2017.8.23
  「縮小ニッポンの衝撃

                                総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 
2017年7月、NHKスペシャル取材班著『縮小ニッポンの衝撃』という新書が出版された。その内容は、2016年9月25日に、NHKテレビ(総合)で放送した同名の番組を文章化したものだが、改めてショッキングな内容に刺激を受けた。やはり一時で消えてしまう映像にはない、活字ならではの力といえるのかもしれない。 本書は、大きく東京都豊島区、北海道夕張市、島根県雲南市という3都市をモデルとして取り上げることで問題提起し、それらのまとめとしての考察という4つの内容から構成されているように読んだ。そこで、まずは3都市が直面している問題提起から紹介したい。

○東京を蝕む一極集中の未来(東京都豊島区)
 豊島区は長らく、出生数より死亡数が多く、普通に考えれば人口は減少するはずだった。しかし、その減少数を補う転入者数が、区の人口増加を支えてきた。
 だが、転入者の実態を調べると、最も多いのは20歳代の単身者であり、その給与収入は240万円程度である。この年収では結婚して子どもを持つのが難しいため、将来も単身者であり続けて高齢化していく可能性が大きい。しかも転入者の平均年齢は上昇している。
 さらに、年代別人口ピラミッドを見ると、2040年には、もっとも多い年代を形成する団塊ジュニア世代が65歳以上になり、他方、65歳未満の生産年齢人口は大幅に減少する。つまり、住民税などの税収が少なくなる一方で、高齢化に伴い社会保障費が増大し、区は財源不足に陥る。
 区の予測によれば、2035年に社会保障費が今より48億円増え、2060年には100億円を超えて、財源不足になる。高野之夫豊島区長は「財源が100億円少なくなると区民サービスを相当カットしなければいけないし、大変な行政改革の断行が必要になる。そもそも、そんなことができるのか」と危機感を強くしている。
 豊島区の危機は、早晩、東京全体の危機になり、同様な状況が日本のあちこちで発生するのではないか。そんな事例が、すでに北海道夕張市で起きている。

○破綻した街の撤退戦(北海道夕張市)
 人口減少社会と財政危機のなかで、撤退戦に挑んでいるのが、10年前に財政破綻した夕張市だ。かつて11万人あまりの人口を誇ったが、今では9,000人以下にまで減少し、人口規模に合わせた行政サービスを模索している。
 現在も積み上がった350億円以上の借金を返すべく、行政の効率化を進めている。市職員の給与は年収ベースで平均4割カットされ、全国最低水準にある。破綻前は399人いた職員は100人に減少し、55人いた管理職は10分の1に減った。7校あった小学校、4校あった中学校もそれぞれ1校になった。
 市民病院も171あった病床は19床に減らされた。図書館や美術館なども、軒並み廃止された。こうした住民サービスの容赦ない切り捨てに嫌気がさした若い世代は、夕張を離れていった。
 市は経費節減のためにまちのコンパクト化を進めており、その典型例が、市営清陵団地だ。以前は1,200世帯が住んでいたが、現在は260世帯に減少している。市営団地は、1世帯でも住んでいれば団地全体を維持管理する必要があるため、膨大なコストがかかっている。
 1世帯のみが居住している建物が団地に点在しているため、2016年3月、市は同団地を「政策空き家」とすることを決めた。「政策空き家」とは、将来の取り壊しを前提に、建物が丸ごと空き家になるよう行政が居住者を誘導するという手法だ。
 市は住民の理解を得られるように努力を続けているが、すでに老朽化した建物の取り壊しが始まっている。
 市内に残った住民は、「全国最低の行政サービス」と「全国最高の市民負担」を強いられている。縮小の時代、自治体を継続していくために、どれだけの痛みを住民に引き受けてもらうのか、夕張市の挑戦は続いている。

○地域社会の崩壊(島根県雲南市)
 夕張市のように、行政が最低限のサービス維持に努める一方で、住民に行政サービスの一部を肩代わりしてもらう自治体もある。島根県内の多くの自治体は、住民との協働を打ち出した。
 雲南市は、深刻な財源不足のため2005年に「財政非常事態宣言」を宣言し、職員を2割減らすといったコストカットに着手した。将来的に予算も人員も増える見込みはないが、少子高齢化の進展など市の問題は山積しており、これまでの行政サービス提供は難しいと考えた。
 そこで全国に先駆けて始めたのが、「地域運営組織」と呼ばれる住民組織だ。市内を30の地区に分け、住民全員を住民組織のメンバーとした。自治会よりも規模は大きく、旧小学校区ほどのエリアである。
 国からの借入金(過疎債)を活動資金として交付し、代わりに住民組織が行政のサービスを担うという仕組みだ。行政は各組織の決断に干渉することなく、人材育成や情報共有の場づくりなどの裏方に徹している。
 海潮(うしお)地区は30地区の中でも、優等生的な存在だ。活動を始めて11年間、人口減少が地域の一番の課題と捉えて、あらゆる活動を行ってきた。最初に移住者を呼び込む「田舎暮らし体験ツアー」を開催したところ、都会から20名ほどが参加し成功した。子育て支援にも力を入れ、地区内には保育園がなかったが、住民組織自らが幼稚園の一室を借り上げて、保育園を開設した。
 この11年間に22世帯、50名が移住しており、一見、順風満帆に見えたが、他方で全体の人口は減少し、高齢化が進み、空き家は増えている。そこで専門家に、今後地域運営を安定的に行うために必要な移住者数を試算してもらったところ、1年間に11世帯が必要との答えであった。あまりにも非現実的な目標であるが、同組織の加本会長は、状況は厳しいが何とか支え合っていきたいと、覚悟と希望の言葉を語っている。
 一方、移住者には目もくれず、定住促進対策に交付金を全く充てていないのが、鍋山地区だ。無理をしない地域づくりを、合い言葉にしている。少なくなる人口でどうすれば幸せになれるか、に目を向けているのだ。
 このため、高齢世帯に弁当を配達したり、移動販売車の導入を手伝ったり、緊急時の連絡用にと単身高齢者に携帯電話を配布したりしている。
 しかし、住民組織を開始して10年が経過し、メンバーの高齢化が相次ぎ、亡くなる人も出ている。この先、地域を支えていけるのか、市の担当者には住民たちの悲鳴が聞こえている。サービスの担い手がいなくなれば、集落の維持は困難になる。
 専門家にアドバイスを求めたところ、その答えは「集落維持のため人口に見合った規模に生活圏を縮小する」ことだった。住民組織の担い手が少ない以上、それが現実的な判断になる。住民たちは、今後、地域の縮小を考慮しながら、集落の将来について議論していくことを決めた。

○考察
 以上に紹介したような各都市で見られている「縮小ニッポン」の現状を踏まえ、同書では、後編で対応方向を模索している。

 雲南市で始まった住民組織は、島根県内各地で広がっている。しかし、なかには限界集落のはるか先を行く消滅危機にある地区にまで導入され、住民たちに過度な負担がかかっているという、過酷な現実も浮き彫りとなっている。
 益田市では、2016年4月から住民組織の導入を始めた。やはり人口に応じた交付金を住民組織に払い、住民たちに自治や地域サービスの一部を担ってもらっている。
 同市で高齢化率が一番高い(約65%)匹見下(ひきみしも)地区の場合は、3年間の準備期間を経て、新しく住民組織「匹見下いいの里づくり協議会」をスタートすることになった。同組織の山崎会長は、「住民が自分たちのことは自分たちでやらなきゃいけない時代に戻ったと受け止めるしかない。期待よりは不安が大きい」と話す。
 協議会には、初年度160万円が予算化されたが、ほとんどが70歳代以上というメンバーが集まり事業計画書を組んだところ、合計246万円が必要となってしまった。そこで一律6割ほどカットして、合計160万円にすることでつじつまを合わせたが、現実には不安が広がっている。
 一方、市としては、無理があることを承知で、住民組織に依存するしかないという。全国の住民組織の数は、2014年度末で1,372市町村中349市町村に1,656団体ができており、国も2020年までに3,000か所に増やす方針であり、期待している。

