2016.9.7
  「桑折町の歴史的町並み再生に向けて」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 福島県北に位置する桑折町は、奈良時代に郡の役所が置かれていたことから桑折(こおり)の名が付いたといわれる。その後、江戸時代には幕府領となり代官所が置かれた。また、近くにかつては佐渡金山、石見銀山とともに日本三大鉱山といわれた半田銀山があり、奥州街道と羽州街道の分岐点でもあったことから、交通の要所や宿場町として栄えてきたという歴史がある。
 これまで桑折町に行ってみたいと思いつつ、その機会に恵まれなかったが、最近、機会ができ、旧奥州街道沿いに連なる商店街を中心とした歴史的な町並みを視察することができた。
 仕事がら、これまで全国を飛びまわり、地方の商店街などを見る機会があったが桑折町の商店街を中心とした歴史的な町並みには、たたずまいの良さが感じられた。

 地方都市の商店街というと、シャッター通りと揶揄されるように、郊外に立地する大型ショッピングセンターなどに客を奪われ、その多くは歩く人も少なく閑散としている。加えて、商店主らの高齢化と後継者不在により、店を開けることすら難しくなり、結局、店のシャッターを閉めたままとなり、商店街全体の賑わいも消えかかっているという事例は少なくない。
 しかし、桑折町の商店街は、一部にはそんな傾向も見られたが、全体に「生きいている」という感じがした。

 その理由を考えてみたところ、まず、シャッターを下ろした商店が少なく、店を開けていることで、商店街全体としていつでも客を受け入れようとする心意気が感じられた。
 また、随所に、明治・大正あるいは昭和の戦前・戦後間もない頃に建てられたと思われるような歴史的な店舗、土蔵、寺社などの味わいが感じられる建造物が残っており、歩いていて楽しい。
 さらに、沿道の建物は2階建てまでがほとんどで、かつ、建物間や道路沿いに広場や小さな空きスペースがあったり、所々に名所や建物の案内標識などが立てられたりしていて、町並み全体に開放感や統一感がある。
 そして、町並みの突きあたりに、ランドマークになっている1883(明治16)年に建てられた擬洋風建築である旧伊達郡役所(1977(昭和52)年に重要文化財指定)が、威風堂々と建っている。この建物は、2011(平成23)年の大震災で内部が一部損壊したものの、2014(平成26)年には保存修理が終わり、いっそう凜とした姿として再生されたことも、美しい町並みに貢献しているように感じた。
 加えて、町並みのなかに、桑折御蔵(おんくら)という1884(明治17)年頃に造られた蔵建物を再利用した休み処があるが、その前を通ったときに、孫らしき子どもといっしょに店先を掃除していたおばあさんから、どうぞお茶でも飲んで休んでいってください、と気軽に声をかけていただいた。
 夏の炎天下を歩いていて、そんな声をかけていただいたこともうれしかったが、そのおばあさんと小学校低学年らしき子どもが、こざっぱりとした身なりをして、一見して品性の良さを感じた。
 そんな一瞬の体験も加わり、おそらく日ごろからの店主や店員あるいは商店会、町内会などの活動により、商店街を中心とした町並み全体が「生きている」ように感じられたのではないかと思った。
 町の方に聞くと、それでも商店街は次第にさびれているとのことだったが、これからも関係者らが手を加え続けることで、この商店街を中心とした歴史的町並みは維持・再生していけるような可能性を感じた。

 町並みの再生は、建物や土地利用の再編をともなうことが多いため、すぐに効果を出すことはむずかしいが、10年先あるいは30年先をにらんだ計画を立てることで、再生に向けて踏み出すことができる。
 そのためには、建物や歩道空間などのハード整備も必要だが、肝心なのはなんといっても商店会や町民の皆さんのやる気、あつい思いだ。そんな雰囲気や可能性が、この商店街には秘められているのではないか。

 今後、外観的には、電線類の全面的な地中化、歴史的雰囲気を守るためのファサード(建物の外壁)や建物の色彩の統一、屋外広告物の規制、遊歩道整備などが有益といえよう。
 また、高齢化などにより雰囲気のある商店や建物の維持が難しい場合には、経営委託や貸店舗化、内部の改装などにより、若い人たちの感性を生かしたブティックやレストラン、カフェなどのオシャレな店舗などに再生していくことも可能ではないか。
 さらに、この旧奥州街道が大行列の舞台にもなる諏訪神社例大祭や奥州・羽州街道まつり、あるいは7年ごとに行われる御柱祭などのイベントの開催が、商店街をいっそう活気づけることだろう。

 歴史的な商店を中心とした町並み整備事例としては、全国的には金沢市、高山市や蔵のまちで有名な川越市、会津若松市、喜多方市などが知られている。しかし、桑折町の町並みを見ながら、最近、筆者が訪れたこともあり、比較的こぢんまりとまとまっている千葉県の旧佐原市(現在は合併して香取市佐原)の町並み再生事例が頭に浮かんだ。ここは、1996(平成8)年12月10日に文化庁より関東地方初の「重要伝統的建造物群保存地区」として選定されている。
 佐原の場合は、江戸時代からの水郷沿いに発達した歴史的町並みという地形的な違いはあるが、日用雑貨や食料品を販売する店舗などともに、観光客らをターゲットとして歴史的建物などを土産物屋、レストラン、カフェなどに再生した店舗が混在していて、活気とともに人間くささが残っている。
 また、毎年開催されている関東三大山車祭りの一つと称され、約300年の伝統がある夏祭り(八坂神社祇園祭)は、全国的にも知名度が高く、広域から観光客を集めている。

 桑折町でも、歴史的建造物を生かしながら、生活感が感じられる町並みの再生をめざしてはどうだろうか。
 町では、2016(平成28)年3月に「桑折町歴史的風致維持向上計画」を策定していることから、今後、このような計画を推進していくことで、多くの買い物客や観光客でにぎわう歴史的な町並みの再生を期待したい。
             <桑折町の旧奥州街道沿いの町並み風景>
  
    旧伊達郡役所から見た町並み全景       奥州街道と羽州街道の追分、桑折宿

    
   沿道の町並み          桑折御蔵         旧伊達郡役所
    
            個性的な歴史的店舗や建物が並ぶ
    

                  沿道には寺社も多い  景観に配慮した消防団建物

         <香取市佐原の歴史的町並み再生事例>
    
  整備された町並み         歴史を感じさせる建物群
    
       歴史的建物を土産物店に改装        火の見やぐらの再現
    

     旧三菱銀行建物を観光案内所に改装      町並み由来の看板表示
                                              (写真はすべて筆者撮影)

参考文献:桑折町「桑折町歴史的風致維持向上計画」平成28年3月


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません