2016.4.27
  「インバウンド観光について考える」

                                       主幹  菅野 昭広


 最近、「インバウンド(訪日外国人)」というフレーズが新聞記事やテレビ番組などでもよく取り扱われるようになったと感じている。筆者も、先日、東京のとある下町界隈を散策する機会があったが、昭和の香りが漂う“味”のある商店街に、様々な国の外国人観光客の姿を見かけた。そこでは、外国人が日本人に混じって、特段の違和感もなく買い物を楽しみ、お茶を飲み、写真を撮り、“THE NIPPON-TOWN”の雰囲気を満喫していた。

日本政府観光局(JNTO)によれば、2015年の訪日外客数が過去最高の1,9737千人に達し、1970年以来45年ぶりに訪日外客数が出国日本人数を上回ったとしている。その主な要因としては「クルーズ船の寄港増加、航空路線の拡大、燃油サーチャージの値下がりによる航空運賃の低下、これまでの継続的な訪日旅行プロモーションによる訪日旅行需要の拡大」が挙げられているが、「円安による割安感の定着、ビザの大幅緩和、消費税免税制度の拡充等」も増加を後押ししたとしている(※1)。
 インバウンドによる消費行為は、時に「爆買い」と称されるほど活発であり、多くのメディアで取り上げられていることは、すでにご存じと思う。
 「平成27年訪日外国人消費動向調査(観光庁)」によると、訪日外国人旅行者消費額は前年比71.5%増の34,771億円にものぼり、一人当たりの旅行支出額は約17万円にもなっている(※2)。これら訪日外国人旅行者一人当たりの旅行支出額(宿泊代・買い物代・飲食代を含む消費金額)は、日本人国内旅行者の約3倍になるとも言われており、日本の人口が減少局面にある中で、もはや訪日外国人旅行者の存在は経済活性化の側面からも無視はできない重要な存在となっている。
 この“大きな経済効果”に着目し、今、インバウンドビジネスは脚光を浴び、多くのベンチャー企業が参入する戦国時代に突入している感さえあり、“乗り遅れたくない!”といった、ある種の競争心理が各方面に拡がっているように感じる。

 しかし、こうした日本を訪れるインバウンド(観光目的の訪日外国人)の訪問先の多くは、東京と大阪を結ぶ「ゴールデンルート」、愛知・岐阜・富山・石川を南から北へと縦断する「昇竜道(ドラゴンルート)」、「千葉」、「北海道」あるいは「福岡」など特定の地域にほぼ集中しているのが現状であり、日本国内を満遍なく訪問しているわけではない。
 観光庁によると、2015年に東北6県の宿泊施設(従業員10人以上)を使った外国人は51万人で、全国の6,118万人と比較した場合、その全国シェアは約0.9%にとどまっていて、東北6県の宿泊者数を合計しても、広島県や大分県に満たない状況にある。東北6県が震災前と比べて1%伸びている間に全国は2.4倍に増えており、訪日観光客需要の取り込みで東北地方が遅れているのは明白である(※3)。
 では、今後さらに増加が見込まれる訪日外国人旅行者を、東北に、福島に呼び込むためのポイント、戦略にはどのようなものが考えられるのだろうか。そのような発想にたどり着いた。

 このような状況の中、当センターでは、今年度の政策研究会の活動テーマとして「ふくしま版インバウンド戦略の実践策とは~外国人とともに考える~」と題し、県内自治体等から参加者を募り、研究活動に取り組むこととしている。今年度はサブタイトルにあるとおり、通訳業務や外国人向けツアーガイドの経験などを持つ方も含め、福島在住の外国人の方々を“外国人アドバイザー”として招き、「生の外国人の視点、感覚、イメージ」を研究活動に取り入れることを活動の“キモ”としていきたいと考えている。
 研究会は6月からスタートを予定しているが、その準備活動として、これまでに多くの外国人の方々と面会し、貴重なお話を伺った。
 
その中から、特に印象に残ったフレーズから考えられる、今後の研究活動において押さえておきたいポイントをいくつか挙げてみたい。

(1)外国人が日本を訪れようとする場合、その多くは、口コミなどで評判を聞きつけ、webサイトで関連情報を検索し、旅のプランを練るケースが考えられることから、“シンプル”で“印象的な写真や動画”による紹介、“外国人が実際に楽しんでいる様子が見て取れる記事などの情報”をwebサイトに掲載し、まず、“興味”を持ってもらえる情報発信の仕組みを考える必要がある。

(2)日本人にとっては当たり前の風景、慣習、文化、イベントなどであっても、外国人から見た場合、行ってみたい、体験してみたい、楽しんでみたいと興味を抱く可能性がある地域資源が多く眠っているのではないだろうか。そこで、地域の魅力・特長などを、改めて“外国人の視点(訪問者の視点)”で洗い直し、“売り”を設定する必要がある。

(3)誘客に取り組むにあたり、“ターゲット”(団体か個人か、国や地域はどこを想定するか、どのような目的・興味関心・趣味嗜好を持つ方にアピールするのかなど)を明確にする必要がある。

 観光は、日常にないものを体力やお金を使ってわざわざ見に行くものであり、なにがしかの“目的”を達成したいと考え旅行者は行動を起こすのではないか。
 例えば“雪”をひとつとりあげても、“雪”を実際に見たことがない場合、“触れてみたい”、“雪景色を見てみたい”となり、それが旅をしたい動機につながる。

 あるいは、“日本=サムライ”、“日本=アニメ”など、人によってそれぞれが持つイメージがあるはずで、そこをどう捉え、ツボを発見し、心に響かせるか、今一度、考えてみる価値があるだろう。
 これまでの人気スポットは、ゴールデンルートやテーマパークなど、いわゆる“観光スポット”が中心であるが、2回目、3回目と訪日回数を重ねるリピーターが、より違う日本の魅力(例えば、地方に伝わる伝統行事、文化、食、風景など)を求め、地方にも足を延ばしてくれる可能性はあるように思う。
 これまでに、私たち日本人が見向きもしなかった、あるいはごく当たり前と感じていた地域資源などに、外国人自らが発見し、価値を見出し、ツーリズムの一つとして仕上げてしまうケースなども全国には散見される(4)
 外国人が「発掘」した新スポットは、外国人視点からみたユニークさにあふれ、外国人によりSNS等を通じ情報が発信され、それが呼び水となり更に訪問者が増えることもあろう。

 一方で、外国人を地域に受け入れるということは、“異文化理解の難しさ”と直面する機会でもある。サービス産業としての観光と、そこに暮らす人々の生活の両立、棲み分け、このあたりに大きなジレンマが生じることも考えられる(受け入れ態勢が整わない、多言語標記や通訳の手配が追いつかない、道路が渋滞する、ホテルや旅館が不足する、ルール違反や慣習の違いが引き起こすモラル問題など)。
 しかし、筆者も含め、地方が「インバウンド観光」に取り組むにあたり、最も必要なことは“日本人が外国人に慣れていない”、そこをどうするか、“苦手意識の克服”というべきか、まずはここからスタートしてみようというのが、正直な気持ちである。

参考文献:
公益財団法人日本交通公社編著『観光地経営の視点と実践』丸善出版(平成251210日発行)
引用資料出所:
1 日本政府観光局(JNTO)「2016119日報道発表」
   
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/160119_monthly.pdf

2  観光庁「訪日外国人消費動向調査」(平成27年の年間値の推計(暦年)」確報値)
    http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
    http://www.mlit.go.jp/common/001126525.pdf

3  平成28413日 日本経済新聞社掲載記事(東北経済)「東北外国人対応に遅れ 文化体験求める個人に的」より一部抜粋

4 「第2回 みなかみを世界のアウトドアスポーツのメッカに!~森と水と大地の恵みに感謝!ニュージーランドから来たマイクさんの飽くなき挑戦~」    
   https://www.pref.gunma.jp/07/c3600221.html

  「スノーモンキーに会いたい」、外国人が地獄谷を目指す理由」
    http://www.asahi.com/and_M/interest/SDI2014102988161.html

このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません