2016.7.8
  「幸福な人生の秘けつ」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 NHK・Eテレで放送されている「スーパープレゼンテーション 」(毎週木曜日、午後11時~)は、時折、興味あるテーマが取り上げられ、出演者によるプレゼンの方法にも、大胆なボディ・アクションがあったりして面白い。
 2016年5月12日に放送されたハーバード大学医学部臨床教授であるロバート・ウォールディンガーさんによる「幸福な人生を送るには?ハーバード流人生満喫術」(原題は史上最長の研究が明かす幸福な人生の秘けつ)は、筆者が興味あるテーマだったので期待しながら見た。その内容は、ハーバード大学による長年にわたる実験に裏付けられて説得力を感じたので、紹介してみたい。
 プレゼン・テーマはタイトルにあるように、健康で幸せな生活をいかにして手に入れるのか、これから過ごす良い人生に向けていかに時間と労力をついやすべきか、である。

 あるアンケート調査によると、いまの若者は、人生の目標は何かという問いに対して、80%は金持ちになる、50%が有名になるとの回答だった。
 世間ではよく、仕事を頑張れとか、もっと努力しろなどというが、これらは良い人生を送るための必要条件なのだろうか。
 人生に関する知識や思いは、体験談や人の記憶によるものが多く、時として曖昧である。そこで、ハーバード大学では、人々の人生を10代から一生にわたってリアルタイムで追跡する「ハーバード成人発達研究」を実施してきた。これは、幸せと健康の秘けつを追跡した史上もっとも長い人生に関する研究だ。

 いまから約75年前(1938年)に、724人の仕事、家庭生活、健康などについて、人生の追跡調査を開始した。この間、何が起こるかわからないなかで、参加者が減ってしまったり、研究資金が枯渇したりして、10年以内にダメになることも多い。
 しかしこの研究は、いまも724人のうちおよそ60人が90歳を過ぎて参加しており、さらにその子どもたち2千人以上が参加している。
 始めたときは、当時のハーバード大学の学生たちと、水道もないようなボストンの安アパートに住む最貧民層の青少年たちという、2つのグループを対象とした。
 その後、それらの学生や青少年たちはさまざまな職業を持った大人として成長し、なかにはアメリカの大統領になるなど、社会のテッペンに登りつめた人もいれば、逆に転落した人もいた。
 参加者には、いまも2年に一度電話をして、アンケート調査に協力してもらうとともに、実際に会って話を聞き、健康状態もチェック、血液や脳の検査、夫婦間のプライベートな会話も録画したりしている。

 その結果、集められた膨大なデータから、どんなことがわかったのか。
 それは、富や名声、一生懸命働くことの大切さなどではなく、良い人間関係が幸せや健康の秘けつだということだ。
 そこから、つぎの3つの教訓が得られた。
1. 人とのつながりは良く、孤独は悪い。
 家族、友人や地域とのつながりは、人々を幸せにし、健康で長生きにする。一方、孤独は害をおよぼす。幸福度が低く、健康の衰えが早くおき、脳機能も早く低下し、早死にする。アメリカでは5人に1人が孤独を感じている。
2. 重要なのは友達の数や結婚しているかどうかではない。
 「人間関係の質」が大切なのだ。ケンカばかりして愛のない結婚生活は、おそらく離婚するよりも悪い。温かい人間関係は、われわれの幸せを守ってくれる。
 加えて、50代の時の人間関係の満足度は、80歳のときにも健康をもたらす。良い人間関係は老化を防止する効果があるようだ。
3. 良い人間関係は、体だけでなく脳も守る。
 80代のパートナーとの関係を調べてみると、困ったときに相手に頼れると思っている人は、脳の老化防止効果がある。たとえ体に痛みがあっても、幸せでいられる。
 しかし逆の場合は、記憶力の低下が早く始まっている。つまり、たとえしょっちゅうケンカをしていても、いざというときに相手に頼れる、という深い人間関係を築くことがだいじなのだ。

 では、このようなことはおよそ以前からわかっていたが、なぜそれができないのだろうか。
 得てして人間は楽をしたいと考え、手っ取り早く良い人生を手に入れたいと思ってしまう。人間関係は複雑でめんどうと思いがちだが、健康で幸せな人生を送っている人は、退職後に積極的に遊び仲間をつくった人たちだ。
 よく名声や富、成功することが大切と思われがちだが、75年間の研究成果からは、家族や友人、地域で人間関係に頑張った人たちに注目したい。
 では、人間関係をどう頑張るのか。できることはいくらでもある。たとえばテレビやパソコンを見るのではなく、人と向き合う。パートナーと散歩やデートをするなど、新しいことを始めることが有益だ。

 最後に、マーク・トゥエインによる、いまから100年以上前の言葉で締めたい。
 「人生は実にはかないものだ。争い、謝罪、嫉妬など、責任追及している時間はない。あるのは愛する時間だけ、それもわずかな時間だけだ。良い人生を送るためには、良い人間関係が必要ということだ。」

 同番組の最後に、ナビゲーターである伊藤穰一さん、スプツニ子!さんと、ウォールディンガーさんとの鼎談もあった。その中では、良い人間関係を生む秘けつは、「柔軟性」であることが述べられていた。
 人は、集団生活や結婚生活の中でも孤独になりうる。つまり、社会的なつながりの数より、人間関係の中でどう感じるか、「つながっていると感じるかどうか」が重要だ。
 そこで、良い人間関係ができる人に共通する特徴としては、「柔軟性」が必要なのだ。自分の思うように他人を動かそうとする人は、人間関係でトラブルを抱えることが多い。柔軟性があり、他人の考えを尊重できることが、人間関係をうまく維持したり、困難を乗り越えるために必要な要素である。
 また、年をとるにつれて人は賢くなるといわれることに対しては、「社会情動的選択性理論」という考え方がある。人は人生の残り時間が少なくなるにつれ、限られた時間を意識する結果、より自分を幸せにする選択をするようになり、自分の幸せにつながらない、義務感でやっていたことを切り捨てていく。だから、人は年齢とともに、より幸せを感じるようになる、とのことだ。

 結論は、当たりまえとも思える内容に落ち着いているが、これを第二次世界大戦前から始めて、今日まで75年間にわたり実証研究を続けていることに、アメリカの底力のすごさを感じさせる。今日の年間研究予算は1億円とのことだ。
 番組時間が短かったので、大学生と貧民層のあいだ、あるいは富や名声志向の人とそうでない人の間にはどのような違いがあるのか。50代の時の満足感は80代にはどのように影響しているのかなど、さらに知りたいと感じたが、今後の機会に譲りたい。
 幸福な人生を送るためには、良い人間関係が大切ということを肝に銘じて、毎日を過ごしたいと感じた。

(注)伊藤穰一さんはマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長、スプツニ子!さんは同メディアラボ助教・現代アーティスト。
 なお、興味ある読者は、筆者が以前(平成26年1月16日)、本コラム欄で紹介した「幸福感を向上させる3要素とは」も、参考になるように思う。
http://www.f-jichiken.or.jp/column/H25/yosioka145.html

参考文献:
NHK・Eテレ番組「スーパープレゼンテーション」<吹き替え版> 毎週木曜 午後11時~、<字幕版> 毎週月曜 午前0時45分~
2016年5月12日放送(同年6月16日再放送)、ロバート・ウォールディンガー「幸福な人生を送るには? ハーバード流人生満喫術」
http://www.nhk.or.jp/superpresentation/pastprogram/160616.html



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません