2016.11.30
  「政策形成研修に参加して」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 最近2年間、継続して実施している福島県須賀川市の職員研修に、今年も講師として参加させていただいた。
 毎年、採用5年目程度の若手20名前後が対象となっており、約3か月間かけて、皆でワイワイガヤガヤとやるワークショップによる政策提案をテーマとしている。
 今年は、3グループ編成となったので、わが国の旬の話題ともいえる地方創生、子育て支援、定住・地方移住の3つをテーマとし、これらに関連して、当該自治体に有効な政策を提案するという研修内容となった。ほぼ全国のどこの市町村でも最優先に取り組んでいるテーマといえよう。

 そんなわけで3回目となったが、他の自治体での研修経験なども考え合わせると、研修成果は、年ごとに良くなっているように感じる。以前は、誰もが考えつきそうな、あるいはすでに他市でやっているような提案内容も少なくなかったが、しだいにオリジナリティが膨らんできている。若い世代ならではの、奇想天外ともいえるような大胆な提案もあったりして、楽しい。
 さらに、およそ和気あいあいと楽しげにチャレンジしている姿をみていると、比較的、自由に育ってきた物怖じしない最近の世代の特徴なのかもしれない、などとも感じた。

 これまで研修生による最終報告は、市長をはじめとした市の幹部の前で、プレゼンをしている。今年も同じ予定となり、はじめて筆者も参加し、発表の様子を聞かせていただく予定であったが、ちょうど他の研修と重なってしまい、参加することができなかった。
 残念に思っていたところ、後日、市の人事担当者から、ていねいにも発表の様子を収録したDVDが送られてきた。
 すぐに、自分自身が発表したようなワクワク・ドキドキ感を持って、録画映像をじっくりと見てみた。すると、当初は3グループが各20分報告し、会場の参加者から10分程度の質疑応答を受けると聞いていたが、実際には、合計2時間近くに及ぶ熱心な発表会となっていた。

 上記したように、それぞれの提案はすばらしい発表内容であったが(ここでは残念ながら、内容紹介は控える)、加えて、プレゼンの仕方もすばらしかった。
 各グループは7~8人の編成となったが、どのグループも、研修生全員が発表する機会を持ちたいと考えたようだ。このため、持ち時間内に各メンバーが入れ替わりながら説明していたが、そんな交代もとくに違和感なく、スムーズに進行できていた。
 なかでも感心したのは、説明者たちの多くが手持ち資料をなるべく見ないように心がけ、前で座って聞いている50名前後の参加者(市幹部のほか、大部分は発表者の先輩方)の方を向いて、大きな声で発表できていたことだ。
 なかには、発表者の説明に合わせて、要所要所でイェーイと、合いの手を入れたりとグループ全員が協力している姿に、会場からは笑いや拍手もあり、楽しいプレゼンとなっていた。

 さらに感心したのは、プレゼンに向けて、グループごとにかなり事前練習をした様子がうかがえたが、最後に3グループの発表全体を総括するような発表もふくまれていた。おそらくこの間、各グループメンバー間では、適宜、時間をつくって事前準備したように思われたが、あわせて、さらに全員が集まったり、あるいは情報交換するような努力もしたのだろう。
 きっと、このほぼ同期にあたる20数名は、今回の研修を通じて、所属している部署に限らない多様な問題意識に気づくとともに、幅広い人脈を手にしたに違いない。
 今回、情報交換したり、相談相手になるような関係をつくったことで、今後ともなにかに悩んだときには助け合うことができるだろうし、なにかを仕掛けたいと思ったときなどにも協力し合えるのではないか。
 そして、そんな「絆」が増えることは、役所全体にとっても、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の向上ともいえるような、貴重な財産となるのではないだろうか。

 併せて、DVDを見ていて気づいたのは、発表を聞いていた先輩職員の皆さんの質問やコメントの内容だ。提案の実現に向けたハードルはなにと考えているか、またその対策は考えたか。民間資金の活用や協働は考慮したか。提案事業に対する需要量は想定したかなど、発表内容の痛いところを突いてくる。
 研修生たちは、お互いに相談しながらも一生懸命答えていたが、全体として、若い研修生たちを伸ばそうとする温かい雰囲気を感じることができた。やや大げさかもしれないが、市役所のガバナンス(統治)が優れているのかもしれない、とも感じた。

 とは言っても、それでは、今回発表があった提案内容がすぐに使えたり、十分に詰められた内容であったかと言えば、やはり甘さはある。質問にも出ていたが、想定する事業主体の構成や必要な事業資金の捻出方法、必要となる用地の確保手段、失敗したときのリスク管理方法の配慮など、指摘をすれば少なくない。
 ただし、今回は実現可能性よりも、提案のオリジナリティを重視したことから、そんな結果になった面もあったので、今後は、このような研修の場を離れても、一職員、一市民として、つまり自分ごととして、地元のにぎわいや雇用づくり、安全・安心な地域づくりなどの実現に向けて、チャレンジを続けて欲しいと思う。

 最後となったが、今回の研修の機会に参加させていただいた筆者のほか、自治研修センターの仲間たちも、このように前向きに取り組んでいる研修の場に参加できたことを、うれしく感じているにちがいない。

参考 須賀川市職員募集facebook
https://www.facebook.com/sukagawacity.shokuinboshuu/
成果発表会の様子
https://www.facebook.com/sukagawacity.shokuinboshuu/posts/589778061194790



※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません