最近、東日本大震災と原発事故の被災地である福島県浪江町に住む2人の若者(和泉亘さん、小林奈保子さん)から、地元産のえごま油が送られてきた。
これは、この若者たちが浪江町内でもともと下宿(民家)として使われていた建物を、ゲストハウスあおた荘として改修したいというクラウドファンディング(以下、CFと略す)に寄付した返礼品だった。筆者は震災前から浪江町と関わりがあり、さらにこのCF事業に知人が関係していたこともあり、少額ではあるが寄付をさせていただいた。
ゲストハウスあおた荘の改修事業(プロジェクト)は、この2人が「震災で町民が0人になった浪江町に人が繋がり集う場所を作りたい」という目的で、民間企業のCFサイト(Readyfor)を利用して2018年2月14日から始めた。目標額は80万円、募集期間45日間である。
それがなんと、わずか3日後の2月17日には、目標額を達成してしまった。大変な快挙といえよう。最終的には、締め切り日である3月30日には、総額1,615,000円が集まり成立した。(注1)
その結果、えごま油が送られてきたというわけである。お礼状には、一番搾りなので本来の色と風味が味わえると書いてあったので、そのまま少量を飲んでみたところ、口内にやさしい味が広がった。直接、野菜サラダにかけたりしても、おいしそうな味だ。発送してくれた若者たちや地元生産者(石井農園)の温かい心が感じられた。
そこで、最新状況を確認するためにあおた荘のフェイスブックにアクセスしてみると、相変わらず、たくさんの若者などがにぎやかに集っていた。浪江町の居住人口等はまだ747人(2018年5月末現在、浪江町ホームページ)であり、震災前人口の4%程度の水準にもかかわらず、その場には明るいパワーがみなぎっていた。(注2)
このような支援活動などが広がることで、より多くの人口回復、地域復興につながって欲しいと思う。
改めて説明するまでもないが、CFはインターネットを利用して不特定多数から資金を集める方法だ。一般的には、CFを運営する民間企業サイトを利用して、実行者(プレーヤー)が資金を集めたい事業を提案し、限られた期間と目標額を設定したうえで、一般の支援者(資金提供者:サポーター)から資金を募集する。
その結果、期間内に目標額を集めることができればその事業は成立し、集まった資金は実行者に与えられる。この場合、実行者から支援者に対して返礼品(リターン)やお礼状が送られる。(返礼品がない純粋な寄付のみの場合もある)
他方、目標額に届かなかった場合には、その事業は不成立となり、資金は各支援者のもとに戻される(All or Nothing 方式の場合)。したがって、実行者による提案事業への共感や賛同をいかに多く集めるかが、カギとなる。(目標額が未達成でも事業が成立するAll
In 方式もある) 上記したあおた荘の快挙には、東日本大震災と原発事故による被災からの復興という社会的な注目度の大きさもあろうが、実行者たちの日ごろからの人脈やネットワークによる効果、あるいは返礼品の魅力が貢献したのかもしれない。
矢野経済研究所によれば、2016 年度の国内クラウドファンディングの市場規模(新規プロジェクト支援額ベース)は、前年度比 96.6%増の745 億5,100 万円と急拡大している。さらに2017年には、1千億円を超えると予想されており、CFに対する社会的な注目度は急上昇している。(下図、参照)
2016年度の内訳を見ると、主に民間企業などが活動資金を集める貸付型が約673億円で全体の9割程度を占めているが、個人や団体、起業家などが多い購入型(あおた荘のケースが該当)は約62億円(同8%)、また寄付型は約5億円(同0.7%)となっている。
図 国内クラウドファンディングの市場規模の推移

注1.年間の新規プロジェクト支援額ベース、2017年度は見込値
注2.凡例にある購入型は、資金調達が達成した場合、支援者には金額に応じた商品やサービスなどが提供される。寄付型は、支援者は無償で資金を提供し、資金調達が達成した場合にはお礼状などが提供される。投資型(ファンド型)、貸付型(ソーシャルレンディング)、株式型は、支援者には支援金額に応じた株や分配金、利息などが提供される。(筆者補足)
資料:矢野経済研究所プレスリリース資料、2017年9月7日
https://www.yano.co.jp/press/press.php/001730
さらに、CFは新しい資金募集手法として、地方自治体にも注目されている。これは、ガバメント・クラウドファンディング(以下、GCFと略す)と呼ばれている。
GCFの場合、大きく分けて次の2つのケースに分類できる。すなわち自治体みずからが実行者になる場合と、自治体内の個人や団体などの実行者に対して後方支援の役割を果たす場合である。
前者の場合は、自治体がさまざまな事業を実施するための資金調達にチャレンジしている。
一例としては、地方自治体初のCFとされる「かまくら想いプロジェクト」(2013 年11 月)が知られている。このケースでは、鎌倉市が市内に観光ルート板10か所を設けるために、募集目標金額100万円が設定された。結果として目標金額は集まり、事業は実現した。この時の返礼品は、観光ルート板に支援者の名前を記した銘板が設置された。
また、福島県内の事例では、東日本大震災で避難指示が出された広野町の例がある。2017 年1月に、町内唯一の病院である高野病院の診療継続のために寄付金が呼びかけられ、このケースも募集目標金額250 万円に対して目標額を大きく超える894 万円が調達できた。このケースでは返礼品はないが、お礼状が配布された。
一方、後者の後方支援としての事例では、自治体が自前でCFサイトを立ち上げたり、関連セミナーを開くなどさまざまな形で支援をしている。
その一例では、福井県鯖江市では、「FAAVOさばえ」というCFサイトを立ち上げている。そのサイトを見てみると、現在、掲載されている事業は市内事業者による新しいメガネフレームの開発に対する資金募集など31件あり、合計3千600万円を越える実績をあげている。(2018年7月1日現在)
(注3) また、福島県内では、県による「チャレンジ!ふくしま創生プロジェクト」がある。これは福島県が民間CFサイト(セキュリテ)と組み、県内の個人や起業家などによる募集金額が比較的小さい購入型に加え、民間企業を支援する投資型(ファンド)のCFが中心となっている。具体的には、自己資金が小さいベンチャー型企業や新商品開発に対する資金募集事業などが数多く掲載されている。(注4)
さらに岐阜県美濃加茂市・関市・各務原市の場合は、3市が共同で「FAAVO美濃國」というCFサイトを立ち上げている。これは、美濃加茂市・関市・各務原市が、ほぼ隣接して岐阜県美濃地方の中心部に位置していることから、連携して施策を進めたいという理由によっている。
2015年9月に「地方創生・3市広域連携協定」を締結し、その一環として3市で「FAAVO美濃國」というCFサイトを運営することになった。「FAAVO美濃國」のホームページを見てみると、現在24件が掲載され、うち16件が成立しており、合計約5千900万円の実績をあげている。(2018年7月1日現在)
(注5)
また、自治体や地元公益団体などが、活動資金を確保したい個人や団体や創業資金を調達したいと考える事業者らを間接的に支援しているケースは多い。
例えば、事業計画の作成、CF公開ページの作成やPR 等について関係機関・団体などからアドバイスが受けられるなどである。また、チャレンジセミナーを開催して、成功に向けたノウハウを伝授したり、ビジネスプランコンテストを開催している事例などもある。
以上をまとめると、CFは「共感」を通じて、実行者の育成や地域のつながりを推進するインターネット時代ならではの新しい活動資金を集める手法として、これからも一層、注目されるのではないか。
さらにいえば、事業を公開することで社会的知名度がアップするなどの宣伝効果、人気度に示されるテスト・マーケティング効果、広域(場合によっては海外にも)にわたるファンづくりなどの多様な効果も期待できる。
そしてGCFの場合には、とくに資金力や社会的信用に乏しい個人や事業者らに対して、社会的な信用力を持つ自治体や公益団体などによるさまざまな形での支援や情報発信などを通じて、重要な役割を果たしている。
それだけに、支援にあたっては慎重な対応が必要となる場合もあるが、地域の活性化に向けて一層の積極的な取り組みを期待したい。
最後になりましたが、2018年6月27日に長年にわたりお世話になりました浪江町の馬場有町長が亡くなられました。謹んでお悔やみ申し上げます。
(注1)ゲストハウスあおた荘のCFサイト
https://readyfor.jp/projects/14815/announcements/71750
(注2) ゲストハウスあおた荘のホームページ
https://ja-jp.facebook.com/namieaotasou/
(注3) 「FAAVOさばえ」ホームページ
https://faavo.jp/sabae
(注4) 「チャレンジ!ふくしま創生プロジェクト」ホームページ
https://www.securite.jp/fukushimaken
(注5) 「FAAVO美濃國」ホームページ
https://faavo.jp/minonokuni
参考資料:
須賀川市、(公財)ふくしま自治研修センター「クラウドファンディング等新手法の調査研究」平成30年3月
http://www.f-jichiken.or.jp/tyousa-kenkyuu/kyoudou-tyousa/H29/29sukagawa-honpen.pdf
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見解を示すものではありません
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