 こうした先が見えない状況に対し、「撤退の農村計画」を掲げる東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教(現・金沢大学人間社会研究域人間科学系准教授)の林直樹氏は、ひとつの選択肢として集団移転を提唱している。「最悪のケースが、集落に住んでいる人が高齢化で病気がちとなり、集落を次々と離れて四散してしまうケースだ。それよりは余力があるうちにみんなで移転する、という選択肢があってもいい」と説明する。
 ひと昔前だと、このような提案には住民の反発は強かったが、最近は話を聞く住民たちが増えているという。それだけ、切羽詰まった状況になりつつあるということだろう。それが「縮小ニッポン」の厳然たる現実だ。
 ただし、林氏は集団移転はあくまでも住民の合意で行われるべきもので、強制されるならば大きな間違いだ、と強調している。

 国の人口をできる限り維持しながら成長を続け、地方も再生していくというスローガンは耳障りは良いが、多くの国民はその限界に気づき始めている。しかし、集落の消滅をタブー視していては、何も進まない。
 何を守り、何をあきらめるのか。私たち一人ひとりが自分の問題として覚悟を持って考え、問題を先送りせずに、戦略を持って選び取る時代が来ているのではないか。

 以上に、本書の概要を筆者なりの視点からまとめてみたが、注目したいのは、やはり島根県などで進められている地域自治組織づくりだ。 住民自治は、日本文化の歴史である。思い出すのは、有名な民俗学者である宮本常一の代表作といわれる『忘れられた日本人』のなかの一節だ。 宮本が対馬の伊奈村(現在の対馬市上県町伊奈)に滞在した時(昭和25~26年頃)、調査のために島に伝わる古文書をしばらく借りられないかと区長の父親に依頼すると、寄あいにかけて皆の意見を聞いてからだとして保留されてしまう。 村で何かの取り決めをおこなう場合には、みんなが納得いくまで何日でも話し合うという慣習があり、その時は結局、2日間にわたり協議が続けられた。やがて全員の合意が得られたので宮本が借用書を書くと、区長がみんなの前でそれを読み上げて借りることができた、というエピソードである。 そこには皆が納得いくまで話しあうという、民主主義の原点をみることができる。筆者も、住民組織の活躍に期待するひとりであるが、行政サービスの遂行が、住民組織への押しつけになってはいけない。 そのためには、やはり国や自治体の基本姿勢として、移住や少子化対策などにより、地域人口の維持(あるいは減少の緩和)や若者・子どもを増やす努力は不可欠といえよう。そのためには、近隣諸国などからの移民政策も視野に入ろう。 また、地元自治体などによる財政状況や集落別・年齢層別人口予測結果などの情報提供、そして説明会や意見交換会の開催など、自治をうながす環境整備が求められる。

 加えて、たしかに地域社会の将来展望は厳しいが、全国の各都市や集落はそれぞれの発展段階にあり、一律にこのような危機的状況にあるわけではない。そこで、余力がある地域、ない地域が、お互いに知恵を出し合い、協力して危機的状況を緩和していく道すじが展望できるのではないか。 それは、たとえば広域連携することで、お互いの人、物、カネ、情報などの地域資源を融通したり、分かち合うという選択だ。あるいは遠距離間であっても、さまざまな形で連携・協力している事例は少なくない。 また、個人や企業ベースでも、移住、CSRやプロボノ(社会貢献)、ふるさと納税、産直品購入、クラウドファンディング、観光・交流などの形で、地域や集落を支援する方策は多様にある。場合によっては、支援措置やポイント制度などを活用した企業進出や生活支援ビジネスの立ち上げなども期待できよう。 さらには、情報ネットワークの活用により、都心と集落を結ぶことで、人手不足や移動の手間を減少させるような創意工夫も可能であろう。

 各地域で事情は異なろうが、「縮小ニッポン」への対策は、市町村や地域・集落による自助努力と助け合いを基本とし、国や県などが大所高所から現場に寄り添い、人、物、カネ、情報などを提供して支援していく、という姿が描けるのではないか。

参考文献:
NHKスペシャル取材班による『縮小ニッポンの衝撃』講談社現代新書、2017年7月
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062884365
宮本常一『忘れ去られた日本人』岩波文庫、昭和59年(初出は昭和35年)
https://www.iwanami.co.jp/book/b246167.html

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません