2018.12.10
  「起業家(ローカルベンチャー)が活躍する自治体

                        総括支援アドバイザー兼教授 吉岡 正彦


 
当研修センターが実施した福島県と市町村の有志職員ら15名による平成30年度政策研究会の成果がまとまったので、2018年11月27日、福島テルサを会場として報告会を行った。
 政策研究会はこれまでほぼ毎年実施しているが、今年度は東日本大震災と東電の原発事故により一時は全村避難となり、平成28年6月に避難指示解除(一部地域を除く)により帰還が可能となった葛尾村を対象(フィールド自治体)として、宿泊施設など村有施設のこれからの有効活用方策を中心に提案した。
 併せて、対外的に成果を報告できる機会なので、林業を中心に多様なベンチャー企業の育成で知られている岡山県西粟倉村の青木秀樹村長をお招きして基調講演をお願いした。

 西粟倉村は、人口1,500人程度と震災前の葛尾村とほぼ同規模で、林野率が95%という小さな山村だが、村内にはベンチャー企業が30以上、年間売上げ約15億円もあり全国的にも元気な村として知られる。
 そんな西粟倉村で、自らも人材育成などを営む「エーゼロ」や木材関連商社機能を担う「西粟倉・森の学校」というベンチャー企業を経営し、かつ村長のブレーンとしても活躍しているのが、牧大介さんだ。村長の講演をお聞きする前に、村が元気な秘訣を勉強したいと思い、牧大介さんが出版した『ローカルベンチャー』木楽舎(2018年7月刊)を読んだところ、たしかに小さな村でベンチャー企業の皆さんが活躍する秘訣の一端が分かったように感じた。
 その本のなかに「自治体職員からローカルは変わる」という記載があり、今回の発表とも関係する内容だったので、そんな視点を中心に簡単に紹介してみたい。
 なお、「ローカルベンチャー」という言葉は、文字どおり地方・地域で活躍する起業家のことで、牧さんによる造語だ。それが「ソトコト」という雑誌で紹介され、地方創生の流れのなかで全国に広まった。その誌面では「ローカルベンチャーとは、自分の視点を持ち、見落とされていた地域にある宝物を上手に発見して、仕事をつくること」と紹介されている。
 いまでは「ローカルベンチャー推進協議会」という全国組織もつくられ、西粟倉村はもちろん北海道から九州まで11市町村(2018年12月現在)が参加している。(注1)

 本書はそんな西粟倉村におけるベンチャーの活動の様子を紹介しているが、ローカルベンチャーが育ち活動していくためには、自治体の役割が大きいと言う。
 地域は移住者によって活性化すると思っているかもしれないが、そうではない。その前に、住民や移住者を幸せにする力が、まず地域になければいけない。その力を十分に発揮するために必要なのは、自治体の力なのだ。
 西粟倉村では自治体職員こそが真剣に地域住民のこと、地域の未来のことを考え行動し続けているということを実感している。結局、自治体職員がローカルベンチャー・マインドを持つことこそが、ローカルベンチャーの増殖につながる。
 とくに基礎自治体である市町村の場合、自治体職員こそが地域を変えていく原動力になれる。なぜなら、地域のあらゆる課題やリソースに精通していて、それにアクセスできる力を持っているからだ。行政に携わる人たちは、地域でつなぎ役になり、指導や助言をするメンターとしての仕事をしうる人たちである。

 自治体職員のなかにも、自分で企画し行動するようないわゆるスーパー公務員がいるが、その人が異動したり退職すると、その動きは止まってしまう。そう考えると、何かやりたいという職員が一部ではなく、たくさん育っている自治体こそ力がある。
 そうなるためには、役場内で一人ひとりができる範囲のチャレンジから始めるといい。支え合うなかで、何年もかけて地域の変化が進んでいく。地道で愚直なアプローチだが、どこの地域でもできることだ。
 具体的には、個人レベルでのプロジェクトの立ち上げやチャレンジなどがたくさんあるなかで、いい芽が出てきたらそれをぐっと伸ばしていくことが、自治体の上位者としての判断として大事なのではないか。
 それを「創発的な地域経営」と名付けたい。「創発」とは、予測や計画を超えた革新が誘発されることだ。

 では、「創発的な地域経営」を進めるためにはどうすればいいのか。
 創発的なプロセスは、地域でのチャレンジから不規則に発生して起きるものなので、まずは一人ひとりの自治体職員が何らかのプロジェクトを自分で企画し、実施できる環境にすべきだ。それは個人的な思い入れで良く、そして始まった何かが「うまく育ちそうだな」と見えたときに、それをぐっと政策に引き上げる。
 つまり、誰かが思いを形にし、それをお互いが支え合っていく文化が、しっかり自治体にできあがっていく。そうすれば役場内の意識が変わっていき、役場自体からも自発的なチャンスが生まれやすくなる。そして、自治体が変わることで、地域が変わっていく。このような動きをつくることで、地域全体でベンチャーを育てていくことにもつながるのだ。
 つまり、自治体がまず挑戦者集団になることとローカルベンチャーの育成が両輪になって、地域の変化が進んでいく。この全体こそが「創発」だ。ただしあまり計画的になりすぎずに、「行き当たりばったり」のような感覚で楽しむ余裕も必要だ。

 西粟倉村では、2017年度から新しく役場内に「地方創生推進班」というチームをつくった。これは職員の一人ひとりが何かにチャレンジするという取り組みだ。2017年度は12名でスタートした。これは村役場職員の3分の1にあたり、全員が兼任制である。
 その場では、まず一人が1プロジェクトを企画することで、計12のプランが企画された。たとえば、村の子育て環境を良くして、お母さん同士が子育てをシェアする仕組みをつくっていきたい。村には夜にご飯が食べられるところが少ない、この村ではしご酒できるところがほしいなど、完全に自分目線なのだが、この「自分ごと」がいい。さらにいくつも企画が出ると、お互いのプランをシェアしあうことで、応援しあう関係ができる。
 2017年度はこうして磨いた12のプロジェクトのなかから4つを選び、具体化に向けて動かしており、このようなかたちでプロジェクトがどんどん生まれている。
 つまり、地方創生は、自治体職員による「個人創生」を積み重ねる先にあるのではないか。

 では、このような取り組みは西粟倉村だからできたのか。それについては、村の地方創生特任参事・産業観光課長の上山隆浩さんの言葉を引用している。
 西粟倉村が特別なのではない。いちばん肝心なのは、役場の職員が考え方を変えることだ。自分たちは他地域や他ジャンルで活躍されている外部の方たちと出会って、自治体だけの限界に気づかされ価値観が変わった。
 役場の内部だけで考えていても、それは自治体だけの考えにしかならない。外に出て人に出会ってほしい。企画を本物に仕上げていくためには、外部との関係性をどれだけつくっていけるかが重要だ。
 では、なぜこのような取り組みが必要なのか。それは、世の中の変化が激しいので、クリエイティブな組織でないといけない。行政組織が変わるためには、一人ひとりの自立度やクリエイティビティがとても大切なのだ。そこでは、「やらない」理由を探す前に、できることからやらないと何も解決しない。要は誰がやるかだけなのだ。

 たとえば西粟倉村では地域おこし協力隊が活躍しているが、仕事の内容は、その人のやりたいこととマッチングさせるように努めている。その人の行動力や情報発信力などを通じて得られるメリットがあれば十分だと考えている。
 それゆえ、その人が移住、定住しなくてもいい。住みたいところに住んで、多拠点の一か所として西粟倉村にかかわってもらえれば意味があると考えている。

 次に、行政、地域はローカルベンチャーをどう応援するのか。
 そのローカルベンチャーがビジネスのテーマや対象物に対して「本気だな」と感じられるかどうかを大事にしたほうが良い。そのビジネスに可能性があるかどうかという評価は、過度にしなくていい。
 自治体や地域が理解できる範囲に押し込めると、おそらくベンチャーは生まれない。ビジネスとしての評価は外部の人にお願いするのもいいし、コントロールしない寛容さがあると、おもしろい人が集まりやすい。
 その一例が、村に移住した地域おこし協力隊第1号の女性だ。地域おこし協力隊の採用選考では「この村でこだわりの日本酒のセレクトショップをやりたい」と提案し、周囲は1,500人の村でそんなことが可能なのかと、あまり意味が分からないながらも、強い情熱が感じられたので採用した。
 その後、その女性は、「酒うらら」という日本酒専門店を立ち上げた。そして移住してから発明したのが「出張日本酒バー」という事業である。代行タクシーもない過疎地には、飲み屋もない。だからお酒を持って出張に行き、集まった人たちと一緒にお酒を飲んでいるとちゃんと儲かるというすばらしい事業を生み出した。

 このようにして、村には現在30を超えるベンチャーによる事業が育っている。いくつかの業種を紹介すると、木材加工事業、森林管理コンサルティング、地域熱供給会社、地域メディア運営、宿泊業、飲食業、不動産業といった具合だ。林業を中心に6次産業化を進めているという特長がある。
 このような村の運営により、全国で人口減少する自治体が多いなか、なんとわずかだが村の人口が増えた。2017年1月には1,485人だったが、1年後には1,487人になった。さらに村民が喜んでいるのが、子どもの数が増えていることだ。リスクをとってチャレンジするプレーヤーが増えたことで、地域が元気になっている。

 以上に紹介した論旨をまとめてみると、ベンチャー企業を育成するためには、起業家に任せるのではなく、まず自治体から変わらないといけない。そのためには職員自らも起業家精神を持つことで、起業家を育成することができる。
 そして起業家を育てるためには、職員の判断ではなく専門的なことは外部の人材を活用しつつ、意欲ある人には自由に活動してもらう方がいい。そうした活動を続けることで「創発的な地域経営」の実現につながるということではないか。

 なお、本稿では村役場(職員)の活動を中心に紹介したが、本書全体を読むとじつは牧さんら村で活躍しているベンチャー経営者らが、ベンチャースクールやベンチャーラボといった人材育成活動もしており、民間の立場からベンチャーの卵たちを育成している。つまり村と地元起業家らが二人三脚でベンチャー育成を進めている地域の構造に強みがあると感じた。

 本稿では残念ながら、国は個々の地方から成り立っておりどの地方が欠けても国は成り立たない、地方は気概を持つ必要があるなど、多くの刺激を受けた青木村長の講演内容は紹介できなかった。また研究会発表者たちによる意欲的な提案内容にも触れることができなかったが、後日、平成30年度政策研究会の報告書を当研修センターのホームページに公開する予定なので、是非、一読していただけると幸いです。

(注1) ローカルベンチャー推進協議会については、以下のURLを参照
ローカルベンチャー推進協議会
https://initiative.localventures.jp/

参考文献: 牧大介著『ローカルベンチャー』(地域にはビジネスの可能性があふれている)木楽舎(2018年7月刊)
http://www.kirakusha.com/book/b371902.html

※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式見
 解を示すものではありません。