除夜の鐘を聞きながら新たな元号になる年を迎え、大きなうねりのはじまりの年になるような予感を胸に、近所の神社に初詣した。
鳥居をくぐり、かがり火に照らされる社殿へ歩み寄ろうとすると、ふと、どこかのテレビで、平成天皇最後の「四方拝」の話をしていたのを思い出した。天皇が元日の寅の刻(午前4時)に清涼殿の東庭で天地四方の神々や先祖代々のみたまを遙拝し、年災を祓い、国家の幸いを祈る儀式のことである。
日本全国、初詣でお祈りする老若男女の気持ちも同じであると思う。私も念入りに安寧と幸いをお祈りし、帰宅し、眠りについた。
目が覚めると、何か夢を見たような感覚はあるものの、内容は覚えていない。初夢なので縁起のいい夢であったに違いない。
一般的には、除夜から元日の朝にかけては寝ない風習があったので、元日の夜ないし二日の夜に見る夢を「初夢」というそうなので、元日の朝にかけての夢は、「初夢」ではなかったことになる。
身だしなみを整え、神前にお水やお神酒やそばなどのお供えをし、家内安全、無病息災を祈願した。その後、家族が集まり、一年中の邪気がはらわれ、延命の効があるとされる「お屠蘇」を飲み、「福を重ねる」「めでたさを重ねる」という意味で、縁起をかつぎ、重箱(実際には、お取り寄せの三段桐箱)に詰められた「おせち料理」を食べた。
おせち料理には、四季折々の恵みへの感謝と、未来への祈願がこめられており、ひとつひとつの料理に意味があるとされている。添付の説明書を読みながら「へぇー、そうなんだ」と改めて日本の食文化の懐の深さに感心するとともに、日々の恵みに感謝し、未来への祈願を込めながら食した。
そうこうしていると、年賀状が届いた。お世話になった方、遠方で会えない方などから心のこもった近況報告などもあり、こたつで小豆島の知人が送ってくれたミカンを食べては若き日々へ思いを馳せたり、黒豆を摘まんでは一年の健康を心の中でつぶやいたり、「コトの消費時代のお酒」と勝手に決めている会津若松市門田町にある高橋庄作酒造店の「会津娘」をたしなみながら、懐かしさに浸ったり、ゆるやかで穏やかな時間を過ごした。
ちなみに、高橋庄作酒造店の酒造りのモットーは「土(ど)産土法(さんどほう)」にある。「全て会津の米(酒造近くに広がる自社田で作った酒米を使用)と水を使い、土地の人が土地の手法で酒造りに取り組む」というコトである。単なるおいしいお酒に留まらず、「会津」に拘った付加価値を売りとしているお酒である。
しかし、「モノの消費」から「コトの消費」の時代と思っていたら、時代は既にその先に動いていた。 2018年のグッドデザイン大賞が「造形美」や「機能美」などのデザインやクリエイティブとは異なった「素晴らしい仕組みのデザイン」に贈られたからだ。 栄えある大賞に輝いたのは『おてらおやつクラブ』。各地のお寺に“おそなえ”されるお菓子を、仏様からの“おさがり”として、全国の経済的に困難な状況にある家庭へ“おすそわけ”という形で届ける活動だ。今や参加するお寺の数は1000に迫り、毎月9000人の子どもたちのもとへ送られているという。
ここで評価されたデザインは、商品価値を増すものではない。どこのお寺でも食べきれなかった「おそなえ」を、仏様の「おさがり」として経済的に困難な家庭に「おすそわけ」するというシンプルな仕組み。この新しい社会インフラ(貧困問題解決のためのデザイン)が評価された。
https://www.g-mark.org/award/describe/48291/
高橋庄作酒造店に当てはめるなら、会津という風土を維持伝承するための仕組みの手法として酒蔵を経営している。利益は維持伝承の条件であって、目的ではない、ということであろうか。 今や、「モノ」の美しさが評価されてきた時代から、社会をかえる「仕組み」やその「志」の美しさを見つめる時代へ変遷している。ひとえに安寧の日本だからこそそうであるに違いない。
大きなうねりのはじまりの予感が、新しい社会インフラをデザインする「志」の美しさのうねりであったなら、どんなにいいことか。初夢に願を懸けるべく寝床に向かった。
※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、公益財団法人ふくしま自治研修センターの公式
見解を示すものではありません。
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