2017.10.27
  「若い労働力の確保に向けて
                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 
昨年、福島県北部地域の地域振興を目的として、地域内にある温泉旅館の女将にヒアリング調査したときに、労働力不足の悩みを聞いた。「福島の復興」という大きな追い風があるにもかかわらず、回復傾向にある宿泊客・観光客を受け入れようと思っても、とりわけ若い労働力が不足しているために断っている状況がある。一刻も早く、若い労働力を増やしてほしいとの切実な声だった。
 これは筆者が体験した一例であるが、福島県のみならず昨今の全国的な有効求人倍率の高さ(2017年7月現在1.52)などからも、国内各地のさまざまな現場で人手不足が常態化していると推定される。

 話題は変わるが、2017年3月31日(富岡町は4月1日)に、東京電力福島第一原子力発電所の事故により居住が制限されていた浪江、富岡、川俣、飯舘の4町村で、居住制限区域と避難指示解除準備区域の指定が解除された。これにより、事故発生から約6年間を経て11市町村に出されていた避難指示は、対象区域の約7割で解除となった。
 それから半年以上が経過しているが、住民らの帰還の動きは鈍い。8月末(富岡町は9月1日)現在で、帰還(転入を含む)した住民は計1,323人(解除対象人口3.1万人の4.3%)とのことだ。町村別にみると、浪江町360人(2.4%)、富岡町240人(2.6%)、川俣町235人(24.3%)、飯舘村488人(8.5%)という水準にあり、浪江町、富岡町でみると100人中3人にも満たない。しかもその中心層は、長年にわたり故郷での生活に慣れ親しんだ高齢者である。(河北新報、2017年10月14日付による)

 このような原因としては、すでに原発事故から6年半以上が経過していることから、多くの避難者は避難先での生活にも慣れ、新しい生活を始めていることがあげられよう。また、放射線量や廃炉作業に対する不安が根強いという要因もあろう。
 引き続き、帰還の動きを支援あるいは進めていく努力は不可欠であるが、今後の人口回復には厳しい状況が予想される。
 定住者が少なければ、農林漁業、工業、商業・サービス業などの生産・販売活動はもとより、都市基盤整備、医療・福祉、教育・文化などの復興は進みにくい。人が少ないところに、十分なまちづくりが成り立たないのは、自明の理である。
 しかし、被災地のみならず、多くの若者たちは東京などの大都市に流出している現状があり、地方での若者らの確保は容易ではない。

 そんな最近の動向を踏まえると、被災地の再生に向けて、帰還した住民らによる地場産業振興への支援や企業誘致施策などを継続すると同時に、新たな視点に立った地域振興策が必要ではないかと感じている。

 そこで、日本社会全体としても、今後とも減少し続ける人口、なかでも若者らの減少を補完する質の良い労働力の確保が求められていることから、震災と原発事故により被災地となった浜通り地域に、外国人労働力を育成する教育・研修機関の創設を提案したい。
 職業訓練、語学研修、社会常識や専門知識などの教育を受けた、わが国の将来をも担う海外からの若者たちの確保は、被災地のみならず、日本社会にとっても大いに有意義といえよう。但し、国内労働市場への急激な影響を避けるためにも、計画的な導入が望まれる。

 そう考えると、浜通り地域周辺や県内には、海外からのアクセスが可能な福島空港や国際教育で知られる県立会津大学が立地している。さらに被災地に近接する二本松市には、JICA(青年海外協力隊)(注1)の訓練施設があることから、海外からの労働力を受け入れるための環境条件には、恵まれているといえる。
 加えて、不幸なできごとではあったが、浜通り地域には住民の避難により無人となっている家屋や集落そして耕作放棄地などが散在しており、広大な土地の再編利用が可能である。
 そこで、阿武隈高地の豊かな自然環境を背景に、広大な農地、林地などに囲まれながら、若者らが学び語らう国際交流のまち(学園都市)づくりを提案したい。
 首都圏近郊で、都市機能や都市基盤が整備され、さらに再編利用が可能な土地が散在している浜通り地域は、貴重な存在といえよう。国、県や市町村などにより、先行して進められている地域産業の復興や復興計画と調和をはかりながら、国際色豊かな若者らが集うフロンティア・ゾーンとして、計画的な再開発を進めてはどうだろうか。

 質の高い外国人労働力を育成するためには、上記したように職業訓練、語学研修、社会常識や専門知識などが必要となることから、教育・研修施設、宿泊施設、売店・飲食店、その他の生活支援サービスなど、多様な施設や機能の整備が必要になる。したがって、大きく地域の将来構想を描きながら、5~10年あるいは30年先程度をにらみつつ、段階的に進める必要があろう。

 実現に向けた課題としては、ヒト、モノ(施設等)、カネの確保が想定されるが、まず求められるのは、教員人材の確保ではないか。
 これに関しては、全国から希望する教育経験者や大学・専門学校などの研究生・卒業生らの公募が考えられるが、既述した近隣にあるJICA(青年海外協力隊)や会津大学あるいは福島大学などが保有する人材やノウハウの協力も期待できるのではないか。
 また、昨年、インバウンド関連の調査の際に世話になったような在日外国人の皆さんらによる協力、さらには世界各地からの若者らとともに、日本語能力に優れた母国の教員人材も併せて来日してもらうなど方法で、対応の道を探ってはどうか。

 必要な施設としては、教育研修施設などの新設が理想的ではあるが、現在、浜通り地域には、利用されていない宿泊施設や公共施設、義務教育施設あるいは大規模な民家などが散在している。そこで、地権者、所有者らの同意を得つつ、これらのリニューアルや有効活用から始める手も考えられるのではないか。
 また、道路や上下水道といったインフラや通信ネットワークの整備などは、既存施設や設備の利用(修復を含む)が可能であるが、必要に応じて国家戦略特区などの制度を活用することで、集中的な投資も可能であろう。
 あるいは現在、国と福島県により進められている浜通りを中心とした地域振興策である福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想(注2)のなかに組み込んで、実現に向けた具体的検討を進める手も考えられるのではないか。同構想のなかには、「未来を担う人材育成強化」として、主に研究者や技術者層を想定していると思われる国際産学連携・人材育成計画があり、目的とする方向性には近いものがある。

 求められている若者らに対する労働需要に対応していくために、まずは利用可能な既存施設や資源を活用しながら、数十名程度の規模から始めてはどうか。そして将来的には、わが国に多様性を創り出す国際色豊かな人材の育成機関として活動し、毎年、数百名程度を育成することで、全国で広く活躍してもらうようなビジョンが展望できよう。

 震災と原発事故によって取り残されてしまった浜通り地域の再興に向けて、日本社会の将来的課題の解決にもつながる国際色豊かな若者のまちづくりを提案したい。若者たちの計画的な流入を進めることで、高齢者のまちと化しつつある被災地も元気を取り戻すことができるのではないか。

(注1) JICAとは独立行政法人国際協力機構であり、国際協力の実施機関(JICAボランティア)として青年海外協力隊が設けられている。二本松市には全国に2か所しかない訓練所がある(二本松青年海外協力隊訓練所)。
https://www.jica.go.jp/nihonmatsu/

(注2) 福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想
 東日本大震災及び原発事故によって失われた浜通り地域等の産業基盤の再構築を目指し、廃炉やロボット技術に関する研究開発拠点の整備を始め、再生可能エネルギーや次世代エネルギー技術の積極導入、先端技術を活用した農林水産業の再生、さらには、未来を担う人材育成、研究者や来訪者に向けた生活環境の確保や必要なインフラなど様々な環境整備を進めている国家プロジェクト。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list275-1006.html

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません