2017.3.15
  「JR只見線復旧後のイメージ」

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 先日、冬のJR只見線に乗った。奥会津や会津地域の観光などを目的としたわけではなく、ただ只見線に乗ってみたくなったのだ。
 只見線は、福島県の会津若松駅から只見駅を経て新潟県内の小出駅に至る、全長135.2㎞のローカル鉄道である。しかし、2011年7月の新潟・福島豪雨による橋脚の流失などにより、現在、会津川口(金山町)-只見(只見町)駅間は不通となっており、代行バスが走っている。
 そして2016年12月、今後の対応として、福島県から上下分離方式による全線復旧の方針が明らかにされた。上下分離方式とは、運行は従来どおりJR東日本が担うが、線路などの設備や運営経費は、関係する自治体が負担する。2020年以降には復旧見込みとの報道もあり、再開する日がいまから待ち遠しい。
 そんな想いが抑えきれなくなり、今回は小出駅から入り、会津川口駅までは代行バスを利用して、沿道に点在する集落や雪景色を楽しんだ。そして、会津川口駅から会津若松駅間は、鉄道車両に揺られながら、遠くに連なる雪山、雪をかぶった樹林帯、近景では田畑地帯と思われる広がる雪野原などの風景を堪能した。

  
     代行バス(只見駅前にて)               只見線(会津川口駅にて)

 ローカル線は、「実際には乗らないが、乗ってみたい鉄道」と言われたりする。たしかにそうだ。休日にSL(蒸気機関車)などが走れば、広域からの集客が期待できるが、ふだんは沿線住民以外はめったに乗る機会はなく、筆者自身も、前回乗ったのはいつ頃だったかと思い返してしまった。
 しかし、ローカル線に乗る人は減っていても、ローカル線に乗ってみたいと思っている人は多いはずであり、利用を促進するためには、潜在化している顧客ニーズを顕在化する方法を見つけ出すことが大切だ。
  一般的に言って、地方の町村部では、バスと比較すれば、鉄道の経済性が劣るのは、当たりまえだ。鉄道は大量輸送機関なので、周辺の居住人口が少なく、さらに人口減少が進む過疎的な地域では、経済性からすれば維持しつづけることはむずかしい。今日、しだいに地方の主要な公共交通手段が、鉄道からバス、小型バス、ジャンボ車両、タクシーと、小型化する傾向にあるのは必然的な流れともいえる。
 そこで、鉄道を維持していくためには、国などによる支援措置がない場合には、それなりの覚悟のもとに、努力や創意工夫が求められることになる。

 改めて、鉄道が持つ魅力・長所を整理してみると、
 ・線路という専用空間を走ることから、輸送時間が正確で短縮可能性にも富む
 ・沿線住民には昔からの風景として記憶に残っており、日常生活に密着している
 ・線路は全国につながることから、広域的なネットワーク性に優れる
 ・車両が大きく、連結も可能なことから、団体客対応が可能など、輸送量が大きい
 ・お座敷やレストラン化、あるいは貨物運送など、車両の利用可能性に優れる
 ・重量感ある金属のかたまり(車両)が力強く走ることで、警笛やブレーキ音などを含めてロマンをかき立てる
などを挙げることができる。なによりも、いまも子どもたちのオモチャとしてプラレール(プラスチック製電車)や鉄道模型が人気なように、幅広い世代で鉄道が好かれるのは、それだけ魅力があるということだろう。

 そこで一般的な利用促進策を探ると、以下に列記するような提案が考えられる。
 ・まず覚悟として、沿線住民は、地域の足(社会資本)としての認識をしっかりと持つ  (乗らなければ、あるいは利用しなければ、維持できないという宿命の認識)
 ・沿線に学校、公共施設や病院などをコンパクトに整備することで、通勤通学あるいは日常的に利用しやすい環境をつくる
 ・観光客を対象とした地元の食材を活用した車内弁当販売やイベントの開催
  (やや古くなったが、NHKの朝ドラ「あまちゃん」に登場した三陸鉄道の「うに丼」や海女カフェを思い出す)
 ・観光利用を目的としたレストラン列車、お座敷列車などの演出、創意工夫 ・他路線とのネットワーク化や相互乗り入れによる魅力化、時間短縮化  
 ・国内外から広くファン(応援隊)を増やすことで、利用しない(しにくい)方々からの寄付や協賛金確保、応援体制づくり
 ・法律・条例や特区などの形で、補助金、減税など支援措置の創設・活用
などを考えることができる。つまり、大切なことは、鉄道単体で考えるよりも、沿線地域と一体となった活用方策や地域振興をめざすことで、存在価値を高める考え方が有効といえる。

 実際、千葉県の房総半島で走る第3セクターのいすみ鉄道は、ローカル線再生のモデルといわれるが、2009年に公募により社長になった鳥塚亮氏は、ムーミンというキャラクターの導入、鉄道マニア受けする稀少車両の採用、伊勢エビを利用した地産弁当や高級料理の提供、みやげ品の開発、鉄道運転手教育などの営業外収入確保の工夫、幅広い支援者からの寄付の活用、沿線住民の協力、などのさまざまな仕掛けを創り出したり、協力を得ることで、廃止の危機にあったいすみ鉄道(旧JR木原線)の再生に成功している。
 ローカル線の維持に向けて、上記したような努力は、全国共通の施策として必要不可欠といえるだろう。

 さらに、日本経済新聞(NIKKEI PLUS1紙面)において、「紅葉の美しい鉄道路線ベストテン」第1位(2008年)や、最近では、中国の人気SNSである微博(ウェイボー)で「世界で最もロマンティックな鉄道」として取り上げられた只見線の場合、筆者はさらなる活用策があると感じている。
 それは、観光的利用のポテンシャル(潜在的魅力)が大きいということだ。只見のブナ林(只見ユネスコエコパーク)に代表される広大な自然林、点在する集落や里山風景、狩猟や木工製品、農林産品を中心とした地産地消の食材や郷土料理など、自然環境や歴史・文化資源・地場産業といった、多様な地域資源がじつに豊富にある。
 こうした多様な地域資源に富む地域を、フランス人のリヴィエール(G.H.Riviere)は「エコミュージアム」(注)と表現した。わかりやすく言えば、地域一帯を「屋根のない博物館」「地域まるごと博物館」と想定する考え方だ。只見線沿線の奥会津、会津地域は、そうした魅力を十二分に持っている。

 只見線が活躍している奥会津・会津地域一帯のイメージをふくらませてみると、ラッピング車両やトロッコ列車・SLなどによる列車運転 → カラムシ織りを着た女性車掌による歓迎、歌舞伎などの郷土芸能による車内イベント → 周辺地域で森林・自然環境の学習 → ブナ林、渓流、雪山・スキーなどの散策・自然体験 → 眺望地点や撮影スポットから只見線撮影 → 地産弁当による車内ランチ(会津塗の弁当箱に会津の食材で盛りつけ) → 歴史的資源・寺院・神社などの名所めぐり →沿線の温泉入浴や旅館・ホテルでの郷土料理・芸能鑑賞 → 民泊・農泊での農林業体験や記念植樹 →  ガイド付きの美術館・博物館めぐり → 木工・陶芸・織物などの制作体験 → 宴会列車で地酒や特産品のつまみ、フルーツなどを堪能 → 古民家や蔵の町並みなどをガイド付きでまち歩き→ 直売所や道の駅で特産品の買い物、といった具合だ。もちろんこれは一例で、ターゲット(想定顧客層)に応じて、バリエーションはいろいろあっていい。
 加えて、このような体験を実現しやすくするためには、地域内を自由に乗り降りできる3~4日間程度有効な格安周遊券(たとえば会津ぐるっとカードの拡大版)が、有益といえよう。

 こんな奥会津・会津地域の将来像を展望すると、只見線の利用客を増やす心配よりも、むしろ利用客が増えたときに受け入れる施設・設備や人的対応などをどのように確保するか、という課題を検討すべきかもしれない。
 具体的には、宿泊施設としての旅館・ホテル、農泊・民泊施設そして体験・研修施設などの必要量や労働力の確保、観光施設・資源のいっそうの磨き上げ、二次交通(駅と目的地間の輸送)の提供、パーク&ライドシステム(駅周辺に駐車場を整備)、安全な観光・周遊ルートの開発・整備、案内板やトイレなどの整備、外国語対応の案内ガイドやボランティア・スタッフの育成、などが想起される。
 上記にイメージしたような奥会津・会津地域ならではのおもてなしを、一つ一つプログラム(アクティビティ)化することを通じて、企画内容、責任者、開催日時、募集方法、参加費用(料金)などが明確になり、魅力ある商品として売り出すことができるようになろう。
 総じていえば、奥会津・会津地域の自然や歴史・文化、生活を楽しむために、エリア全体で地域が持つ力=地域力を底上げしていく、という発想が大切だ。

 このように考えると、沿線地域の連携力を強化するために、市町村単位などで分散している観光・地域振興組織などの全体を調整したり、統括するDMO(経営的に独立した観光・地域振興組織)のような組織の創設(あるいは既存組織の再編)を、考えても良いのではないか。
 その場合、大手の旅行エージェントなどと組んでも良いが、基本は、地元の地域振興組織や観光協会、旅館組合、関係企業などがつながり、そこから一つひとつ魅力ある商品を手づくりすることで、心がこもった会津ならではの「地域の価値」を創り出すことに注力したい。

 最後に、鳥塚亮氏の本から学んだひとつの考え方を紹介したい。
 幸せになる方法についての考え方なのだが、よく「人は幸せになる権利がある」といわれる。しかし、幸せになる権利とは、いったいどうしたら幸せになれるのか、と周囲に求めたくなってしまう。そこで、幸せになるのは権利ではなく、義務だと考えるようにする。義務ならば、自分で幸せになるために努力を始めることになるからだ。
 いすみ鉄道沿線では、地域の人たちや企業などが協力して、駅構内の草取り花壇の整備、掃除、沿線の草取りをやっている。誰に頼まれるでもなく、自分たちが率先して地域の鉄道を守るために、自主的に一生懸命働いている。つまり、鳥塚氏によれば、自分が幸せになる方法を探す努力を「義務」と考えることで、幸せになれるのではないかということだ。
 このような考え方は、ローカル線の再生のみならず、地域づくりや人の生き方全般にもあてはまるのではないかと、腑に落ちた。

 

 いすみ鉄道応援団による花壇づくり(大多喜駅にて)

() リヴィエールによるエコミュージアムの考え方については、新井重三『実践 エコミュージアム入門』(1995年、牧野出版)が詳しい。

参考文献:
鳥塚亮『ローカル線で地域を元気にする方法』晶文社、2013
http://www.shobunsha.co.jp/?p=2756


※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません