2017.11.10
  「政策研究会の魅力
                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 
(公財)ふくしま自治研修センターは、福島県と市町村職員の研修機関である。そして、当センター政策支援部では、政策研究会という活動を行っている。
 これは、外部の専門家による講義などを通して政策課題に対する認識を深めるとともに、課題解決に向けた意欲づくりと手法習得を主な目的としたワークショップ形式による研究活動である。

 平成24年度から毎年、特定のテーマを決め、自薦・他薦による10~20名程度の県と市町村職員による研究会を開催している。テーマとしては、24~25年度は「福島県のイメージアップ」、26年度は「里山資本主義」、27年度は「小さな拠点」を取り上げてきた。
 そして28 年度は、県内在住の外国人6名を“アドバイザー”として招き、以下に紹介する「ふくしま版インバウンド戦略の実践策」を取り上げた。
 近年、わが国への入国条件の緩和などにより、外国人観光客が急増している。平成25年頃から増え始め、28年には2千4百万人に急増し、地方経済の活性化にも貢献している。
 しかし、福島県は、平成23年3月に発生した東日本大震災と原発事故に遭遇した。発災から7年目となり、今日ではほとんどの地域で放射能による影響はないが、風評被害が残っていることから、外国人観光客の来県は出遅れている。そこで、インバウンドを研究テーマとすることで、福島県への誘客戦略を取り上げた。

 まず、全国的に活躍しているインバウンドに詳しい有識者、自治体担当者らを招いた講演や意見交換会を開催し、関連する知識を習得した。また、外国人アドバイザーから講話を聞くとともに、意見交換をしてニーズを把握した。
 さらに、モデル地域として取り上げた須賀川市及び南相馬市のいずれかを選択した各メンバーは、グループごとにフィールドワークを行い、現場で活躍している観光関係者や事業者らから話を聞くことで、観光客の動向や現場の空気を体感した。
 一方、デスクワークでは、合同あるいはモデル地域別に研究会やミーティングを行うなかで、各地の観光的魅力や直面している問題点などを整理した。さらに、外国人アドバイザーを含めた参加者によるワークショップを通じて、アイデアや提案を練り上げた。最終的に、調査期間とした約8か月間に9回の研究会を行い、2つのモデル地域に関する誘客戦略をまとめあげた。

(須賀川グループ)
 須賀川グループでは、今後、観光客として増加が見込まれ、親日派が多いといわれるムスリム(イスラム教徒)やタイ国の親子にターゲットをしぼった。ムスリムとしては、マレーシア、インドネシアを想定した。
 その結果、大きく2つのプロジェクトを提案するに至った。1つは、「ムスリム・フレンドリー」として、ムスリム旅行者に対して、安心して楽しめる観光体験を提供する。
 そのためには、わが国では敬遠されがちであった大きな理由であるハラーム(禁止事項)に対する理解を深めるとともに、ハラール(合法的)認証を獲得したレストランなどを提案した。この点については、エジプト人アドバイザーから、安心して食べられるレストランが少ないので大歓迎、との感想があった。
 また、親日国であり、今後観光客の増加が期待できるタイを想定し、とくにタイ人は親子関係が密接なことから、「タイ人親子に田舎の魅力を満喫してもらうプログラム」を提案した。
 具体的には、須賀川の地域資源を活かした滝などの景勝地や牧場めぐり、温泉への宿泊、絵のぼりづくり体験、ウルトラマン通り(須賀川市はウルトラマンの生みの親である円谷英二監督の出身地であり、ウルトラマンを利用したまちづくりを進めている)の散策、ランチには特産品であるキュウリを利用したカッパ麺を食べ、さらに名所である牡丹園散策めぐりなどを、ツアープログラムとして提案した。

(南相馬グループ)
 南相馬グループの場合は、遭遇した東日本大震災と原発事故をホープツーリズム(被災地観光。一般的にはダークツーリズムと称されるが、福島県ではポジティブに表現している)として活用しようという意見も出たが、今回は、南相馬が誇る歴史・文化そして自然資源や特産品などを中心に提案することにした。
 歴史文化資源、ソーラー・アグリパーク、道の駅、温浴施設などをリストアップするなかで、なんといっても全国的な知名度を持つ国指定重要無形民俗文化財である「相馬野馬追」を核とする武士(サムライ)文化の体験ツアーを打ち出した。
 そこで、参加者たちは実際にこれらの現場や施設などを実体験することで、魅力や問題点などを再発見するとともに、さらなる魅力づくりに知恵をしぼった。
 最終的なプログラムとしては、観光タクシー「サムライ号」に乗りながら、漢字学習(マイ・ハンコの作成)や剣道体験、温浴施設で疲れをとり、農家民泊で日本酒や郷土料理を堪能し、さらに相馬野馬追について学ぶとともに、ゆかりの神社を訪問、加えて乗馬や甲冑の着付け体験などを提案した。

 最後に、研究会活動の仕上げとして、これら2グループの成果を報告書としてとりまとめるとともに(後掲、参考資料を参照)、福島市内の会議室を借りて、成果発表会を開催した。発表会では、各グループメンバーがプレゼンし、会場から質問などを受けることで、さらなる成果のブラッシュアップをめざした。
 会場からは、サムライというコンセプトは面白い、イスラムやタイをターゲットとする根拠をさらに詰めるべきなど、有益な意見を得ることができた。


  (写真1)グループワークの様子      (写真2)現場体験の様子(南相馬市)

 このような研究会活動の成果としては、
○取り上げたテーマに関連する有識者や事業者らの話を聞くことで、現場の状況を知り体験する大切さを学んだ。
○政策提案する基本能力の習得に加え、多くの仲間たちと共同作業をして提案をまとめ上げるという応用力を身につけた。
○研究成果を公開の場で発表することで、自分たちの考えを他人に伝えるというプレゼン能力を磨くことができ、さらに質疑応答などのコミュニケーションを通じて提案内容を高める経験ができた。

 今後、メンバーたちは日常業務などにおいても、より一層当事者意識を持ち、直面する問題や課題に対して、現場の意見なども聞きながら解決策につなげる、という実践力を身につけることができたのではないか。
 今回の研究成果を活かした具体的動きはこれからのようだが、過去に実施してきた政策研究会について振り返ると、「福島県のイメージアップ」では、福島の酒蔵めぐりツアー、「里山資本主義」では、福島県によるCLT(木材を利用した新建材開発)活用に対する積極的な取り組み、「小さな拠点」では、モデルとして取り上げた地域での特産品開発イベントの開催などの形で、提案(の一部)が実現できたと感じている。

 平成27年12月に、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が発表した「地方創生人材プラン」によると、地方創生が求める人材としては、
(1)機能による区分
・地域の戦略を策定し、戦略全体を統合・管理する人材
・コミュニティにおいてリーダーシップを発揮する人材
・個別分野において地方創生関連事業の経営に当たる人材
・現場の第一線で中核的に活躍する人材
(2)フェーズによる区分
・戦略策定前段階において、住民・関係者間の合意形成を図っていくうえで、知的相互作用や協働を促進させる役割等を担う人材(=「ファシリテーター」)
・住民・関係者間の合意形成に基づき、専門的知識・技能を活用して事業化するための計画にまとめる役割等を担う人材(=「プランナー」「クリエーター」)
・組織化を進めて具体的に事業を実行に移していく役割等を担う人材(=「オーガナイザー」)
という各項目が挙げられている。
 上述した当センターによる研修活動は、このような能力育成に役立っていると考えられるが、さらにこれからの時代に求められるのは、地域の現場に入り、住民とともに地域を創り上げていくという精神的かつ肉体的にもタフな実践力ではないか。
 今後、政策研究会の活動は、さらなる具体的な成果を求めて、参加メンバーらとともに創意工夫を加えながら進めていきたいと考えている。

 なお、平成29年度の政策研究会は、これまで以上に自治体のニーズに的確に対応し、実践的な政策提言を行うために一時休止した。そして平成30年度は、フィールド自治体として研究対象とする自治体を公募する形に研究スタイルを変えている。現在、募集中(応募期限は平成29年12月12日(火)まで)なので、積極的な応募を期待しています。
http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/seisakukenkyukai/seisakukenkyukai.html

(本稿は、(一財)日本地域開発センター発行による雑誌「地域開発」2017年10・11月号(VOL.622)への筆者寄稿文をベースとしている)
http://www.jcadr.or.jp/kaihatsu.htm

参考資料
ふくしま自治研修センター政策支援部「平成28 年度政策研究会活動報告書」平成29 年3 月
http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/seisakukenkyukai/28seisakukenkyukaihoukoku.pdf

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません