橋

 6月に再び矢祭町を訪れました。今度は、福島駅から公共交通で回ってみることにしました。
 郡山駅からワンマン車両のJR水郡線に乗り換え、1時間45分ほどで磐城棚倉駅に到着です。改札を出ると、目の前の広場には、白河へ向かうJR関東バスが待機していました。ですが、矢祭町へ向かうはずの福島交通「棚倉駅前」バス停が見あたりません。
 駅前には、木の香りがする町立図書館とおしゃれな雑貨屋さんの建物があり、駅前広場を背に北へ抜けると大通りに出ます。行ったり来たりしながらしばらく探しましたが、どうしてもバス停を見つけられなかったので、駅員さんに尋ねました。教えていただいて、やっと駅から150mほど離れた大通り沿いにバス停を発見しました。
 でも、そのバス停は、道の片側にしかなく、私が向かう方面とは反対側です。向こう側のバスに乗りたいのに、こっち側のバス停で待っていて、果たして運転手さんは気づいてくれるかしら??とやや落ち着かない気持ちでした。

 道の向こう側に私が乗るバスが走ってきました。手を振るのもなんだか気後れして、「目力」(?!)でアピールし、バスは停まってくれました。横断歩道もないところで、「これっていいのかしら?!」と思いながら、道路を渡り、バスの脇をまわって無事に乗ることができました。
 鉄道で到着してからバスが来るまで1時間20分。JR水郡線とJRバスはうまく連結していましたが、福島交通のバスとの連結はなく、この待ち時間を楽しめるのは、・・・気ままな旅人くらいでしょうか。
 さて、バスで矢祭町の町中までは、40分程度。一般道路を走っていても、ほぼ時刻表通りに到着できることは嬉しいところです。この間の乗客は、延べ7人でしたが、ほとんどが塙厚生病院への通院利用のようでした。

 ところで、矢祭町では、今年度4月から町内5校あった小学校が、中心地である東舘地区の「矢祭小学校」に統合されました。
 これにより、児童の皆さんは、ほとんどがバス通学となりました。町民が集中している地区にはスクールバスが、それ以外の地区は路線バスを利用します。小学校の校舎前に新しいバス停ができ、下校する子供達を乗せた路線バスは、学校の延長のような雰囲気でとても賑やかでした。
 自分たち以外に乗客がいることが珍しかったようで、少し緊張気味の高学年の男の子が気を遣って、低学年の児童を注意したり、初対面の私に3年生の男の子が描いた絵を見せながら、おしゃべりしてくれたり。今は、防犯教育として、「いかのおすし」(知らない大人にはついて「いか」ない、車に「の」らない、「お」お声を出す、「す」ぐ逃げる、大人に「し」らせるの略です)を教えられているので、子供の方から声をかけてくれるなんてなかなかないですよね。
 1人、また1人と子供達がバスを降りていきました。途中からは、フリー乗降区間となっていてバス停がないところでも乗り降りができるようになっています。これは、便利でした。実際、子供達も「バス停までお願いしま~す」とか「○○で停めてください!」と元気な声で運転手さんに伝えているのが微笑ましく、バス通学は、確かに身体的な負担がありますが、行き先を自分で伝える、高齢者に席を譲る、公共の場で騒がない、など社会生活でのマナーや気遣いを学べるという一面も期待できるのではないでしょうか。

   
 矢祭小学校バス停         JR水郡線 東舘駅

 大きなリュックを背負って、首からカメラをぶら下げて、駅やバス停の写真を撮りながら、町中をうろうろしていた私の姿は、だいぶ怪しかったようです。「地元の方ですか?観光に来てるんですか?」と声をかけられ、とっさに「ええ、まあ、(観光)みたいな感じです。ちょっとバスに興味ありまして・・・・」とかなんとか言いながら、居心地が悪くなり、目的地へ向かうかのように装いながら、そそくさとその場を離れ、見つけたお寺の庭園で休憩をとりました。
 路線バスに乗車して、NORUCAカードを初めて購入し、使い方が分からず、運転手さんに丁寧に教えていただきました。さすがに観光で、とは言いにくいので公共交通について勉強していましてと説明して、「(この路線の)終点まで行って、またこのバス停まで戻ってきてもいいですか?」と、お願いをしました。運転手さんは皆、快く乗せてくださり、山奥の終点バス停では、器用に車体をUターンさせて戻っていきます。町中へ戻る便の乗客は、ほとんど、私だけでした。
 基本的にバス同士を乗り継ぐことは想定されていないし、ダイヤが少ないこともあり、矢祭町で一日かけて乗車できた路線バスは、5路線のうち、3路線でした。少ない経験でしたが、地方のバスは、バイパスができているところは人家のある細い旧道へ入り、うねうね曲がる険しい道や、片側が斜面となって、対向車とすれ違いができないような山奥の一本道を通りながらも、乗客を目的地まで安全に運んでくれる頼もしい「足」でした。

 さて、成果報告会当日の出来は?、と申しますと・・・。私自身の発表は、きちんと伝わるプレゼンができたかというと、反省しきりですが、60名以上の自治体職員の皆さんにご参加いただき、盛況に終えることができました。
 ご参加いただいた皆様、お忙しい中ありがとうございました。

 今年度も、小野町と既存タクシーを活用した支援を中心に「地域公共交通」の共同調査研究に取り組んでいます。小野町の公共交通システムの検討にあたって、少しでも貢献できるよう、努めてまいりたいと思います。




※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません