2016.12.21
  「Sharing Lecture ?」

                                         主任主査 伊藤 智美


 
目の前には、130人もの研修生が座っている。10月に初めての講義を経験し、今日が2回目。講堂は、途中から階段状になっていて、ひな壇のようにびっしり並んだスーツ姿の研修生が黒い固まりとなって迫ってくる。否が応でも緊張が高まる。

 政策支援部では、今年度から「地域の課題を学ぶ」というテーマで、部の事業成果を盛り込んだ講義を受け持つこととなった。研修全体が外部の専門講師を中心にした大幅なカリキュラム編成を行った中で、センター職員が講義を担当する数少ないコマである。つまり、常日頃から講師を業としている外部講師の切磋琢磨された講義の合間に、ド素人の自分が講義をするということで、それはもう“どえらい”プレッシャーである。
 講義本番の数日前から空き教室や講堂で練習を始めた。夕方、清掃の皆さんが、黙々と机や椅子を拭いてくれている中、1人でマイクをつけて誰も座っていない机に語りかける。数人が聞いているだけで、恥ずかしさもあり、これだけ緊張するのだから、100人もの研修生を前にしたら?と思うとどんどん早口になっていく。それでも時間を計測すると、持ち分オーバーしそうな気配。まずい、もっとまいてかないと。

 最近の研修は、どこでも座学だけでなく、ワークショップやロールプレイングなど演習を多く取り入れた内容となっている。広い講堂で、2時間近く座ったまま話を聞くという、しかも、昼食後すぐの時間帯ということもあって、この講義はどうしたって睡魔との戦いとなってくる。
 2部構成に分け、1部で概論を、2部で具体的事例を、と2人で分担することにして、私が担当する2部では昨年度、地域公共交通をテーマに取り組んだ共同調査研究事例を通して、課題解決のプロセスを展開していく。私の持ち時間は60分。この60分間を飽きられずに聴いてもらうには・・・。
 研修後のアンケートに、「昼食後の座学はきつい」とか「眠かった」などの感想が書かれる。受講態度の問題よりも、講師の力量が問われた気がしてやはりしばらく落ち込んでしまう。
 少しでも関心を持って聴いてもらうため、講義中、研修生を指名して発言を求めたり、隣の人とのペアワークとして意見交換をしてもらう時間をとり、発表してもらったりする。これは、研修後アンケートでも意外に好評で、指名されることの緊張感や隣りとの演習がよかった、などの声が出る。私が研修を受講した頃は、講師が誰かを指名しようと教室内をぐるりと見回すと、皆さっと視線を外して、当たりませんようにと願ったものだったが。

 先日、毎年恒例の流行語大賞が発表され「神ってる」が大賞を獲得。正直、自分では使ったことがない言葉だったので、ほかの入賞語の方がなじみがあったけれど。息子にも「神ってるって、流行ってる?学校でみんな使ってるの?」と聞いてみた。「使わないけど意味は知ってるよ。神様のおかげっていうくらいラッキーだったってことでしょ。」「へ~。よく知ってるね。」息子は、もっぱら「PPAP」なのに。
 それはさておき、個人的に流行語大賞を決めるなら、4月から関わってきた事業を通して、「シェアリング・エコノミー」を挙げたい。

 今年も「地域公共交通」をテーマに自治体と共同調査研究事業に取り組んでおり、公共交通にまつわるトピックを情報収集していると、海外で普及しているシェアリング・エコノミー型サービスの代表格である「ライドシェア」を始め、国内では、「カーシェアリング」や「駐車場シェア」などのキーワードが飛び交った。
 「ライドシェア」は、海外で広がっているスマホを使った配車サービスで、米企業のウーバーや中国の滴滴出行が有名である。企業が提供するアプリを介してドライバーと利用者がつながり、ドライバーが自家用車で利用者を目的地まで有償で運ぶ。
 一方、国内では、都市部を中心に、レンタカーより気軽に車を借りられる「カーシェアリング」がマイカー離れの若い世代のニーズを捉えて広まっている。また、空き駐車場や空きスペースを有効活用する「駐車場シェアリング」なども出てきており、交通サービスやマイカーを取り巻く環境にも所有からシェアへといった流れが生まれている。(まあ、都市部中心の話題ではあるけれど)

 また、少人数でのワークショップを通じて政策提案を行う政策研究会の事業では、今年度、インバウンド(訪日外国人)の県内誘客策をテーマとして取り組んでいる。関連するトピックとして、こちらも、やはり海外で広がっているシェアリング・エコノミー型サービスが注目されている。エアビーアンドビーが提供する、個人の空き部屋などをシェアする宿泊サービスであるが、インバウンド客増加に伴う宿泊施設の不足を補うものとして、国内でも、この「民泊」に期待が高まっている。

 総務省の平成27年版情報通信白書に、この「シェアリング・エコノミー」について、詳しく紹介されていた。
 「シェアリング・エコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。海外では、様々なシェアリング・エコノミー型サービスが登場し、普及している。
 白書に掲載されているアンケート結果によると、海外で広がるシェアリング・エコノミー型サービスに対する日本の消費者の利用意向は、以下のとおりである。
 「一般のドライバーの自家用車に乗って目的地まで移動できるサービス」について「利用したい」、或いは「利用を検討してもよい」とした人は22.9%。
 また、「旅行先で個人宅の空き部屋などに宿泊できるサービス」について「利用したい」、或いは「利用を検討してもよい」と答えた人は、26.4%であり、「利用したくない」、或いは「あまり利用したくない」、を下回った。
 つまり、多くの日本の消費者にとって、まだ海外で普及しているシェアリング・エコノミー型サービスの利用には慎重になっていることが分かった。また、世代間での意識の違いも出ており、20代以下の利用意向が最も高く、年代が上がるにつれて利用意向が低くなる傾向であった。
 その理由としては、「事故やトラブル時の対応に不安があるから」が最も多く、未知のサービスに対して漠然とした不安があるということのようだ。確かに、慣れ親しんでいるタクシーや旅館なら、それぞれ法的な許可を得て、専業として営業しているものであり、信用や信頼感が確立しているが、副業的な、見知らぬ個人の車に同乗する、或いは、個人のお宅に泊めてもらう、ということになかなか「はい、喜んで!」とはいかないのかもしれない。
 一方、日本では、海外で普及しているものとはまた別の、シェアリング・エコノミー型サービスが広まっている。空き駐車場や空きスペースを有効活用した「駐車場シェアリング・エコノミー型サービス」や「家事代行仲介サービス」などである。
 どちらにしても、シェアリング・エコノミー型サービスの信頼性は、口コミ評価に支えられていることは共通しており、モノやサービスの購入にあたって口コミ評価を参考にする点は、日本でもだいぶ浸透してきているため、このサービスは、今後ますます広がっていくと考えられている。

 「皆さんは、普段、公共交通機関を利用していますか?」
 20代を中心とする研修生に問いかける。利用していると手を挙げたのは数えるくらい。つまり9割は、マイカー中心である。そんな研修生たちに地域公共交通の維持・確保の必要性を感じてもらうには、どうすれば?しかも、マイカー中心の生活を送っている自分が。若い研修生にとって、自分が将来、車を運転できなくなったとき、どうしますか?と聞いたところで、そんな先の想像は難しいだろう。
 講義後半では、会津若松市金川町・田園町地区のコミュニティバスを紹介する。高齢者の住民達が自ら立ち上がり、運営協議会をつくってバスを運行している事例である。繁華街からそれほど遠くはないが、もともと道幅が狭く、路線バスが通れない、いわゆる公共交通空白地域であり、地域住民は公共交通に期待をしていなかった。しかし、コミュニティバスの実証実験を行うことになり、それなら行政がバスを走らせてくれると期待した。実証実験の結果は、利用低迷による運行断念。このことで、住民は受け身ではダメだと気づいた。運行存続を要望する声が上がり、地域住民主体の協議会を立ち上げ、2年もの検討と準備を重ねてコミバス再開にこぎつけた。フィクションのようなサクセスストーリーとともに、取材してきた現地の映像を流す。眠そうだった研修生も、地域住民の生の姿に集中力を取り戻す。

 「・・・地域公共交通は、民間任せではなく、地元をよく知る地方公共団体が主役となって、地域に合ったものをつくること、持続可能な公共交通ネットワークを形成することが求められています。・・・今日は、地域公共交通という事例を通して、現状をしっかり把握し、課題を明確化すること、そして改善策を検討するという課題解決のプロセスについてご紹介しました・・・。 以上、本日の講義を終了します。」
 予定より少し早く終了。のどはもうカラカラ。 ふ~、今日の講義は、研修生とShareできただろうか・・・。



 出典:総務省 平成27年版情報通信白書
 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h27.html



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません